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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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番外編
番外編4:隊舎防衛戦
  第2話


30分ほどの苛烈な戦闘によって,シグナムとヴィータの2人は,
飛行型ガジェットのほとんどを撃破していた。
2人とも,弾んだ息で残り少なくなったガジェットを破壊していく。
目の前のガジェットにアイゼンを振りおろしたヴィータは,
空振りによってバランスを崩す。
すぐにバランスを取りなおしたヴィータは数えるほどになった自分の
割り振りであるガジェットを見遣り,舌打ちをした。

(また幻影かよ・・・。半分以上実体じゃないんじゃねーか?)

シグナムもまた,実体ではないガジェットの多さに辟易としていた。
目の前のガジェットを切りつけ,次のガジェットに向かいながら
シグナムは嘆息する。

(こう空振りが多くてはな・・・。ヴィータはこういった精神に作用する
 戦術に弱いからな・・・)
 
シグナムはヴィータの方を見ると,念話を送ろうとした。
が,その前にシャマルから悲鳴のような念話が届く。

[シグナム!ヴィータ!新たな敵影よ!数は・・・100近いわ!!]

シャマルからの念話に反応してシグナムが南の方を見ると,小さな点のような
ガジェットが空を埋め尽くすのが目に入った。

[んだと!?おい,シグナム!これじゃあジリ貧だぞ!]

ヴィータからの念話にシグナムは即座に返答する。

[とはいえ,来るものは撃退するしかないだろう。地上はともかく,
空のガジェットは落としておかなければ,退避した非戦闘員を爆撃する
可能性もある]

[わーってるよ。ったく,こんなのキリがねーよ]

ヴィータからの念話が切れると,シグナムは目の前のガジェットを破壊し,
新たに出現したガジェットの群れに向かって飛ぶ。

(ヴィータの言うとおりだ。こんなことはもう長くは続けられんな・・・。
 といっても有効な打開策はなし,これまで通りの戦いを続けるしかないか。
 ゲオルグが居てくれれば,何かアイデアを出してくれるのかもしれんが)

シグナムは増援によって先が見えなくなった戦闘の行く末を思い,
小さくため息をついた。



一方地上では,シンクレアが徐々に追い詰められつつあった。

(くそっ,こんなに数が多いんじゃ対処しきれない・・・
 そろそろ後退しても大丈夫かな?)
 
シンクレアはシャマルへと念話を送る。

[シャマル先生!もう限界なんですけど,後退しても大丈夫ですか?]

[隊舎からの非戦闘員の退避はほぼ完了してる。無理せず後退して,
交替部隊と合流して!]

[了解です!]

シャマルとの念話を終えると,シンクレアは後退する前に密集している
ガジェットに向かって砲撃を放つ。
破壊されたガジェットが爆発したことによる砂塵がガジェットのカメラを
遮る間に,シンクレアは隊舎内部へと後退する。
玄関へと続く通路の曲がり角に身を隠すと,シンクレアはインビンシブルに
声をかける。

「インビンシブル,砂塵が晴れたらここからガジェットを狙撃するよ」

「了解」

スナイプモードに転換したインビンシブルを構え,シンクレアは正面玄関の方に
目を向ける。砂塵が晴れて行くに従って,正面玄関から隊舎へと
侵入しようとするガジェットの影がはっきりと見えてくるようになってきた。
シンクレアは1体のガジェットに狙いをつけると,魔力の弾丸を放った。
弾丸は狙ったガジェットを貫き,その背後にいた別のガジェットをも貫く。
シンクレアはそれを見て軽く笑みを浮かべるが,すぐに表情を引き締めると,
次のガジェットへと狙いをつける。

そうして,何機かのガジェットを破壊したシンクレアであったが,
次々と侵入するガジェットに対応しきれず,さらなる後退を決断する。

(くそっ。ロクに時間稼ぎも出来やしない・・・)

シンクレアは立ち上がり,玄関のガジェットに背を向けた瞬間,
目の前にガジェットの姿があった。

(しまった!)

シンクレアが死を覚悟したその時,遠くから叫び声が聞こえた。

「伏せて!」

シンクレアがその声に反応して床に伏せると,直後に弾丸がガジェットに
突き刺さり,ガジェットが爆発した。
シンクレアが身を起こすと,目の前に共用デバイスを抱えたヴァイスが
シンクレアを見降ろしていた。

「シンクレアさん!?大丈夫っすか?」

シンクレアは爆発の影響で耳鳴りがしていたため,ヴァイスの声が
ぼんやりとしか聞き取れなかった。
が,ヴァイスの口の動きから何を言っているかは理解できたので,
自分は大丈夫であることを伝えるべく,ヴァイスに向かって頷いた。

「そりゃよかった。ここはガジェットに包囲されかけてますから,危険です。
 後退しましょう」

ヴァイスはそう言ってシンクレアに向けて手を伸ばした。
耳鳴りが収まってきたシンクレアは,耳鳴りを振り払うように頭を振ると,
ヴァイスの手を借りて立ち上がって声をかけた。

