少年は魔人になるようです
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第29話 魔人はフラグを立てるだけのようです
Side 愁磨
「おーっす、スタン爺さん。今日もいい髭だな!」
「…せめて良い天気じゃの、ぐらいは言えんのかの?シュウマ殿。」
スタンと言う名前で分かるかも知れないが、俺はウェールズの隠れ里―――
つまり、ナギの故郷に来ている。
既に二年は滞在してるから、村の人達ともそれなりにご近所さんだ。
「・・・・おじじ、おはよう。」
「おー、アリアちゃんお早う。今日も可愛いのう。」
「オイオイジジイ、鼻の下伸びてんぞ。だらしねぇ。」
「フンッ、貴様に言われたくなどないわ悪ガキめ。」
――スクナを再封印した後、俺は『紅き翼』全員に計画の事を大まかに話した。
正直に言うと、こいつらが受け入れてくれるとは思って無かったし、
ぶん殴られるとは思ったんだが―――
『………ありがとよ、話してくれて。俺は賛成だぜ?だってよ――』
ってナギに言われて、呆気に取られた。
曰く、『不必要に死んでく命があっちだけでも減るってんならいいだろ。』
・・・・目の前で、腕の中に居た命を助けられなかったとか言っていた。
それでどう心が動いたのかは、本人だけが知ってれば良い事だ。
「ああ、そうそう。俺魔法世界(あっち)に用事あるから、暫く行ってくるわ。」
「あ~、そうか。ワリぃな、手伝えなくってよ。」
「別に気に病む事は無いわよ?ナギが居ても邪魔なだけだから。」
まぁ、皆考える所があるみたいで。
今はバラバラに散って、考えを纏めているって所だ。
「……ノワール殿、じゃからナギはスマンと謝ったのを分かっておるじゃろう?」
「スタンさん、私を馬鹿にしているのかしら?分かっているから言ったのよ?」
「何時になってもん慣れんのう……。」
・・・・ノワールとスタン爺の折り合いは、なんか不思議だ。
と、俺達が雑談していると――
「皆さん、おはようございます。朝から騒がしいですね。」
「ん?ああ、ネカネちゃんおはよう。今日も可愛いね~。」
「しゅ、シュウマさん。子供扱いしないでください。」
俺が頭を撫でているこの子は、ネカネ・スプリングフィールド。
綺麗な長い金髪を背中程まで伸ばしていて、紫がかった深い青い瞳の子だ。
ナギの親戚の子(と言っても同じ村に住んでいる)で、今は学校が夏休みで帰省中。
・・・・アリアとは仲良しなんだが、何かと衝突?してる。
「子供扱いされたくなかったら、もっと大きくなるか
700年前に生まれてくるしかないよ~。
そうそう。今丁度話してたんだけど、俺達暫く魔法世界に行ってくるから。」
「え、えええええええ!?そんな!
折角夏休みなのに。……もっと、シュウマ様と遊べると思ってたのに……。」
そんなにションボリされると困るんだがね?
・・・・・ああ、『様』が付いてるのは、俺のファンクラブさんだからだ。
No.1から順に、アリカ、ノワール、アリア、テオ、ネカネちゃん。
うん、聞いた時は色々ツッコミ入れたくなったのは割愛。
「…………………の、ノワールさん、アリアさん?」
「ハァ……。私は別に構わないわよ。」
「・・・・ん、わたしも、いいよ。」
「と言う訳で、全会一致で夏休み終わるまで居るから。泣かないでくれ。」
「な、泣いていません。……ありがとうございます。」
いらんフラグかな、やっぱり?
・・・・まあ、女の子が悲しんでるよりはマシかな。
Side out
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――とある取引
「『では、これで文句は無いのであろう?』」
「……ええ、これで良いわ。これでアスナちゃんを渡してくれるのよね?」
「『無論だ。だがしかし、そちらが約束を破った場合……。』」
「ああ、分かってる。お前も約束は守りやがれ。」
あーあ、愁磨に怒られちまう、かな?
