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鋼殻のレギオス IFの物語

作者:七織
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五話

 戦いの前には空気に満ちる匂いが変わる。その変化は微細ながら酷く刺激的で、鼻の奥に水が流れ込むような痛みに似た錯覚を伴うのが常だ

「そうは思いませんか?」
「戦いの前はいつも、空気が変わる。何か変化を感じるのも不思議ではなかろう」
「リンテンスさんはどうですか?」
「ない。下らん感傷に浸る暇があれば、正拳突きを一万回でも繰り返したらどうだ」
「それはそれは。ご忠告どうも」

 サヴァリスの問いに、二つの対照的な答えが返される
 ここにいるのはサヴァリスの他に二人。先に問いを返したカルヴァーン・ゲオルディウス・ミッドノット、並びにリンテンス・サーヴァレイド・ハーデン
 つまり此処には、グレンダンが誇る最高戦力である天剣が、三人もそろっていることになる

「それにしても、ここに立つのは久しぶりですね」

 彼ら三人が立っているのは都市の外では無い。他の都市と比べ、汚染獣との遭遇が高いために大きく作られた都市の外縁部に三人は立っている
 本来、彼ら天剣授受者が相手をするのは老成体と呼ばれる強力な個体にほぼ限られるため、戦うのは都市の外になる
 そのため、この場所に立って汚染獣と戦うなど、彼らにとって久しくなかったであろうことである
 ちなみに、サヴァリスに限って言えば、とある少年を追い回してここに来ることが何回か会ったのだが、それは忘れている

「本当に此処でいいんでしょうかね?」
「デルボネが……あの死にかけが来ると言った。億に一つも外れはしない」
「ですがその後すぐに眠ってしまったのでしょう? いっそぽっくりいってしまえば席も空くというのに」
「彼女はまだ現役で健在だ。不謹慎な事を言う出ないぞサヴァリス」
「カルヴァーンの言うとおりだ。代わりがいなければ、その席は空いたままだ」

 サヴァリスの答えに、微妙にずれた答えを返す二人
 比較的常識人で苦労者のカルヴァーン、常に不機嫌そうで無愛想なリンテンス、常に笑顔を絶やさない戦闘狂のサヴァリス
 まったく異なる性格を持つ彼らをこの場に集めたのは、天剣の一人にしてその中で唯一の念威能力者、デルボネ・キュアンテス・ミューラ
 百を数えようかという老女で、日々の大半を病院で眠る彼女は、今日の不意を突く襲撃を察知し、眠りから覚めて女王に報告したことで彼らは此処に集められたのだ

「何か反応はあったか、リンテンス」
「無いな」

 カルヴァーンの問いに、短く答えるリンテンス。その手には既に復元された、革手袋のような形態の天剣が展開されている
 幾多もの鋼糸を伸ばし、外の様子を探っているのだが、未だ何の反応もない

「だが、デルボネの言うようにベヒモトならば分からん。あれは鋼糸の死角をついてくる」
「そうらしいですね。カルヴァーンさんは何か知っていますか?」
「確かに前回に襲われた際私は既に天剣であったが、撃退に出たのは別のものであったのでな。詳しくは知らぬ。だが、名付きの老成体ともならば奇怪な変化を遂げていてもおかしくはあるまい」

 そう、それが彼ら三人が集められた理由
 名付き。一騎当千という言葉が温く感じるほどの戦力を持つ彼らが撃退に出、仕留める事が出来ず逃がしてしまった相手に此処、グレンダンで送られる称号。最強とされる老成体の中でも、更に一層強力な個体
 老成六期ベヒモト。それが今回相対する相手である
 相手が相手だけに、ここには三人しかおらず、一般人はシェルターに、他の武芸者は万が一に備え王宮に集まっている
 もっとも、万が一が訪れるなど、信じている者はいないが

「しかし、都市外戦装備をつけるなとは一体どういうことなのだろうか。聞く前にデルボネ殿は眠ってしまったが」
「戦ってみればその理由も分かる」
「事前の情報とは大切なものなのだがな」
「千億の推測よりも、一つの行動だ。来るぞ」

