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ドン=ジョヴァンニ

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第二幕その三


第二幕その三

「私は後悔し続けているのだ」
「いえ、嘘よ」
 流石にここでは疑念も生じさせたエルヴィーラだった。
「貴方を信じないわ、この悪党」
「信じてくれないのか」
「信じられないわ」
 こう言うのも当然のことだった。エルヴィーラが言うのも。
「信じてくれないのなら私は死のう」
 ここでも演じるジョヴァンニだった。
「今ここで」
「あのですね」
 呆れ果てたレポレロはここでジョヴァンニに対して囁いた。
「これ以上続けたらあたしはもう笑ってしまいますよ」
「さあ、愛する人よ」
 だがさらに言うジョヴァンニだった。
「ここにおいで」
「神よ、これは何という試練でしょう」
 そう言われてまた嘆きの言葉を出すエルヴィーラだった。
「行くべきか止めるべきかわからない」
 そしてこんなことも言った。
「御守り下さい、軽々しく信じてしまう私の心を」
「さて、これでいい」
 ジョヴァンニはエルヴィーラの声が何処かに消えたのを確認して満足した笑みを浮かべた。
「陥落は時間の問題だ。私のようなことができるのはそうはいないぞ」
「嘘偽りの多いその口は女の人をたぶらかしてばかり」
 レポレロはここでまた一人呟くのだった。
「神様はあの人の心を守ってくれるのかね」
「さて、どうなるかだな」
「旦那の心臓は青銅でできてるんですか?」
 ジョヴァンニのあまりものやり方に思わずこう返すレポレロだった。
「本当に。どうなんですか?」
「あの女がここに来たらだ」
 だがジョヴァンニはレポレロの皮肉に構わずに彼に言うのだった。
「行って抱いてやるのだ」
「抱けばいいんですね」
「そして二言か三言優しく囁くのだ」
「囁くんですね」
「私の声を真似てだ」
 こうも言い加える。
「そしてあの女を何処か他のところに連れ出すのだ」
「若しそれであたしだってばれたらどうするんですか?」
「御前が上手くやれば気付くことはない」
 また随分と無責任な言葉だった。
「御前さえ上手くやればな」
「あたしがって」
「さて、開いたぞ」
 言っているそのそばからだ。そのエルヴィーラが今いる家の扉が開いたのだった。
「それではな」
「あたしがって」
「どうするか見ておいてやる」
 完全にレポレロになりすますつもりであった。
「御前の姿でな」
「とんでもない山師だ」
「私はここよ」
 エルヴィーラは闇夜でもわかる程に顔を赤らめさせていた。そのうえで扉から出て来たのである。
「ここにいるわよ」
 そしてさらに言うのだった。
「私の涙がその心を清めたと信じていいのね。最愛のドン=ジョヴァンニは後悔して私のところに戻ってきたと。そう信じていいのね」
「その通りだ」
 レポレロはジョヴァンニの口真似と声色を作って言うのだった。
「エルヴィーラよ」
「酷い人」
 だがここでエルヴィーラはこうそのジョヴァンニだと思っているレポレロに対して言うのだった。
「私がどれだけ多くの涙を流し多くの溜息をついたのか知らないの?」
「私がか」
「そうよ、貴方がよ」
「気の毒に」 
 こう言ってエルヴィーラに歩み寄るレポレロだった。何とかジョヴァンニを演じている。
「だがもう」
「私をもう離さないのね」
「勿論だ」
 ここでエルヴィーラを抱き締めるのだった。エルヴィーラは体格も背丈もジョヴァンニとは違うことにまだ気付いてはいなかった。
 
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