Magical Girl Lyrical NANOHA- 復元する者 -
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第3話 魔導師とマホウツカイ
砂煙も晴れ、葛葉とサクラの姿がはっきりと露になる。
二人の姿が見えると異形の怪物達は唸り声を上げ、威嚇してくる。
臆する事なく、怪物達の威圧を受け流す。
一体にだったモノが分裂し、三体に増えていた。
やはり、咄嗟に放った砲撃……『神話魔術』であったとはいえ、出力不足だったようだ。
「充填なしで撃ったから、あんまり効果ないみたいなんだよ」
「しかも、増えやがったか……めんどくさ」
「あ、あのーーーー」
暢気に状況分析を始める二人。
イタチもどきが、話し掛けようとしてくるが無視し、話続ける。
「『対魔術兵器戦略思考』で何か解るか?」
「うん。“あれ”の固有名称は『ジュエルシード異相体』。私達、『戦略破壊魔術兵器』の源……『オーパーツ」と同じオーバーテクノロジーの結晶が暴走状態になったモノなんだよ 」
「なるほど……だから、これ程の魔力を垂れ流してるのか」
『対魔術兵器戦略思考』
サクラに備えられた補助兵装の一つ。
本来は、『マホウツカイ』の持つ『マホウ』の能力を分析するものだが、どうやらこの世界に来て変質し、魔術、魔法関係を解析・分析するものに昇華したようだ。
おかげで、敵の正体が割れた。
分析結果を聞き、雲状の怪物……異相体へと視線を向ける。
先程放った一撃に警戒しているのか、襲ってくる気配がない。
此方としては好都合。
口元に笑みを浮かべ、葛葉はサクラに命じる。
「サクラ……『穢れなき桜光の聖剣』準備ーーー」
「了解なんだよ~!『解放されし九つの鍵』正常稼働……『穢れなき桜光の聖剣』準備完了……命令をどうぞだよ」
葛葉の命に従い、サクラは両手を異相体に突き出し向ける。
彼女の両手に桜色の魔力が集束していく。
強大な魔力で周囲を震わしながら、主の命令を待つ。
「ーーーー薙ぎ払えーーーー」
「了解」
葛葉の命により、サクラの手に宿る聖剣が引き抜かれる。
「『穢れなきーーーーー』」
彼女の口から紡がれる名。
世界を滅ぼす災厄と謳われた力。
「『ーーーー桜光の聖剣』!!」
紡がれた言霊。集束された、神話に語られる『災厄の杖』の名を冠する光炎魔導砲が、異相体へと解き放たれた。
輝かしい桜光が敵を滅ぼさんと巨大な閃光となって迫っていく。
音速を超え、光速で向かう、幾千年経ても変わらない聖なる輝き。
建物の上にいる異相体は、光速で迫る桜色の閃光に反応が遅れ、三体の内、二体の異相体を完全に消し飛ばし、最後の一体には僅かに触れ、その体を一部削るだけに留まった。
『解放されし九つの鍵』で威力を封じているとはいえ、神話にて九つの世界の内一つを滅ぼしたとされるその破壊力は絶大。
建物の屋根も削りとられ、一筋の光が虚空を照らす。
圧倒的な破壊力を前に、なのはとイタチもどきが呆然としている。
『神話魔術』を放ち終えた、サクラが一息をつく。
流石に幼い体では負担が大きいらしい。
『生命力』と『精神力』の消費も甚大だろう。
「ゴメン、マスター……一匹外しちゃったんだよ……」
「良いよ。二匹消しただけでも上等だ。後はアイツに任せる」
葛葉は空中に浮かぶなのはに視線を向けた。
自分の方を見る兄の姿を見て、無事なのを確かめ、安堵する。
心配をかけてすまないと思うが、それどころではない。
異相体の生き残りは、サクラの一撃を受けて脅威に思ったようだ。
建物から遠ざかり、逃走を開始する。
なのはに向かって葛葉が声を上げる。
「なのは!追え!逃がすなよ!」
「!?う、うん!わかった」
葛葉の言葉に応じ、なのはは慌てて、異相体の後を追う。
なのはの姿が遠ざかっていくと肩の力を抜く。
初陣とあり、少し緊張した。
「お疲れ様、マスター」
「あぁ……サクラもお疲れ」
互い労いの言葉を送る。
初の『魔術』の行使であったが問題はなかった。
サクラの補助兵装も本来のスペック以上に機能してくれている。
自分の寿命が尽きる日まで使われる事は無いとタカを括っていたが、使う日が来てしまった。
サクラの頭を撫でながら、自分達の姿を呆けて見ているイタチもどきに視線を移す。
