少年は魔人になるようです
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第10話 魔人たちは先に進むようです
Side ――――
「ハハハハハ!!如何にあの『アーカード』とは言え、所詮は吸血鬼!!!
この聖なる雷の雨は『闇の生き物』に関しては、あのケルベラス渓谷以上の死亡率を誇る!!!
これの前には成す術もない!!!我々の勝ちだ!!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」
死亡フラグが乱立している事に、指揮官は全く気付かない。
そして、それに気付いたのは三人。
分かっていたのはそれと共に居た二人。
逸早く気付いた三人は無言で障壁を張り、最速でその場から飛び去る。
見捨てた訳ではない。その余裕すらなかった。許されなかった。
その意味を悟った神官の数名が全魔力で障壁を張り終えた瞬間、終焉が声を上げる。
「やぁやぁ皆様、随分と俺を過小評価してくれているんだねぇ。
劇はこれから終演を迎えるんだぜ?
さぁ、てめぇら小便はすませたか?
神様にお祈りは?
部屋のスミでガタガタふるえて命ごいをする心の準備はOK?
――――答えは聞いてない!っけどなァ!!!」
戦争は、最終局面へと移行する。しかし起こる事は変わらない。
演目は『恐怖劇』のまま。
Side out
AfterSide 愁磨
『兄さま!!』『シュウ!!!』
マジでやばい、と思った俺はある魔物を召喚する。
「落ち着きなさいって姫様方。『召喚!雷喰蟲!!』」
俺の直上に出て来た魔物"ル・カポリ"は名前の通り、雷を喰らう者。
その許容量は、神から雷の力を貰ったとされる雷帝をも喰らい尽くす。
故に、似非神何ぞの雷、敵じゃねえ!!!
「ってゆうかお前ら、俺の名前しか叫んでねえんだが。普通に喋ってろよ。
戦場での癒しが無いじゃないか。」
言う間にもリル(今命名)は振ってくる雷を喰い続け、ペロリと平らげる。
満足そうなところを見ると、そこそこ上質な雷だったようだ。
『何を言うかこの大戯けが!だったら心配させるんじゃない!』
『その通りよ!遊んでないでさっさと終わらせなさい!!
ってゆうか何よその悪趣味な蟲は!どっかに捨ててきなさい!!』
リルは蟲と付いているが、どちらかと言えば蛇っぽいイメージである。
そこに全身に毛が生え、鬣がある。
額には黒い大小の球がハの字に並んでいて、
目はクリクリしている。あ、女の子ですよ?
「めっちゃ可愛いんだがなぁ。なぜこの可愛さが分からん。
でかいのが嫌なのか?(体長5mである。)
ああ、よしよし。この人は嫉妬してるだけだから大丈夫だよ~。
ああ、モフモフ……。」
目を潤ませて俺に擦り寄って来るリル。ああ、毛が凄く気持ち良いです・・・・。
・・・よし、癒し分摂ったし、そろそろ殲滅してくるか。
「リル、省エネ|形態(モード)。」
クピッ!と鳴くと、リルの体が段々縮んで行き、40cm程になる。
モフモフの四つ球ミニリュウってとこか。ああ、カワエエなぁ。
「エヴァ!リルの事頼むぞ?」
『あ、ああ///べっ別に構わんから、さっさとこっちに寄越せ!』
フフフ、エヴァは可愛いモノ好きだからな~。
ニンマリしてるし、左右に振られる尻尾が見えるようだ。
もう一度モフっとすると、リルを離し『闇』に入れると、
狙いと寸分違わずエヴァの上に落ちて行った。
『あぁあ、モフモフだぁ///ふふふふふ、モフモフ~もふもふ~♪』
13Gピクセル・ブルーレイ録画ッッッ!!
PERFECT!!これでかつる!!
「充電フル。
さて、そろそろ真面目に行きますかね。――まぁ、適当にな。
愁磨、自由に!!行っきま―――す!!!」
と、俺が軍に飛んで行ったんだが・・・・・
なんだあいつら?もう勝鬨上げてんのか?
