魔法少女リリカルなのは ViVid ―The White wing―
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第二章
十二話 親子対決!?速いのはどっちだ!?
前書き
勉強の合間に十二話
さて、食事を終え、此方はアルピーノ家の図書室。ルーテシアやメガーヌの趣味もあって、個人収集用の部屋としてはかなり広く。また、多くのレアものの歴史書等が並ぶこの部屋に、片付けを終え、洗い物を担当のヴィヴィオとアインハルトに任せたルーテシア、リオ、コロナ。そして何故か内臓魔力で自由行動をしているクリスの三人と一機はやって来ていた。
と、ルーテシアが本棚の一角に近寄り、其処から一冊の本を取り出す。
「あ、ルーちゃん。もしかして、その本……」
コロナが言うと、ルーテシアは取り出した本を抱えながら、微笑んで言った。
「うん。アインハルトに見せてあげようと思って」
それは見た目としてはごく一般的なハードカバーの書籍より少し大きいくらいの、翡翠色の本。その一ページ目には、アインハルトとよく似た光彩異色の瞳と、碧銀の髪を持つ、顔立ちの良い男性の絵が描かれていた。
「歴史に名を刻んだ、『覇王』イングヴァルト……クラウス・イングヴァルト自身の回顧録」
────
回顧録
文字等の記録形式等によって遺された、ある事件、事象。もしくは人生そのものにおける、自身の体験談を記したものである。
無論、ルーテシアの家に有るのは、原本では無い。後世の写本……「であるとされる物」だ。これが本当に、クラウス・G・S・イングヴァルトの回顧録であると証明する物は無いため、其処はなんとも言いようがないが。
……さて、彼女達の話も気になる所だが、此処で少々場面を移すとしよう。
彼女達三人がそれを開いているのと同じころ、ライノスティード・ドルクは庭先をぶらぶらと歩いて居た。先程クラナが大人チームの訓練に誘いを受けた後、一応ライノも誘われたのだが、色々と体力が持ちそうにない(要は面倒臭いだけだろと言う突っ込みはこの際勘弁してやっていただきたい。)と言う理由により、単独行動に出たと言う訳だ。
さて、そんな彼が何をしているかと言うと……
「んぁー、きもちぃ~……」
草むらに寝そべって見事にだらけていた。
都会に居ると、ときどきこう言った自然一杯な場所が恋しくなると言うが、なかなかどうして、本当だったらしい。日差しは丁度良い具合に温かく、寝そべる草は柔らかく、吹き過ぎる風はさわやかで、木陰は涼しい。
「もう、このまま昼寝したい」
[マスター、この合宿の意図を根本的に理解しかねてはいませんか?]
「いいじゃん~、明日有るんだし……」
[向上心の欠片も見られませんね。最低です]
「そう言うなって……」
等と言いつつ、やはり動かず草むらの上に寝そべっているライノ。と……
「……ません……せっか……に……で」
「……え……んな!」
「ん?」
不意に、聞いた事のある声が聞こえて、ライノは上体を起こす。見ると、少し遠くに見慣れた金色の髪と碧銀の髪が見えた。
「…………」
[マスター、まさかとは思いますが……]
「……まぁ、聞いちゃいけない系の話だったら立ち去るっつーことで!」
[……やはり最低ですね]
「まぁまぁ、手わけで、今からお喋り禁止な、っと!」
ウォーロックにそう告げて、ライノは音を経てないように、二人に近づいて行く。
「……しい記憶、幸せな記憶も、ちゃんと受け継いでいます……例えばオリヴィエ聖王女殿下との日々とか」
「…………」
どうやら、アインハルトが持っていると言う覇王イングヴァルトの話らしい。これは……
「(聞いて良い話なのかね……)」
少し迷いつつも、アインハルトの語る歴史のドラマに、ライノは耳を傾けた。
聖王女、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトと、クラウス・G・S・イングヴァルト。
元来、この二人の歴史上における関係性については諸説あると言う事は、以前にも話したと思う。
