| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

仮面ライダーディザード ~女子高生は竜の魔法使い~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Epic8 聖剣…全てを断つ力・ヴァルムンク Bパート

ゴダード・エッセンブルク…この世界において、彼の名を知らない魔導士はいない。

ドイツ出身のゴダードは、元々田舎の小さな教会でビショップ(司祭)をしていた。
しかし、ある日ミサの途中で巨大な竜に遭遇し…教会を破壊されてしまった。
教会を失ったゴダードは一人山中をさまよい、やがてライン川近くの洞窟で一体のドラゴン…マギカドラゴンに出会った。
やがてマギカドラゴンの元で修行を積み、魔法使いとしての知識を身につけ…魔法使いの道を歩んだのである。
後に、教会を破壊したドラゴンとはモンブラン山脈で激突し、勝利したのは言うまでもない。

「あなたが…初代竜の魔法使い…。」
「そう、私が竜の魔法使いだ。確か君が、今の時代の…。」
「はい、私が今の竜の魔法使い…天王寺 エリカです。」
「そうか、君が今の竜の魔法使いなのか。時代は変わったものだな。」
「え…え?」

にこやかに笑みを浮かべ、まるで孫を見守りほほえむ老人の様にエリカを見つめるゴダードに、エリカも不覚に顔を赤らめてゴダードを見つめる。
が、本題を思い出したのか急に真顔に戻りゴダードに現状を問いた。

「あ、…今はそれどころではありません。ゴダードさん、ここは一体…?」
「おっと、そうだったな。君があまりにかわいかったから、つい…。」

エリカのかわいさについ見とれてしまったゴダードはすぐに顔をパンパンと叩いて真顔に戻り、エリカの質問に素直に答えた。
実に女たらしなおっさん…否、見る目のある初代竜の魔法使いである。

「ここは試練の平原と呼ばれるところで、この先の洞窟に伝説の聖剣・ヴァルムンクがある。」
「ヴァルムンク…ですか!?」

伝説の聖剣と聞いて、エリカの表情が一気に太陽がごとく明るくなる。
ヴァルムンク…はるか神話の時代、英雄ジークフリートが魔竜ファフニールと戦った時に使われた聖剣であり、以後ジークフリートが暗殺されるまで肌身離さず持参していたと言う、伝説の聖剣である。
しかも、その切れ味は岩や鋼鉄ですら両断すると言われ、「ヴァルムンクに斬れない物はなし」とも言わしめる、魔法使い垂涎の幻の逸品なのだ。
もしゴダードの話が本当なら、魔法が効かないベクターノイドに一矢報いる事ができるかも知れない、いや今後現れるであろうホムンクルスや…まだ見ぬ新たな敵にも対抗できるはず。

「ゴダードさん、その洞窟はどこにありますか?」
「お、やる気満々だね。よしわかった、そこまで案内しよう。ただし途中で絶対無茶はしないと約束してくれるかな?」
「はい、ヴァルムンクを手にするまでは!」
「その意気込みや良し!では行くとしよう!」
「…はい!」

二人は、ヴァルムンクがあると言う洞窟に向かい歩き始めた…確かな光を手にできると、心の中で信じながら。
しかし、エリカは知る由もない。その洞窟で待ち受ける試練により、自分自身の未知なる力が発揮される事に。



試練の平原から歩いて…そう、数分ぐらいだろうか。二人は、森に囲まれた洞窟にたどり着いた。
洞窟自体は心持ち大きめであり、少々崩れ気味の部分もあってかかなり不気味さをかもし出してはいるが、そんなに奥行きはなく宝箱が数個置くだけのスペースしかない。

「さぁ、ここがその洞窟だ。」
「ここ、ですか。それにしても…。」
「まぁ多少不気味だが、そこは気にするな。…そろそろ来るかもしれないな、洞窟の主が。」
「あ、はい!」

ゴダードの声に、エリカはリングを装着しようとリングホルダーに手を伸ばしたが、ここで彼女は大変な事に気づいた。

あれ?リングがない…!