最早世界が変わりっぱなしって忘れてるな。
全く・・・、それくらい気付こうぜ・・・・。
さてさて、そんなふざけた幻想はぶち殺してやらないとな。
ドォォォォォォン!!!!
「やぁやぁ皆様、随分と俺を過小評価してくれているんだねぇ。
劇はこれから終演を迎えるんだぜ?
さぁてめぇら。小便はすませたか?
神様にお祈りは?
部屋のスミでガタガタふるえて命ごいをする心の準備はOK?
――――答えは聞いてない!っけどなァ!!!」
もう遊びはいらない。故に、手加減しつつ全力で、殲滅する。
「『概念情報改変』
『HPへのダメージを魔力と気力へのダメージに変更』
『全損耗率を10倍、余剰ダメージを0.00000000000001倍に変更』」
俺は世界の情報を塗り替える。肉体へのダメージを負えば負うほど、
それは魔力と気へのダメージとなる。
しかも肉体へのダメージ、魔力・気力の消費が十倍になっている。
しかしこれは終結を早めるためだけの、オマケの効果。
本当に重要なのは、死属性の攻撃でも死なない事。
魔力(攻撃手段)と気力(スタミナ)以外は決して減らない。
だから、俺は本気で攻撃出来る。
「汝ら 我が肉に組まれし 唱える者共
絶えたし血と肉と骨の痛み 今し出で唱えよ
アーニ・マラウス・ミーン・マ・シーネ・フェイ・スレスド・ワルー・ウード・
モドルンド・アーク・セトプス!
『激力鬼神三面瘡』!!」
両肩と腹から、救世主が倒したとされる鬼神・魔神・龍神の顔が召喚され、
俺と一緒に詠唱を開始する。
「「「「グレン・ケネ・ヒル・ハルフォード」」」」
神代語を持ちいた、半球形の曼陀羅模様の魔法陣が浮かび出て、
かつて封じられた16匹の悪魔が軍を囲むように召喚される。
「「「「『超原子崩壊励起』!!!!」」」」
唱えると、拷問椅子に張り付けられた悪魔どもから絶叫が木霊する。
「「「「ヴぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」」」」
この魔法は、悪魔の苦痛と憎悪をエネルギーとして、目標の存在を物質的にも霊的にも
完全に、根元のレベルまで分解・消滅させるモノだ。本来は、な。
そして、魔法を喰らった軍約5500人はほぼ壊滅し、全く動かない。
残ったのは、たったの三人。
「ああ、避けてくれて非常に喜ばしい。雑魚共と一緒に斃られては拍子抜けだ。
しかしとても残念だ。俺は先を急いでいるのだが、どうだろう。
見逃しては貰えんかな。」
と言って振り返ると、そこに居たのは竜人と、悪魔や精霊のハーフであろう人間。
基本は白い神官服だが、それぞれ赤褐色、黒紫、水色で飾られている。
帽子には竜や爪、水を模した、胸には剣と楯と蛇と獅子を合わせた紋章が付いている。
そして、上級神官とは比べ物にならない魔力。こいつ等が、現『世界最強の魔法使い』
と謳われる大神官だろう。本来ならゆっくりと戦ってみたいんだがな。
「貴方の様な咎人を見逃せるわけがなかろう。」
「その通りよ。此処で死んで逝きなさい、『白き死神』」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
悪魔っ子は無言ですか。仕方ない。
勿体無いが、一瞬で片づけさせて――――――
「……プッ。」
ん?今何か聞こえた様な・・・・。
「…プフ、……ククク、フッ、………フフフ。」
・・・うん、悪魔っ子、間違いなく笑ってるわ。
「馬鹿ジルダリア、我慢しろ!もうチョイなんだから!!」
竜人のニイチャンが言うと、ジルダリアと呼ばれた少女が――――
「アーハハハハハハハハハハ!!フフフフ、ふ、ゲホゲホ。
あー、恥ずかしい。『貴方の様な咎人を見逃せるわけがなかろう。』
『その通りよ。此処で死んで逝きなさい、『白き死神』』だって!!