具体的にすると、聖王女と覇王は関係性が有ったと言う説と、そもそも生きた時代が違う。と言う説が、半々と言った所だ。このほかにも幾つか説はあるが、大筋ではこの二つに分ける事が出来る。が、どうやらクラウス・イングヴァルト本人の思い出を丸ごと持っているアインハルトの話しを聞く限り、別時代説は完全に駆逐して考えてよいらしい。
彼女に曰く、どうやら聖王女と覇王は、共に笑い合い、共に武の道を歩む。良き幼馴染であり、良き戦友。と言った関係だったらしい。
何故シュトゥラの王族であるクラウスと、聖王家の正統王女であるオリヴィエに親交が有ったかと言えば、元来国交が有った二国間における交換留学……と言うのは体の良い表向きで、恐らくは、人質交換と言う奴であろう。
日本で言うならば……徳川家康の境遇が分かりやすいと思われる。彼と同じく、元々聖王家の切り札となる古代兵器、ゆりかごへの適正が低かったオリヴィエは、いざという時には捨て駒と出来るような存在であり、それ故にどちらかが裏切った際に見せしめとして処刑される人質に出しやすい人物だったのだ。
と、まぁ歴史の黒い部分の話はこの辺りで切り上げ、話を戻そう。
境遇はどうあれ、それが彼女達の関係に何か影響を与えたかと言えば、それはどうやらNOだったらしい。
「オリヴィエって、どんな人だったんでしょうか?」
「太陽のように明るくて花のように可憐で……何より魔導と武術が強い方でした」
「……(そのコメントは、もう惚れてんじゃないのかね)」
少し苦笑気味に、ライノはアインハルトの言葉を聞いて居た。
諸王戦乱期の文章と言うのは何と言うか少し大げさな部分は有るが、もしクラウスが本当にオリヴィエにそう言った印象を抱いていたと言うならば、それはきっと彼が彼女に……
まぁ、それを考える事に意味は無い。何故ならそのオリヴィエもまた、戦乱期の終盤、命を落としたからだ。聖王家の切り札にして、最大の禁じ手、“ゆりかご”と呼ばれる、起動キーとなる聖王家の人間を完全に自身の部品のとして扱い、その人物の人としての自由と権利の全てを奪い去る超兵器を起動させた事により……その運命に引きずり込まれ、歴史の裏側の闇へと、沈んで逝った。
「覇王は……クラウスはその運命を止められませんでした」
「…………」
「……(成程、ね)」
ヴィヴィオも、木の陰でそれを聞いて居たライノも、黙りこむ。
それからの事は、以前にも説明した通りである。
失う事を繰り返さない為の強さを求めて武道に身を投げ打ち、それでも悲願たる“本当の強さ”には手を届かせる事叶わぬままクラウスもまたその短い生涯の幕を閉じた。
そして、その悲願は……今を生きる、少女へと託されている。
「彼が築きあげ、磨き上げた覇王流は弱くなんかないと証明する事……それが、私の受け継いだ悲願なんです」
「…………」
其処まで聞いて、ライノはその場を離れた。
二人に気が付かれないように、林の中へと歩いて行き、少し遠回りにロッジへの道を歩き出す。
「…………」
少し二人には悪かったかもしれないが、しかし全てを聞いてしまって、それを考えないと言う事も、ライノには出来なかった。
一人の男が、生涯を掛けて願った事を、受け継ぐ少女。
形だけ見れば、それの志と決意は、確かに美しく、そして立派な物であると言えよう。しかし……それは、本当に“アインハルトにとって”良い事であると言えるだろうか?
河のように血が流れても終らぬ乱世。そんな、余りにも過酷な時代を生きた一人の男の悲願を……全く状況の違う現在を生きる、たった一人の小さな少女が受け継ぎ、果たそうと必死にその道を歩んで居る。
それは、本当に、正しい事なのだろうか?
「……はぁ」
[……マスター]
珍しく、ウォーロックが少し心配そうな声で、ライノを呼んだ。苦笑して、ライノは返す。
「……なぁ、ウォーロック」
[……はい]
「なんで、昔の男ってのはこう、面倒なもんを後の世界に残していくのかねぇ……?」
[…………分かりません]
呆れたような、諦めたようなライノの問いに、ウォーロックは小さな言葉で答えた。
────
[そろそろスターズが模擬戦始めるらしいんだ。ヴィヴィオとアインハルト連れて見に行くけど、お嬢達もどーだい?]
