魔法少女リリカルなのはStrikerS ~賢者の槍を持ちし者~
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Chapter10「クラナガンでの二人」
前書き
投稿がとどこおっていて申し訳ありません。
リアル活動を優先してたので、このような状況になっていました。
そこしづつ通常運行に切り替えていきます。
クラナガンへ向かっているルドガーとはやては徒歩から途中でバスに乗り移動手段を変える事にした。
「「…………」」
全くの無言。2人は隣同士の席にいるがそこには年頃の男女のような甘い雰囲気は一切なく、むしろ既にその表情はゲンナリとしており、疲れが全面に出ていてバスの運転手もその2人のオーラにバックミラー腰に冷や汗を流していた。原因はやはり六課から出る際にあったアレだ。事の始まりははやてのいつものからかいから始まり、そこで珍しくルドガーがそれに乗ってしまったのが発端だった。
カオスからカオスを作り、そこから鉄槌を召喚。
この2人は何をするにも何かをやらかさないと気がすまないのだろうか?
「なぁ……」
そんな中ルドガーがようやく口を開く。男としてここは自分が動かなければならないと思ったのだ。
「さっきは調子に乗りすぎた……次からは気をつける……ごめん」
「はぁ……」
ため息を吐くとはやてが顔を上げ、ルドガーを見る。
「…別に怒っとらんよ、私も調子こいてたんやし……それに……」
「ん?」
顔を窓の方へと向け口籠もる。窓から反射して見えるはやての顔は朱に染まって見える。今の会話の何処にそうなる要素があったのかと首を傾げるルドガー。だが次に彼女から出る言葉にルドガーも朱に染まる事になる。
「…わ、私男の人から冗談でもあないな事言われたのもされた事もなかったから、新鮮だった言うか…嬉しかった言うか……」
「…へ?」
再びルドガーの方へ振り返る。そのはやての顔は窓腰で見るより遥に真っ赤に染まっており、誰が見ても“恋”する乙女の顔であり………
「ルドガーやったから嬉しかったんや」
何よりとびっきり可愛かった。
「は、はやて?」
普段お目にかかれないはやての一面を見て男として胸の高鳴りを感じずにはいられない。
だが直ぐにはやてに両頬を引っ張られ元に戻る。
「やーい引っ掛かったなルドガー!さっきの玄関前での仕返しや!」
「…さっきまでの胸の高鳴りを返せこの豆狸」
「な、なんやてー!?」
これでいつも通りの2人。お通夜のような雰囲気はあっという間に吹き飛ばされバス運転手も一安心。2人は事あるごとに仲が良くなっていく。この2人が今の一線を越える日も近い?
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時間は進みクラナガンにある大型ショッピングセンターにたどり着いたルドガーとはやて。
バスを降りてからルドガーはクラナガンという都市の大きさに驚いていた。トリグラフとそれほど変わらない気がするが多分これは空の色から違和感を憶えているのかもしれない。ミッドチルダの空は明るい感じだが、トリグラフは黒匣の多用により自然環境が悪化し、空にまで影響が出てすらいる。
ミッドチルダはルドガーからすれはリーゼ・マクシアとエレンピオスが融合したようなイメージが強く、ぜひ源霊匣の完成を目指しているジュードにはこのミッドチルダという世界を見せてあげたかった。
「これなかなか似合っとるんやない?」
「はい!このソフト帽とコートの色が上手くマッチしてますね!」
「………」
と考えているルドガーは今、はやてとやたらハイテンションな女性店員にマネキン代わりにされ軽くファッションショーを開催中だった。
「ルドガーもそう思うやろ?」
「あーいいと思うぞー(棒読み)」
通算20回もとっかえひっ替え衣装チェンジされ、いい加減うんざりしはじめる。何せ2人のテンションは明らかに浮いている為周りから好奇な視線を向けられ続けているからだ。
「……頼むから落ちついてくれ」
結局最後は自分で選ぶ事にしてそれをそのまま着て過ごす。
今ルドガーが着ている服は普段彼が着ている服の色違いのような物で、黒のワイシャツに黒で先端に黄色の刺繍が入ったネクタイ、黒と灰色が基調のサスペンダー、黒のスーツパンツという黒尽くし。はやてと店員は自分達がチョイスした物を選んでもらえなかったので不服そうだが、意外と黒尽くしのファッションがルドガーに似合っている為「何か良い!」という感想を漏らし満足している。
