沖縄料理
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第二章
「そうするべきだ」
「そうか、じゃあな」
「今も戦うぞ」
「わかった」
良馬は同志の言葉に頷いた、そしてだった。
彼は沖縄での闘争を続けた、しかし彼等の言う人民は立ち上がらずそれどころか基地で働く者もいればその米帝の兵士相手の店すら多くあった、これは彼にとっては信じられないことだった。
それでだ、彼はある日同志達に困惑を隠せない顔で尋ねた。彼が住んでいる粗末な部屋の中で日本から取り寄せた酒を飲みつつ尋ねる。
「何故米帝相手に商売をしているんだ、自衛隊の相手までして」
「ああ、自衛隊も来ているな」
「それもかなりの数が」
「ここは帝国主義者達の巣なのか」
こうまで言うのだった。
「まさかと思うが」
「いや、違うが」
「人民達はその機会を待っているだけだ」
同志達は今度はこう彼に言った。
「まだな」
「だからその機会を俺達が作るんだ」
「わからない、俺には」
良馬は困惑する目で言った。
「沖縄の人民は腑抜けか、それとも」
「それとも?」
「それとも。どうしたんだ?」
「あえてそうしているのか」
ここでこうも考えたのだった。
「米帝や日帝の帝国主義者達を店に入れて彼等を篭絡しているか情報を収集しているのか」
「その可能性もあるのか」
「そう考えるんだな」
「だとしたらこれはかなり大きい」
日本酒を飲みながらの言葉だ、あてはスルメである。
「沖縄の人民達は密かに決起の時に備えてそうしているのかも知れないからな」
「そうだな、そうならな」
「心強いな」
「よし、それならだ」
良馬はここでコップの中の酒を一気に飲んだ、それから酒の臭いのする声で言った。
「少しその店に行って来る」
「よし、ならそちらの情報収集を頼むぞ」
「是非な」
「ああ、反動勢力に負けるものか」
強大な権力に立ち向かうつもりで言い切った、もっと言えばその強大な悪の権力に立ち向かう己にヒロイズムと正義を感じ酔いしれながら。
「その為にも行って来る」
「頼むぞ、同志梶谷」
「そこは任せた」
同志達も彼に声をかける、そうしてだった。
良馬はアメリカ軍の将兵がよく行く店の一つに入った、そこはステーキハウスだった。ステーキハウスは如何にもアメリカ風、それもウエスタンな内装でまるで西部劇の世界に入ったかの様だった。彼はその店のメニューを見て目を剥いた。
「何だ、この安さは」
「あんたヤマトンチューだね」
店の親父がカウンターの席でそうなっている彼に笑顔で言って来た。
「うちの値段に驚くなんて」
「安いだろう、これは」
「沖縄ではステーキはこんな値段なんだよ」
「嘘だ、ステーキが」
本土ではステーキはご馳走の代名詞だった、まだ輸入肉のない時代だったのだ。
「こんなに安いとか」
「だからそれが沖縄なんだよ」
「そうか」
「凄いのは安さだけじゃないよ、味もだよ」
親父はにやりと笑って言って来た。
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