さて……。
「おい、イタチもどき」
「っ!?は、はい!?」
葛葉に声を掛けられ、我に変える。
イタチもどきは葛葉とサクラの両方を改めて見る。
「あ、あの……き、君達は一体ーーーーー」
「僕らか?僕らはーーーーー」
意識の戻ったイタチもどきの問いかけに、葛葉はいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
サクラもその横で、優しく微笑んでいる。
問われた以上、答えるのが筋だろう。
「僕らは、ただの『マホウツカイ』だよ」
「はーーーーー?」
葛葉はイタチもどきに、そう名乗る。
言葉の意味が解らず、口を開けて首を傾げる。
その様を、面白そうに眺める葛葉。
これが後に……総ての魔導師の頂点に立ち超越せし者『究極魔法使い』と呼ばれる少年と。
イタチもどき……ユーノ・スクライアとの……。
ーーーー初めての出会いだった。
第3話 [魔導師とマホウツカイ]
イタチもどきに名乗り終えた後。
例の異相体は、なのはの手に持っていた杖?のアドバイスのおかげで無事に封印出来たそうだ。
イタチもどき改め、名はユーノ・スクライアと言うらしい。
なのはの持っていた杖は、レイジング・ハートという名で、“彼らの世界”で『デバイス』と呼ばれる代物らしい。
彼らの世界、『次元世界』の内の一つ…ミッドチルダという世界では、そういった科学と魔法が両立し、発展していってるらしい。
葛葉もなのは達が『戦略破壊魔術兵器』とは何か?
『召喚せし者』とは何か?
何故、葛葉がそんな力を持っているのか、説明を求めた為、サクラと共に説明。
するとユーノは信じられないといった顔?をし、なのはに至っては理解の範疇を超えていた為、フリーズしていた。
確かに、魔法文化の無いと思っていた世界で、彼らの言う魔法の力に似たモノがあると知れば、動揺もしよう。
まして、その力が人智も魔法すら超越したモノ。
人類のあらゆる叡智、戦略・戦術すら無に帰する存在ならば尚更だ。
そして……現在。
ユーノからある程度の事情を聞きながら、三人と一匹?で家路に付く。
歩きながら、ユーノと話し合う。
「落っことした?」
「はい、ジュエルシードは僕がある世界の遺跡で発掘した“ロストロギア”で、管理局に依頼して移送して貰う途中だったんです」
「ロストロギア?」
「滅びた世界に残されたオーバーテクノロジーで作られた古代遺物の総称です」
なるほど、僕の中にある『マホウ』の宝石と同じようなものか。
でも……。
「それが何故、地球に落ちる?」
「移送中の次元航行艦が何かの事故で消息不明に……。最後に示した位置情報が此処、第97“管理外”世界だったみたいで」
「管理外?」
「魔法文化が確認されておらず、管理局からの干渉を受けていない世界の事です」
「ほう……」
ユーノの言い方や番号の振り方から察するに、此処とは違う世界がまだ沢山あるようだ。
更に、そういった世界を捜索、観察する組織もあるらしい。
教えてもらった情報を頭の中で整理していく。
「それで?何でお前が回収しに来たんだ?紛失したのは、その管理局の失態だろ?」
「それでも……僕が見つけた物だから。それに放置すると、この世界に迷惑が掛かります」
「偉いんだよ~、ユーノくん」
サクラがユーノの頭を撫でる。
心なしか顔が赤い。
「確かに立派だが…なのはを巻き込んだ時点で台無しだな」
「うっ……」
「く、葛葉……」
葛葉がジト目でユーノを見る。
容赦のない言葉が心に突き刺さる。
なのはが庇う様な声で葛葉の名を呼ぶ。
ユーノからなのはへと視線移し、話す。
「それで、なのは。手伝うのか?」
「え?……う、うん。困ってるみたいだし……」
葛葉の問い掛けになのはが頷き返す。
なのはからの答えに溜め息を付く。
我が妹君の無謀な挑戦に呆れ返る。
「駄目かな?」
「好きにしろ。父さん達には黙っといてやる」
「手伝ってくれるんですか?」
「なのは…だけだ。僕は手伝わない。僕とサクラの『魔術』と『能力』は効果と威力が強すぎる。回収作業に向かない」
「…そう…ですか」
葛葉が手伝ってくれないと聞き、ユーノは肩を落とす。
「葛葉、手伝ってくれないの?」
「サクラの『神話魔術』を見ただろ?例え、ロストロギアとか呼ばれる代物だろうが跡形もなく、消し飛ばしてしまうよ。回収したいユーノのご希望には応えられない」