それ以外の服は部屋着用の物とルドガーのファッションに合わせた物を数点購入し店を後にする。
その後は、はやての服を数着購入して一休みがてらショピングセンター内にある喫茶店に入った。
だが店に入ってから直ぐに買い忘れた物があると言ってルドガーは席を立つ。はやてが自分もついて行こうと話すが、直ぐ戻ると言って店を出ていった。
「まったくルドガーは!女の子と出掛けて女の子を一人にするなんて」
一人プンスカ紅茶を飲みながらルドガーの文句をたらたら言うはやて。だが決して悪い気分ではない。もう19歳にもかかわらず彼女は一度も色恋ざたには無縁であり仕事一筋だった。
その貴重な青春を犠牲にしたおかけではやては今の階級と目標にしていた部隊をこの若さで手にする事ができたが、やはり女としての幸せを捨てている気が少なからず心にあるようで、自分で決めた事とはいえ寂しい気もありはした。
しかしそんな彼女にも一つの春が訪れる。
それが訪れた季節はまさに春。彼が、ルドガーが六課の敷地内で倒れていた所を保護してから彼女の心に少しづつだが女としての感情が芽生えていた。
異性でここまで近づいた相手はルドガーが彼女にとって初めてであり、彼女の周りの人間もその変化を快く思っている。
(んー顔はまぁイケメンやし、それで料理はプロ顔負けの腕前でおまけに戦闘でもリミッター付きとはいえシグナムに勝ってもうたし、本当ハイスペックやな)
からかったり馬鹿を一緒にしたりしているが、はやてはルドガーの有能さを言葉にあまり出さないが認めてはいた。
(もうあれか?ルドガーは神様が往き遅れそうな私を哀れんで送ってくれたんか?アホー!!私はまだピッチピッチの19歳やで!?往き遅れとかまだ決めるんは早いわー!!)
などと一人で心の中で葛藤を開始。誰も往き遅れとは行っていないのにもかかわらずその発想に至ったのは彼女が少なからずそれを自覚している証拠。冷静になったらその事に気付き肩を落とす事になるだろう。
「あの~」
「 ? 」
考える事に更けてると声を掛けられそちらを見る。キャスケットを被りメガネをかけた女性が通路側の席の前に立っていた。
「失礼ですけども、機動六課部隊長の八神はやて二等陸佐…ですよね?」
「はい、そうですけども」
名を告げた今さらではあるが、この女性がとても面倒な相手だという事を何となく感じ始める。
「やっぱり!」
女性ははやてだと知ると歓迎のあまり声を上げてしまい他の客が2人に集中してしまうが、女性はお構い無しに話しを続けバックからある雑誌を取り出してそれを見せる。
「私は週刊クラナガンの専任記者をやってまして、今ちまたで話題になっている機動六課について八神二佐に色々お伺いしたいんですよ!」
予想が見事にドンピシャで苦笑いしてしまう。思っていた以上に六課の知名度が高い事を知れたのはいいが、貴重なオフ日でごちゃごちゃと質問攻めには正直あいたくはないがこの手の相手はそう易々と引き下がる事はない上非常に面倒だ。
「あっ!来週号で載せる写真も撮らせていただいてもいいですか?」
「あーえっと、すみません、私は今日オフなので取材等に関しては今はお断りという事で」
「そこをどうか!」
「あの、ですから…」
「無理を承知でお願いします!」
頭を下げ尚も頼みこむ女性記者に内心困ってしまう。このまま頼み困れたら親切心で自分が折れてしまうのは明白だ。誰かに救いを求めているその時だった。
「雑誌記者っていうのは取材相手を困らせるのが仕事なのか?」
「……え?」
いつの間にか女性記者の背後には用事を済ませて戻ってきたルドガーが少し厳しい表情で立っていた。女性記者はその視線に居心地の悪さを感じたのか狼狽えた様子でルドガーと話し始める。
「あ、あの…あなたは?」
「質問したのはこっちだ」
「うっ……すみません……」
女性記者は自分に非があった事を認めルドガーに頭を下げ、少し前にはやてに話した内容をルドガーにも話した。
「アンタの言いたい事はわかった……確かに今話題の人間が目の前に偶然いたらそりゃ記者ならインタビューしたくなる」
「ですよね! あの、でしたら--」
「けど、やっぱそう言うのは相手の都合を聞いてから考えるものだろ?」
「で、ですよね~……」
ルドガーが取材をする事に納得したのかと思い表情をほころばせるが、それは一瞬の事。
すぐ女性記者はまた小さいなる。
「さっきのやり取りを見ていたけど、どう見てもアンタが一方的にはやてに無理を言っていたな。