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Side ガトウ
俺達は愁磨の話を聞いた後、再び集まって話し合った。
議題は、『『造物主』を信用していいのか?』
・・・愁磨が信じていたからには、一応信用出来るとは俺は思った・・・が、
しかし、ナギの一言で俺達の対応は決まった。
『あいつは、最後で裏切りそうだ。理由がどんなのがあったにしても、
世界を終わらようとした奴は信用出来る訳がねえ。』
『造物主』との事は愁磨とゼクト、ナギ、クルトが一緒にやる事になった。
そして俺達は、水面下の事を調べ始めた。そして――――
ド ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ !!!
「タカミチ!!嬢ちゃん連れて逃げろ!!」
「で、でも師匠は?!」
「弟子に心配される程、落ちぶれたつもりはないぞ!それに、守りながら戦うのは苦手なんだ!」
悪魔の攻撃を防ぎながら、タカミチに叫ぶ。
『造物主』の事を探っていると、これだ。既に同じ状況が10回を越えた。
いつもなら雑魚が大量に出て来て、タカミチと協力して倒せるんだが――
「如何した、人間よ。余所見をしていて良いのか!?」
「少しは待ってくれてもいいと思うんだが?」
今回は、相手が強過ぎる。伯爵級か・・・あるいは侯爵級の力を持っている。
侯爵級=地獄の門番と考えてくれれば、その強さが分かるかも知れない。
「アスナちゃん行くよ!ここに居ても邪魔になる!!」
「ダメ……イヤ!ガトーさん!!」
「嬢ちゃん……。涙見たのは…初めてだな!!」
幼女趣味は無いが・・・ナギが残して行った子だ。
俄然、守りたくなるじゃないか!
俺は、悪魔に対しての攻撃をより激しくする――と、
「し、師匠ぉぉ!!」
タカミチの声で後ろの悪魔に気付くが、一人相手で精一杯。
悪魔が奇妙な鎌を振り被り―――
ドズッ
鈍い音が、俺の後ろでする。俺を庇った、そいつは――
「あ゛ー…、痛ぇ…。」
口と胸から血を拭き出している、愁磨だった。
Side out
Side 愁磨
ガトウの死亡イベントが、今日だったとは、な・・・。
≪Alucard≫形態しか装填して無かったから、庇うしかなかった。とりあえず――
「『形態変化:モード≪崇神魔縁≫』ゴプッ!…っち!『祓え』!
ガトウ、しゃがめ。『罅ぜよ』!」
俺を刺しやがった悪魔を祓い、ガトウと戦っていた悪魔を破裂させる。
「しくじった…ガフッ!?っと、刺さりっぱなしだと痛ってえな・・・。」
「愁磨さん!!?そ、そんな…!」
鎌を抜くと血が吹き出て、倒れこんでしまい、それを見たタカミチが叫ぶ。
まさか、ガトウの役割を俺がする事になるとは・・・。
「…タカミチ、姫ちゃんの記憶の……お前以外の、記憶を消しておけ。
ああ、あと…俺んトコは念入りに消しとけよ。その子が幸せになるにゃ、いらねえ記憶だ。」
「そ、そんな……!貴方なら、その程度の傷……!!」
「この鎌な……、『魂喰らい』つって、悪魔は結構使ってるもんなんだ。
名の通り、魂を持って行くから……。言っただろ…?俺、魂は創れねえんだよ。」
言っている傍から、後ろからワラワラ悪魔が湧いて来ていて、
ガトウは既に戦闘状態に入っている。
「ここは俺達に任せて、姫ちゃん連れてさっさと逃げろ。
……俺に出来ない事を、お前に任せる。いいな?」
「ッッッ!!アスナちゃん、行くよ!」
タカミチは、先程の渋り様が無かったかの様に姫ちゃんを抱えて走り出す。
「や、ヤダ!シューマさんと、ガトーさんが!!」
「僕達が居たら足手まといにしかならないんだ!!」
ああ、役に入り込み過ぎて忘れてた。一応言っとかないとな。
「タカミチ、またな。」
俺の言葉に一気に涙を浮かべた様だったが、それを振り払い、ナギの様な顔をして叫ぶ。
「か……必ずですよ!!また会えなかったら、殴りますからね!」
「男のその台詞は萌えないからやめてくれ。」
そして、タカミチが走り去ったのを確認してから―――
「『再生開始』あーあ、血塗れだよ……。ノワールにまた怒られる。」
「……愁磨。こんな茶番した事、説明して貰うからな?」
「お互いにな?じゃあ、とりあえず―――『薙ぎ祓え』!」
全く、いらん事してる暇があったら副業しっかりやれってんだ。
Side out
Side ??