「「「行く行くー!」」」
ノーヴェからそんな通信が入り、図書室に居た三人は立ち上がり、陸戦場へと赴くため部屋を出る。と、その時だった。
「わぁっ!?」
少し本棚から飛び出していた一冊の本に、コロナが肩をぶつけてしまい、その本が床に落ちる。
「わわっ、ごめんなさい!」
「あらら……」
「大丈夫?コロナ?」
やはり優等生。本は大切にするべきものと理解しているのだろう。落とした本を慌てたように拾うコロナに、リオとルーテシアが駆け寄る。
「うぅ……ごめんなさい本さん……って、あ!この本!!」
「え?」
「?……あぁ、ヴォルクスワルド英雄伝ね」
微笑んで言ったルーテシアに、リオが首を傾げた。
「ヴォル……?」
「リオ、知らないの!?」
「え!?あ、うん……」
と、そのリオにコロナが凄まじい勢いで食いつく。コクコクと頷いたリオに、コロナは喜々として語りだした。
「《破軍騎士》ヴォルクスワルド!!さっき話してたクラウス・イングヴァルトとかより一つ前の時代の人で、数ある“騎士”って称号を持ってた人達の中で最強の騎士って呼ばれてた人だよ!!」
「へ、へぇ……そうなんだ……」
「あら、コロナってもしかしてヴォルクスワルドのファンなの?」
「うんっ!カッコいいよね~」
うっとりした表情で言ったコロナに苦笑しながら、リオは聞いた。
「そんなに有名な人なの?」
「武勇伝を数えてたらキリがない。ってくらいにはね。間違いなく、ベルカの歴史上でも偉大な英雄の一人よ」
「へぇ~」
ルーテシアの説明に、感心したようにリオは頷いた。試しにコロナが開いたページには、薄い金色の短髪に、ハルバードを構えた、ごつごつとした顔の男が睨むような眼で此方を見ている絵が有った。
「さ、それも良いけど、今は陸戦場に行こう?模擬戦終っちゃう」
「あ、そうだった!」
「ルーちゃん!後でまた読みに来ても良い!?」
「勿論!」
元気よく返事をしたルーテシアに嬉しそうに頷くと、コロナは本を元あった場所に戻し、三人は元気よく部屋を出て行った。
────
さて、所変わって、此処は陸戦場。クラナは此処で、大人チームに混じってトレーニングをしていた。
この陸戦場には、物理関係の事象を完全に再現する事の出来る魔法仮想建造物。レイヤー建造物による建物が大量に組まれており、お好みで建物の高さや大きさ、組み合わせなどを変える事の出来るおかげで、限りなく現実に近い仮想市街戦を行う事が出来る。
「ふぅ……」
[流石に全員が管理局。準備運動でも十分ハードレベルですね]
とりあえず此処までで既に一度食事で休んだ体をもう一度温めるのと、腹ごなしも兼ねての走り込みで陸戦場周囲を7周半(一周約4キロ)。それと此処からの訓練に備えての、格闘戦組は軽い組み手。射砲戦組はスフィア形成等による魔力チェックを行って、今に至る。
『まぁ、でもこのくらいならまだまだ!』
『はいっ!』
「くらな、どう?いけそう?」
「はい」
フェイトの問いに層答えて、クラナは周囲を見る。それをみて頷いたなのはが言った。
「それじゃあ先ず、スターズは私とスバル、ティアナのペアで模擬戦一戦目。エリオとキャロは飛行訓練で……」
そう言うと、なのははクラナの方を向いて、微笑んで言う。
「クラナは……フェイトちゃんと、一対一で模擬戦で、大丈夫?」
「…………!」
表情にこそ極少なくしか出さない物の、クラナは内心で目を見開いた。
てっきり端の方で一人で訓練していろ言われると思っていたのに、いきなりフェイトの相手!?
