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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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幻想御手
  Trick17_だったら"檻"に入っていただきますか



スキルアウト、高千穂からの申し出。

白井と信乃、高千穂とトリックの2対2の対決。


信乃が走り出す構え、スタンディングスタートを構えて

高千穂が指示を出してボクシングの構えを取った。



あとは開始の合図を待つだけ。




しかし

「それじゃ始まりだ!」

信乃と高千穂の合図もなしにトリックが動いた。すぐ側の白井にナイフを振る。

体も痛めていてただ立っているだけの白井は、逃げられる体勢ではない。

だが白井の姿は消えてナイフは空振りした。


「わたくしがテレポーターであることをお忘れですの?」

声は信乃の後ろから聞こえた。

「チッ!」

すぐに信乃を見たトリックだったが

目の前には大きな三日月状の衝撃波、"牙"が来ていた。



Trick - Leviathan -



「ぎゃーーー!!!!!」

トリックの断末魔。

"牙"は高千穂とトリックを飲み込み土煙が上げた。

追い討ちをかけるように信乃は先ほどよりも小さい"牙"を連続で10発を放った。

それを受けてさらに土煙が上がる。


「・・容赦ないですのね。それにしても伝わってよかったですの」

「『テレポートする、からかまわず攻撃を!』ですから、思いっきりでかいのを
 ぶち込んでやりましたよ」

あの時のアイコンタクトはそういう意味だった。

「これで一見落着ですの。それにしても、あなたの能力って」

「! 危ない!」

殺気を感じて信乃は白井を横に突き飛ばし、その反動で自分は逆に飛とんだ。

直後に土煙から高千穂が飛び出て、2人がいた場所に真空飛び膝蹴りが放たれた。

間一髪

しかし、

高千穂は空中で拳を伸ばして白井の腹を殴り飛ばした。

「が!」

「白井さん!!」

殴られた勢いのまま数メートル飛び、白井はそのまま動かなくなった。

無理な体勢から出された攻撃で威力はないと分かっていたが、
信乃は動揺して白井の名前を叫んだ。

「てめぇ! よくも白井さんを!!」

「ん?殴ったのは女の方か。ちょうどいい、これでサシで勝負ができる」

「!?」


高千穂は殴ったことを今気付いたように言った。

あれだけの攻撃を仕掛けたのに高千穂の体は無傷。

しかし信乃が驚いたのは今の攻撃の動きと今の発言だった。

「どういうことだ? 俺らが避けた後に方向転換しただろ。どれだけ速いんだよ?」

「速いんじゃないぇ、素早いんだよ。おっと、自己紹介がまだだったな

 俺の名前は"高千穂 仕種"(たかちほ しぐさ)!

 能力は肉体強化のトップ能力!

 レベル4の"反射神経(オートパイロット)"だ!!」

「なるほど・・あんたの言った意味が意味が分かったぜ。殴った後にテメェは
 白井だと気付いた。つまり殴ると考えただけ、"反射"で体を動かして目標を
 攻撃する。それがあんたの能力だろ?」

