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久遠の神話

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第四十七話 アメリカ軍人その三

「警察学校を出てすぐになりました」
「刑事だからか」
「いや、それで勤務先がやけに物騒な場所だったんで」
「物騒か」
「繁華街でして」 
 繁華街は賑やかな反面そうした騒ぎも起こってしまう。それでだというのだ。
「風俗店とかあるとどうしても」
「絡むな」
「はい、こういうのが」
 高橋は己の右手の人差し指で頬を一閃してから述べた。
「絡みますからね」
「ああした店はどうしても絡むな」
「だからですよ。昔は映画とかもでしたよね」
「みたいだな」
「それで事務所同士の抗争とかもあって」
「警察も大変だったか」
「防弾チョッキとヘルメットないと死んでました」
 高橋はリアルな話をした。
「けれどそういうところにいて」
「手柄を立てたか」
「まあ。高卒で二十代で警部になれるまでには」
 手柄を立てたというのだ。
「昇進ではよかったですかね」
「そうなるな。しかし俺も君も高卒だからな」
「それでも何とかなりますね」
「そうだな。それでだ」
「そのアメリカ軍の将校さんですか」
「階級は大尉だ」
 彼はその階級から話す。
「一応俺と同じだがな」
「それでも違いますか」
「相手による」
 そうだというのだ。
「任官が向こうが先だと向こうが上位になる」
「同じ階級でもですね」
「警察でもそうだな」
「そうですね。やっぱり任官とか役職が関係しますね」
「それと同じだ。だからだ」
「階級社会ってのはそういうところ五月蝿いですからね」
 その点では警察も自衛隊も同じだった。階級社会だけに同じ階級でもこうしたことは厳しく定められているのだ。
 工藤も高橋もその中にいるからこそわかる。それでここでも話せたのだ。 
 そうした話をしながら領事館に着いた。世界一の大国らしく立派なその中に入るとすぐに大柄な、二メートルはある体格のアフリカ系の男が出て来た。 
 軍服は青い、空軍のものだった。アメリカンフットボーラーを思わせる身体つきで髪は短いパンチになっている。目は黒く彫が感じられる顔だ。 
 彼はまず二人に敬礼し二人もそれに応える。そのうえでこう名乗ってきた。
「ジョニー=スペンサーです」
 わりかし流暢な日本語だった。
「宜しくお願いします。階級は大尉です」
「では貴方がですか」
 すぐに高橋が応えた。
「そのアメリカ軍の」
「はい、私です」
 バスの声での返答だった。
「私がこのアメリカ領事館の新任の駐在武官です」
「そうですか。それでは」
 工藤と高橋もそれぞれ名乗った。その階級もだ。そのやり取りを経てからスペンサーはにこりと笑って手を差し出してきた。
 工藤がそれに応えて握手をする。握手をしてすぐにあることに気付いた。
「フェシングですか」
「はい」
 スペンサーはすぐに工藤に答えた。
「それとです」
「それと?」
「フットボールもしています」
 アメリカンフットボールのことであるのは言うまでもない。 
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