イーゴリ公
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第三幕その二
第三幕その二
「村も街も彼等のものとなり」
「娘達は彼等のものとなる」
「ルーシーの富もまた」
彼等は言い合う。悲嘆の声で。
「どうするべきか」
「父上」
こkどえウラジミールは彼等の中心にいる男に顔を向けた。そうして言うのであった。
「ここはお逃げ下さい」
「逃げよというのか」
「そうです」
父を見て言う。
「そしてルーシーの軍を率いて彼等から」
「ルーシーを守れというのだな」
「なりませんか」
「私はルーシーの為にいる」
これは何よりも彼の心を出していた。
「それを偽ることはない」
「それでは」
「今すぐに」
周りの者達も言う。彼等もウラジミールと同じ心であった。
「お逃げ下さい」
「そしてルーシーを」
「私があの地に戻れば。ルーシーは救われるか」
「その通りです」
「ですから今こそ」
「しかし私は」
公爵はここで暗い顔になった。それは彼の誇りによるものであった。
「それは」
「なりませんか」
「逃げられることは」
「私は。敗れた男だ」
今のこの有様をここで胸に置いて言うのだった。
「その私が。できるのか。彼等に一度は敗れたこの私が」
「勝敗は戦の常です」
ウラジミールはそう父を慰めた。
「ですが今度は」
「六枚の羽を持つ高貴な鷹の一族が」
ルーシーの者達のことである。彼等は双頭の鷹等鷹を自分達の象徴にしてきたのである。ここで出されたのはそうした鷹の一つであったのだ。
「草原の者達に屈することがあってはならない」
「それができるのは父上だけです」
「だから。今すぐに」
「しかし。それは一人だけではない」
公爵はここで毅然として言うのだった。
「一人だけではないと」
「それは一体」
「皆も一緒だ」
彼はウラジミールと他の者達を見回して言った。
「私もですか」
「我々もですか」
「そうだ」
息子にも他の者達にも告げた。
「よいな、今こそ」
「しかしそれは」
「あまりにも危険なのでは」
「そうでなくては駄目だ」
流石にこれだけの人数で脱出するとなると危険だ。一人でさえそうなのであるから。しかしそれでも公爵はそうでなければ駄目だと言うのだった。
「わかったな」
「わかりました。それでは」
それに最初に応えたのはウラジミールであった。
「我々はそのように」
「共にルーシーに帰りましょう」
「風となり帰ろうぞ」
公爵は一言で伝えた。そうしてまず彼が向かう。
「ルーシーへ」
「我等が祖国へ」
彼等は今ルーシーへ向かう決意をした。その最後にウラジミールが向かう。彼は最後尾で仲間達の後ろを守っていた。だがその彼のところにコンチャコーヴァが来たのであった。
「何処に行かれるのですか?」
彼女は怪訝な顔で彼に尋ねてきた。
「貴方達の野営地はそこではない筈ですが」
「姫・・・・・・」
暗い顔になっていた。それで見抜かれてしまった。
ページ上へ戻る