「その通り。だからお前の攻撃も"自動操縦(オートパイロット)"で
 避けるから当らねえよ!」

「すげぇ能力だな・・でも、白井さんの痛みを10倍返しをするつもりだから・・

 それに当らないかどうかなんて、やってみなきゃわからねぇだろ!!」


高千穂へと突っ込む。

お互いに拳の届く距離。信乃は攻撃を繰り出す。

右のアッパー

左のハイキック

連続で右の後ろ回し蹴り

かがんでで両手の掌底

そして

A・Tから出す"牙"の5連撃

威力は最初よりは小さいが当たれば昏倒するには十分なレベル。

他の攻撃もそうだ。

打撃全てに体重を乗せて、威力も速度も申し分ない。


だが高千穂はどれ一つとしてかすりもしなかった。

右アッパーには、上体を逸らして

左のハイキックには、一歩下がり

後ろ回し蹴りには、身をかがめて

掌底には、右にステップして

"牙"の5連撃にも、2メートルの距離で出されたにも関わらず、
上体を動かすだけで避けた。

それを全て顔色一つ変えずにやってのけた。


これ以上の攻撃は無駄だと判断して信乃は後ろに下がり距離を取った。

「ちっ! まじかよ」

「トレビアン」

信乃が舌打ちをして悪態をつけたのに対し、高千穂は満足そうに言う。

「いいぜお前これだけの攻撃をする奴は初めてだ。ほら、出し惜しみするなよ。
 全力を見せてみろよ、ははははははは!」

『コイコイ』と手招きをして信乃を挑発する。


「ならこれだ!」

信乃が走り出した瞬間に高千穂の周りに無数の影が現れた。

そのすべてが信乃の姿をしている。

「なるほど残像を使った分身か」

その数は20以上。

高千穂はこの状況でも笑っていた。

「でも分身しても本体は一つ」

分身が攻撃してきた。

数体は四方同時に

他は数コンマの時間差をつけて連続で


だが

「残念」

5番目の分身、いや、本体の腕を掴まえた。

分身の中で信乃を確実に捕えた。

「な!?」

「分身ってのは言えばフェイントだろ? 俺自身がいくら反応しようとも意味がない。
 俺の能力は"自動"なんだよ!」

そのまま腕を破壊するために膝蹴りを繰り出した。

「く!」

信乃はあえて体ごと高千穂に突っ込んで腕の破壊を防いだ。

代わりに胴体へ攻撃を受けたが、手を腹との間に入れたので直撃だけは避けられた。

一瞬意識が飛びそうになったがどうにか持ちこたえる。

そして腕を掴まえてる高千穂の手首に攻撃を仕掛ける。

これも自動操縦な反射神経で信乃を離して簡単に避けらた。

しかし、手を放させることが目的のため自由になった。

その体勢から

「これが最後の手だ!!」

空中にいなから連続で足を振った。

上体を後ろに引いて蹴りを避けようと高千穂は"考えた"のだが、信乃の足からは
"牙"が放たれた。

「な!?」

信乃は連続での"牙"を出し続ける。



Trick - Falco Fang × 30 -



先程も出した威力が弱い"牙"。しかし、高速で連続で出すことで当てることを
目的にした攻撃。

30発を打ってようやく信乃は着地した。

そして30連撃でできた高千穂との距離を一気に駆け抜ける。

高千穂の1メートル手前、そこで急停止をし、足を全力で振る。



Trick - Bloody fang Ride fall "Leviathan" -



 今までで一番大きな"牙"。
 停止状態から瞬時に最高速度、そして瞬時に停止状態にし、
 エネルギーの 0 - 100 - 0 にする"キレ"から生まれる慣性エネルギーを
 全て込めた一撃。


合計で31発の牙が高千穂を襲い、再び土煙が上がった。

(こういう場合、相手は生きてるってのが相場だよな・・)

信乃は戦いが終わってないはずだと、気を引き締めた。

次の瞬間

「ぐぁっ!」

「!」

叫び声と共に土煙から拳が出てきた。
連続攻撃の疲労で足の反応が遅れて信乃は顔に直撃した。

2メートル吹き飛ばされたがすぐに体勢を整えた。


ボクシングで構える高千穂。あれだけの攻撃で傷一つ付いていない。

逆に信乃は顔面を腫らして、攻撃で足にきたのか少しふらついた。

「ト・・ハァハァ・トレビアン・・ハァハ・本当に面白いぜ・・ハァハァ・・
 後ろに反らそう・・ハァハ・・と・・考えたその予想を上回って・・ァ・・ハ・
 本気でやられたと思ったぜ・・」

「"考えて"も"思って"もあんたには無意味だ。なんせ自動なんだからな」

「その・・通りだ!」

無傷だが、今の攻撃に相当の冷や汗と急激な回避をさせられたために高千穂は
肩を大きく上下させて息をしていた。


(今のA・Tは攻撃力重視。速度はさっきの攻撃が限界だ。あの分身で背後からの
 攻撃も止められた。つまり、速度でも不意打ちでもあいつには通用しない)

信乃は高千穂が攻めてこないうちに作戦を練ったが、いい答えがでない。
どうしても、"アレ"以外の方法が思いつかない。


突然、信乃は諦めたように言う。

「やっぱり、だめか」

「? なにがだめなんだ?」

「このままじゃお前に勝てないってことがだめなんだよ。だからおれは諦める」

「! はははははは! もうネタ切れかよ! 一撃入れられると期待したが
 出来なかったな! でもやられるかもしれないスリルが楽しかったぜ!

 ははははははははははははは!!!!」

自分の勝利を確信し、高千穂は高笑いをした。


「し、信乃さん!」

急に高千穂以外の声がし、2人は振り向いた。

そこには上体をようやく起こしている白井がいた。

「信乃さん! 諦めては、だめですの!」

「白井さん! 大丈夫ですか!?」

戦いが終わっていないために白井に近づけなかったが、せめて怪我の確認はした。

「はい、肋骨が少しやられてますが、なんとか・・グッ!」

怪我に響いたのか白井はうめいた。

「無理しないでください!」

「そうだぜ、お前の運命は決まった! 2人まとめて仲良く地獄行きだ!

