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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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幕間
  Trick22_どうしてこうなった




AIMバーストの事件から1週間後、ようやく平和が訪れていた。

そして事件に関わった人達はこの平和を堪能していたのだった。

約3人を除いては


「・・・あっづー」

炎天下、御坂美琴はデッキブラシで掃除をしていた。

幻想御手の事件が解決した日。
事情聴取などで御坂と白井は帰りが遅くなってしまい、常盤台の門限を破ってしまった。

2人はバレないように隠れて寮に入ろうとしたのだが、寮監“様”に見つかり
罰を受けることになった。


事件があった日から数日が経過し、決められた罰が

「このクソ広いプールの掃除・・・」

名門・常盤台中学のプールは普通の学校よりも底が深くて広さもある。

能力測定の時にも使われ、御坂の測定もこのプールを利用している。
そのプールを自分で掃除するとは思いもしなかっただろう。

「朝からやってもう昼過ぎだってのに三割も終わってないってどういう事!?
 これ、今日中に終わんのかしらねーー」

イライラして怒ってしゃべっていたが、後半は暑さでダレていった。

その隣ではもう一人の罰を受けている白井黒子もいた。

「お姉様、仕方ありませんの。わたくし達の罰ですもの、能力で簡単に終わらないように
 能力が使えないものを考えたのですわ」

「なんでこんなことに知恵使ってんのよーーーーーーー!!」



「どうしてこうなった」

さらにもう一人の人物、女子中学校だが男子がいた。

「どうしてこうなった」

常盤台の寮に関係ない西折信乃の姿がそこにはあった。

「どうしてこうなった」

同じ言葉を繰り返しながら、水を抜いたプールの壁や底を見て
紙に何かを書き込んでいく。

本当なら入院しているはずの彼だが、数日前から自宅療養になっている。

御坂達はそれを知っていたが、まさか信乃にここで会うとは思わなかった。


「まさかだけど私達がこの罰を受けているの、信乃にーちゃんのせいじゃないの?」

「どういうことですの?」

御坂はわざと信乃に聞こえる声の大きさで話し始めた。

「おかしいじゃない。寮の規律を破ったのは1週間前。それなのに一週間後の
 今になって罰を受けている。これは信乃にーちゃんの修理に合わせて決められた
 罰じゃないの?」

このプールも建築の巨匠とやらの作品で、一部にもひび割れなどがある。

良く見ると細かい彫り物や、特殊なタイルが底にはめられている。
無駄に金を使ってるな、常盤台。

ということで信乃が修理することになってしまった。

確かに御坂の言うことは間違っていないかもしれない。

ただその答えにいきあたったのが誰かに八つ当たりをしたいと考えたからだ。
その八つ当たりの相手が信乃という事だけ。

しかし相手が悪かった。
信乃は御坂の八つ当たりに気付いているが

「私のせいですか・・・そうかもしれません」

反省したように言った。

演技で

直後に人の悪い笑みを浮かべながら話した。

「ただ私の怪我は全治1か月で入院は2週間の予定でした。常盤台の理事長にも
 2週間の休みをもらっていたはずなんですが、自宅療養中に電話が繋がって
 問答無用に呼び出されました。