「……クラナ?」
しかしクラナの沈黙をどう取ったのか、なのはは少し不安げな声でクラナの名を呼んだ。それに対して、クラナは慌てたように返事をする。
「は、はい……っ」
「……うん。それじゃ、訓練開始!」
そう言うと、なのはとスバル、ティアナは西の方へ。エリオとキャロは上へと、それぞれセットアップして遠ざかって行き、その場にはフェイトとクラナが残される。
「それじゃあ……始めようか。クラナ」
「はい。よろしくお願いします!」
普段の彼からは予想も出来ないような覇気の有る声で頭を下げられ、フェイトは一瞬面食らったように目を見開く。が……それは本当に一瞬で、軽くコクリと頷いて答えた。
「うん。よろしくお願いします」
そう言うと、二人は15Mほど遠ざかってそれぞれをデバイスを取り出す。
フェイトの持つ三角形のスタンバイフォームのバルディッシュと、ペンライト型のアルが、それぞれの主に自らの準備が出来ている事を伝える。
[Get set]
[Stand by]
「うん」
「ん」
フェイトがばバルディッシュを掲げ、クラナがアルを投げた。
「バルディッシュ・アサルト、セット・アップ!」
「……アクセルキャリバー!」
[Yes sir]
[Set up]
フェイトの体を金色の光が、クラナの周囲の景色が歪み、それぞれのバリアジャケットを展開した二人がその場に立つ。
「それじゃあ……模擬戦、開始!!」
フェイトの声で久々の親子の戦いは始まった。
────
『アル!』
[First gear unlock]
ブシュウ!と音を立てて、クラナの脚鋼から煙が上がる。アインハルトには何であるか分からなかったそれだが、フェイトはその機構の意味を知っていた。
「(ギア・システム……)」
クラナのバリアジャケットの特徴である、手足に付いた其々の手鋼と脚鋼。これらの内、脚鋼について居る左右五つずつ。合計十個の突起がギア・システムである。
その全ては、クラナが魔力を使用する際の所謂目安とも言うべきもので、ギアのロックが一つ解除されるたびに、クラナは自身が解放する魔力を倍加させていくのだ。
何故にそんな面倒な機構がアルについて居るかと言うと、簡単な話、クラナが魔力の使用量の調整が極端に下手な人間だったからである。とフェイトは聞いて居た。
常に解放状態で居ると、必要も無いのに多量の魔力を使用してしまい、無駄に沢山の魔力量を使ってしまうなのでそれを制御する為にと付けられたのが、あのギアシステムなのだそうだ。
と言うのは、クラナの母親と、アルを作ったマリエル・アテンザ女史から聞いた話なので、恐らく本当の話だろう。そして、此処からクラナのつなげて来る彼の十八番とも言うべき魔法が……
[Acceleration]
クラナから魔力が一気に放出されたのが、フェイトにも分かった。しかしそれは即座に彼の中へと収束し、収まる。
今のがクラナがもっとも得意とする身体強化魔法。通称“加速魔法”だ。自身の身体の動きと、そして自らの“思考速度”を魔力によって上昇させる。身体強化魔法の頂点の一つともされる魔法である。
この魔法が、何故クラナのような一般人に使えるのか、と言う疑問について、読者諸君には今から説明せねばならないだろう。
正確に言うならば、この魔法をクラナが使えると言うよりは、逆。
この加速魔法は理論上、“クラナにしか使えない”魔法なのである。
さて、この加速魔法の基本構築はこうだ。
魔力を、全身の筋肉や骨、臓器、皮膚に直接リンカーコアから溶け込ませ、尚且つ神経系にも魔力を持って直接介入。体内の思考クロックをはね上げるとともに、超高速の軌道に耐える事の出来る強化状態の体を作りだす。
しかし、通常の魔導師がこれを行うのにはかなり大きなリスクが伴う。
通常の身体強化魔法の理論は、外部に魔力を展開し、それを使って自らの腕力や速力を強化。同時にその反動から体を守る……言わば、パワードスーツのそれに近い……魔力と言う万能のパワードスーツを着込むことで、自らの体を強化するわけだ。