気合いと根性で取材をするのもいいが、もう少し頑張るベクトルを変えてくれ」
「はい……」
そして女性記者は最後に謝罪し、後日改めて機動六課に取材する事をはやてに告げ足早に喫茶店から去っていった。いまのやり取りで完全に周りの客に好奇の視線を向けられていたからだろう。
「…へぇールドガーもなかなかやるもんやなぁ」
「褒め言葉なのかそれ?」
「そうや。まぁとにかくありがとうなルドガー」
最初から素直にそう言えと内心ではそう思ったが、呆れた表情だけを見せてルドガーは席に座った。
それからすぐランチを注文し食して、喫茶店を出てからは散策開始。色んな店に入ってはアレはいいなコレはいいなとはやてがルドガーに意見を聞き、ルドガーがそれに相づちをうち、気に入った物があったら買うという事を繰り返していき、気が付くと日が落ち始め2人の休日が終わりを告げようとしていた。バスを使って機動六課近くのバス停に降り行きと同じ道を徒歩で六課へと帰る。
「………」
「………」
バスに乗ってから2人は口をほとんど開いていない。ルドガーの場合は無言状態が続いしまった事で何を切っ掛けにして話しをするか悩んでいるだけだが、はやてはあんなに楽しい一時がもう時期で終わってしまう事で寂しさを憶えてしまっている為に口数が減ったようだ。
(やっぱり名残惜しいなぁ……私にこんな一面があったなんてなぁ……)
この休日でヴィータ達やなのは達とはまた違う感覚をはやてはルドガーと一緒にいて感じていた。
六課の玄関を潜ったらこの想いと想い出は六課部隊長八神はやてに戻る事で白昼夢として記憶から消えしまうのではないかと思えてならない。そんな不透明な物がはやての表情を僅かに曇らせる。段々六課の隊舎が見え始めてきて自分が弱気になっている事に気付き心の中で自分に喝を入れようとする。
そんな時だった。
「ルドガー?その鼻歌は何なん?」
隣を歩いていたルドガーが唐突に聞いた事のないメロディーで鼻歌を歌っていた。初めて聞く音色であるが、まるで心が溶けてしまいそうな優しい音色で不思議とさっきまであった寂しさが薄れていた。
「『証の歌』って言うんだ。旋律だけで歌詞は失われているクルスニク一族に伝わる古い歌なんだ」
「そか…歌詞がないのは残念やけどそれでもええ歌やな……」
「ああ…会いたくて仕方がない相手への想いが込めらているらしい」
「はっはっ、まるで恋歌みたいやな」
まるでではなく丸っきりそうだ。証の歌は元々クルスニク一族の始祖ミラ・クルスニクがマクスウェル召喚の際即興で作った歌がその大元。曲名こそらしい物ではあるが、実際の詞はそれほど上品なものではなく、童歌でもあり恋歌でもあった事を源霊匣マクスウェルがその口で語っていた。
だがそれでもこの歌がマクスウェルにとって大切なものなのは変わらない。
無論ルドガーにとっても。
「…兄さんがよく好んで歌っていたんだ」
「ルドガーってお兄さんおったんか!?」
ユリウスという兄がルドガーにいた事に過剰とも取れる驚きを見せるはやてに苦笑するルドガー。
あまり自分の事を話さないから突然の事に驚いたのだと解釈する。
「そんなに驚く事かよ?俺と兄さんは母親は違ったが、俺にとって兄さんは大切な家族で兄でもあり父親でもあった」
「父親?」
ユリウスを父親でもあると表現するルドガーにはやては疑問を持つ。
普通弟が兄を父親と表現する事はそれほどない。
あるすればそれは……
「想像通りだ。俺達兄弟に両親はいないし俺は顔も知らない。俺の家族は兄さんとルルっていう少しポッチャリした猫一匹だけだった」
「…そうやったんか」
「重い話しをして悪かったな」
「何でや」
首を横に振り立ち止まりルドガーを見る。
「ルドガーは自分の家族の話しをしただけやろ?それに私は嬉しいんや」
「嬉しい?」
「私、正直ルドガーの事を知りたかったんや。初めてルドガーと出会った時から」
そしてはやてもルドガーに何故そうも出会ったばかりの人間にそんな事を思ったのかを……そして自分の生い立ちを含めた事全てを……
「…はやて……」
「あははは!悪かったわぁ~私もお返しに自分の事話したくなったんやけど辛気臭かったな」
何とも言えないような表情のルドガーにやはり話すべきではなかったと思ってしまう。自分のやった事は聞いた人間により取り方が180度変わってしまう。経験上はやて達に同情する者や犯罪者扱いする者も少なくはない。ルドガーはどちらになるのか気になってしまう。もし軽蔑されたら仕方ない。
暫くルドガーの口が開く事を待ち、そしてルドガーが話す。
