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第十六話 紅の弓兵、蒼の槍兵
前書き
二週間ぶりです。
それでは投稿します。
アスナが狂人と対峙している頃。
数百メートル離れた所にある一組の主従が居た。
「おいおい、やけに派手にやってる奴が居るな」
「あの霧の事?」
「おう、あれは認識を阻害のための結界だ」
辺りよりも頭一つ小高い丘の上。
そこにいるのは二人の槍使い。
「という事は、サーヴァント…?」
「しかもこんな事の出来る奴はキャスターしか考えられねぇ」
二人は、聖杯戦争の参加者でもあり、聖杯を求めていた。
「キャスターって事は、確か一番弱いクラスだよね?」
「そうだな…。で、どうする嬢ちゃん。いっちょケンカでも売ってみるかい?」
男の方が女の方へと問いを投げる。
男はいかにも早く戦いと言わんばかりに眼をギラつかせている。
「……どうせ、最後には全員倒す事になる…。だったらなるべく早い方が良い」
「じゃあ、仕掛けるかい?」
再度、男は女に問いを投げる。
女の眼には迷いがなかった。
「うん、行こうランサー」
サチはランサーにそう答える。
ランサーは答えを聞くと、口元を綻ばせサチを抱えて戦場へと駆けだした。
槍の主従の聖杯戦争の第一戦が始まる。
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『伏せろ』
突然そんな声が私の耳に届いた。
妙に聞き覚えのある声。
私はその声に従うように、慌ててその場に伏せ頭を抱えた。
その途端、空からいくつもの飛来物が降ってきた。
そしてそれは私の周りを囲っていた怪物達を駆逐する。
飛来物の正体。
それは剣だった。
形も長さも全て同じの細身の剣。
それが怪物達に突き刺さり、肉を断ち、息の根を止めていた。
数刻もしないうちに、剣の雨は止んだ。
辺りにはもう生きている怪物はいない。
全てガラスのように砕けて空気に溶けてしまった。
「すまんな、少々足止めをされて此処に来るのに時間がかかった」
背後から先程の者と同じ声が聞こえる。
「さて、勝手に私のマスターに手を出そうとしたんだ。覚悟は出来ているだろうな」
私のサーヴァント、アーチャーは目の前の男を睨みつけ、私を背に庇うようにして立っていた。
睨みつけられている本人はというと、キョトンと私達を見つめていたが、徐々に表情を崩し、愉快そうに笑みを浮かべた。
「なるほど、邪魔が入らないように辺りに海魔達を放っていたのですが……。まさかお嬢さんがマスターであったとは、これは少々予想外でした」
男はそう言うと、私とアーチャーを交互に見る。
「致し方ありません。今回は準備不足、残念ですが引かせて頂きます」
男の雰囲気が急に変わる。
さっきまでの狂人のような眼ではなく、私達を観察するような眼に変わった。
アーチャーは未だ男を厳しい表情で見つめている。
一挙手一頭足決して見逃すまいという眼つきだ。
「それでは美しきお嬢さん、また会いましょう」
男は平伏するとそのまま後ろへと下り、そして光の粒子と共に夜の闇に消えた。
男が消えると同時に辺りに立ち込めていた霧が晴れ始める。
私達の周りを囲っていた不気味な雰囲気は、霧が晴れると同時に消え、いつもの夜のフィールドへと元に戻った。
「…かはっ……!」
思わず息を吐く。
先程までの緊張の糸が急に切れて、そのまま私はその場に膝を付いてしまった。
「大事ないかね」
目の前を見るとそこには大きな影が出来ている。
アーチャーが私の前に背を向けながら立っていた。
目線だけを私に向けられている。
「…え…あ―――――あの」
私は正直戸惑っていた。
アーチャーは私が夜のフィールドで狩りをする事に苦言を示していた。
今思えばこのような事を見越して私に言っていたのかもしれない。
私はあの時、アーチャーにきつく当たってしまった事に罪悪感を感じていた。
「あ…あの、アーチャー……」
私はアーチャーに一言謝ろうと口を開く。
だけど、
「来るぞ」