「葛葉の『能力』でも?」
「僕の『能力』はあまり戦闘向きじゃない。どちらかと云えば補助系統だ」
「そうなんだ……」
本当は嘘である。
自分の『能力」の深淵……森羅万象総てを戻す力。
時間、空間すら回帰させる。
故に、容易く晒す訳にはいかない。
「まぁ、回収とかで夜遅くなるようなら、父さん達には僕から取り成してやる」
「うん……ありがとう」
「なにはともあれ……」
「?」
葛葉が一度、言葉を区切る。
それに対して、なのはが首を傾げた。
一体どうしたのだろう。
首を傾げるなのはに、葛葉が意地悪い笑みを浮かべている。
ユーノの説明を聞いて、話している間に家の前に着いていた。
門の向こう側から人の気配がする。
兄と姉だろう。
心配して待ってくれていたようだ。
「兄さん達へなんて説明をしようかな?」
過保護な兄達に苦笑いを浮かべながら。
葛葉は引き戸の取っ手に手を掛けた。
★★★★★
一夜明け……。
見知らぬ少女と動物を連れて帰ってきた事に当然、士郎達に問われた為、上手く誤魔化した。
理由としては、昼間保護した動物が心配になり、外出したと伝えた。
サクラに関しては帰る途中の公園で出会い、記憶を無くしてさ迷っているところを保護したという事にした。
自分で言い出した事ながら、苦しい言い訳であったが……流石は我が両親。
深く事情を聞かずに受け入れてくれた。
その後、ユーノは高町家のペットに。
サクラは、記憶喪失という設定上、戸籍があるか分からない為、新しく作る事となった。
作るといっても、そう簡単に作れる物なのかと首を捻るが、父さんが「任せろ」というので大丈夫だろう。
そして現在……。
学校も終わり、アリサとすずかはお稽古事があるために別れ、なのはもジュエルシードを探しに行くと言い
駆け出していった。
珍しく葛葉は、1人で下校する事になった。
因みにサクラは現在、戸籍が取得出来るまで自宅待機。
大方、縁側で日向ぼっこしている事だろう。
日光を司る精霊だから日の光は魔力を回復させる為に欠かせないらしい。
第三者から見たら、ぐうたらな9歳児にしか見えない。
家でのんびりしているだろう相棒の事を心の中で思いながら、歩いていく。
1人になるのも久しぶりな為、気紛れに少し寄り道しようかと思い、近くの公園に入っていく。
公園の中には、特に人もいなく、葛葉は近場にあるベンチへと腰かけた。
ふぅ~っと一息を付き、体を休める。
「やっぱり……子供の身体だと、『穢れなき桜光の聖剣』一発撃つだけでも負担が掛かるか……。無理して『解放されし九つの鍵』を七段階解放したら、間違いなく死ぬ」
昨日の戦闘。
余裕に見えた葛葉だが、実際は多大な魔力消費に身体が悲鳴をあげていた。
夜中では日光の精霊であるサクラの力は大幅に減退する。
『神話魔術』の威力もまた落ちる。
無論、威力が落ちても世界を滅ぼす聖光は伊達ではない。
古代遺物の一つ二つ消し去る等、容易い。
とはいえ……。
(あの膨大な魔力……昨日は暴走状態でも“形”を持っていたからいいが……もし、純粋な魔力として暴発でもしたら)
もしもの時を考え、眉間に皺を寄せ、頭を悩ます。
昨日の夜はああ言ったものの、双子の妹が関わっている以上、手を貸さなくても心配ではある。
まだ、魔法を知ったばかりの見習い魔導師程度では、実際のところ厳しい。
何だかかんだと云いながら、彼もまた兄達の事を悪く言えない程、妹には甘いのだ。
ベンチでそんなことを考えていると、少し周囲に違和感を感じた。
まだ、昼間だというのに、公園の中の人通りが少ない…否、全く無いといっていい。
更に……。
(他の事に気を取られすぎたな……。昨日のジュエルシードと同じ魔力の気配がする)
違和感の正体を探っていると、目の前の大きな噴水台の下から厄介物の魔力を感じた。
また、周囲にも別の魔力反応……この公園全体を覆っている。
(結界か……『悠久の幻影』とは違う術式の……)
サクラとリンクが繋がっている為、頭の中で即座に『対魔術兵器戦略思考』で解析し、知識を取り込む。
『召還せし者』の生み出す概念魔術による結界とは違う隔離結界が公園に敷かれていた。
解析結果に、葛葉の口から溜め息が零れる。