カッコイイわジオン、エーリアス!!アハハハハハ!!!」
――イキナリ吹き出した。え、えーと・・・?
「ちょっとジル!!ちゃんとやりなさいよ!!
私だって恥ずかしかったんだからね?!」
「は、恥ずかしいだと?!馬鹿言うな!!カッコイイだろうが!!」
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
「「ジルダリア(ジル)うるさい!!」」
・・・・これ、俺帰っても良いよね?じゃ、そう言う事で・・・・・・
「止まれ、アーカード。誰が言っていいと言った。」
「いや、この雰囲気、もう俺必要ないだろ。」
ジオンの言葉に俺は振り返る。
ジルダリアは膝を付いて咽ていた。エーリアスは背中をさすっていた。
「今のは無かった事にしてください。良いですね?!」
精霊っ子・エーリアスが顔を真っ赤にして睨んで来る。
「ああ。お互いにその方が良さそうだ………。」
「ありがとう、……本当に、ありがとう………。」
エーリアスは座り込んでマジで泣き出した。
ジルダリアは・・・もう駄目だ、手遅れだ。
「ゲフン。で、俺を見逃してはくれないのか?」
「少し待て、…『大転移符』発動。」
符が発動し、軍全員が転移した。恐らく王都に行ったんだろう。
「これで目撃者は居なくなった。さてアーカード、取引と行かないか?」
「ほう、取引出来る状況か?よく考えろ大神官。」
確かにこいつは強いが、俺が本気を出せばデコピンで木端微塵だ。
更に、他の大神官は使い物にならない。
全魔法使い中、さい、きょう・・・・?
「確かに、お前が本気でかかれば俺達など、瞬きより早く死ぬだろう。
しかし、今の戦いで分かったよ。お前は俺達を殺さないってな。」
ほう、『正義の魔法使い』の全員が石頭じゃ無いのは分かってたが、
まさか頂点がそうとは。
「そこで提案だ。俺達は『大魔導士』になりたいんだが、
元老院が中々認めないんだ。と言うのも―――」
「ああ、分かっている。
上から物を言う元老院よりも皆の為の正義の味方"大魔導士"様
の方が大衆への影響力が上だからな。」
「助かるよ、全く。で、遂に明確な条件を出して来たんだ。約定付きでな。
『『白き死神』『黒翼氷帝』『闇の福音』以上三名を無力化せよ』
だとさ。無茶言ってくれるぜ。」
「クハハハハ!!!こりゃまた随分な要求寄越したもんだ老害共!!!」
「ほんとうよ。あんた達の実力を分かってて言ってんだから性質が悪いわ。」
「本当は隠れて貴方が行ってしまうまで待っていよう、と三人で話していたのです。
しかし、見ていて驚きました。
あの出鱈目な戦闘力もそうですが、一人も切らず峰のみで攻撃。
しかし、あの魔法を使われた時には、全員死んだものと思いましたが……。」
どうやらエーリアスとジルダリアは復活したようだ。良かった良かった。
し、しかし・・・・・
「エーリアスさん、ちょっと良いですか?こっちへ。」
「え?ええと、その…、はい……」
と疑いつつもこっちに来てくれる。
「む、何よ?エイルに変なことしたら承知しないわよ!」
「(ジルダリア、あいつが攻撃しようとしたら……)」
「(あいつはは大丈夫だと思う。
ジオンの言う通り、その気ならもうやっているはずだし。)」
「(しかし………)」
聞こえてるっちゅうねん。ま、頭から信じる奴よかずっと良い。
そんな事はどうでもいい。今はこっちだ。
「やれやれ、可愛い子が泣いてるのは綺麗なんだけどな。
だけど俺は見てると辛いんだよ。」
エーリアスの目からまだ零れている涙をハンカチで拭ってやる。
「「『『なっ?!?!?!』』」」
「ん、ちょっと、良いです///あの、やめて…///」