アーチャーが私の言葉を遮った。
私はその一言が何を意味したか、一瞬分からなかった。
だけど次の瞬間
一陣の風が吹いた。
風は私達の正面から。
私は思わず目をつむり、風を受ける。
そして、目を開けるとそこには一組の男女が立っていた。
「おいおい、なんだぁ―――。終わっちまったのかよ…ちょいと出遅れちまったな」
男の方が口を開く。
不満げな表情を見せ、辺りを見回している。
男は、私よりも20cm以上高く、青のボディースーツを着ており、その上からでも鍛え上げられた肉体が見て取れる。
眼光は鋭く、今にも人を射殺さんといわんばかりに光り輝いている。
そして何より、彼の持っている槍が異質で存在感を放っていた。
その槍は、何人もの人を殺してきたと言わんばかりに、深紅に染め上げられ、殺気が溢れ出している。
体が動かない。
さっきの狂人のような男とは、全く違う圧迫感。
声も出せなければ、呼吸も困難になってきた。
生身の体であれば、おそらく体中から冷や汗が吹き出してるだろう。
私が動けないでいると、次は少女が口を開いた。
「逃がしちゃったのは仕方ないわ。また次の機会にしよう。それより…」
少女はそう言うと、下に落としていた目線を上げ、私達を見つめた。
ひどく冷ややかな視線。
冷静に私達見ているが、その眼は敵意をありありとぶつけてくる。
「キャスターの野郎を狩ってやろうと思ったらとんだ嬉しい誤算だな。まさかキャスター以外の奴が此処に居るなんてよ」
朱槍担いだ男は、アーチャーを見つめ好戦的な笑みを浮かべる。
視線を受けるアーチャーは
「投影開始(トレース・オン)」
静かにそう呟くと、両手に見慣れた黒と白の双剣を生み出す。
「へぇ」
男は不気味に口元を歪める。
「……いいねぇ、そうこなくっちゃ。話が早いヤツは嫌いじゃあない」
旋風が舞う。
男は担いでいた真紅の槍を手中で数回回すと、腰を落として構えた。
「ランサーの……サーヴァント」
私は思わずそう呟いた。
以前、アーチャーが私に説明してくれた事が頭の中によぎる。
槍使いの英霊で、全てのサーヴァントの中で最速の存在。
「へぇ……。ある程度の知識はあるみてぇだな」
嬉しそうに私を見つめるランサー。
「如何にも。そう言うアンタのサーヴァントはセイバー……」
男はそう言うが、急に二ヤついていた顔を歪め、眼光鋭くアーチャーを睨みつける。
「……って感じじゃねぇな。何者だ、テメェ」
先程までの軽薄さなど微塵もない。
殺気の固まりとなったランサーに対して、アーチャーはあくまで無言。
「ダンマリか……。ふん、テメェがどこの英霊かは知らねぇがいずれは倒さねぇといけない相手だ」
私達と彼等の距離は5mも無い。
最速と呼ばれるランサーからすれば、この距離なんて意味はない。
そう思えた。
「セイバーでもなければキャスターとも違う。アサシンでもなければ、ライダーって感じでもない。ましてやバーサーカーなんて論外」
ランサーは一人で呟きながら、思考する。
「……俺にはテメェが真っ当な一騎打ちをするタイプには見えねぇ。って事はアーチャーか」
ランサーが答えへと導き、嘲様な口調で話すがアーチャーは何も言わない。
二人は互いに睨み合ったままその場を動かずにいた。
「どうするお嬢ちゃん。此処で仕掛けてみるか?」
ランサーは背後にいる少女へと声を投げ掛ける。
少女は先程からジッとこちらを見続けていた。
右手には槍を持ち、その右手を支えるように左手で手首を握っている。
そして、その左手の甲にはマスターの証である赤い紋様が光り輝いていた。
「予定とは違うけど、逆に好都合かもしれない」
少女は静かにそう呟くと、ランサーの背中へと視線を移す。
そして再びアーチャーへと視線を戻し、口を開いた。
「ランサー、全力で戦って」
少女の声が私たちの耳に届いた。
後書き
原作でもおなじみのこの二人の対決。
来週あたり投稿できるように頑張ります。
感想、評価はいつでもお待ちしています。
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