対し、クラナの身体強化はどちらかと言うと体そのものをロボットに変える。と言った方が正しい。自らの身体に直接魔力を溶け込ませ、身体を内側から強化し、尚且つ神経に介入して、思考速度まで跳ね上げるのだから。
無論、この強化法はやってみればクラナのようにメリットが多様にある。
思考クロックを引き上げる事に関するメリットは言うまでも無いし、身体そのものを強化するのだから、身体その物の強度が上がると言う事はつまり直接物理的な破壊力の増加も見込めない訳ではない。
では、それを皆が使わない理由となるリスクについてを話そう。
簡単に言えば、通常の魔導師がこれをやるのは、身体への負担が高すぎるのだ。
筋組織や骨組織、等に直接魔力を溶け込ませて身体を使う事は、過剰な魔力をオーバーロードすることで強行な自己強化を行うブラスターモード等よりも身体への負担が大きい。
その負荷を具体的に数値化して表す事は、そもそも理論的な危険性を聞いた時点で公式に(非公式な方面については、敢えて言及しない)それを実践した人物が一人も居ないためかなり難しいが、敢えて例えば数値化したとして表すならば、エクセリオンモードとブラスター3の負荷を足して二乗したものを更に二乗するよりも大きい。と言えば、どれほど危険な行為かは理解できるだろう。
そしてこの魔法がクラナにしか使えない理由は、此処にあった。クラナには……その負荷が殆ど無いのだ。その理由は、今フェイトが見た景色に関係が有る。
フェイトの目の前で加速魔法を使ったクラナの周囲には、一切の魔力光が無い。放出によって表れる霞みのような可視魔力も、あるいは魔法の使用時に現れる筈の魔法陣も一切が、フェイトの視界には存在していなかった。
しかしこれは、そのどれもが展開されていない訳ではない。正確には、“見えない”のだ。
無色の魔力(インビジブル・マギ)
クラナの持つ希少能力、とでも言うべきか。
公式には希少能力としては登録されていないのだが、少なくとも希少である事には間違いのないそれ。クラナにのみ宿る、きわめて稀な性質の魔力だ。
まず、クラナのリンカーコアから生成される魔力には、魔力光が無い。と言うか、クラナの魔力は、水や氷などよりもずっと純度の高い、“無色透明”なのだ。故にそれを管理局と周囲の人々は、無色の魔力と呼んでいる。
そしてこの魔力は、身体に溶け込ませた際に、身体に掛かる負担が非常に低い。此方も正確に数値化されている訳ではないが、通常の魔力と比ベルトその差たるや推定でも約千分の一以下。それこそ、全くないと言っても過言ではないほどに身体に対する負担の少ない魔力なのである。だからこそ、クラナでなければ加速魔法は使えない。と言うわけだ。
ちなみにこの無色の魔力には、まだほかにも幾つか特性が有るのだが、まぁそれに関しては後々に語るとしよう。今は、フェイトとの戦闘を覗いて行くこととする。
「!」
「ふっ……!」
息を一息に吐いて、一気に突進したクラナを迎撃するように、フェイトガアサルトフォームのバルディッシュを振るった。金属と金属がぶつかりあうような鈍い音がして、距離の詰まった互いの間に火花が散る。
元々、クラナもフェイトも近接戦闘には強い。
一応フェイトの専門は中、近距離と言う事にはなっているが、彼女自身、近距離戦には自信が有った。
それが証拠に……
「ふっ!」
「はぁっ!」
コンパクトな五連のジャブから、振り下ろしの拳。それぞれを、バルディッシュの柄で、最後の振り下ろしは対抗させるような振り上げで受ける。
打ち込みつ捌きつつ、二人は考える・
『隙が無い……!打ち込んで踏み込んでも全部防がれる……読まれてるって言うよりは……』
『うん。良い感じ、狙いも甘くないし、やっぱり昔とは違うみたい……でも……』
互いに思いながら、クラナが大きく拳を引いた。踏み込みの大きな一撃が来ると睨んで、フェイトも強めに受ける気配。
「せぁっ!!」
[Impact!!]