そう、リングホルダーにあるべき命より大事なリングが、ホルダーごとないのである。
当然リングがなければ変身もできないし魔法も使えない…まさに非常事態だ。

「ない、ありません!」
「ん?エリカちゃん、まさかリングを使う気なのか?」
「はい…。」

すると、ゴダードは笑いながらエリカの肩をポンポン叩いて、まるで人事かの様にあっけらかんと答えた。
豪放磊落、とはよく言ったものである。

「はっはっはっ、エリカちゃん…別にここの主と戦わなくてもいいんだよ。」
「…えっ、戦う必要はないのですか?」
「あぁ、だから身構えなくてもいいんだ…さぁ来るぞ、心の準備はいいか?」
「え?あ、はい!」

エリカがゴダードと共に上空を見上げると、その主は上空をグルグルと旋回しており、エリカ達を見つけるとまるでグライダーの様に大空を滑りながら飛んできて、大きく羽ばたきをしながら二人の前に現れた。
だが、ここでエリカは目を大きく見開き降りてきた者を見つめ、おどろきのまなざしで主を見つめていた。

なんと、洞窟の主は…マギカドラゴンだったのである。

呼んでも来ない訳ですね…エリカは今になって、マギカドラゴンが近くにいない訳がわかり少しホッとした。
人間誰しも、近くにいた人が急にいなくなった時…あるいはさっきまであった物がいきなりなくなった時は、不安になり焦るものである。
この事は竜の魔法使いであるエリカとて、全くの例外ではない…彼女も魔法使い以前に人間なのだから。
さて洞窟の主が判明したところで、エリカは一旦深呼吸して落ちつき、改めてマギカドラゴンに一番言いたかった事をぶつけた。

「…マック、どうしてあなたがここにいるのですか?」
『まぁ、いろいろあってね。…そしてゴダード、本当に久しぶりだね。』
「そうだな、五代目の時の試練以来かな?…まぁそれはいいとして、早速始めよう。」
『そうだね、一時的に外の世界の時間を止めているとは言え、まごついているひまはないから。』
「え、時間が止まっている…?それは一体どういう…?」

マギカドラゴンの言葉に首をかしげ、不思議がるエリカ。
そう、このリングはエリカがヴァルムンクを手に入れるまでは外の世界の時間を止める機能があり、セシリアとデスサイズベクターの戦いも今の時点では中断している。
つまり、エリカがヴァルムンクを手に入れれば、時間は再び動くのである。
もちろん、何らかの事情で本人がマギカドラゴンに試練を一時中断したいと言えば、時間は再び動き意識も本人の肉体に戻るのだが、そんな事情も知らず頭の中が混乱しているエリカに、マギカドラゴンとゴダードはおだやかに話しかけた。

『エリカちゃん、そんなに考える必要はないよ。止まっている時間は長いんだ、落ち着いていこう。』
「その通りだ。ただし本当に無茶は禁物だ、無理だとわかったら一旦離脱する勇気も必要だからな。」
「…あ、はい!」

エリカの快い返事に、ゴダードとマギカドラゴンはホッと胸をなで下ろし、満面の笑顔で返した。



試練を開始する前、マギカドラゴンはエリカに簡単な質問をした。
もちろん、今回受ける試練には欠かせない重要な事であるが。

『エリカちゃん、四大元素は覚えているね?』
「はい、火・水・風・地です。」
『ご名答!…では、三大天空要素は答えられるかな?』
「はい、太陽・星・月です。」
『正解!よくできました。』

エリカの住む世界には、一般に言う火・水・風・地の『四大元素』の他に『三大天空要素』と呼ばれる物があり、太陽・星・月の三つが人間の魔力をバランスよくつかさどっていると考えられている。
その教義によると…太陽が光をつかさどり、太陽の精霊シャインから聖なる光の力を術者に授けると言う。
また星は闇をつかさどり、星の精霊ステラが聖なる闇の力を術者に授け…月は月影の影響から全ての魔力をつかさどり、月の精霊ルナから聖なる月の力を授かるのである。
実際にこれら七つの力を全て使いこなすのは難しく、必ず四大元素か三大天空要素のいずれかにかたよってしまうのが現状なのだ。

さて、今現在エリカは四大元素はもとより…三大天空要素をも会得している。
これは、本人の素質や才能はもちろんの事、それらをさらに伸ばすため魔力の鍛錬や魔法習得への努力を惜しまず、また精霊との誠意あふれるコンタクトも欠かさなかったエリカの情熱も忘れてはならない。

『では最初に、エリカちゃんの魔力を確認させてもらうよ。』
「方法は簡単、まず四大元素の魔力を少しだけ発動し、次に三大天空要素の魔力を発動させるんだ。…では、やってみてくれ。」
「わかりました、では…。」

エリカは魔力を集中させ、まず火の魔力を右手に具現化し高さ1m程の火柱を生み出した。
続いて左手で水の魔力…直径1mの氷塊を生み出し、さらに右手から風の魔力…高さにして1mの竜巻を起こした後、左手で地の魔力…重力を操り直径1mの水晶を掘り起こした。