「いいから動かない。号泣するほど恥ずかしいならやらなきゃ良いのに。
そんなに恥ずかしかったのか?」
五人の反応を無視して拭い続ける。
「その、私は、水の精霊の血が四分の一ほど入っていまして、
普通の人より水分が出易いんです。
そのせいで、一度泣くと暫く止められないんです。
しかも、その、もともと涙脆くて///
で、ですから、その///…あの、拭いてくれなくていいです///」
成程、このままやってても止まらんと。仕方あるまい。
「悪いな、はい。ちょっと自分で押さえててくれ。」
「え?あの……。」
そう言うと俺はハンカチを渡し、『創造』を開始する。
「『創造』『付加』人魚の涙を今一度止める薬を是へ。『――Briah』」
そして俺の手に顕れたのは涙型の小さなビン。
精霊の力を鎮静化させる物なんて本来、数時間かけて『創造』するモノだ。
しかし、この世界ではそれが可能になる。それは『創造』の時間短縮。
本来不可能な『創造』にかかる時間を短縮出来るが、制限がハンパ無い。
『平行創造』の禁止、能力の限定、ステータスの大幅ダウン。
つまり戦闘がほぼ不可能になるが、代わりに創造スピードが100倍になり、
俺の『想像』から補完が可能になるため、簡単な言葉で創れる様になる。
「よし、出来た。ほら、これ飲みな。」
そう言って差し出すが、エーリアスは受け取らない。
「って、そりゃ信用できんわな。ハァ。俺が飲んでも意味無いんだが仕方ない。
(キュポン)ンッ、ンッ、フゥ。これでいいか?ホレ、飲め。」
半分ぐらい飲んでから渡してやると、今度は受け取ってくれた。
「え、あの、でも、これ…///えと、そのぉ……///」
なぜに顔を真っ赤にしながら狼狽えるか。手間のかかる・・・。
「(バッ!)ほ―ら飲め飲め。た~んとお飲み~。」
俺は渡したビンを再度掻っ攫い、エーリアスの口に無理矢理突っ込んでやる。
「んんん?!!んんっ、んふぅ、…んっ…んっ…んっ。」
最初は吃驚して嫌がってたが、段々薬を飲み始めた。
・・・・なんか、こう、凄く、エロいです。
「うぅぅ、酷いですよぉ……。…美味しかったですけど……。」
目は潤み、口元には薬が垂れ、顔は赤い。ディモールト、PERFECT・・・!!
何この子、狙っているのかしら?
「ってあれ?嘘、本当に止まってる……。
精霊を抵抗(レジスト)しても止まらなかったのに、なんで……。」
「ほら、ボーっとしてないでハンカチ寄越せ。」
なんか無抵抗なエーリアス。多少抵抗して貰った方が興奮すゲフンゲフン!!
ま、まぁいいか。残ってる涙と口元を拭って、と。
「ふむ、後は、『治癒』。良し、これで綺麗になった。」
初期治癒呪文で、赤くなってる目を治してやる。
「あ……。あ…、ありがとうございます……///」
そう言って微笑むエーリアス。
「ウム。やっぱり、美少女は笑っているのが一番だな!!」
「そ、そんな///美少女だなんて、そんな///」
クネクネし出したエーリアスをほっといて、ジオンと話を再開する。
「さてジオン君、俺は勢力争いなんて興味無いし、
お前らの目的も知ったこっちゃないが、お前等に協力した方が楽そうだ。
よって、その提案、受け入れる事にする。」
「おお!本当か?!感謝する!!」
俺の手を握ってブンブンするジオン。ええい、鬱陶しい!!!
「で、具体的にはどうするつもりだ?」
「その前に一つ。……全く考えてなかったが、ここの会話聞かれてないよな?」
「大丈夫だ、問題無い。中から外に行くのは簡単だが、
外から中への干渉は一切出来ない。
その証拠に、転移出来たのに新たに送り込まれてないだろ?