 声の調子を変えぬまま、リンテンスが告げ、地面の揺れが起こり、すぐさま耳をつんざくような音が続く
 揺れが来る前に既に各々の天剣を展開し終わっていた彼らの前に、それが現れる巨大な姿が太陽光を遮り、視界が闇に覆われる
 見上げた先に、二つの淀んだ白い塊。まるで無数の岩の塊を泥沼に浮かべたように蠢いている

「まるで巨人のようだな」
「ここまで大きいのは初めて、ですかねぇ」

 そう言いながらも、彼らの表情に不安などの色は一切ない
 リンテンスはいつもと変わらず無愛想なまま、カルヴァーンは僅かに顔を厳しく引き締め、サヴァリスは笑みを一層濃くしたまま立ち向かう

「では、始めましょうか」

———外力系衝剄変化  剛力徹破・咬牙
———外力系衝剄変化  閃断

 同時に動き出し、二手に分かれたサヴァリスとカルヴァーンが技を放つ
 その技は複雑なものなどではなく、広く知られているもの。だが、そこに込められた剄量は異常の一言
 ベヒモトの両手首が、同時に破壊され、切られた両手を残し、本体は地面へと落ちる
 その様子に肩透かしをくらったように感じる。こんなものが名付きなのかと

「!? 避けろ!」

 落胆していたサヴァリスの所に、カルヴァーンの声が届く。何事かと後ろを見れば、そこには異常に膨張した取り残された両手
 轟音と共に岩のようなに散りばめられた鱗が飛び散る。すぐ傍で、警戒が薄かった事もあり、刃のようなそれがサヴァリスの体を薄く切り刻む

「なるほど、これが此処で戦う理由ですか」

 都市の足の上に立ち、体を見下ろせば、あちこちで薄く血がにじんでいる。もし都市の外で戦い、これを喰らったならば装備が耐えられず、体が外気にさらされてしまう
 いくら天剣が強かろうとも、戦えなければ意味がない

「まったく、陛下たちも意地が悪い。教えてくれればいいものを」

 そういいながら、気を引き締めなおす
 同じ程の距離にいたはずなのに、カルヴァーンは無傷。体の周囲を覆う剄技、刃凱と呼ばれる彼独自の技が身を守ったのだろう。後方にいるリンテンスに傷がないのは言うまでもない
 今この場で傷を負っているのは自分独り。先ほどカルヴァーンが異変に気付いたのは、経験のなせる技なのか
 みればベヒモトは再び動き出している。爆散した残骸は本体に向けてうごめき、見下ろせばその本体は地面と同化している

「地面と同化しているのか? そういう進化とは、とことん常識から外れているね。それに切り捨てても元に戻るとは、半ば不死のようなものですかね」

 外縁部に一人残ったリンテンスが左腕の鋼糸で持って自身の前に壁を作り、右腕でベヒモトへと仕掛ける

———操弦曲・跳ね虫

 幾多もの鋼糸によってその体が抉り削られ、残骸を飛ばす中、それをかいくぐりながらサヴァリスは自身もベヒモトとへと向かう

「もう少し穏やかにやらんか!」

 自分よりも先に戦場へと戻り、愚痴を言いながら剣を振るうカルヴァーンに続き、全力の剄を込めた拳をぶち込みながら笑みを浮かべる
 自分とは違い、無傷で自身よりも上だろう同僚二人に、三人がかりで未だ成果が見られない相手。その事実が、サヴァリスを高揚させる
 今この瞬間が、楽しくて楽しくてしょうがない

「まだまだ、これからですよ」








「あれ、かなぁ。きっと、サヴァリスさん笑ってるんだろうな」

 そう呟きながら、レイフォンは外縁部で行われ続けている戦闘を観戦する
 ここは王宮。老成体の襲撃に対し、万が一に備え武芸者が集められた
 そしてそれが二日前のこと。つまり、三日連続で戦闘が続けられているのだ
 本来ならば、余り自由に出歩いてはいけないのかもしれないが、万が一、つまり天剣が敗れるなど誰も思っていないため、さほどみんな気にしてはいない
 そのため、王宮の中であるならば、立ち入りが禁止されている区域を除き、ある程度自由にしても問題はない