「っ!」
アルがキーを発した瞬間に、拳にこもっていた多量の魔力が爆発し、フェイトをふっとばした。
しかし……
『フェイトさん相手に、一つ目じゃ遅すぎる……!』
『まだまだ、このくらいじゃ抜かれない。かな』
破裂の瞬間に後方に向けて魔力放出を行って空中に逃げ、三次元的に衝撃を逃がしたフェイトには、殆どダメージが無いようだった。
「……(これじゃ何も出来ないで終わる……なら……!)」
[Second gear Third gear unlock]
「……っ!」
更に二つの金具が、音を立てて蒸気を放出する。更に魔力が放出されて、アルのコールが飛んだ。
「(まだ、此処からですよ……!フェイトさん!!)」
[Acceleration!]
魔力が収束。更にクラナの身体に強化が為される。その上で……
「…………」
「……!(クラナ……!)」
正面から、真っ直ぐにクラナはフェイトを見た。その生き生きとした、意思と活力に満ちた瞳と眼が合い、同時に、フェイトの脳裏に、過去の映像が映し出される。
『フェイトねーちゃん、かっけー!』
自分のバリアジャケットを、物ごころついたばかりの頃のクラナが褒めてくれた、丁度、自分が11歳になった位の頃の、クラナとの思い出。あの時も、あんな風にキラキラした目で、クラナは自分の事も真っ直ぐに見ていた。
自然と、微笑みがこぼれた。今のクラナは、きっとあの頃と同じクラナだ。いや、きっと心の深い部分では、クラナは、あの頃と変わらない彼として、生きているのだ。
少なくとも、今この瞬間は、自分とクラナが通じ合っていると心から思える、この模擬戦の間は、そう信じよう。そう思いながら温かい気持ちで、フェイトは再びバルディッシュを構える。
「っ!」
「!」
再びの突進。速度は先程の比では無い。足に小さな魔法陣を展開(まぁ見えないが)それを破裂させて空中を蹴るように飛び上がり、フェイトに向けて突っ込んだクラナは……正面から蹴りかかってフェイトを打ち倒そうと掛かるが、バルディッシュによる反撃がそれを赦さない。
「(やっぱり、これでも余裕で反応してくる……!)」
「(さっきとは比べ物にならない……だけど反応できない程じゃない!)」
次から次へと金属質な衝突音が鳴り響き、残像の見えそうな速度で二人の拳とデバイスが振りまわされる。
「(何とか崩さないと……!もっと上げる!)」
「!」
と、一度大きめのアッパーでフェイトにブレイクを作ったクラナが即座に後方に退避。もう一度ギアを上げようと構え……
「甘いよクラナ!」
[Plasma Barret]
「っ!?」
しかしそう何度も何度も同じことを目の前でさせてくれるほどフェイトも甘くは無い。
フェイトの周囲に何時つの黄色い弾丸が発生し、クラナに向けて打ち出される。
『相棒!』
「(分かってる!)っく……!
それを、地面に足を付けた状態でクラナは回避する。連続して飛んでくる弾頭を……
「(このくらいなら……!)」
加速した思考クロックでゆっくりと来るものと認識し、一発一発の弾道と変化するであろう起動を予測して。
「シッ!」
ヒュンヒュンヒュン!と高速のステップでそれを全弾回避。地面に着弾させる。しかし……
「(これはフェイント……!)」
『次、来ます!』
交わしきってから、先程まで目の前にいたフェイトが既に先程の位置に居ないと気が付く。かわりに風切りの音は……真上から聞こえた
[Haken form]
「っ!」
「ハアァッ!!」
[Haken Saber]
バルディッシュの声と共に上から響いたフェイトの声。同時に、光の斬撃がクラナの居た地点に着弾し、大きな斬撃痕を残す。
しかし、其処に既にクラナの姿は無い。即座に反応し、一気に後ろに下がったからだ。
『警告!接近、来ます!』
「一拳撃滅!」
「雷光一閃!」
[Haken Slash]
[Impact!!]
