蒼天に掲げて
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四話
今重要なのは、この森を生き抜くことができる強さであり、まずはこれをなんとかしなければならない。さらに外敵に襲われない寝床と、安全に採取できる食料も確保しないといけないのである。
考えを纏めた俺は、まずは寝床を見つけるため、周辺をぶらぶらと歩きながら寝られそうな場所を探し始める。
まず地面の下はアウト、絶対狼なんかの餌食になる。なら木の上はどうだろうか? 木の上なら確かに果実なんかもあるかもしれないし下からの外敵は防げるだろう。ただ雨が降った場合だが、この森の木は比較的高いものばかりだったので、少し低い木を見つければなんとかなるだろう。
「でも、そんな都合よくはいかないよな……」
せめて夜までに見つかりますようにと祈りながら見ていくが、どうにも良さそうな木は見つからない。
木の実や果物みたいなのは案外あるんだけどな。
ただ果物などがこの辺にあるってことは、もしかすると果物がなっている俺でも登れそうな低い木が見つかるかもしれないと思い、上ばかり見ていると。
「グルルル」
目の前に一匹の野良犬のような動物が飛び出してきた。
恐らく狼なんだろうと予想するが、急に飛び出してきた狼に、俺は少し後ずさろうと足を動かすと、
敵はいきなりおそいかかってきた!
「うぉわああああああああああああああああぁぁぁ!?」
もちろん俺は全速力で逃げていた。それはもう必死になって。後ろから狼も接近してくる音が聞こえ、さらに足を速く動かした。
どこでもいいから逃げる場所はないのか!? いやまておちつけ俺、木の上に登ればいいじゃないか!
俺は適当にあった木の上に登るため、最後の力を振り絞って木に全速力で向かっていった。
「うおおおおおおぉぉ!!」
俺は五歳児とは思えない動きで、猿のように木を登っていく。
「ゼェ、ゼェ……死ぬかと思った」
一呼吸置いてから下を見ると、そこには狼の唸るような鳴き声と、他に集まってきた狼達でいっぱいだった。
「こりゃもう降りれないな……」
この木には幸い果物っぽいものがなっており、木が高いので雨は凌ぎにくいが、その分大きいので体を鍛えるスペースはありそうだった。
「よし、何事にもポジティブでがんばらないとな!」
というわけで、腹を括った俺はここで修行することを決めた。
◆
「百二十一、百二十二、百二十三――」
木に登ってから一カ月ほど経ったある日。俺は今まで一心不乱に体を鍛え続けたのだが、そろそろ果物がなくなりそうになってきた。
そろそろ木を移動した方がいいかもしれないな。それに食べるものや飲むものがこの木になっているものと雨水しかなかったから大分栄養が偏ってそうだ。
でもまあ身体も随分鍛えられたし、なにより心に余裕ができたんだから、狼一匹くらいならなんとかなるかもしれないな。
『随分いうようになったじゃない』
そしていざ降りようとした時、ひょっこり照姫が念話を飛ばしてきた。
『でもそれだけじゃまだまだ狼なんか倒せないわよ。大人でもやっとなんだから』
(いきなりダメ出しか)
『貴方に死なれたら困るのよ! まったく、あまり過信しないでっていったでしょ』
(過信なんてしてないぞ、俺はいたって平常だ)
『それなら狼なんて倒せるわけないって分かるでしょ、それこそ一カ月しか経ってないんだから』
(いや、なにも正面からやり合おうなんて考えてはないぞ?)
『? それならどうするのよ?』
(まあ見とけって)
俺は、首を傾げているであろう照姫に少しカッコつけて木を降り、あるものを拾いながら違う木を探して歩き出す。
『あ、そういえばね、柏也はこの世界がどんな世界か知ってる?』
(いや、全然知らないけど? 異世界とかじゃないのか?)
『ぶっぶー、はずれよ』
(……ぶっぶーって、小学生か)
『うっさいわね! また土下座させるわよ?』
(できるもんならやってみろ)
『へえ、ホントにいうようになったじゃない。ならさせてあげるわよ!』
照姫がそういった瞬間、俺の上半身がズンと鉛のように重くなる。
「ぐぬぬ……どうだおい、耐えられるぞ?」
『ふっふっふ、甘いわね。それが限界だと思ったの?』
俺が必死に耐えていると、照姫の含み笑いが聞こえたと思ったら一気に体が
いうことをきかなくなった。
「くそ、本気じゃなかったな!?」
『当り前じゃない、人ひとり動かせないようなへっぽこ神じゃないわよ私は』
(くっそが、次は絶対耐えてやるからな!)
