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八条学園怪異譚

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第三十三話 踊る本達その四

「これまでね」
「成程ね。そういえばあんたは踊らないわね」
「ゴーゴーやツイストなら踊るよ」
「そういう踊りなの」
「そう、あたしはね」
 そうした踊りを踊るというのだ。
「そっちだよ」
「随分古い踊りね」
「古いかね」
「今は踊らないからね」
「踊りってのも時代によって変わるからね」
 愛実はここでこのことも言った、
「ランダバとかパラパラとかもあったし」
「結構知ってるね」
「商店街のおじさんで踊ってる人がいて」
「へえ、そんな人もいるんだね」
「もう七十で髪の毛なんか真っ白だけれどね」
 だがそれでもだというのだ。
「その白い髪の毛リーゼントにして粋な人なのよ」
「随分と面白そうな人だね」
「面白い人よ、実際にね」
「で、その人が踊ってるんだね」
「そうなの、ゴーゴーからパラパラまでね」
 まさに昔から今だ、こうした人もいるというのだ。
「喫茶店のマスターだけれど」
「喫茶店の店長さんかい」
「そう、コーヒーが美味しいお店よ」
 愛実はさりげなくその店の話もする。
「あと整髪料はムースだから」
「ああ、あれじゃないんだね」
 口裂け女はその話を聞いてほっとした顔になった、それで言うことは。
「やっぱりね、あれはね」
「どうしても駄目よね」
「絶対にね、あたしは」
 ポマードの名前さえ出さない、とにかくこれだけは駄目なのだ。
「全くねえ、間違えて舐めてえらい目に遭ったよ」
「というか普通間違える?今思うと」
「間違えたから仕方ないでしょ、まあそういうことでね」
「ええ、それでよね」
「どう?この風景」
 口裂け女は愛実達に自分達の周りを飛ぶ本達を見回しながら問う。
「いいものでしょ」
「イギリスか何処かの魔法ものみたいね」
「ああ、魔法で本を飛ばしてだね」
「そんな感じね」
 聖花が言う、その本達を見ながら。
「これって」
「あたしは魔法とかには縁がないけれどそうだね」
 口裂け女は聖花の今の話に目を細めさせて応える、そのうえで左手に持っているカップの中の日本酒を飲んで言う。
「面白い例えだね」
「口裂け女さんもそう思うのね」
「まあね。それでだけれど」
「それでって?」
「図書館も泉じゃなかったからね」
 今度は二人のことだった。
「次は何処に行くんだい?」
「ううん、次は美術館に行くつもりだけれど」
「そこの絵が出て来るらしいから」
 愛実と聖花はお互いに顔を見合わせて半ば二人で話す形で口裂け女に応えた。
「今度はそこに行って」
「それで次はね」
「次は何処に行くつもりだい?」
「保育園行きたいけれどね」
「あそこね」
 二人が今思うのそこに行きたいということだった。
「座敷わらしちゃん出るらしいし」
「あそこに行ってみたいけれど」
「見えないわよ」
 すぐにだ、花子さんが二人に行って来た。梅干で酒を飲みながら。 
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