「では、次いきます。」
「あぁ、構わずやってくれ。ただし、ここから難易度は一気に跳ね上がるから、気をつけて。」

ゴダードの後押しを受け、引き続きエリカは魔力を集中し魔力をつむいでいく。
まず右手からきらめく星の力…聖なる闇を黒い球状で発動し、同時に左手から光り輝く太陽の力…聖なる光を同じく球状に発動した。
そして、体から魔力のシンボルと言える月の魔法陣をつむぎ出し、三大天空要素全ての力をマギカドラゴンとゴダードの前に見せた。

「…これが私の全てです。」
「あぁ、確かに見させてもらったよ。このすさまじい魔力の高まり、精霊達とのつながりは本物だ…さすが現代の竜の魔法使いだな。」
『では、次からが本番だよ。けど、その前に少し支度をするから…ちょっと待っててね。』

エリカの体から流れる魔力を改めて確認したマギカドラゴンは、自らの魔力を集中させ洞窟の前にある開けた場所に魔法陣を描くと、エリカに魔法陣の中央に立つ様話しかけた。

『はぁぁぁぁぁぁっ…ふぃー。さぁエリカちゃん、魔法陣の中央に立って。これからヴァルムンクの試練を始めるよ。』
「…はい!」
『これから三大天空要素の内の二つ…聖なる光と闇の力を数分間放出するから、それを体内に取り込むだけでいいんだ。ただし量が半端ないから、無理だとわかったら僕に声をかけて、一旦止めるから。』
「…はい!」

この試練は俗に「光と闇の試練」とも呼ばれ、ここを通過しない限りエリカはヴァルムンクを手に入れるのはおろか、その力を使いこなす事すら難しくなってしまうのである。
ヴァルムンクは切れ味が鋭い分制御も難しく、周囲に関係のない人間や建物等を誤って斬ってしまう可能性も少なくない。
そのために、正しく制御し使いこなせるかの試練を設けなくてはならないのだ。
光と闇に限定した理由も、ヴァルムンクは光の威力と闇の切れ味を月の力で制御するため、月の力がどの程度安定しているかも必要なのである。
試練を通過するコツはただ一つ…それは、四大元素と三大天空要素のバランスがうまくとれているか、それだけに尽きる。
もしどれか一つでもかたよっていれば、うまくすれば再挑戦…ただし下手すれば死が待っているのだ。

エリカは意を決すると、マギカドラゴンの言葉にしたがい魔法陣の中央に立ち、両腕を高くかかげ魔力を集中し始めた。
すると、右手に黒く輝いた聖なる闇が渦を巻いて吸い込む様に宿り始め、左手には光輝く聖なる光が同じ様に渦巻いて吸い込まれていった。

(た、確かに魔力が尋常な量ではありませんね…しかし、皆を守るためには負けられません!)

双方の圧倒的な力に耐えられないのか、さすがのエリカも額に玉の様な汗が無数に浮かび、歯を食いしばっていた。
足も踏ん張り腰もかなり入れて耐えるものの、その圧倒的な力は容赦なく細身の体にのしかかる。

「くっ、くうぅぅぅぅぅっ!!」
『エリカちゃん…。』
「がんばれ、エリカちゃん。ここを通過しなければ、ヴァルムンクを手にするのが夢のまた夢になってしまうぞ!」

先程から三枚目を演じていたゴダードも、この時ばかりは真顔でエリカの成り行きを見守っており、マギカドラゴンも表情に出してはいないが難しい顔つきでエリカを見守っていた。
何せ三大天空要素の光と闇を一気に体内へと取り込むのである、いくら魔力が高いエリカとて簡単に耐えられるはずがないからだ。
試練を開始してから1分が経過し、さらに体内に二つの魔力が流れ込み苦悶の表情を見せ、やがてうつむいて言葉を失ってしまうエリカ。

「……。」
『エリカちゃん、無理しなくてもいいから一旦休憩しよう。このままだと…。』
「…!?ちょっと待て、マギカドラゴン。何か様子がおかしい…。」

ゴダードが察知した、エリカの異変…それは、背中から結晶状の黒い翼が現れた事である。

ギチギチギチ…カキカキカキ…。

結晶化した黒い翼は、ゆっくりと天に向かって伸びてゆき、やがて完全に伸びきった瞬間…!

