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ドン=ジョヴァンニ

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第二幕その九


第二幕その九

「さっきマゼットを酷い目に遭わせたのは」
「私をあざむいたのね」
 エルヴィーラも言うのだった。
「まさか」
「しかも何かをしでかす為にここに来たのか」
 オッターヴィオはこのことをレポレロに問うた。
「どうしてなんだ?」
「もう許さないわ」
「私もよ」
 エルヴィーラとツェルリーナは本気で怒っていた。
「もう絶対に」
「覚悟しなさい」
「いや、僕にやらせてくれ」
 オッターヴィオも名乗り出るのだった。
「この男は許せない」
「いえ、僕がやり返します」
 レポレロがとりわけ怒っていた。
「さっきはよくもやってくれたな」
「ですから私じゃないですよ。許して下さい」
 レポレロはその彼等に囲まれながら必死に泣いて懇願していた。
「お慈悲を、どうかお慈悲を」
「お慈悲をって」
「またそんなに謝って」
 皆まずはレポレロのその泣いて懇願する姿に拍子抜けしてしまった。
「はいつくばってまで」
「そこまでしなくても」
「訳をお話します。しかしですね」
「しかし?」
「あたしがやったんじゃないですよ」
 このことを必死に言うのだった。
「エルヴィーラさん」
「え、ええ」
「ずっと最初にいましたよね」
 エルヴィーラにアリバイの証言を頼むのだった、
「一緒に。それにです」
 彼はさらに言うのだった。
「ツェルリーナさん」
「どうしたの?」
「マゼットさんのことは知りませんし」
 それは本当に彼の知らないことである。だから本気で話すのだった。
「ずっとエルヴィーラさんと御一緒だったんですよ。それで何ができるっていうんですか」
「そういえば確かに」
「言われてみれば」
 ここで皆顔を見合わせて言い合うのだった。
「その通りよね」
「そうだね」
「オッターヴィオさん」
 オッターヴィオに対しても言うレポレロだった。
「信じてくれますよね、アンナさんも」
「どう見たって嘘をついてるようには見えないし」
「そうよね」
 オッターヴィオもアンナもそれは肌でわかった。
「彼は今は」
「そこまで演技が上手ではないみたいだし」
 そうしたところまで見抜くアンナだった。
「これはどうも」
「その通りね」
「化けていたことは申し訳ありません」
 レポレロはまだ平身低頭だった。
「本当にすいませんでした!」
 そして隙を見ていきなり立ち上がり全速力で逃げ出した。それはまさに脱兎の如くであった。
「あっ」
「もう逃げた」
 皆またしても唖然となった。今度はレポレロの逃げ足の速さにだ。
「それにしても何て速い」
「もういなくなったわ」
「皆さん」
 その中でオッターヴィオが一同に告げてきた。
「あの男がアンナの御父上を殺した犯人であることは間違いありません」
「そうですね」
「確かに」
 ツェルリーナとマゼットが今の彼の言葉に頷いた。
 
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