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戦国異伝

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第百二十八話 促しその十一

「してその返事を寄越せと」
「殿に再び上洛の要請ですか」
「それでありますか」
「これは命令じゃ」
 要請どころではなく、というのだ。
「まさにな」
「命令ですか」
「そうじゃ、一月以内に返事を寄越せと書いておる」
 それも書いてあるというのだ、刻限までも。
「若しそれを寄越さぬ場合は」
「何とでしょうか」
「何と書いてあるのでしょうか」
「その際は覚悟せよと書いておるわ」
 つまり攻め込むというのだ、越前に。
「何も言わぬ場合はな」
「何と、そこまでですか」
「右大臣殿はそこまで強く仰っているのですか」
「右大臣なぞと呼ぶのではない」 
 義景は家臣達に信長を官位で呼ぶことを禁じた、見ればその顔は沸騰している様に真っ赤である。
「あれは尾張の大うつけじゃぞ」
「左様ですか、それでは」
「これからはですな」
「うつけと呼べ」
 それでいいというのだ。
「わかったな」
「ですか、わかりました」
「ではその様に」
「そうせよ、よいな」
「して殿」
 宗滴は怒る義景にあらためて問うた。
「織田殿へのお返事はどうされますか」
「誰が送るか」
 義景は怒った顔のまま答えた。
「わしは朝倉家の主ぞ、織田家なぞに頭を下げられるか」
「だからでありますな」
「そうじゃ」
 まさにその通りだというのだ。
「ここはせぬ」
「しかしそれでは」
「ふん、戦でも何でもしてやろうぞ」
 怒りのまま取り返しのつかないことを決めた、とはいっても彼自身はそのことには全く気付いていないままだ。
「朝倉家の力を見せてやるわ」
「戦ですか」
「一月ある」
 それだけあればだった。
「戦の用意は出来るな」
「それは充分にあります」 
 宗滴は頭を垂れて答えた。
「二万の兵に」
「では問題ない、返事なぞ送るものか」
 無論上洛もしないというのだ。
「あのうつけには頭を垂れんわ」
「畏まりました」
「所詮尾張や上方の兵ばかりじゃ」 
 義景は織田の兵の話もした、彼にとって都合のいい解釈をする為に。
「弱兵ばかりではないか」
「確かに兵は弱いです」
 このことは宗滴も否定しない。
「織田の兵は」
「そうじゃな」
「しかし数が違います」
 十九万、それに対して朝倉は二万だ。
「あまりにも」
「そのことか」
「このことについてはどう思われますか」
「だから弱兵ではないか」
 またこのことを言う義景だった。
「所詮はな」
「只の、でありますか」
「そうじゃ、尾張の兵のことは大叔父上も御存知の筈じゃ」
 戦ったことはないがそれでもだというのだ。
「あの国の兵は天下きっての弱兵じゃ」
「それはその通りであります」
「しかも伊勢だの近畿だの播磨などとな」
 織田の領国の殆どである。 
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