「死なないで!お願い、目を覚まして!!」
私の力は、こんな時に…何にも役にたたない。
彼は、ケイジは、私を助けてくれたのに。私は、彼を助けられない。
「チッ、間に合わなかったか!?」
「――!!誰!?」
背後に現れた――落ちてきた?――人に、銃を構える。
と、そこに現れたのは・・・。
「白帝……シュウマ?」
「肯定だ、お嬢ちゃん。」
真っ白い・・・銀色にも見える長い髪、女性にしか見えない美しい顔。
そして、救世主と呼ばれる理由の一つの、真っ白い騎士服。
処刑された英雄、大罪人の死霊・・・数々異名はあるけれど、
数年前から紛争地帯を騒がせている、その理由。
「お、お願い!ケイジを助けて!!おねがい……。」
全ての傷を癒し、体が半分になっていようとも治してしまう。
巷では、そう噂されていて。だから、この人なら―――
「…………君、何か言い残す事はあるか?」
「え………?」
「…で、は、仲間たちに……。すまない、と。
それ…と、この子を、頼みます。俺の代わりに、守ってください…。」
「……分かった。すまない。俺にもっと力があれば……。」
この人達は、何を、話して・・・・?これじゃあ、まるで―――
「白帝さま…?話していないで、早く、早くーーー!!」
「マ、ナ……。俺は、助からないんだ…。」
「聞いた事はあるだろう?悪魔の武器、『魂喰らい』。
魂を持って行かれたんだ……。肉体がゆっくりと死に行くのを待つだけだ。」
「でも、貴方が、魂を治してくれれば…。だって、貴方は、なんでも――」
私の言葉に、首を横に振る白帝。
「俺は、魂を…生物を、創る事は出来ない。
――だから、せめて。教えてくれないか?君の名前を。俺と共に永遠に語り継ぐ為に。」
「光栄、です……。俺より、遙かに人を助けている、貴方に……。
ケイ、ジ……ケイジ・タツミヤ。故郷は、日本、で……。」
「たつみや、けいじ。龍の宮殿は、恵を司どる、でいいかな?」
「ハイ……ありがとうございます。……マナ…。」
ケイジが、私に手を伸ばして来る。それをしっかりと包むと、ケイジが微笑む。
「マナ……。俺に借りを…返そうとかは、忘れて。幸せに、暮らしてくれ……。
それと……、何時までも、泣き虫なままじゃ、ダメだぞ?」
「…分かった。私、ケイジの分まで、幸せになるから……!
私も、ケイジみたいに、困ってる人を助けられるくらい、強くなるから…!!」
「さい、ごに。マナにとって、俺って、どんな奴だった、かな……?」
質問の意味が、よく、分からないけれど―――
「ケイジ、は……私の命の恩人で、それで、……お、お兄ちゃんみたいな、人。」
「アハハ、ハハ――ゴホッガフッ!お兄ちゃん、か。
なら、大丈夫かな………?じゃあな、マナ…。ごめん…な……。」
そう言って笑うケイジの手から、段々力が抜けて行く。
ダメ・・・まだ、せめて、これだけは・・・・・!
「ケイジは、私になんでもしてくれたよ!だから、だから――!
ありがとう、ケイジ!!」
「……うん、マナ……。ありがとう…………。」
ケイジの瞼が閉じて、溜まっていた涙が落ちた。
………
……
…
「白帝さま……。…お願いが、あります。」
しばらくケイジの手を握って泣いていたけれど、約束したから。
強くなるって。もう・・・なるべく、泣かない様にって。
「私に、力をください。人を助けられる、力を。」
「………少ね…いや、恵司君と約束したからね。教えよう。それで、君の名前は?」
私の、名前――マナ・アルカナ。
でも、それはケイジが居た時の名前だからー――
「マナ。……マナ・タツミヤ。ケイジと同じ字は、貴方が付けて。」
「そう、だね。じゃあ―――」
フオォン、フォンと白帝さまは、空中に字を書いて行く。
龍、宮、真、名。
「龍の宮を継ぐ、新なる真の名。龍宮真名。」
「分かった。私は、今日から…今から、龍宮、真名。」
Side out
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