戦国異伝
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第百二十九話 一月その七
「是非な」
「またそれは凄いですな」
信行もこのことには唖然となる、それが顔に出ている。
「巨砲までとは」
「明では巨砲を多く使っておるそうじゃ」
ここでこの国のことも話す。
「だから多く買うなり造るなりしてじゃ」
「揃えられますか」
「近いうちにな」
そうしたいというのだ。
「銭がかかるがな」
「銭が一番厄介ですな」
「うむ、まずは鉄砲じゃ」
それを揃えてからだというのだ。
「そこからじゃな」
「ですな、では」
「朝倉攻めはこのままでいく」
巨砲は持って行かないというのだ。もっとも今の時点でないものを一月で持って行くことなぞ出来る筈もなかった。
それで信長は一月待った、だが。
義景からの文はなかった、織田からの申し出を完全に無視して来たのだ。
明智はこのことを受けて細川や和田達と共に岐阜に赴いた、そのうえで信長の前に参上してこう言ったのだった。
「朝倉殿からの文はありませんでしたか」
「うむ、なかった」
信長もその通りだと答える。
「この一月の間な」
「さすれば」
「公方様にお話してから越前に攻め入る」
そうするというのだ。
「早速な」
「そうされますか」
「ではじゃ」
信長の方から言って来た、今度は。
「わしは今より十万の兵を率い上洛する」
「十万の兵で、ですか」
「上洛されますか」
「十万の兵を集めると言うべきかのう」
その都にだというのだ。
「既に手配はしておる」
「兵糧や武具もでありますな」
「無論じゃ」
信長は明智の問いに微笑んで返した。
「一月あって朝倉家から何も返事がなければじゃ」
「その時にでしたか」
「兵と兵糧を各地から集めてじゃ」
無論そこには尾張や美濃の兵達も入る。彼等は信長が直接率いそのうえで上洛する。
「十万の兵で越前に向かう」
「公方様に会われますのは」
「その時じゃ」
都にその十万の兵を集めた時にだというのだ。
「そうする」
「左様でありますか」
「ではじゃ」
信長はさらに言う。
「御主達にも来てもらいたいが」
「はい」
細川が静かな声で応えた。
「それでは喜んで」
「幕臣のお歴々にも来てもらいたい」
織田家の軍勢として、というのだ。彼等は幕臣であるがそれ以上に織田家の家臣となっているのだ。現に明智達は織田家の青い衣に冠を着けている。足袋まで青だ。
信長はその明智達に言うのだ。
「そうしてもらう」
「はい、さすれば」
「では今よりじゃ」
動きは早かった、早速だった。
信長は左右の者達に対してこう告げたのである。
「今日でその一月じゃ」
「その最後ですな」
「今日が」
平手や林といった織田家の老臣達が応える。
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