とある星の力を使いし者
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第185話
一〇月九日。
学園都市の独立記念日である今日は、その内部に限り祝日となる。
第七学区の病院も、朝からのんびりした雰囲気に包まれていた。
カエル顔の医者は正面玄関から外に出て、柔らかい朝の陽ざしを受けていた。
医者の傍らには、一〇歳ぐらいの小さな少女が立っている。
打ち止めと呼ばれる少女だ。
彼女は九月三〇日に木原数多率いる『猟犬部隊』に連れ去らわれ、『学習装置』という機材を使って脳内に特殊なデータを入力されていた。
今まではそのデータの除去を行っていたのだが、その作業が終わったので退院する事になったのだ。
「この子の退院のお迎えは君だけなんだね?」
「ああ、非常に不本意だがな。」
納得のいかない顔をしながら、麻生恭介は返事をする。
打ち止めの退院する時間に合わせて、病院を訪ねてきた。
行きは歩きできたが、帰りはタクシーに乗ってマンションに戻る。
退院したばかりの打ち止めの身体を気遣った配慮だろう。
お代はカエル顔の医者が持つと言ってくれたので、麻生は断る事なくお金を貰う。
「一人でタクシーに乗れると思ったのに、ってミサカはミサカはしょんぼりしてみる。」
「お前が一人でタクシーに乗ったらどこに行くか分からんだろうが。」
「ミサカはそこまで子供じゃないもん、ってミサカはミサカ胸を張ってみる。」
「どこをどう見ても子供だお前は。」
早速、軽くため息を吐く。
子供と言われ文句を言う打ち止めを無視して、タクシーに乗せる。
すると、矛先をタクシー運転手に変え、話しかける。
タクシー運転手は困ったように相手をするのを見て、助手席に乗り込もうとする麻生に医者は声をかける。
「最近どうだい?」
「あ?」
「黄泉川さん達の事だよ。
彼女達のメンタルケアとかはしっかりしているのかな?」
「あいつら曰く、俺が傍にいるだけで安心するみたいだからな。
しばらく一緒に住んでいる。」
「それは良かった。
引き止めて悪かったね?」
笑みを浮かべて言う医者の顔を見て、麻生はタクシーに乗る。
「お客さん、どちらまで?」
今の今まで打ち止めの相手をしていた運転手だが、麻生が乗ってきたので話を変えられると思ったのか、すぐさま目的地を聞く。
「第六学科の遊園地!、ってミサカはミサ」
「第七学区のマンション『ファミリーサイド』の二号棟。
あと、打ち止め。
それ以上余計な事を言うのなら、その口を開くなら縫うぞ。」
どこから取り出したのか、裁縫針と黒い絹糸を手に持ちながら脅す。
割と洒落にならない殺気をぶつけられた打ち止めは。
「み、ミサカはミサカすぐさま口を閉じてみる。」
声を震わせながら口を閉じた。
運転手もまた少し脅えながらも運転している。
静かになったタクシー内で麻生はじっと外を見つめる。
「恭介、ってミサカはミサカは脅えて声を押し殺しながら読んでみる。」
「何だ?」
ぶっきらぼうに答える麻生だが、口を開いた事に何も言わないので打ち止めは話を続ける。
「あの人は・・・家にいる?、ってミサカはミサカは静かに聞いてみる。」
「・・・・・・・」
すぐには答えなかった。
あの人と言うのは間違いなく一方通行の事である。
麻生は一方通行がどこで何をしているのかは把握していない。
が、間違いなく言える事は彼が暗部の世界に居るということだ。
打ち止めも暗部の世界に関わりのある人物。
言えば少女は危険と分かっていても、一方通行を探しに行くだろう。
せめて、一方通行から電話の一つでもできれば話は変わってくるのだが。
(今は真実を言う時じゃないな。)
「さぁな、俺自身あいつがどこにいるかさっぱりだ。
愛穂も桔梗も把握してない。」
「そっか、ってミサカはミサカは残念そうにポツリと呟いてみる。」
「でも、お前なら分かるだろ?