って言うか、大神官てアホばっかか?」
「言わないでくれ……。――それなら良いんだ。
なに、簡単だ。俺らが出て行って兵士たちが喜んでる隙に、
お前は魔力を消して脱出、何処へ也とも行ってくれ。
後は俺達が元老院に、『お前等の力を封じて旧世界に送った』
とでも報告すれば、俺ら大魔導士、お前自由、皆ハッピーエンド。」
「それだと俺達に追手が来そうなんだが?」
「ああ、大丈夫。懸賞金は無期限無効にしておくから。」
「…ふむ、今の条件なら問題無いな。それで行こう。」
「よッし!契約成立だ!!!」
ガッシリ握手すると、三人は世界の外へ向かう――
「んじゃあな!近くに来たら連絡くらいしろよ、アーカード!!
って、そうだ?!アーカードって本名じゃないんだろ?名前教えてくれよ。」
――と思ったのだが、ジオンが俺の名前を聞いて来た。
困るモノでもないし、別にいいか。
「俺の名前は愁磨。愁磨・プテリュクス・ゼクスパール・織原。」
「そうか。じゃ、シュウマ!今度は飲もうぜ!!じゃあな。」
「随分大層な名前なのね。あんたと悪戯したら面白そうだから、
今度遊びましょ。それじゃあね、シュウマ。」
「あの…、偶に遊びに来てくださいね///さようなら、シュ、シュウマさん。」
「おう!お前らも元気でな~。またな!!」
いや、なかなかに良い奴らだった。
違う立場だったら、気兼ねなく友達になれたのかもな。
―――いや、今はもう友達だから関係ないか。
『シュウ、私達忘れて、随分とお楽しみだったじゃない?』
『兄さまは女に見境が無いのだな。誰彼構わず優しくしおって!
しかも、私にはあれだけ渋ったのに、初対面の相手に簡単に名前教えよって!!』
と、二人から嫌味がかかる。嫉妬深い姫様達だなぁ。
「ハイハイ、後でかまってやるからそう怒るなって。
……………二人とも、ちょっといいか?……『召喚』」
俺の前に魔法陣が出て、『闇』から二人が出てくる。
「ちょっとシュウ!!私という者がありなが、ら……?」
「兄さま!!初めて会ったばかりの女、に、………兄さま?」
激昂していた二人だが、俺の様子がおかしい事に気付いたらしく、
そのなりを潜める。
「エヴァ、ノワール。俺がさっきの戦いで思った事を聞いて欲しい。」
そう言うと二人は困惑しながらも頷いてくれる。
「……これからはエヴァと別れて旅をしようと思う。」
「「………………え?」」
俺の言葉に二人は更に分からない、といった顔になる。
「に、兄さま?い、今、なんて……?」
エヴァは震えながら俺に聞いてくる。
「エヴァとはこれから別れて旅をする、と言ったんだ。」
「そ、んな、なんでだ……?なんで、そんな事を言うんだ?兄さま?
わ、私を…嫌いに、なったのか?」
「……シュウ、理由を話してちょうだい。でないと納得できないわ。」
エヴァは泣きそうになっているが、ノワールは冷静だ。
俺の考えてる事が分かるんだろうな。
「勿論だ。…エヴァ、お前は強くなった。俺の誇りだ。
だけど、お前には経験が足りないんだ。」
「……え…………?」
そう。このエヴァには、『一人で戦った』経験が足りない、いや、無い。
俺がずっと育て、ずっと鍛え、ずっと守って来た。来てしまった。
エヴァが持つのは吸血鬼の力と、膨大な闇の魔力、ただそれだけ。
エヴァに才能は無い。原作でフェイトと互角に戦えていたのは、
一重に辛い過去に裏打ちされた経験があったからだ。
しかし、それを俺が奪ってしまっていた。
修業で非情になれず、死に迫らせる事が出来なかった。
抱くはずだった、あらゆる憎しみを無くしてしまった。
俺が殺しすぎたせいで、他人の死に罪を感じなくなった。
危険な相手は俺が瞬殺し、本当に危険な状況に置かなかった。
そのせいで、自分の命の危機に触れられなかった。
「お前の力は、上級神官に匹敵、いや、それ以上だ。
しかし、その程度では困るんだ。お前は、大神官に勝てない。
その程度では、俺に着いて来れない。」
俺は、アークからもう一つだけ情報を得ていた。
それは、『ナギ・フェイトⅠ・大神官・エヴァの戦闘力』だ。
結果は、『ナギ>=フェイトⅠ>>>大神官>>エヴァ』。
原作では少なくとも『フェイト=エヴァ』であったのに、
今のエヴァは俺のせいで、こんなにも弱い。
原作まであと350年。エヴァに経験を積んで貰う為に――――
「だからエヴァ、お前とはここで一旦お別れだ。」
俺の思いは伝えた。後は、エヴァを説得するだけ。これが一番難問なんだがな。
「………分かった。兄さま達とはここで別れよう。」
…難問、だと思って、必死に考えていた理論は、一瞬で必要無くなった。
「分かっていたよ。気付いていないとでも思ったか?
