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八条学園怪異譚

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第三十三話 踊る本達その九

「別に襲い掛かったりはしないよ」
「いや、それは問題外だから」
「悪い妖怪のすることじゃない」
 二人は負けずに返す、まさにそんな感じだった。
「そんなことしたらすぐに退治されるわよ」
「凄腕の陰陽師が来て」
「神社の娘もそういうところは五月蝿いんだよね」
 ここで茉莉也の名前が出た、あの彼女だ。
「何かとね」
「あの青木先輩がですか?」
「そうなんですか?」
「そうよ、巫女よ」
 茉莉也の立場のことが話される。
「巫女だったらもう習性としてね」
「言ってくるんですか」
「あの先輩でも」
「そうだよ、一瞬で巫女の服になってね」
 それでだというのだ。
「もう厳しくチェックして注意してくるから」
「そういえば前もね」
「そうよね」
 二人は口裂け女の話から言う。
「先輩一瞬で巫女の服に着替えられて聖花ちゃんのお家から飛び出たわね」
「烏天狗さん達と合流してね」
「あれで巫女としての力は真面目で職業倫理が強いのよ」
 それが茉莉也だというのだ。
「あの娘は一筋縄ではいかないわよ」
「ううん、あの人ってそうなのね」
「ただの大酒飲みのセクハラマニアじゃないのね」
「それはあんた達も何となくわかってたでしょ」
 こう二人に問い返す。
「そうでしょ」
「確かに、言われてみれば」
「一応は」
 二人もその話を聞いて納得するところがあった、言われてみればだ。
「着替えられた時目の色変わったしね」
「ギラッて感じでね」
「あんた達だってそれぞれのお店のことになったら人が変わるじゃない」
「当たり前よ、お店で生きてるのよ」
「だったら当然でしょ」
 二人は自分達の店の話になると真剣な目で言う、酒を飲んでいてもそれでも全く酔ってはいない。
「お店に何かしようものならね」
「本気で神戸港に浮かせてやるわよ」
「本気だね、その言葉」
 目に出ていた、その目にだ。
「わかるよ」
「営業妨害とかも許さないし」
「ゴキブリもね」
 食べ物を扱う店では食中毒と並ぶ天敵である。
「鼠とかも一匹も許さないから」
「ちょっと油断したら大変なことになるのよ」
「だからね、お店のことはね」
「真剣じゃないと」
「だろ?そこで真剣になれるかどうかなんだよ」
 口裂け女は二人の言葉で我が意を得たりといった感じで述べた。
「大きく変わるんだよ」
「そうなのね」
「そこでもなのね」
「そうだよ、さっき目の話になってたけれど」
 話が戻りそのうえで混ざる、そうした話だった。
「今いい目して言ってるわよ」
「目、なのね」
「私達もそれなのね」
「そうだよ、お酒飲んでてもいい目だよ」
 そうなっているというのだ。
「どっちもいいお店の人になるね」
「有り難う、それじゃあね」
「頑張るから」
 二人は口裂け女の言葉を受けてそのうえで俯いて真剣な面持ちのままで応える、そのうえでこう言ったのである。
「食堂、いい感じにするから」
「パン屋もね」
「そうそう、頑張るんだよ」
 口裂け女は二人の話を受けて目を細めさせる、そうして。 
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