クラナの拳と、フェイトの斬撃がぶつかり、周囲の建物を巻き込んで爆発する。と同時に、衝撃で二人はそれぞれ後方に吹っ飛ぶ。
しかし其処は二人とも接近戦のプロである。身体が地面に着くよりも前に体勢を立て直し、地面を磨りながら、あるいは空中を飛びながら思考する。
『あっぶない!今のは死んだと思った!!』
焦ったように、そして興奮気味に言ったクラナに、アルが返す。
『全くですね、どうしますか?』
『そんなの決まってる!ここまで来たら……』
同じように、フェイトもまた、思考回路をまわしていた。
「(今のを初見で防ぎきった……やっぱりクラナは、他の子とは根本的に違う……それなら……)」
『「(純粋な疾さで勝負!!)」』
『行くよ!アル!』
「バルディッシュ!」
[Roger]
[Yes sir]
互いの声に、互いのデバイスが答える。
『五つ目!』
「ソニック……!」
[Fourth gear Fifth gear unlock]
[Sonic Form]
更にクラナの脚鋼がぶしゅうっと音を立てて、同時にフェイトのバリアジャケットが金色の光に包まれ変化。殆ど装甲能力の無い、ごく薄い物へと変化する。ちなみに余談だが、このバリアジャケット、一撃でも喰らうと破けるので、その際フェイト露出度が大変な事になり作者としては……大変失礼した。話を戻そう。
さらなる身体強化とを行える状態と、自身の持つ最高速度の出せる状態となった二人のデバイスが、同時に放った。
[Acceleration]
[Sonic Move]
互いに風の如く鳴った二人が瞬き一つ分の間も無く接近し、打ち合い、其処から離れては打ち合いの凄まじい超高速空中戦が始まった。
「(思考速度は上がって無い筈なのについてくる……!まだまだっ……!)」
「(ソニック使って格闘戦が成立するなんて初めてかな……それなら……)」
往復する二つの流星が次から次へと打ち込みを放ち、それぞれ一撃離脱を繰り返している筈なのにもかかわらずまるで拳でラッシュし合っているような音が響く。しかしその音が突如……
「……っ!?」
「フッ!!」
[Blitz Action]
ガガガガガガガガガガガガガガガガッッ!!!!と言う、まるで機関銃を撃ちまくっているような連続の金属音に変わった。
フェイトのニ刀と、クラナの両拳が、凄まじい勢いで本当にラッシュを始めたのだ。
「……っく!?(ソニックフォームで正面から打ち合い!?)」
両手に持ったライオットザンバーをブリッツアクションの恩恵を経て凄まじいスピードで振りまわし、クラナにラッシュを仕掛けて来たフェイトに対して、クラナは完全に不意を突かれた形になる。
元来フェイトのソニックフォームの防御法はどちらかと言えば“回避”を重視しており、一切の回避を考えずに行うこう言ったラッシュは本分では無い筈。
「……(だっ、たら!)」
「っ!」
その不意を打たれたせいか、クラナはフェイトに対して一歩遅れた形でフェイトのラッシュを捌いて居た。無論、意識を加速させているクラナはフェイトノ一撃一撃を冷静に把握し、把握する事が出来る。
しかしあろうことかそのクラナに追いついてラッシュを放って来ているフェイトの攻撃には、そうあってすら抜ける隙が見つからなかった。故に、クラナは再びブレイクを作る。そして……
「(此処……だっ!)」
空中で再び足に小さな魔法陣を展開させて空中を蹴るように移動し、そのままフェイトの後ろに回ったのである。超高速戦の中で、行き成り後ろに回るなど思考クロックも加速させているクラナにしか不可能だ。故に、この攻撃は回避不能。一撃当てれば落とせる!と、クラナは大きく拳を引いた。しかし……
[っ!?相棒!いけません!]