私は兄さまに守られて、自分の身を守れていない事くらい。
兄さまといたら、兄さまは私を完璧に守ってくれるが、
だが、私はそんなのまっぴら御免だ!!私の目標は、兄さまだ!!
何時までも一緒に居ては駄目なんだ!だから、兄さま、姉さま………。」
ああ、ウチの小さい姫様は、何時の間にかこんなに成長していたのか。
「今は、サヨナラだ!!
我々は不老なのだから、いつか会えるさ!!」
なら、もう俺達が手を出すことは無い、のだが。
だが、しかし!!
「エヴァ、俺達の代わりに、これを持っていけ。お守りだ。」
そう言って渡すのは、黒い羽と白い羽が交差しているチョーカー。
能力は・・・
『エヴァに15禁以上、もしくは、エロい危機が迫った時に、俺が召喚される』だ!!
――――痛い痛い!物を投げるんじゃない!!
シリアスは投げ捨てるモノなんだよ!!!
エヴァは穢させん!!嫁にもやらん!!欲しければ俺を倒して行け!!!
「ククク、吸血鬼がお守りを持つとはお笑いだな。
だが―――、ありがとう。一生大切にする。
それではな、兄さま、姉さま!!またいつか会おう!!!」
「行ってらっしゃい、エヴァ。車に気を付けるのよ。」
「知らない人に着いてっちゃ駄目だからな。」
「お前等は私の親か!!?全く、じゃあな!!」
「ああ。またな、エヴァ。いずれ、因果の交差路で。」
バシュゥ!!という音と共に、エヴァを旧世界に送った。
これでいい。
これで、『これ』に関係ないエヴァは助かる。
「さて、シュウ。本当の目的を…いえ、エヴァのも本気だったわね。
二つ目の目的は、一体何?」
流石、ノワール。そこまで気付いてたか。
「ああ。俺の経験もだいぶ溜まったし、武装の貯蔵も十分だ。
―――偉そうに人間の上に突っ立ってる、『神』の殲滅に向かう。」
そう。俺の今回の真の目的は、武装の調整。
ノワールとの模擬戦と、今回戦いで使った感じで分かった。
―――あいつらは、本気の俺の足元にも及ばない。
神の名を冠しているが、所詮は天使。しかも、全盛期より遙かに劣る軍。
ノワールだけでも勝負は見えている。
「さぁ、ノワール、行こうじゃないか。偽の神の世を終わらせに!!!」
「フフフ、Yes、mymaster.ああ、本気で戦えるなど、何千年ぶりか。
あぁあ、血が滾る!!」
ノワールが若干昔の女王様形態になってるな。踏んで欲しい。
「愁磨、行くぞ!グズグズするな!!!」
「了解です、姫様。さぁ、『神の許へ連れて行け』!!!」
――――ィィィィィィィィィィン!!
羽音の様な高い音が響き、
―――バシュゥン!!!
俺とノワールはあの世界へ転移した。
最後に聞いたのは、塗り替えていた世界が硝子の様に砕け散る音と、
軍の勝鬨の声だった。
Side out
後書き
魔人、お友達(?)ゲット。
ページ上へ戻る