 何故なんでしょうかね? 怪我人をわざわざ“今”呼び出したのは?
 元々、修理は校舎だけでプールの修理は契約外のはずなんですけどね。

 更に付け加えると、『生徒から退院していると聞いて連絡しました』とも
 理事長は言ってました。誰ですかね、その“生徒”は?」

「う!」

御坂が信乃から目を背けた。

実際は空間移動(しらい)発電能力(みさか)の能力が使えない罰を考えるのに
1週間の時間がかかっただけだ。

それを良い機会と理事長に修理のお願い(強制)が信乃に来た。

退院のことを知っている常盤台中学の生徒は2人だけ、目の前にいる2人だけ。

実はうっかり退院のことを御坂が言ってしまったからこうなっているのだ。

「私も修理の調査が終わったら、資材が来るまでは手が空きます。
 手が空く時間は手伝いますから邪魔しないでください」

そう言って白井と御坂から離れた場所の修復箇所に行った。

「う~、あとで謝ろ~」

御坂と白井は黙々と作業を続けた。


「あら、白井さん? こんなところで何をなさってますの?」

プールの入口の方を見てみると女子生徒が2人、水着にYシャツをはおった格好で
立っていた。

一人はウェーブのかかった肩くらいの長さの茶色の髪。
もう一人は腰に届くほどの黒のロングヘア。

「見ての通り、プール掃除ですわ」

白井がため息をつきながら答えた。

どうやら2人は白井のクラスメイトのようだ。

「でもなぜあなたが?」

「門限を破った罰ですの」

「それはお気の毒に。あら、あの方は?」

2人は気付いたように信乃を見た。

信乃の位置は10メートルも離れていないので、話し声が聞こえているはずだが、
そのまま修理個所の点検をしていて背を向けている。

4人を見る様子もない、無視しているようだ。

「ああ・・前に理事長が朝礼で言ってました修理の方ですの。気になさらないでください」

信乃が少し怒っているので白井は話しかけなかった。

「お姉様、こちらはわたくしのクラスメートの

 "湾内 絹保"(わんない きぬほ)さん」

茶色の髪の少女がお辞儀をして

「"泡浮 万彬"(あわつき まあや)さんですの」

黒のロングヘアの少女もお辞儀をした。

「そしてこちらが「あの、御坂様でして?」」

白井の声は遮られた。

湾内が目を輝かせて御坂を見ている。
興奮しすぎてプール底に立っている御坂に近づくために、手を地面につけて
プールサイドから身を乗り出している。

「え、そうだけど」

「やっぱり!

 覚えてらっしゃいませんか? 繁華街で乱暴な殿方に囲まれたときに
 御坂様に助けていただいて」

「あ~そんなこともあったっけ?」

「その節は本当にお世話になりました」

湾内が四つん這いの姿勢で頭を下げた。

上から目線(プールサイドだから御坂達より高い位置)の土下座というシュールな図に
なっている。

「さすがお姉様ですわ!」

「それで二人はどうしてここに?」

「はい、わたくし達は水泳部ですのでタンクの点検を」

「一年生の役割ですので。点検後に先生に点検簿を出しに行くんです」

湾内の言葉を泡浮が受け継いだ。

「あ、あの、もしよろしければお手伝いさせていただけませんか?
 わたくしの能力、水流操作系なんです。きっとお役に立てると思います」

湾内が御坂に申し出てきた。

「でも、そんな」

「いえ、せめてものお礼ですわ」

「それじゃ、甘えさせて貰おうかな」

「はい! では早速先生に点検簿を」


張り切って立ち上がった湾内。

だが急に動かした手は滑って体がプールの中へと傾いた。
そして頭から落ちていく。

「え?」

「「「湾内さん!」」」

プールサイドにいる泡浮が手を伸ばすが間に合わない。

プール底にいても少し離れた白井と御坂の位置では受け止めることもできない。


大声を聞いて振り向いた信乃が見たのは、プールサイドから落ちていく少女。

瞬時に助けようとしたが、御坂たちよりもさらに離れていた。

走っても間に合わない。いや、走ることすらできない。

足元は濡れていて踏ん張りが利かず、≪走る≫速度になる前に彼女は
頭を打つだろう。

(それなら・・)