『できるものならやってみなさいよ、まあ最低でも後十年は修行しないと耐えられるようになるのは無理ね』
(その言葉、覚えておけよ)
『ええ、いいわよ。あ、話逸れちゃったから戻すけどこの世界は三国時代、三国志の世界よ』
(なっ、なんだってー!?)
照姫のいきなりのカミングアウトに驚いた。
『びっくりしたでしょ?』
(てことはあれか、関羽や呂布がこの世界にもいるってことか!?)
『ええ、いるわよ。あ、でも外史の世界だから容姿なんかは違うかもしれないわね』
(おお、リアル戦時代。いつ死んじまうか分からなくなってきた)
『まあ修行すれば大丈夫よ、あ、あの木いいんじゃない?』
俺が頭を抱えて唸っていると、照姫が条件に合った木を見つけたのか教えてくれる。
(あの目の前の木か?)
『そうそれ、中々良くない? 実も食べられるわよ』
そういわれて木を見渡せば、確かに先ほどまでいた木とは別の実がなっており、他の木に比べ少しだけ低く雨宿りできそうで、この体なら多少動き回ることもできそうだ。
(あれにするか、見つけてくれてありがとな)
『ふふふ、もっと褒めてもいいのよ?』
(いや、遠慮しとく)
『なんでよ?』
(付け上がるからだ)
『どういう意味よ!!』
照姫がキーキーいってるのをよそに、助走距離をとり、全速力で走りだす。そして上向きに駆け上がり、途中で木にしがみつきながら上を目指していく。
「ハァ、ハァ、今回は大分マシになったな」
一番最初に比べ、断然形になった木のぼりができたので心の中でガッツポーズをとる。
『でも狼は倒してないわよ? 諦めたの?』
「まあ見てろって。そういえば今思ったけどしゃべっても念話聞こえるのか?」
『そうね、基本的に私がこっちに来てるようなものだから、しゃべっても私には伝わるわ』
「なるほどな、じゃあ今回はこっちにするか」
『まあいいけど、人がいるところですると怪しまれるわよ?』
「ここは人いないから大丈夫だって」
『それもそうね』
「そういや照姫がいう反乱分子っていつごろ来るか分かるのか?」
『一応探ってはいるんだけど、どうにも動く気配がないのよね』
「そうなのか」
『ええ、まるでなにかを待ってるような感じがするわ』
「そんなことまで分かるんだな」
『えへん、もっと褒めていいのよ?』
「だからいやだ」
『だからなんでよ!?』
「お、ようやくきたか」
俺達 (詳しくは俺の声だけだが)が話している声に気づいたのだろう。都合よく狼一匹が木の下まで近づき、グルルと唸るように低く吠え始める。
「さて、それじゃあいつには悪いが俺の食料になってもらうかな」
俺はそういって先ほど拾った石をとりだす。そしてそれを思い切り狼の頭に投げつけ、軽い脳震盪を起こさせた。
ガツ、ガッ、ガッ、ガッ。
持っている石すべてを投げ、狼が動かなくなったのを確認してから、木を降りていく。
『結構えげつないこと考えるわね』
(今この場所は弱肉強食の世界だろ、やらなきゃこっちがやられるんだよ)
『まあ確かにそうだけど、でもその狼どうするの? 火なんてないわよ?』
(ああ、生き物って実は死んですぐなら生のままでも食べられるらしいんだ)
『中々野生児になってるわね』
(この森で生きていくんだからな、これくらいはできないとこの先食べるもんなんてほとんどねーよ。まあ残った分は干し肉にでもしようと思ってるし、毛皮は防寒対策になるからな)
『なるほどね、ちゃんと考えてるみたいで安心したわ』
(俺もそこまで馬鹿じゃないってことだ)
『まあでも油断しないでね、まだまだ体が小さいんだから』
(ああ、分かってるよ)
それじゃあねといって去っていく照姫を尻目に、俺はこの森で生き抜いていくために狼にかじりついた。
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