(昨日といい、今日といい……厄日か)
神の意地悪か、何かだろうか。
昨日まであった平穏は何処へやら。
厄介事に尽く、巻き込まれている。
テンションも下降気味に肩を落とす葛葉。
ベンチから立ち上がり、取り敢えず噴水の水場にあるジュエルシードを回収しようと近付いていく。
噴水台の水溜の中に光る蒼い宝石。
膨大な魔力を感じる。
どうやら、本物のようだ。
水中から宝石を手で掬い上げる。
蒼い宝石が日の光を浴び、煌めく。
こうして、掌に乗せていると只の宝石しか見えない。
葛葉は持ち帰る為に、ジュエルシードを制服のポケットの中に入れようとする。
その時……。
「待って」
「?」
後ろから声を掛けられた。
ポケットに入れようとしていた手を引っ込め、後ろを振り返る。
呼び掛けてきた人物を見る。
「それを渡して」
「ーーーーーー」
葛葉を見詰めながら語りかけてくる人物。
振り返り、その人物の姿を確認した瞬間。
葛葉の思考が停止した。
目に入ってきたのは、黒を基調にした私服を纏い、綺麗な金髪を靡かせた可憐な少女。
西洋人形を想わせる奇跡のような女の子が葛葉の前に立っていた。
自分の妹も、可愛いの部類であり、将来有望な美少女だが……。
目の前に立っている金色の少女は、現時点でもかなり完成されていた。
少女は自分を見詰めたまま動かない少年を不審に思い始めたのか。
更に硬い声音で問い掛けてきた。
「それは、貴女に必要ない物。渡して……」
「ーーーーーーっ」
再び話し掛けられ、思考が舞い戻る。
真剣な眼差しと微かな敵意を感じ取る。
どうやら、警戒されているようだ。
少女の言葉に、葛葉は手に持ったジュエルシードを見せながら答える。
「渡せ……といのは“これ”の事?」
「そう……」
「君はこれを何か知ってるのか?」
「知ってます。だから、私にーーーー」
「断る」
少女が言葉を紡ぎ終える前に遮り、ジュエルシードを手の中で握りしめる。
葛葉の返答と行動に怪訝な表情を浮かべる少女。
「どういうつもりですか?」
「生憎、これを渡す相手には先約がいる。君には渡せない」
別に約束していた訳ではない。
だが今は、この少女に渡すよりもユーノに渡す方が正しい。
ジュエルシードの事をしている以上、ミッドチルダという世界の人間だろう。
他世界を渡る技術には、興味はあるがそれどころではない。
「なら……仕方ない!」
「っ!? 」
少女が手を前に出すと、彼女の周囲に金色の魔力スフィアが4つ程展開された。
葛葉は、危険を感じ、後方に飛びず去る。
《Photon Lancer》
「ーーーまさか!」
彼女から聞こえる機械音声。
それは、昨日から妹の持ち物となった赤い宝石型のデバイスと似た声。
この子、なのはやユーノと同じ……。
「ファイア!」
少女の口から鋭い声が聞こえた。
4つの魔力スフィアは弾丸となり、葛葉に向かって放たれる。
真っ直ぐに高速で接近する雷光の弾が、葛葉の体を正確に捉え、直撃のコースを取る。
「くっ」
迫りくる魔力弾。
あと少しで身体を穿つ距離まで狭まったその時……
「ーーー『瞬間魔力換装』ーーー」
魔力弾が葛葉の身体を穿つその瞬間。
その姿が掻き消えた。
「っ!?……どこーーーー」
《後ろです》
「!?」
「残念」
デバイスからの報告を聞き、少女が背後を振り返ろうとする。
そこには、彼女の背後を取った葛葉の姿。
少女が完全に振り返る前に、彼女の両手を掴み、後ろ手に拘束する。
完全に腕を決められ、逃げられない。
「くっ……はな……して!」
「あのなぁ~…いきなり光弾みたいな物ぶっぱなされて、離すと思うか?悪いけど、拘束させてもらう」
「っ……う……ん」
身動ぎし、どうにか逃れようとする。
華奢な外見に反して、強い力で抗われる。
葛葉も慌て、拘束の力を強める。
「おい、あんまり暴れんな。怪我すんぞ」
「だったら、放して!」
「君が何故、“これ”を集めるのか。それを聞いたら離してーーーー」
葛葉の言葉が途中で止まる。
この結界内に、少女以外の魔力を感じた。
拘束の力を弱めず、自分の前……斜め上辺りを見上げようとした時……。
「フェイト!」
「ん?」
見上げた先には、ラフな服装のオレンジ髪の若い女性が空中に立っていた。
空中から少女を拘束している葛葉を睨み付けている。