「!?」
「……ふぅ」
アルが警告したが、遅かった。
気が付いた時には、既にクラナの首筋にライオットザンバーが当たる寸前の位置まで突きつけられていたからだ。
「……読んで、たんですか?」
「うん。今の私の一番の弱点は当てられてしまったら終わり。って事だから。クラナに高速戦を仕掛けて、その上ラッシュを始めたら、きっと自分にしか出来ない一撃必殺の方法を取るだろうなって思って」
「……(マジですか……)」
口にこそ出さないが、クラナは内心で大きく溜息をつき、今度は口に出して言った。
「……負けました」
「はい」
少し嬉しそうに微笑むフェイトに少し悔しく思いながら、しかし内心清々しい気持ちでクラナは魔力を放出し続けていた脚の魔力放出を弱め、二人で地上へと降り立った。
「バルディッシュ、モードリリース」
[Yes Sir]
「アル」
[Roger]
二人がそれぞれのデバイスに呼びかけ、武装解除。クラナがフェイトに気を付けの姿勢を取って、きっちり頭を下げる。
「ありがとうございました」
「はい。ありがとうございました」
頭を上げたクラナの瞳は、既にいつもの彼の少し感情の読み取りにくい物になっていて、フェイトは内心残念に思ったが、それ以上に収穫を得られたのだからと思い直し、クラナに告げる。
「それじゃ、模擬戦は此処まで。次はなのは達と合流して、ウォールアクトだよ」
「はい」
コクリと頷いたクラナは、レイヤー建造物の間をジョギング気味に走りだす。フェイトはというと、その後ろをゆっくりと歩き出した。
『クラナ……あんな顔、するんだ』
フェイトの頭の中に、戦いの中で見せた、幾つものクラナの表情が浮かんでは消える。
真剣な顔、驚いた顔、焦った顔、そして何より、あのキラキラと輝くような真っ直ぐな瞳。クラナの奥深くに眠っている沢山の感情を、今日、フェイトは自らの瞳で見て、確信する事が出来た。
戦いの中だけで見たその経験を、これからの彼との関係にどれだけ生かせるのかは分からないけれど……何時か、当たり前のように、あんな表情を、クラナが見せてくれる日が来れば良い。
「できたら……もう一回、見たいな」
一つ、見たい表情もある事だし。
そんな事を思いながら、フェイトはクラナの事を追うように、一歩一歩を踏みしめる。
────
次の訓練場へと急ぎながら、クラナはアルと話していた。
[相棒、残念でしたね。勝てなくて]
「んー、まぁそうだけどさ、最近全然模擬戦なんてして無かっただけあって、かな。すっごく楽しかったな!」
[ふふっ。相棒はやっぱり戦闘狂ですねぇ]
「そうかな?」
[そうですよ]
アルの言葉に少し不服そうな、怪訝そうな顔をしたクラナはしかし、気を取り直すように、前を向いて明るい声で言う。
「あ、それにさ、確認出来たのも良かった」
[確認、ですか?]
「ん!やっぱりさ……」
アルの問いに、クラナは大きく頷いて、口の端を上げた。
それがフェイトの見たかった表情である事を、クラナは知る由もない。
「フェイトさんは、俺の憧れの魔導師だ!」
後書き
はい!いかがだったでしょう!?
今回はライノ編とクラナ編の二編で、ついでに戦闘描写も入りました!したいこと出来た!!
まァとはいえ、戦闘の描写は僕大の苦手ですし、何より魔法を使用した戦闘と言うのをこれませほとんど書いたことがないので全くダメダメだったと思うのですが……あの状況ならこうじゃない?とか、こっちの魔法の方が多分フェイトは使うよ。などご意見などあれば、是非お寄せ下さい!では予告です!!
ア「アルです!今回はフェイトさんとの戦闘でした!結果は負けでしたけど~、何やら相棒が元気です、ふふふふ!!」
ウ「よいですね……こちらは盗み聞きしただけでしたよ」
ア「でもその割には最後はライノさんの事を心配していたじゃないですか?」
ウ「そう見えましたか?私があんなマスターを心配していると?」
ア「……勘違いですか?」
ウ「そうでしょうとも」
ア「違うと思うんですが……さて、では次回!」
ウ「『夜、深けて』です」
ア・ウ「ぜひ読んでくださいね!!
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