意識を集中させ、目を碧色に変える。

手に持っている道具を捨て、両手のひらを腰の位置で後ろに向けた。


そして、思い切り手を後ろに突き出した。

発生したのは突風。

信乃の後ろの方に向かって風が生まれた。

グラビトン事件で防御したのと同じ、空気と空気の境界線に触れて発生させる、風。

そして信乃はその風の後方に放ち、反動を利用して彼女へ高速で向かう。

先程までは邪魔でしかなかった足場の水が、信乃を加速させるA・Tの代わりとなる。



白井、御坂、泡浮の3人は湾内が頭をぶつける瞬間に目をつぶった。

そして訪れる頭を打つ音

は、いつまでもやってこない。

恐る恐る3人は目を開けたが、落ちているはずの場所に湾内はいなかった。




「気を付けてくださいね」

御坂達が声の聞こえた方を見ると、湾内を御姫様抱っこした信乃が片膝をついた態勢で
立っていた。

「あの、大丈夫ですか? 怪我とかはありません?」

湾内は信乃の顔を見ながら固まっていた。

「あの~大丈夫ですか~? ノックしてもしも~~し?」

「あ、はい! 大丈夫でひゅ!」

ようやく返事したが、焦ったために噛んじゃった。

「湾内さん大丈夫!?」

3人がすぐに駆け寄ってきた。

信乃は湾内を降ろして立たせた。

「はい、あの大丈夫です!皆さんお騒がせして申し訳ありません!」

3人に頭を下げる湾内。

「湾内さん、よかったですわ」

泡浮も怪我がないことを知って安堵する。

「あの、貴方様もありがとうございます!!」

信乃に向かって先程以上に頭を下げた。

「平気であればよかったですよ」

「あの、名前を伺ってもよろしいですか?」

「西折信乃です」

「西折、信乃様・・」

「様は付けないでくれるとうれしいですね」

「いえ、“二度”も助けていただいたのです。様を付けさせてください」

「二度? 前に助けた事ありましたか?」

「湾内さん、信乃にー・・信乃さんにあったことがあるの?」

「はい。1週間ほど前、わたくしが乱暴な殿方に連れ去られたときに。
 気絶させられて、目を覚ました時は大人数の乱暴な殿方を一人で倒していました」

「そういえば、あの事件に湾内さんはいましたわね」

「黒子、知ってるの?」

反射神経(オートパイロット)の高千穂仕種との事件。
そのアンチスキルに捕まっていた常盤台の生徒は彼女だった。

「はい、わたくしもその場にいましたから」

「お礼を言いたいと思って、ずっと西折様を捜していたんです。
 お顔は戦っていたのではっきりと見ることができなかったのですが
 先程の青い目を見て思いだして・・・あら?」

信乃の目は黒色だ。今は。

「私の両親は日本人ですから、碧い目なわけありませんよ」

「そうですか、ではあのとき助けていただいたのは・・」

「白井さんの言う通り、私で間違ってはいません。碧い目というのは勘違いですよ」

「あれ? わたくしも信乃さんが青い目をしている記憶がありますわ」

湾内の意見に同意したのは白井。思い出そうと額に手を当ててうなっている。

「勘違いですよ勘違い。人間の目の色が変わるわけありませんよ」

「信乃にーちゃん、人が悪いよ・・」

小さい頃の付き合いで秘密を知っている御坂が呟いた。

「信乃にーちゃんって言わないでください。
 “それ以上のこと”も言わないでくださいよ、御坂さん」

御坂に秘密をばらさないようにさりげなく釘を刺した。

「? お姉様?」

「・・なんでもないわよ」

言えなくなったために、白井から御坂は顔を背けた。

「御坂様と西折様はご兄妹で?」

「遠い親戚みたいなものですよ」

「そうですの・・あの、西折様、何かお礼を」

「これくらいのこと、お礼をされるほどのことではありませんよ」

「でも、えっと」

「あ、そういえば今日中に修理個所を調べないと。
 すみません。私はこれで失礼します」

「あ・・」

信乃は話を切って歩いていった。

「信乃さんはお礼を言われるのは好きですけど、お礼をされるのは嫌がって逃げますの」

「そうそう。私達も何度かしようとしたけど誤魔化されて逃げるのよね」

「そうなのですか?」

「ええ、そういう人ですわ。お礼を言われただけで満足するタイプみたいですし」

「でもこのままだと、わたくしの気が済みませんですし・・・
 西折様とはこれっきりになりそうですし・・(ボソ)」

湾内は頬を赤く染めて俯く。後半の言葉は小さすぎて誰にも聞こえなかったようだ。

「あ、湾内さん、いい方法がありますよ」

「え?」

アイディアを出したのは泡浮だった。

「水着の件に、御坂様と白井さん、西折様にお願いしてみたらどうですか?」



つづく
 
 

 
後書き
作中で不明、疑問などありましたらご連絡ください。
後書き、または補足話の投稿などでお答えします。

皆様の生温かい感想をお待ちしています。一言だけでも私は大喜びします。
誤字脱字がありましたら教えて頂くと嬉しいです。 
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