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丸坊主

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第三章

「あいつがそういう奴だってわかったらな」
「辞めるな、部活」
「ああ、道場に行くよ」
 こう言うのだった、そして。
 試合の時が来ていた、馬尾は部員達にこう言った。
「御前等一回戦負けだと全員丸坊主だ!」
 こう言ったのである。
「いいな、全員だ!」
「・・・・・・・・・」
 皆馬尾の言葉に黙っていた、馬尾は生徒が何か言えばその時の気分次第で何発も殴ったり蹴ったりするからだ、それでだった。
 彼等は黙っていた、そして。
 試合になった、試合では残念ながら一回戦負けだった、馬尾はランニング等の基礎練習を教えないので生徒達には体力が備わっておらず息切れをした結果だ。
 彼等は敗れた、馬尾はその彼等に言った。
「御前等明日の部活までに全員丸坊主にして来い!」
 こう言ったのだ、だが。 
 生徒達は試合が終わり会場から彼等の町に電車で戻った、そして馬尾がいないことを見計らってだ。
 ひそひそと眉を曇らせて話した。
「なあ、今から散髪屋行ってだよな」
「ああ、丸坊主か」
「今すぐにか?金持って」
「明日までにか」
「無茶だろ」
 こう言うのだった、彼等は。
「というか試合で負けたら丸坊主ってな」
「しかも試合まで出てない奴までなんてな」
「あいつ丸坊主にするんだろな、馬尾は」
「するだろ、やっぱり」
 流石に、だというのだ。自分が言うからには。
 馬尾はパーマを当てている、そして鋭く嫌な光を放つ細い目を持っており顔は膨らんでいる。やはり教師には多いが学校よりも北朝鮮の独裁対象地域の看守にいそうな顔である。
 そのパーマについだ、彼等は話した。
「あいつのパーマな」
「普通教師がしないだろ」
「ああ、あんな金正日みたいなパーマはな」
 そもそもセンスがなかった。
「あれで生徒に髪型のことも言うしな」
「言えないだろ、普通は」
 自分がしておいてだ、これは常識の話だ。
「けれど全員に丸坊主って言うからな」
「じゃああのパーマも刈るよな」
「明日あいつも丸坊主だよな」
「生徒に全員すぐにして来いっていうからにはな」 
 それには、というのだ。
「それ見てから丸坊主にするか?」
「だよな、そうじゃないとやれないぜ」
「全くだよ」
 彼等は馬尾のパーマからこう考えた、そして吉峰もだ。
 とりあえず馬尾がどうしてから決めることにした、丸坊主にするかどうか。
 この日彼はあえて散髪に行かなかった、そして次の日。
 丸坊主にしてきた生徒は五人だけだった、他の者は丸坊主にしなかった。馬尾はその彼等を見て激怒した。
「御前等何で丸坊主にしてこなかった!」
 こう叫ぶ、見事なパーマを誇示しながら。
 そしてこの日馬尾は荒れ狂い生徒達にそのシャベル突きを入れ蹴り飛ばし回った、その中には吉峰もいた。
 吉峰は無言でその馬尾を見た、部活は酷い有様だった、馬尾は生徒達にこれ以上はないまでに暴力を振るった。
 そして部活が終わるとだった、吉峰jは自分の竹刀と防具、剣道着を全て持って学校を後にした、それからだった。
 そうしたものを全て小学校まで通っていた道場に置いてだった。
 散髪屋に行った、そこで自分の頭を丸坊主にしてもらった。
 それから彼は部活には行かなかった、剣道は道場ですることにした。
 それでだ、共に道場で稽古をする彼、吉峰に退部を勧めていた彼にこう言った。
「よくわかったよ」
「そうか」
「あいつのことがな」
「パーマ刈らなかったな」
 彼も見ていた、そのことを。
「見事なものだったな」
「ああ、そうだな」
「そういう奴のところにいても仕方ないだろ」
 彼は吉峰にこうも言った。
「そうだろ」
「そう思う、本当にな」
「それでも剣道は続けるんだな」
「だからこっちに全部持って来たんだよ」
 竹刀も防具も剣道着もだというのだ、無論手拭もだ。
「もうあそこには戻らないさ」
「それがいいな、あいつはとんでもない奴だ」
「前からそう思っていたけれどな」
 これまで以上にだ、そのことがわかったのだ。
「人に教える資格のない奴だな」
「少なくとも剣道をやる資格はないな」
 最早その時点で駄目だった、馬尾は。
「ここで剣道をやるさ」
「一緒にやろうな」
 吉峰は二度と部活に戻らなかった、剣道部はこのことからもさらに問題が起こり続けた、全て馬尾が原因だった、吉峰はもうただそれを外から見ているだけだった、道場で確かな人に本物の剣道を教えてもらいながら。


丸坊主   完


                      2013・5・27  
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