「ありがとう,グランセニック陸曹。でもなんでこんなところで,
 しかも戦闘を?非戦闘員は退避するように命令が出たはずだけど」

シンクレアがそう言うと,ヴァイスはシンクレアから目をそらした。

「えーっと,なんて言ったらいいかな・・・」

ヴァイスが言い淀んでいると,玄関側のガジェットが2人を狙って
射撃を始めた。

「話は後にしようか。行くよ,陸曹!」

「え?あ,はい!」

退避ルートに沿って後退していくと,近くの部屋から引っ張り出した机や椅子で
バリケードが気づかれているのを見つけた。

「ここで防御線を張ったんだね。交替部隊かな?」

シンクレアはそう言うと,辺りを見回した。
周囲にはガジェットの破壊されたガジェットの残骸が転がっている。

「一度はここまでガジェットが来たんだね。交替部隊は撤退したのか・・・」

「そうみたいっす。玄関から侵入した編隊もたぶんここを通るでしょうし,
 早く行きましょう」

ヴァイスの言葉にシンクレアは大きく頷く。

「そうだね。こんなところにいたらいつガジェットに囲まれてもおかしくない。
 さっさと交替部隊と合流しようか」

シンクレアがそう言うと2人は,緊急時の退避ルートに沿って,
慎重に歩いて行く。

「ところで,陸曹はなんで戦闘なんかしてたの?しかも共用デバイスなんか
 持ってさ。まあ,俺はそのおかげで助かった訳だけど・・・」

しんと静まりかえった通路を歩きながら,シンクレアは少し前と同じことを
ヴァイスに尋ねる。
ヴァイスはぽりぽりと頭をかくと,意を決したように口を開いた。

「実は俺,前は狙撃系の魔導師だったんすよ。
 いろいろあって今は,ヘリのパイロットしてますけどね。
 で,格納庫が最初の攻撃でやられちゃったんで,
 整備士のみんなを安全に逃がすために,そこら辺にあったデバイスを
 ひっつかんで格納庫を出てきたんですよ。
 で,今に至るって感じっすね」

ヴァイスが話を終えると,シンクレアは足早に歩きながら考え込む。

(そう言えば,前にゲオルグさんから渡された資料にそんなことも
 書いてあったな・・・。
 確か任務中の事故で妹さんを撃っちゃったせいでスナイパーとしては,
 引退したんだっけ・・・)

シンクレアはそこまで思い出すと,ヴァイスの顔に目を遣る。

「陸曹はずいぶん優秀なスナイパーだったらしいね。
 ま,ヘリパイとしても十分優秀だけど」

シンクレアがそう言うと,ヴァイスは首を振った。

「そんなことないっすよ。でも,ありがとうございます。
 あと,俺のことはヴァイスでいいっすよ」

ヴァイスはそう言うと,周囲に目を配りながらシンクレアの隣を進んでいく。
しばらく,無言で通路を歩いていると,ヴァイスがシンクレアの方を見た。

「ところで,シンクレアさんって魔導師だったんすか?
 俺はてっきりそうじゃないと思ってたんですけど・・・」

ヴァイスの言葉にシンクレアは何と答えるべきか少し考える。

「えーっと・・・うん。シンクレア・ツァイス3等陸尉は魔導師じゃないよ」

シンクレアがそう言うと,ヴァイスは首を傾げる。

「え?でも,それは・・・」

ヴァイスがインビンシブルを指さしながら尋ねる。

「ん?ああ,これは俺のデバイスだよ」

シンクレアはそう言いながら,インビンシブルを掲げてみせる。
ヴァイスはシンクレアの言っていることにますます混乱したのか,
ガシガシと頭をかきむしる。

「どういうことっすか!?シンクレア・ツァイス3尉は魔導師じゃないって
 言いましたよね?でもインビンシブル・・・でしたっけ?・・・は,
 シンクレアさんのデバイスなんでしょ?訳判んないっすよ」

「・・・ヴァイスは本当にそこを知りたいのかい?」

シンクレアは押し殺した声でヴァイスに尋ねる。

「・・・できれば知りたいっす」

「なら,ゲオルグさんに聞いてみなよ。
 ”シンクレア・ツァイスは何者ですか?”ってね。
 あと,俺が魔法を使って戦っているのを見たことを付け加えると,
 なおいい反応が返ってくるかもね・・・」

「ゲオルグさん・・・ですか?」

ヴァイスの質問にシンクレアは頷きを返す。

「俺は”シンクレア・ツァイスが何者か?”という問いに正しい答えを返す
 権限が無いからさ。ただね・・・」

シンクレアがそこで言葉を切ると,ヴァイスはシンクレアの顔を見つめて
先を待った。

「変な聞き方をして,ゲオルグさんに殺されても知らないよ」

シンクレアがそう言うと,ヴァイスは一気に顔色が真っ青になった。

「・・・そういうことっすか・・・」

「まあね。だからあんまり俺のことは探らない方が身のため・・・」

シンクレアは中途半端に言葉を切ると,厳しい表情で前方を睨みつけていた。
ヴァイスがシンクレアの目線の先を見ると,ガジェットの群れがこちらに
向かって進んでくるのが見えた。

「やばいっすね。下がります?」

「いや,下がっても玄関から侵入した部隊と挟撃されてさらに難しい状況に
 陥るだけだよ。ここは前方の部隊を突破する」

シンクレアはそう言い放つと,近接モードのインビンシブルを握りしめる。

「ヴァイス,俺は突っ込むから援護よろしく。あと,後方警戒もね」

「大丈夫っすか?」

「俺やゲオルグさんが潜ってきた修羅場はこんなもんじゃないよ。
 まあ,任せときなって。じゃあね」

にこやかな表情でシンクレアはそう言うと,前方のガジェットに向けて
走り出した。

 
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