 何もしないのはそろそろ暇なので、その為レイフォンは活剄によって視力を強化し、人気のあまりない所で外縁部での戦いを観戦している
 天剣の戦いなど、基本は外で、それも一人で戦うため見ることなどめったにできない。その為、いい機会だとしてレイフォンは観戦を、言い換えるならば身稽古をしている

 少しでも多くの金を稼ぐには、少しでも強くなって多くの汚染獣を倒すのが今のところの一番だ。かつて見た天剣、カウンティア・ヴァルモン・ファーネスとリヴァース・イージナス・エルメンの二人の技は見て自分でも使うことが出来た
 少しでも使える技は多いほうがよく、サイハーデンの技を封じた今の自分では特にそれが重要なので、今回も何か無いかと目を凝らして見ている。それに

(なんとかしないと、そろそろサヴァリスさんがなぁ)

 ここ最近のことを思い出すだけで涙が出そうになる

—————



『やあ、レイフォン・アルセイフ。今度は逃がさないよ』
『天剣で無い君に避けられるたびに、自分の未熟を思いしれされるよ、レイフォン・アルセイフ』
『やあレイフォン。今度こそ殺し合おうか』
『はは、いつも同じ手で逃げられると思ったかい?』
『やっと剣を抜いたねレイフォン。さあ、やろう』
『これも避けるのかい? ふふふ、楽しいねまったく』
『では、また今度だ』
『やあ、レイ——————』



—————



「僕が何をした!!」

 つい、そう叫んでしまう
 一回目の街中での遭遇以来、事あるごとに追っ駆けられて殺されかけること十数回
 回を重ねるごとに自身の技術が無駄に上がって行き、その度に相手であるサヴァリスに喜ばれるのが悲しかった
 あんまりにも会うものだから敬称では堅いと言われ、名前で呼ぶようになり、挙句には天剣相手に剣を向け技を放ってしまいもした。無論、喜ばれたが
 殺剄などの技術も上がったため、会う回数は有る程度減ったが、少しでも力は欲しいのだ。主に逃げる方面で
 なぜ、汚染獣以外との戦いで死を覚悟しなくてはいけないのか
 そんな思いを抱きながら、なぜだか滲んできた視界で観戦を続ける

「あれが老成体。たしか名付きだったかな。今まで見た中で一番大きい」

 それに恐らく、恐ろしく強い
 天剣が三人がかりで三日かけているというのに、未だ倒せていない現状がそれを証明する
 そんな事を思いながら見ていると、三人の様子が変化した
 ただでさえ膨大な剄が、今まで以上に膨れ上がり、そして精密に各々の中で研ぎ澄まされ、放たれようとしている
 恐らく勝負に出るのだろう。その為の全力の一撃
 決して見逃しはしないと、レイフォンは意識を集中した








「らちが明かんな」

 そう、カルヴァーンが呟く
 その声に疲労の色などは一切なく、呆れたような色がにじんでいる。三日三晩戦い抜いた程度で疲れるような程度では、天剣になど相応しくは無い。だがそれでも、それだけやって成果が見えなければ多少は嫌にもなろう
 だが、そんなことはどこ吹く風と、高揚はすれど減衰はしない気持ちのままサヴァリスは技を振るう

「これだけ楽しいというのに。僕の邪魔はしないで下さいよ」
「あいにくと、お前ほど戦闘を楽しむ気は無いのでな」
「それはもったいないですね」

 そう会話を続けながらも、二人はベヒモトを潰し続け、その身を辺りに散らし続ける

「この戦いには飽きてきたのは俺も同様だ。そろそろ終わりにしたい。二十四万二千三百秒。こいつの食欲につきやってやるのは十分だ」
「何か策でもあるのか?」

 会話の最中も戦闘は続いている
 ベヒモトの姿は出現当時から変わらず、天剣が三人がかりで進行をとどめることしか出来ない。サヴァリスならず、そう思っていたカルヴァーンは聞き返す