ガッシャアァァァァン!!…フワサァ…。

黒い水晶の翼は砕け散り、目にも鮮やかな純白の翼へと具現化したのである。
そう、それはまさしく聖書に記されている大天使そのもの…神々しき姿に、ゴダードやマギカドラゴンですら圧倒されていた。

『ゴダード、ひょっとしたらエリカちゃんって…。』
「あぁ、まさかとは思うが…彼女は俺達歴代の竜の魔法使いをも超えた存在なのかもしれないな。」

そしてさらに数分後、聖なる光と闇の力は完全にエリカの中に取り込まれ、純白の翼も役目を終えたかの様に消滅していった。
しばらくして、エリカはうつむいていた顔を上げゴダードの方を向いた。
そこには、やさしく笑みを見せるゴダードの姿が。

「あ、あの…ゴダードさん、私は合格ですか?それとも…。」
「あぁ、合格だ。しかも、ギリギリセーフだ!」
「よ、よかった…もし失格だったらどうしようかと…グスッ、グスッ。ワァァァァァン!!」
「おいおい、泣かないで。心配しなくても大丈夫だから。」

エリカは嬉しさのあまり涙を流して泣き始め、ゴダードは肩を抱きながら何とか泣き止む様あやしていた。
そしてゴダードは泣くだけ泣いてスッキリしたエリカと共に、洞窟にあるほの明るく輝く光に目をやった。

「エリカちゃん、あれがヴァルムンクだ。」
「この光が…ですか?」
「そうだ。…そもそもヴァルムンクは我々竜の魔法使いのイマジネーションにより具現化する剣、つまりこの光をつかんだ瞬間本人のイマジネーションと結びついて剣に変わるんだ。」
「私のイマジネーションが…。」
『さぁ、エリカちゃん。今こそ!』
「はい!」

エリカは洞窟内に入り、ヴァルムンクをつかむべく右手を差し出し…そして、彼女はそれをつかんだ。

「…あ。」

つかんだ瞬間、目の前が光に包まれ…エリカの意識は再び遠のいていった…ゴダードの祝福の言葉を聞きながら。



『現代の竜の魔法使いエリカに、神の加護のあらん事を…』



光が収まり再び意識が戻ってきたディザードは、デスサイズベクターと戦っているセシリアを援護すべくディザーソードガンをガンモードに切り替え、砲撃を開始した。
それは、丁度セシリアの光の剣とデスサイズベクターのキラーシザースが激突し、火花を散らしていたところへの絶妙なアシストであった。

『ぐわっ!?』
「エリカちゃん?…ま、魔法が…通じた!?」
「魔法が、効きました…これが、今の私の力…。」

ディザードは、今の砲撃が通用した事におどろきを感じていた…さっきなら砲撃しただけでも弾かれるだけなのに、それがいともやすやすと通ってしまったからだ。
これは、すごい…すごすぎる!
この光景にはセシリアも感動し、デスサイズベクターに至っては「まさか…」と言った表情でディザードを見つめていた。

『俺に魔法が通用した、だと…!?貴様、いつの間にその様な力を!!』
「魔法使いに、不可能はありません!…竜の魔法使いの本気を、お見せしましょう!」

ディザードはディザードライバーの手形を再び右に操作し、右手の指に光るリングを再度ふれさせた。

『ヴァルムンク・プリーズ!!』

するとどうだろう、ディザードが手にしていたディザーソードガンがディザードの手から離れて光り輝きソードモードに変形、さらに腰にある四つの属性リング…ブレイズ・フロスト・ライトニング・クリスタルがリングホルダーから離れ、ディザーソードガンに集まってくるではないか。
そして小さな魔法陣が空中に現れ、ブレイズが魔法陣の上に…フロストがその右に…ライトニングが下に…クリスタルが左に配置され、ディザーソードガンがリングの配置された魔法陣を通過していく。
そして、そこから現れたのは…この世の物とは思えない、美しい聖剣であった。



6枚の翼を広げた大天使を思わせる鍔…その中央には手形が配され、全長40cmの柄が真下に伸びる。
さらに黄金に輝く刀身は1mもあり、そこには左右に古代ルーン文字が彫り込まれ、圧倒的な迫力と存在感を演出する。



これが、全てを断つ力…エリカ版ヴァルムンクの全容である。
ディザードは現れたヴァルムンクを手にすると、両手で握りしめデスサイズベクターを一点に定めるや、その場で軽く縦に薙いだ。

スッパアァァァ…ン。


何と、遠距離であるに関わらずデスサイズベクターの手にしていたキラーシザースを一刀両断したではないか!
しかも、デスサイズベクターの肩口に鮮やかな切り口を刻み、地面にひざまつかせる。

『ぐわあぁぁぁぁぁっ!…な、何だ今のは!』
「エリカちゃん、この剣…すごすぎるよ!!」
(思った通りの切れ味ですね…これなら!)

