『曹徳の奮闘記』改訂版
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第九十二話
翌日、美羽は俺達を集まらせた。
「皆の者、よく集まってもらったのじゃ。集まってもらったのは他でもない。近いうちに我が仲は行動に移るのじゃ。よって各船には三ヶ月の食糧を積み込んで待機してほしいのじゃ」
「お、いよいよか。腕が成るぜ」
美羽の言葉に翠が張り切る。そこへ雪蓮が前に出た。
「ちょっと待ちなさいよ美羽」
「何じゃ雪蓮?」
「そんな重要な事を私達に相談もせずに軍議も開かないで勝手に決めるのよ?」
「何を言うておるのじゃ。妾は仲の王じゃ。作戦は妾が決める事じゃ」
「これまでは軍議を開いて皆で決めていた事でしょ。貴女の勝手な判断で下手に動けば死に急ぎに行くようなものよ」
「雪蓮ッ!! 雪蓮は戦う前から妾達が負けると決めておるのかッ!!」
「えぇそうよ。私達は武門であり戦での死ぬのは運命だけど、無駄な戦いでは死にたくないもの」
雪蓮はそう言って美羽は睨み付ける。いきなりの事で蓮華や霞等も唖然としているが、冥琳や他の判る人達は美羽と雪蓮の行動を判っていた。
「何じゃとッ!? それが元呉王の言葉なのかッ!!」
「そっちこそ我が呉を侵略したくせに今度は自分を滅ぼすつもりなのかしら」
「無礼じゃぞ雪蓮ッ!! 妾の命に従えぬというのかや?」
「黙りなさい美羽。貴女が勝手に決める作戦になんて服従なんか出来ないわ」
「まだ魏軍と一戦も交えぬ時からこれでは部下に示しもつかないのじゃ。雪蓮を……雪蓮を斬れッ!!」
『ッ!?』
美羽の言葉に皆が騒然とする。対する雪蓮は南海覇王に手を添えた。
「あら、私とやろうというのかしら? 私を斬れるのかしらね?」
「許さんのじゃッ!! これ以上の雑言は聞きとうないッ!!」
美羽は腰に据えていた短剣を抜いた。そして翠が飛び出した。
「お、落ち着けよ美羽。な?」
「美羽殿、少し興奮なされてます。一息入れてはどうですか?」
ついでクロエが美羽にそう言う。
「美羽様、雪蓮さんを斬れば元呉軍の兵達は怒り心頭になりますよ」
「ならどうするのじゃ?」
「此処は一応杖百打の刑を加えて陣中に謹慎をしてはどうですか?」
「分かったのじゃ。雪蓮に杖百打の刑と謹慎を命じるのじゃ」
そして雪蓮の後方に棒を持った兵二人が立つ。
「やるのじゃッ!! 躊躇う奴も同罪じゃッ!!」
そして兵達は雪蓮を叩き始めた。
「四七……四八……」
蓮華達が見守る中、百打まで雪蓮は打たれた。雪蓮の身体は痣だらけになっている。
「終わったようじゃな。雪蓮、謹慎しとくようにじゃ」
「……ふん」
美羽の言葉に雪蓮はそっぽを向いてそのまま自分の天幕へ戻った。
「作戦の子細は後程伝えるのじゃ」
そう言ってその場は解散となった。
「なぁ長門。あんな美羽を見たのは初めてだぞ」
「そうやで長門。あれには吃驚したわぁ」
桜花と霞がそう言ってきた。
「まぁ仕方ないだろうな。美羽はこれまで成長してきたが作戦を拒否されるという懸案は考えてなかったんだろうな」
「ま、それは文官の仕事やしウチらは突撃したらええけどな」
「ハハハ、それは違いないな」
俺は暫く二人と談笑した後、真桜の工作隊の元へ向かう。
「よぅ真桜。進捗状況はどのくらいだ?」
「あ、隊長。今のところは五十個くらいやなぁ」
真桜はそう言って俺に小さい壺を見せる。
「生産は予定通りにいけるか?」
「分からんなぁ。壺は作れるけども、魚油が取れないと分からんよ」
「分かった。取りあえず二日後までに出来るだけ生産してくれ。頼むで」
「あいよ、任しとき」
真桜はニカッと笑って作業に取り掛かる。まぁ三百あれば何とかいけるもな。
「酷い傷……それにしても何で美羽はこんな事を……」
蓮華は傷を見てそう言っている。しかし、傍に控える冥琳はそう思っていなかった。
「雪蓮……苦肉の計だな?」
「え?」
「……やっぱり冥琳は分かっちゃったわね」
「当たり前だ。何年の付き合いだと思っているんだ雪蓮?」
「ど、どういう事?」
「蓮華、全ては美羽の策だと言う事だ」
「お母様」
夏蓮が事情を知らない蓮華達に全てを話した。
「まさか……そんな事が……」
「お母様は直ぐに分かったでしょ?」
「当たり前よ雪蓮。祭や翡翠も気付いていたわ」
「私って一体……」
「れ、蓮華様……」
芝居だという事に気付いていなかった蓮華が若干落ち込み、思春が慰めている。
「それでどうする気だ雪蓮?」
「準備が出来次第魏軍に降る予定よ。それまでに陣内で仲軍への悪口や仲違いとか噂すればいいわ」
「分かった。その辺の工作は私がやる。思春、明命」
「「は」」
冥琳がそう言って思春と明命を飛ばした。そして翌日から仲軍と元呉軍の噂が流れ出した。
「……作戦は順調のようだな」
噂が広がっている事に俺はそう思った。そこへ目の下にクマが出来た真桜がヨロヨロと天幕に入ってきた。
「……隊長ぉ……出来たでぇ……」
「よく頑張ったな真桜」
「エヘヘ……これで寝れ……る……」
そう言って真桜の寝息が聞こえてきた。まともに寝てなかったんだろうな。
「兎に角、これで作戦が出来るな」
俺は真桜を天幕の寝台に寝かして雪蓮の元へ向かうのであった。
そして更に二日が経過した時。
「だ、脱走だァッ!! 孫策達が脱走したぞォッ!!」
雪蓮達が元呉軍の約五万の兵力と共に仲軍から離脱して魏軍に投降したのであった。
後書き
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