「よく見ろ。規模の差に感覚をやられたか? それともお前らの目は節穴か? 僅かだが縮んでいる」

 その言葉に驚き、改めて敵を見直すが違いがある様には見えない

「完全には復元できていないのだろう。技を放つたび、コンマ以下だろうがいくらか破壊することの成功している」
「よく気がつきましたね」
「それだとしても、長い話だ」

 その話を聞き、そう二人が感想を言う

「最後まで話を聞け馬鹿ども。やつが復元不可能な攻撃とは威力という話ではない。必要なのは点では無く面による攻撃。今までの攻撃は威力では十分だろうが、それがベヒモトという物質の集合体に及ぼす破壊という意味では、まだ足りていなかったということだ」
「ああ、もしかしてベヒモトは群体生命体とでもお考えで?」
「確かにそれならば説明がつくな。細胞かそれ以下のサイズによって構成されているのだろう。ならば、あの自爆にも説明がつく」

 リンテンスの説明に、二人が納得を見せ、その上でリンテンスは言葉を続ける

「面による、全体への短時間の超重圧攻撃でベヒモト全体を圧死させる。それぞれ最大の剄を持って技を放て。初撃を俺が放つ。……準備に十秒以上かかるとは言わんだろうな」

 あからさまな挑発を持って放たれる言葉に、サヴァリスは心が躍る

「では、始める」

 無言を肯定と取ったか、その言葉と同時に破壊が始まる

———外力系衝剄変化  風烈剄
———外力系衝剄変化  渦剄

 荒れ狂う剄により、残骸が外に出され、外縁部の空気が清浄化される
 その間に準備が終わったリンテンスにより、ベヒモトは鋼糸の檻によってあまさず閉じ込められる

———操弦曲・崩落

 音さえも逃さぬ密室により、全ての衝撃が内部へと向かい、ベヒモトを潰しにかかる。汚染獣の悲鳴さえも外に逃すことは無く、その威力は漏れ出る光からしかうかがえない
 おおよそ十秒でもって一時的に剄が尽き、解かれた檻から一目でわかるほどにその体積を減らしたベヒモトが落ちてくる頃には、既に二人は動き出している

———活剄衝剄混同変化・ルッケンス秘奥  千人衝

 二人、四人、八人、十六人、三十二人、六十四人……僅か数秒で、その名の示す千を超すサヴァリスの姿が現れ、右半分を覆う
 空中に漂い、壮絶な笑みを浮かべるサヴァリスはベヒモトの表面に浮かぶ剄に気づく
 その名は刃凱。反対側に居るカルヴァーンが、一片たりとも逃がさぬと思いでもしたのか、それはベヒモトの体の周囲を覆ってい、それだけのことをしているというのに、なんら衰えも見せぬ剄を武器に込めたカルヴァーンが視界に入る

(有りがたい、これは周囲が覆われていればそれだけ威力を増しますからね)

 千を超すサヴァリスの口が開かれる
 先にみせたリンテンスは、あれだけの事をして見せたのだ、情けないものは見せられない。その興奮が収まらないまま、全力を持って技を放つ

———外力系衝剄変化・ルッケンス秘奥  咆剄殺

分子構造を崩落させる振動波が、放たれる




 現在のルッケンスにおいて、自分を除き、誰一人として体得することが出来なかった秘奥を二つ同時に発動させたサヴァリス。ただ莫大な剄を持って叩きつけ、破壊を招いたカルヴァーン
 刃凱によって覆われたことにより、その衝撃は外に漏れることなく内へと向かい、吹き荒れる膨大な頸がベヒモトの体を討ち崩す
 奇しくも、リンテンスと同じく十秒前後。その時間を持って技が解かれ、二人の体は自然落下によって外縁部へと墜落する
 そうして吹き荒れる灰色の粒子が大気を覆う中、ベヒモトは一片の塵も残さぬまま、その姿を消した









「———」

 余りの光景に言葉が出ない
 あれだけの巨体を完全に内に収め、光以外の何物も外に出さぬ球形の結界
 千もの数による衝撃波の同時崩落攻撃
 周囲一帯を覆い切り、本来技ですらないものを技にまで押し上げた絶無の一撃
 その異常さが分かるからこそ言葉が出ない
 一般の武芸者がどれだけ血汗を流し、あがこうとも、足元を見ることさえおこがましい光景がそこに合った
 