「お前!フェイトを離しな!!」
「アルフ!私はいいから、逃げて!」
「何言ってるんだい!?置いていける訳ないだろう!!」
「ーーーーー」
少女と女性が互いの事を気遣いながら話している。
何だか、襲われた自分の方が悪者に見える会話だ。
……しょうがない。
「え?」
「は?」
惚けた様な声が二人から漏れる。
葛葉が少女の拘束を解き、少し前に押し出す。
急な解放によろめきながら前に出て、空中にいた女性が慌てた様に下に降り、その身体を抱き止めた。
それを確認すると、葛葉は踵を返し、歩き出した。
はっきりいって興が覚めた。
何も話さないだろうし、これ以上この場に留まる意味もない。
「待ちな!」
「ーーーーー」
「おい、アンタ!」
女性の静止する声を無視し歩いていく。
少女の事も心配だろうから追ってくる様子もない。
でも……ここは隔離結界の中。
『魔術』も行使せず、出る事は出来ない。
二人から少し離れた場所で立ち止まり、葛葉は拳を構えた。
後ろから、何もない場所で拳を構えだした葛葉の行動の意図が読めないのか。
怪訝な視線を感じるが無視する。
葛葉の口から静かに『言霊』が呟かれる。
「ーーー『復元する原初の世界』ーーー」
葛葉が自身の本当の『能力』を解放する。
その瞬間、構えた右腕には蒼光を纏わり、『魔術』が紡がれる。
蒼光は徐々にその密度を濃くし、魔力が彼の右拳に収束していく。
葛葉の放つ膨大な魔力に結界内が軋み、大気が震えた。
後ろにいる二人は、その光景を呆然と眺めている。
彼女達が束になった所で未来永劫届く事のない力の深淵。
総ての存在を超越し者の一撃。
「『神討つーーーーーーーー』」
狙い戻すは、自分を阻む檻。
彼女達の展開している結界。
蒼光に輝く魔力が一層に輝き出し……。
「『ーーーーーー拳狼の蒼槍』」
発せられた言霊。
解き放たれる『神話魔術』
葛葉の鋭く振り抜かれた拳から、編まれた『魔術』が一条の閃光となり、結界を切り裂いていく。
周囲に結界の魔力が無くなった事を確認すると、葛葉は構えを解き、再び歩きだし始める。
少女と女性は、未知の魔法を使った葛葉を見て驚いている。
それも束の間。
少女の方が先に我に返り、遠ざかっていく葛葉に掛けた。
「待って!?」
「ーーーー」
「っ……待って!!」
呼び止める声を無視し、公園を出ていこうとする。
少女が女性から身体を離し、弾かれたように走り出す。
女性が待つよう静止する声を聞かず、葛葉の下へと駆けていく。
流石に必死な声音に気がとがめてきたのか。
葛葉が足を止め、振り返る。
振り返ると同時に、近付いてくる少女に向かって何かを放り投げる。
慌てて、少女は放り投げてきたモノを受け止める。
それは手のひらにしっかりと納まった。
そこにあったのは、蒼い宝石。
少女は葛葉と宝石を交互に見ながら、戸惑った顔をする。
先程、渡さないと言われたモノをいきなり渡されれば、そうなるだろう。
「な、なんで……」
「追い掛けられてこられても困る。目的は“それ”だろ?やるよ……精々頑張って集めろ」
吐き捨てるように言い、再び歩き出す。
本当に今日は厄日だと思う。
昨日、今日と使いたくもない用途で力を使い、無駄に魔力を消費した。
少々不機嫌になりながら、帰路に付こうとしたその時……。
「あ、あのーーーー」
「ーーーーーー」
「ーーーーーありがとう……」
「っーーーーー!?」
無視して去ろうとするが、少女からの一言に一瞬足が止まりそうになる。
動揺した素振りを見せるが、葛葉は歩き続ける。
その後ろ姿を見て、少女は少し悲しくなる。
彼がそういう対応をするような事をした自覚はある。
それでも、それとは別に。
少女には、葛葉の背中が酷く悲しみを帯びており、そして……孤独に見えた。
葛葉の背中が徐々に見えなくなり、公園から完全に姿を消した。
少女は手にある蒼い宝石を握りながら、去っていった葛葉の後を女性に声を掛けられるまで見詰めていた。
これが少女と少年の出逢い。
運命の名を付けられた少女とーーーー。
この世界唯一人の『召還せし者』の少年がーーーー。
ーーーー初めて言葉を交わした、最初の出来事であった。
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