どこにいるかは分からんが、今日も元気に杖ついて歩いているあいつのこと。」
「うん!、ってミサカはミサカは元気よく頷いてみる。」
それから打ち止めは騒がず、けれど麻生に話しかける。
騒がないおかげか、鬱陶しいと感じなかったのか返事は適当にだが、打ち止めの話に麻生は付き合う。
隣で話を聞いていた運転手は、最初は仲が悪いと思っていたが、全くそんな事はないと再認識して目的地に向かう。
「打ち止め退院おめでとうじゃん!!」
「おめでとう。」
パンパンパン!、と。
二人がマンションに着き、部屋に入った瞬間、愛穂と桔梗はクラッカーを鳴らしながら出迎えた。
制理も同じ様にクラッカーを鳴らして出迎えている。
「おお!出迎えご苦労、ってミサカはミサカふんぞり返ってみる。」
「相変わらずじゃん。
んでも、元気そうでよかった。」
「退院祝いだからね、今日のご飯は豪華よ。」
桔梗の話を聞いて、打ち止めは走ってリビングに向かう。
テーブルには昼に食べるにしては豪華なご飯が並べられていた。
「全部、ミサカの好きな物ばっかりだ、ってミサカはミサカはつまみ食いをしてみる。」
手を伸ばそうとしたが、後ろから甲を叩かれて阻止される。
「皆、席についてからだ。」
叩いたのは麻生だ。
叩かれたことに文句は言わず、早く食べたいのか打ち止めは席に座る。
麻生達も席に座りながら。
「そうだ、紹介しておかないとね。」
桔梗がそう言い、隣に座る制理に視線を向ける。
視線の意味に気づいた制理は小さく頷いて、打ち止めに話しかける。
「こんにちは、私は吹寄制理。
あなたが退院する前からここに住まわせてもらっているの。」
「制理って言うんだね、ミサカは打ち止め!、ってミサカはミサカは手を伸ばしてみる。」
握手を求められ、制理は純粋無垢な打ち止めの笑顔を見て、握手を返す。
打ち止めが相手なら基本的に誰とでも仲良くなれる。
その事は三人も心配してないらしく、自己紹介をし終えて、少し早い昼食を食べる。
「美味しい!、ってミサカはミサカご飯を口に入れながら感想を言ってみる!」
「こらこら、慌てて食べないの。」
「そうじゃん、慌てなくてもこれは打ち止めの退院祝いなんだから。
ゆっくり食べても誰も取らないじゃん。」
保護者二人が打ち止めの世話をし、制理は麻生に気になっていた事を小声で尋ねる。
「あの子、打ち止めって。」
どうやら、打ち止めという呼び名を気になったようだ。
確かに打ち止めと言うのは名前ではなく、コードネームのように捉えたかもしれない。
「疑問に思うのも無理はないな。
だが、それがあいつの名前だ。
打ち止め自身もあの名前を気にいっているしな。
じゃなきゃ、愛穂が名前付けてるだろ。」
彼女達と生活して、制理も大体の性格は分かった。
少女が打ち止めという名前を気にいっていなければ、愛穂や桔梗が名前を付けているに違いない。
それがないということは、本人が打ち止めという名前を気にいっている証拠だ。
制理も打ち止めが気にしていないのなら、何も言わないことにした。
打ち止めが戻った事で食卓に活気が増した。
一人。
あと一人戻ってくれば本当に楽しい食卓になるだろう。
食事中、ふと愛穂が何かを思い出したのか。
「珍しく隣の人と出会わなかったんだよね。」
愛穂達が住んでいる部屋の隣には毎朝、決まった時間にジョギングする三〇代の男性が住んでいる。
愛穂も体力作りの為毎朝走っていて、隣の男性と時間が同じで、朝は決まって出会い挨拶する。
なのだが、今日に限ってその人と出会わなかった。
「誰にだって寝坊はあるでしょ。」
「そうなんだけど、今日は付近の人の姿も全然見えなかったし・・・」
「考えすぎだ。
そういう日もあるだろ。」
「・・・・・かな。」
二人に言われ、愛穂も考えすぎと改め直し、食事を再開する。
美味い料理を食べ、退院祝いに打ち止めの好きな所に皆で行こうと計画している。
楽しい一日になる。
誰もが思っていた。
変化は突然だった。
ビリビリ、と窓が震えているのを麻生は知った。
風でも強いのか、と考えたが徐々に窓が震える音が大きくなる。
震える音と同時に、空気を斬り裂く音と独特のエンジン音が聞こえてきた。
異常な変化に愛穂達も気づいたのか、窓の外に視線を向ける。
音の原因はすぐに姿を現した。
第二三学区・制空権保全管制センターが誇る、最新鋭のHsAFH-11、通称『六枚羽』。
機体の左右に搭載された機銃とミサイルが麻生達の居る部屋に向かって突如、攻撃を開始した。
後書き
原作では15巻にあたるストーリーですが、これはオリジナルで話を進めます。
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています
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