 渦巻く剄が終わり、宙に浮いていた二人の姿が下に落ちる頃には、あれだけの巨体を誇っていた姿は既に無く、僅かな灰色の空気をそこに残すのみ
 そして僅かに時間をおき、汚染獣撃退の報が流される
 それを聞きながら、無意識に力の入っていた体の力をレイフォンは抜く

「……凄い」

 やっと出てきた言葉がそれしか思いつかない
 余りの光景に、最近段々と尊敬の念が薄れてきたサヴァリスを、思わず見直してしまうぐらいに感動した
 そして見た光景を忘れぬ内にと、剄を巡らし、見た技を再現する
 まずは刃凱。遠目に見てとった剄の流れを再現する
 まだ余りおぼつかないが、自分の周りを覆うように粘性を持った剄が現れる

 次に千人衝
 自身を流れる剄を意識し、見た流れを持って再現する
 そして現れたのはやや形の精彩を欠いた自分の姿
 流石に秘奥と言われるだけの事はあるのか、一度ではとても無理である
 元々、理屈がわかっているわけではないので、何度も反復してコツを掴むしかないだろう
 それよりも、自分が使えるだろうことがうれしい。これさえ上手く出来るようになれば、サヴァリスから逃げられる確率が格段に上がること請け合いである。逆に喜ばれて相手の殺る気を上げるだろうことには気づかないままレイフォンは技をやめる

 後は咆剄殺だが、流石にここでやるわけにはいかないので、道場に戻ってからとなるため、やることを終えてレイフォンは立ちあがり、孤児院に戻る為に歩き始めながら、最後の一つに思いをはせる
 それは鋼糸
 遠目に見ただけでも、その扱いには異常とも言っていい練度を誇ることが分かったが、出来るならば扱えるようになりたい
 攻撃の他にも、恐らくだが、使い方によっては移動や捕縛などの補助にも使えるはずであり、そうすれば戦闘の幅が格段に広がる

(少しづつ、頑張ってみようかな。一応、青色錬金鋼もあるし)

 そう思いつつ、レイフォンは考え事をしながら帰って行った
 だから気づかなかった。一部始終を映していた念威端子と、それを見ていた物の事を
 それが、サヴァリスに続く第二の相手を呼ぶことになるのだが、レイフォンはそのことを知らない









「どう思う、ティグ爺?」
「ほう、凄まじいのう。あれらを一目見ただけで再現するとは。もしや彼が、最近サヴァリスが熱心な少年かの?」
「そうなのよねー」

 ここは王宮の中の一室。女王であるアルシェイラと三王家の一人にして天剣の一人、ティグリス・ノイエラン・ロンスマイアの二人が念威端子による映像を見ていた

「となると、あの時の決定戦での少年か。確かに違和感があったが、聞いた話では、天剣に成れるだけの剄量を持つとか。この特技を含めても、十分な力を持っておる」
「そうなのよねー。でも、本人は力を公の場じゃ隠してるし。そんな奴を天剣にするわけにもいかないし。いっその事、サヴァリスを倒してくれでもすれば楽なのよねー」
「やる気がなければいいのではなかったのか?」
「いやでも、やっぱ後一つじゃない? 出来るなら十二本埋めたいのよ。何か無いかなー、こう、何か、外堀を埋めていくような感じでさ」
「ならば一つ、いいものがあるぞ」
「え、何々?」

 ティグリスの言葉に、寝そべっていたアルシェイラが体を起こし、瞳を輝かせながら椅子に腰かけるティグリスの方を向く

「わしの孫のクラリーベルがそろそろ初陣に出る頃でのう。誰か後見人はいないかと探しておったのじゃよ。三王家の娘の後見人ともなれば、有る程度の箔付けにはなろう」
「分かったわ。じゃ、お願いね」
「うむ、見た限りなかなかの好青年じゃ。同年代ということもある。孫の為に頑張るとするかの」
「ふふふふふふ。面白いものが見れるといいわね」
「はっはっは。全くじゃのう」

 誰もいない二人の部屋の中、怪しい笑いがいつまでも続いていた


 
 

 
後書き
 二人が見てた念威は、デルボネのものです
 いわく、気になったからだとかそんな感じで
 
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