戦国異伝
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第百二十八話 促しその十四
「当家の具足は重いが守っておる場所は少ない」
「しかし織田家の具足は、ですか」
「当家よりも」
「小手もしておるし脛も守っておる」
手足も守っているというのだ。
「腰の辺りもな」
「そして陣笠もよいそうで」
「守りもしかとしておりますか」
「兵が死んでは何にもならぬ」
生きてこそ力になるというのだ。
「織田家はそれもしっかりしておる」
「そこがまず違いますか」
「武器に具足が」
「当家と比べても」
「南蛮の甲冑を取り入れたものもあるそうですが」
「南蛮具足じゃな」
宗滴もその具足のことは知っていて言う。
「それのことじゃな」
「まさかそれを足軽の具足に」
「少しではあるが取り入れておるそうじゃ」
実際にそうだというのだ。織田家は堺において南蛮の者達と交流をしており南蛮の具足も手に入れている、そこからだというのだ。
「丸み等をな」
「具足に丸みを入れていますか」
「それを」
「考えて見れば丸ければ滑る」
こう言った宗滴だった。
「四角いものには当たるな」
「はい、そうなります」
「ぶつかってしまいますな」
「しかし丸ければ滑り弾かれる」
「そうなりますな」
「それじゃ。刃も弾も丸ければ弾かれやすい」
四角いものよりも遥かにそうなってしまう、宗滴もこのことは長い戦の場での斬り合いや采配で知っているのだ。
それでだ、こう言ったのである。
「丸い具足の方がな」
「では織田家は強いですか」
「武具や具足も考えますと」
「草履を履く者は履かぬ者より怪我をせぬ」
織田家の足軽は皆草履を履いている、朝倉家にはそうではない者も多い。
「槍も長い方がよい」
「しかも兵も多いですし」
「家臣の方々も優れた方ばかりですな」
「犬も狼に率いられれば狼となるのじゃ」
宗滴が常に言っていることだ、率いる者が重要だというのだ。
「朝倉の兵がどうであっても率いる者次第じゃ」
「では若し宗滴様がおられなければ」
「その時は」
「当家は敗れるわ」
織田家にだというのだ。
「わしならば織田家の相手もしてみせるが。それで思うことじゃが」
「思われるといいますと」
「それは」
家臣達は主の言葉にすぐに問うた。
「何でありましょうか」
「うむ、一度右大臣殿の采配をこの目で見て戦ってみたいのじゃ」
「武士としてですか」
「そうされたいのですか」
「そうも考えておる」
実際にそうだというのだ。
「どれだけのものかな」
「桶狭間では見事でしたな」
「尾張を一つにされた時も」
「右大臣殿の采配は早い」
信長の采配の特徴だ、その決断は思い切ったものでありしかもそれを出すのはいつも非常に早いのである。
「そしてどれだけ率いられても破綻しておらぬわ」
「兵がどれだけ多くともですか」
「それでもですな」
「韓信がそうじゃった」
史記にある異朝の古の名将だ。その頃の国の名は漢といった。
「兵は多ければ多いだけよいとな」
「史記にあった言葉ですな」
「確かに言っていましたな」
「そうした将帥は中々おらぬ」
実際に韓信の主である劉邦は韓信自身に十万の兵を率いる程度と言われていた、だが韓信はその劉邦を将の将の器とも言った。
そして信長もだった。
「しかも将の将でもあられるな」
「あの漢の高祖の様に」
その劉邦のことだ。
「まさにな」
「天下人の器ですな」
「紛れもなく」
「戦をしてはならない」
これが宗滴の結論である。
「決してな」
「しかし殿があの有様ではそれも」
「危ういですな」
朝倉家においても心ある者達はわかっていた、織田家との戦は避けるべきであると。しかし義景はそのことが全くわかっていないまま運命の一月を迎えるのだった。
第百二十八話 完
2013・3・12
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