カレーのちライス

「どっちかって言われたら」
「そこで悩むの？」
「カレー大好きだから」
「だからなの？カレーと御飯どっちかって言われたら」
「困るわ」
「カレーライスかライスカレーじゃないわよ」
　昔はライスカレーという呼び方もあったと聞いている。
「どっちかっていうとよ」
「困るわ、かなり」
「御飯ないと困るわよね」
「パンも嫌いじゃないけれど」
　それでも第一は御飯だと思う、日本人だから。
「一日一回御飯を食べないとね」
「じゃあ御飯なの？」
「いや、カレーもね」
　食べられないなんて考えられなかった、こちらも。
「そっちもね」
「本当に悩むのね」
「カレーうどんもカレーパンも大好きだし」
「カレーラーメンもよね」
「うん、カレー鍋もね」
　とにかくカレーが第一だ、味は。
　けれど御飯とどっちかというと、私も困った。
　それでだ、多分これまで生きてきた中で一番悩んでお母さんに答えた。
「わからないわ」
「そこでそう言う位なのね」
「御飯もカレーも大好きだから」
「やれやれね。けれどね」
「けれどなのね」
「あんたのそのカレー好きは面白いことになるかもね」
　少し笑ってだ、お母さんは私にこうも言って来た。
「若しかしたらだけれどね」
「面白いことって？」
「将来ね、少なくともカレー嫌いな人はあまりいないから」
　だからだというのだ。
「それがどうにかなるかもね」
「そうなの」
「そう、どうなるかわからないけれどね」
　こう笑顔で話すのだった、そして。
　台所にかけてあったエプロンを着けて私にこうも言った。
「今日は野菜カレーよ」
「お野菜何入れるの？」
「人参に玉葱、ジャガイモにね」
　この定番に加えてだった。
「茄子とアスパラガス、トマトにズッキーニよ」
「夏野菜なの」
「あと辛口にするから」
　味はそれだというのだ。
「唐辛子も入れてね」
「わかったわ、じゃあ手伝うから」
「お願いね、今から作るわよ」
　こうして私はお母さんのカレー作りを手伝った、そうして二人で作ったカレーをお父さんとお兄ちゃんにも食べさせた、二人も私のカレー好きのことはいつも言っている。
　高校の間ずっとカレーを食べていた、週に一回は必ず。
　そして大学でもそれを続けていて就職の時にだ、ある人からこう言われた。見れば眼鏡をかけてスーツの何処にでもいる様なサラリーマン風の人だ。
　その人がだ、まずは私にこう言ってきたのだ。
「川田佳代子さんですよね」
「はい、そうですけれど」
「私こういう者でして」
　名刺を出してきた、そこには八条フード外食部門営業担当若田部歳三とあった、新選組副長と同じ名前だった。