「はやては……今までの自分が選んできた選択に後悔はないのか?」
「えっ?」
ルドガーから出た言葉は前者と後者の言葉を待っていたはやてにとっては予想していなかった言葉だった。
「後悔は…しとらん……私はたとえ何度生まれ変わっても、必ず同じ道を選ぶはずや」
「……そうか……やっぱりはやてと俺は、はやてが言うように似ているのかもしれないな」
そう話すとルドガーははやての前に立ち彼女の頭に手を乗せ撫でる。
かつてエルを何度も撫で時のようにただ優しく。
自分とはやてが似ていると言った事は素直にそう思ったが、彼女の方が自分よりもずっと強いとルドガーは思っている。あの旅でルドガーと仲間達の分岐点は3つあった……正確には4つであるがこれはあえて省く。一つは兄ユリウスを魂の橋に掛ける時だ。もしあの時一歩ルドガーの決断が鈍っていたら、ルドガーは兄を守る為エルを見捨て、仲間達と決別していただろうし、もう一つはオリジンに願う際に自分の命欲しさにエルを救う選択を選ぶ事ができなかった事があり得たはずだ。可能性から枝分かれした分史世界と同じでルドガーの選択で正史世界の運命と仲間達の運命は大きく変わっていただろう。
撫でるのを止め、左膝のベルトポーチからある物を取り出しはやての首にかける。
「これは……懐中時計?」
はやての首にはルドガーの金色の懐中時計より少し小さい銀色の懐中時計がかけられていた。
「さっき買ったんだよ。俺からのはやてへのプレゼントだ」
「いつの間にこんなん買ったんや……あっ」
思い当たる場面がある。そうだ、あの時だ。あの記者に絡まれた喫茶店でルドガーは少し用事があると言い席を離れていた。その時以外はやてとルドガーは離れて行動はしてはいない。なら必然的にあの時しかルドガーが懐中時計を買う余裕はない。
「そんな…ええのに。これ高かったんやないん?」
その問いに笑顔で首を横に振るルドガーだが、はやての予想通り決して安い物ではない。
何より肝心な懐中時計がその質の良さを磨き抜かれた事により放っている輝きで証明している。
ルドガーの否定が嘘だと思っているはやての前にルドガーが右手を小指だけをはやてに差し出す。
「 ん?」
「俺ははやてが選んだ事に同情もしないし軽蔑もしない。お前は唯自分の意志を貫いただけだからな」
ルドガーのなのは達以外ではやての事情を知った者の中で今までにない言葉をかけられ目を丸くするはやて。
「だからはやて…約束してくれ。君はこれからも自分の成すべき事を貫き通せ。勿論俺もだ」
「あはは……ルドガーは本当変わってるわぁ……ルドガーみたいな男の子は初めて見たよ」
「男の子じゃなくて青年な」
そんな軽口を叩きはやてはルドガーと小指を結び、約束を交わす。
「約束……八神はやてと」
「え、えっと…ルドガー・ウィル・クルスニクは……」
「ちゃんと目を見ろよ。約束は目を見て言うものなんだぞ」
「わ、わかったわ……何か妙にこだわっとるな……」
ルドガーと目を合わせる事に恥ずかしさを憶えてしまった。
約束を交わす時はちゃんと目を見ろと指摘され顔を赤くしながらルドガーと目を合わせる。
(何だかプロポーズみたいやなぁ……)
本音の所はそっちもいいと思っている自分がいる事に気付き、阿呆がと内心で自分に向けて話す。
そして今度こそ2人は約束を交わす。
『己の成すべき事を成します』
約束を交わした2人にはまるで見守るかのように、2つの月が2人を光で照らしていた…………
後書き
・ユリウス・ウィル・クルスニク
性別:男性/年齢:26歳/身長:180cm/武器:双剣/戦闘タイプ:剣士
故人。ルドガーの兄であり、クランスピア社最高位の元クラウンエージェント。
2000年間繰り返されてきたクルスニク一族の争いからルドガーを守るべく、
残り少ない命を意味のある事に使いたい為、自らルドガーの『道』となる。
彼の意志と想いは最愛の弟であるルドガーに受け継がれ、それは更にルドガーが守り抜いたエルにも確かに受け継がれた。
・証の歌
クルスニクの一族に代々伝わる歌。
会いたくて仕方がない相手への想いを込めた歌とされているが、長い時間の中で歌詞は失われ、現在は
旋律のみ伝わっている。ユリウスがよく口ずさんでいた。2000年前、ミラ・クルスニクがマクスウェルを召喚する際に、即興で作ったのが大元だとされている。
マクスウェル曰く、童歌であり恋歌のようなものらしい。
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