万華鏡
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第三十二話 呉の街その五
「どっちが勝ってるかは」
「それはね、ただね」
ここで景子は店の中を見回した、店の中自体も大坂のお好み焼き屋と変わりはしない。だがその色がだった。
「赤ね」
「うん、赤ね」
「黒と黄色じゃないのね」
「見事に赤ね」
「広島ね、本当に」
景子はその赤を見つつ琴乃と話す、それはまさにだった。
飾ってある帽子は赤でそこにアルファベットでCの字がある、そして。
客達の話していることもだ、これがだった。
「よし、前田やったのう」
「巨人完封じゃ」
「このまま巨人叩き潰して今年こそ優勝じゃ」
「今年こそやったるけえ」
「鯉の胴上げじゃ」
「確か二十年以上優勝してないのよね」
景子は顔を前に出して他の面々に小声で囁いた。
「確か」
「最後に優勝したのが九十一年よ」
里香が答える。
「だからね」
「二十年以上経ってるのね」
「私達が生まれる前じゃない」
琴乃も言う、その歳月を。
「ここって本当にカープの町なのね」
「江田島もそうだったけれどな」
美優も小声で囁く。
「鯉だよな」
「そうよね」
「あたし達大丈夫だよな」
美優は真顔でこうも囁いた。
「阪神ファンだけれどな」
「そうよね、広島の敵だからね」
琴乃もこのことが気になりこっそりと囁く。
「それがばれたらね」
「何されるかわからないよな」
「カープファンも血の気が多いっていうから」
五人共このことが少し不安になった、だがここで。
その赤い鯉のファン達はお好み焼きをビールやサイダーと共に楽しみつつそのうえでこう話していたのだった。
「この前阪神に負けたがのう」
「まあ阪神はええけえ」
「そうじゃ、巨人に負けたんなら違うが」
「阪神はまだええけえ」
「あのチームにも頑張ってもらわんとな」
「面白くないけえ」
こう話していた、それを聞いて。
彩夏もまたこっそりと仲間達に話した。
「大丈夫みたいね」
「阪神だとまだね」
「大丈夫みたいね」
こう話す彼等だった、とりあえず阪神は大丈夫の様だった。
景子も自分のお好み焼きを食べつつこう言った。
「ここも巨人じゃないといいみたいね」
「ええ、かなり優しいわね」
里香もお好み焼きを食べながら応える。
「阪神ファンと同じで」
「そういえば前にこうした話したわよね」
琴乃はここでこのことを思い出した。
「私達って」
「だよな、その時確か飲んでたよな」
美優も海老玉を食べつつ話す。
「それで話していたよな」
「そうそう、何飲んでたのか覚えてないけれど」
「お酒飲みながらな」
「そんな話してたよな」
こうした話をしながらだ、五人でお好み焼きを食べていく。そして。
今度は里香がこう言った。
「そういえば宇野先輩と高見先輩って広島に行かれたわよね」
「ええ、広島に行くって仰ってたわ」
里香が答える。
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