セシリアはヴァルムンクの圧倒的な切れ味におどろき、デスサイズベクターが戦慄を覚えながらもテレキネシスで光の輪を呼び出し、スペアのキラーシザースを手に取りすかさず構えて迎撃すべく走り出す中。
ディザードはヴァルムンクの威力に全くおどろかず軽く深呼吸すると、左手に持ち直し鍔の中央にある手形に右手でタッチし、再度両手で構えなおした。

『ナイスタッチング!…セラフィム・ストライク!!』

と、突然ディザードの頭部にあるクロスホーンがガシャッと音を立てて左右に展開し、大気中にある魔力を吸収し始め…その背後からは魔力の余剰エネルギーが放出され、あたかも天使が翼を広げたかの様な姿を見せていた。
その美しさは格別らしく、セシリアも我を忘れてしまいウットリと見とれてしまう程である。

「きれい…まるでエリカちゃんが天使になったみたい…!」
『なっ、何だと…この姿は、まるで…!えぇーい、あんなコケおどしにだまされるかアァァァァァッ!!』

デスサイズベクターはディザードの姿を見て焦りを感じたのか、さらに加速をつけ懐に飛び込もうとしたが。
それより早くディザードはヴァルムンクを高く掲げ、一気に振り下ろした。

ブゥゥンッ!…ズバアァァァァッ!!

その黄金に輝く刃は、デスサイズベクターを二つに両断し…だが、美術館の壁や中にいる人々には斬り跡はなく、全く被害がおよんでいない。
まさに、悪だけを斬るための神業。
その繰り出した技は、エリカの人々を守る心と意志…何より、歴代の竜の魔法使いの聖なる魂が為せた技なのだろう。
天使の翼が粒子となって霧散し、クロスホーンが再び閉じた頃には…デスサイズベクターは数歩後ずさりし、スペアのキラーシザースまでも真っ二つになり手からすべり落ちて地面に落下していた。

カラン、カラァ…ン。

「これで…フィナーレです!」
『…その太刀筋、見事なり…あっぱれであった!!』


ザシャアッ…ドガアァァァァァァンッ!!


デスサイズベクターはディザードを賞賛し、後方に倒れた後光の輪が四方に広がり爆発して消滅した。

戦いが終わり変身を解いたエリカは天を仰ぎ見、ふぅ…と深くため息をついた。
するとセシリアが笑顔満面でエリカに走りよるや、そのまま手をつないではしゃぎまくり、館内にいた人々もエリカの活躍にドッと沸いていた。

「エリカちゃん、すごーい!いつの間にあんな魔法を!?」
「えぇ、おばあちゃんからもらったリングのおかげです。本当にこれは、すごい力を秘めてますね!」
「すごいな、あの女子高生は!あんな化け物をやっつけるなんて!!」
「こいつぁびっくりたまげた!」
「すごーい、感動しちゃった!」

その場にいた人々の歓喜の声に、エリカ自身もうれし涙を浮かべセシリアと共に喜び合い、心の中で歴代竜の魔法使い達に感謝していた。

ゴダードさん、そして歴代の竜の魔法使いの皆さん…ありがとうございます。



がしかし、一方でエリカの活躍を良しとしない者もいる…そう、ベルフェゴールこと高品だ。
ほの暗い洞窟内で先程の戦いを水晶玉で見ていた彼は、顔をしかめ遠くを見つめるような目で闇を見つめていた。

「…これは、厄介な事になりましたね。」

ただでさえ竜の魔法使い自体が危険な事この上ない存在なのに、伝説の聖剣ヴァルムンクを手に入れベクターノイドに勝利した…まさに本人からしてみれば、虎に翼が生えたような緊急事態である。
ベクターノイドにも警戒しなければならないと言う時に、これ以上頭痛の種を増やしてはベルフェゴール自身も計画の見直しをせねばならなくなる。
さらにまずい事に、異世界にある封印されたホムンクルスの数が急激に減ってきているのにも、緊急事態に拍車をかけていた。
今まで無数にあったホムンクルス封印体が、見ない間に数を減らし…とうとう二十体程にまで落ち込んでしまったのだ。
原因は多々あるが、おそらく海外にいるゲートから現れたホムンクルスが、その国の魔法使いにより倒された…としか他には考えられない。

(一体どうすべきか…他に手段はあるのか…?)

さんざん悩んだ末、ベルフェゴールは一つの決断を下した。
しかも、今まで立てていた計画を前倒しする形で。

「…かくなる上は、『彼』を使うしかありませんね。」

洞窟内の灯明が闇を照らす中、ベルフェゴールの視線の先には…カプセルの中で横たわるホムンクルスらしき物が、水溶液の海の中で浮いていた。



 
 

 
後書き
次回、Epic9 「誰?…黒宝石の魔法使い」 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