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イーゴリ公

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第四幕その三


第四幕その三

「それで終わりさ」
「イーゴリ公は草原で敗れて」
「カヤーラの川の中でルーシーも破滅させた」
「その程度の男だったので」
「今は惨めに捕虜さ」
 そう歌いながら城門のところに来た。すると動きが止まってしまった。
「おい」
 最初に声をかけたのはエローシカであった。
「あれはまさか」
「そのまさかみたいだぞ」
 気付いたのはスクーラが先であった。
「公爵だ」
「イーゴリ公だ」
 彼等は口々に言う。顔を見合わせて。
「帰って来たのか!?」
「いや、生きていたのか」
 彼等にしてみれば殆ど死んだと思っていたのだ。酔った目を必死に擦ってもう一回見たが確かにそこに彼がいた。しかも軍勢まで。
「あいつ等まで戻っているぜ」
「何てこった」
 彼等は酔いが急に醒めてくるのを感じていた。それには理由があった。
「おい相棒、まずいぜ」
 スクーラがエローシカに言った。
「俺達はこのままじゃ」
「縛り首か」
「そうだよ。脱走したからな」
 そうなる。だからこそ彼等は今非常に焦っているのだった。脱走してガレツキーのところで遊び呆けていた。それで充分であった。
「まずいな、これは」
「いや」 
 しかしここでエローシカは言う。考える顔で。
「ここはちゃっかり行こう」
「ちゃっかりか」
「ああ、人間結局はここだ」
 エローシカはここで自分の頭をコンコン、と右の親指で突いてみせた。
「逃げるのか?」
「まさか」
 スクーラのその言葉は否定する。
「それじゃあこのまま流浪だぜ。酒も御馳走もなくな」
「それはまずいな」
 スクーラはそれを聞いて自分の考えをすぐに引っ込めた。
「折角今まで贅沢三昧だったのによ」
「だからだ。ここは」
 ここでエローシカは城を見た。そこの塔にある鐘楼を。
「あれだ」
「鐘楼か?」
「あれを使って生き延びようぜ」
 そう相棒であるスクーラに告げた。
「ここはな」
「ああ、あれをついて公爵につくのか」
「どうだ?いい考えだろ」
 笑って相棒に問うエローシカであった。
「これは」
「そうだな。これだと問題ないな」
 スクーラも頷く。確かにその通りであった。
「これなら」
「ああ。じゃあやるか」
「よしっ」
 二人はすぐに鐘楼のところに駆けて行き。そうして鐘を鳴らすのだった。
「皆、こっちだ!」
「すぐに集まるんだ!」
 鐘を鳴らしながら叫ぶ。
「早く来い!」
「時が来たぞ!」
「時!?」
「何なんだ、まさか」
 敵が来たのかと思った。しかしそれは違っていた。見れば公爵がいたのだ。誰もがその姿を認めて驚きの声をあげるのであった。
「何と、戻られている」
「まさか」
「だが本当だ」
 そう、これは真であった。公爵は今確かにそこにいる。それは見間違えようがなかった。
 
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