 俺って優しいぜ! はははははははは!」

「いや、俺ら地獄行くつもりないし、負けるつもりもないよ」

信乃は高千穂に向き直り言った。

「何言ってんだ? さっき諦めるって言ったじゃねえか」

「ああ、諦めるよ」

いつもの笑顔を信乃は出した。

しかし、顔はいつもと同じだがこもっている殺気が戦闘中の比ではなかった。


「諦めるのはな、あんたに大怪我を負わさずに捕まえることだよ。
 これでも、一応風紀委員なんでね」

「は? 今まで俺に傷一つ付けられない奴が何をどうやって大怪我にするんだ?
 俺の獣以上の動きを捕えきれるのかよ!?」

「獣・・ね。だったら"檻"に入っていただきますか」

信乃は白井の方を向いて

「もう少しだけ待ってください。すぐに終わらせます」

笑顔を見せて信乃が消えた。

一瞬だけ見えた笑顔。その時の眼は碧かった。



「お前の速度ならギリギリ見える! わかれば"自動"でどうにかできんだよ!」

高千穂が視点を広くする見方をして信乃の動きを追った。

信乃は白井でもなんとか見える速度で高千穂の周りをランダムに駆け回る。

あまりの速さで動くため、残像が“白い軌跡”を残しながら走り続けた。


そして、数秒後、高千穂の前で止まった。

「・・何がしたいんだ? 適当に俺の周りを動きまわって」

「だから、檻に入ってもらうって言ったでしょ」

「は? ・・まさか!?」

高千穂は気付いて周りを見渡した。

残像が残した“白い軌跡”が消えていない。

目の端で捕えるような見方ではない、物を認識するために“白い軌跡”を凝視する。

そこには囲うようにしてあるのは、“白い軌跡”こと無数の"牙"

今までとは違い、"牙"は全く動かない。
しかし、檻のように重なり人が抜け出せる隙間は無かった。

高千穂に逃げ場はなかった。

「"血痕の道"(ブラッディ・ロード)


 Trick  "無限の空"(インフィニティアトモスフィア)

      "無限の牢獄"(インフィニティジェイル)    」


信乃はそう言いながら3発の牙を出した。

これで高千穂の正面、唯一"牙"がない空間にも出されて完全に逃げ場がなくなる。


高千穂は今から起こることを"自動操縦"ではなく、自分の考えとして分かっていた。
だから、動けない。動いても意味がない。

「あ・・・これは・・・」

「自動操縦は俺の攻撃に反応して避ける。

 だが、俺が攻撃を仕掛ける前だったら無反応だ。

 それはつまり、攻撃前の準備には反応しないってことだろ?」

信乃はニヤリと八重歯を出すように笑う。

「それに、いくら自動で避けようとも、逃げ場がなきゃ自動もくそもない

 避けられないんだからな」


最後の"牙"を一発撃つ、"檻"とは違い、今までの動く"牙"を。

それが周りの"檻"に当たり、一つ一つが連鎖して停止していた"牙"が徐々に
中心に、高千穂に向かいって同時に動き出した。

速度も上げながら徐々に、確実に。

「これ全て浴びたら、さすがに大怪我するでしょ?

 閉じろ   牙  」

高千穂に当たる頃には今まで以上の"牙"、全てが必殺の威力になっていた。

「かっ・・がはっ・・!!」

高千穂は牙を受けて血を出しながら吹き飛んだ。

血煙が道のように散りながら・・



さすがに全ての"牙"を受けて高千穂は動けなくなっていた。

そんな高千穂に信乃は近づいた。

「よかった。生きてるみたいだな。手加減したけど心配だったんだよ」

「こ・・れで・・てか・・げんかよ・

 おまえ・・いっ・たい・・ なに も・・ん・・だ」

「無理してしゃべるなよ。

 でもまあ、あんたは戦う前に名乗ったのに俺は言ってなかったな。

 俺の名前は西折信乃。 能力は教えたくないから言わない。

 でも、何者かって質問には答えるぜ。


 おれは   "暴風族(ストームライダー)  だ」






佐天は見ていただけだった。

諦めると言った信乃に、白井は叱咤したが、佐天は何も言わずにいた。

痛みで呻いている白井の元へも駆け寄ることをしなかった。

いや、できなかった。


こわかった


いきなり首を絞められた。

怪我した白井さんが大丈夫だと言ったがそうは思えなかった。

信乃がすごい動きで敵を倒しても、あるのは安心感ではなく自分の無力感だけ。

「また・・・・わたしだけ・・・・能力が・・あれば」

無意識の内に自分のポケットへ手を伸ばしていた。

音楽プレーヤーに。




つづく

 
 

 
後書き
佐天さんがストレスを矯め込んでいます。

作中で不明、疑問などありましたらご連絡ください。
後書き、または補足話の投稿などでお答えします。

皆様の生温かい感想をお待ちしています。
誤字脱字がありましたら教えて頂くと嬉しいです。
 
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