戦国異伝
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第百二十九話 一月その九
「そうした方だからこそ」
「是非共ですな」
「そうされたいのですな」
「わしの茶を飲んでもらった」
信長はこのことも喜んでいた、その時は顔には出してはいなかったが心では違っていたのである。喜びを感じていたのだ。
「そして今度はじゃ」
「戦の場で、ですな」
「お会いしたいと」
「それが望みじゃ。しかしまずは勝つ」
攻め込みそのうえでだというのだ。
「よいな、今日までは待つが明日に備えてじゃ」
「はい、では今より」
「休みましょうぞ」
家臣達、明智達もそれに応えてだった。
皆早いうちから休んだ、横になりゆっくりと休む。
信長もまた然りだ、彼もまたすぐに眠りに入った。
明智もまた寝る為に用意してもらった部屋に入る、その時にだった。
廊下で会った羽柴にこう囁いたのである。
「どうもこの度は」
「戦になるというのですな」
「それは避けられないかと」
こう羽柴に囁いた、夜の廊下の中で。
「朝倉殿、義景殿も下がられませぬ故」
「左様ですな、明日の朝には出陣ですな」
羽柴もこう返す。
「それは避けられませぬ。ですが」
「ですがとは」
「いや、戦になるのは仕方ないですが」
それでもだと、羽柴は普段のおどけた様子はなく真島な顔で明智に話した。
「血を流れるのは少しでも僅かな方がいいですな」
「確かに、右大臣殿もそうお考えですな」
「当家は民に手出しはしませぬ」
信長は一銭盗んだだけで斬る、織田の一銭斬りとして天下に知られている。ましてや手にかけるなぞ有り得いのだ。
「何があろうとも」
「そうですな、素晴らしいことです」
「ですから朝倉殿と戦になっても」
「血は出来る限り、ですな」
「少ない方がよいと思います」
「それがしもそう思います、ただ」
ここで明智はこう羽柴に言った。
「羽柴殿は血はお嫌いなのですな」
「無辜の者は戦の相手ではありませぬ」
そう考えているからだというのだ。
「ですから」
「そうですな、それがしもそう思います」
明智も同じ考えだ、羽柴の言葉に頷く。
「そうしたことをする者は天下人にはなれませぬ」
「到底ですな」
「あの義教公がそうでした」
六代将軍、彼のことがここでも話される。
「ああした酷い方はやはり」
「天下人になれませぬな」
「戦はあります」
ましてや戦国の世だ、これを常に避けるのは土台無理な話だ。むしろ織田家は戦をかなりせずに済ませている。
「しかし相手は武士や僧兵だけで」
「一揆もありますが」
だがこれはだった。
「一向一揆ならともかくですな」
「政さえしっかりしていれば一揆は起こりませぬ」
「実際織田家では一揆は起こっておりませぬ」
信長の善政の結果だ、彼の政は民によいものなので慕われているのだ。明智はこのことも言うのだ。
「ですから」
「左様ですな、ではこの度も」
「おそら金ヶ崎まですぐに行けます」
そこまでは問題なく進めるというのだ。
「そしてその金ヶ崎も」
「攻め落とせますか」
「十万の兵で鉄砲を使って攻めれば」
そうすればというのだ。
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