機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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外伝
外伝1:フェイト編
第1話:ゲオルグ・シュミット3尉の初任務
前書き
外伝1ではフェイトとゲオルグの出会いエピソードを描きます。
といいつつ、第1話にはフェイトが登場しませんが・・・
JS事件からさかのぼること8年。
13歳で士官学校を卒業し、次元航行艦シャングリラに魔導師隊の分隊長として
配属されたゲオルグ・シュミット3尉は、配属から1カ月にして初戦闘任務の
時を迎えていた。
魔導師隊の隊長であるミュンツァー1尉とゲオルグは、ミュンツァーの自室で
向かい合って座っていた。
「シュミット。今日の作戦におけるお前の分隊の役割は判っているだろうな」
「はい。B分隊は第2突入点より敵拠点へ突入。中枢部へのけん制攻撃を加え
A分隊の制圧作戦を援護します」
「よろしい。加えて言っておくが、本作戦は奇襲作戦だ。
特に先発するお前のB分隊は中枢部への攻撃開始までは隠密性が求められる。
よって通信の使用も極力控えるように。いいな」
「はい。了解しました」
ゲオルグが大きく頷くと、ミュンツァーは微笑を浮かべて頷き返す。
「よし。分隊長とはいえお前はまだ若い。分隊の皆の力を借りて
確実な任務遂行を期するように」
「はい」
ゲオルグはミュンツァーの言葉に緊張した面持ちで頷く。
「よし、では行け」
ゲオルグが立ちあがり、挙手の礼をしてから部屋を出ると、
ミュンツァーはデスクにある端末を開いてある資料を眺め始めた。
「13歳の3尉か・・・。能力は申し分ないし、素直で理解も早い。
だが・・・」
ミュンツァーは目を閉じて小さくそうつぶやくと、大きくひとつ息を吐き、
ゆっくりと目を開いて端末に目を向ける。
「俺の指示にとらわれすぎることがなければいいんだがな・・・」
一方、ミュンツァーの部屋を出たゲオルグは、分隊の待機室に向かって艦内の
通路を歩いて行く。
分隊の待機室の前に辿りつくと、ゲオルグは表情を引き締めてドアを開ける。
待機室には分隊のメンバー10人全員がそろっていた。
ゲオルグが部屋に入ると、30歳くらいの曹長が近づいてくる。
「おかえりなさい、分隊長。 ミュンツァー隊長の用はなんだったんですか?」
「ええ、ハインツ曹長。ミュンツァー隊長の用は今回の作戦についての
最終確認でしたね。特に新しいことは何もなかったですよ」
「そうですか。 では連中に何か伝えておかなくても?」
ハインツは横目で部屋の奥にいる残りの分隊メンバーを見ながら言う。
「そうですね。 作戦開始前の最終ブリーフィングのときで十分でしょう」
「了解しました」
ハインツとの会話を終えると、ゲオルグは部屋の隅にある自分のデスクに
腰を下ろし、端末を開いて作戦計画書を読み始める。
(B分隊は先発して隠密行動により第2突入点から敵本拠地に突入。
中枢部への奇襲攻撃を実施して、A分隊の中枢制圧を援護っと・・・)
数日前に作戦計画が決定されてから一字一句を記憶できるほど繰り返し読んだ、
計画書を眺めながら、ゲオルグは作戦における自分の分隊の役割を反芻する。
(奇襲攻撃である以上、隠密性が最重要。 通信の使用は極力控えること・・・
うん、大丈夫。すべて頭に入ってる。あとはやるだけだ・・・)
「分隊長、そろそろ時間です」
「え!?」
ハインツに声をかけられ、ゲオルグは慌てて手元の時計を見る。
「あ、はい。 では、皆に話を」
「了解しました。 B分隊、全員集合」
ハインツの呼びかけに従い、残りの分隊員がゲオルグの前に集まってくる。
「時間です。 作戦は事前に説明した通りですが、B分隊の役割は隠密行動が
要求されますので通信の勝手な使用は厳に禁じます。よろしいですね?」
ゲオルグの言葉に分隊員全員が頷く。
「結構です。 では、行きましょう」
艦を出たゲオルグはじめB分隊の面々は、作戦開始時刻を前に彼らの
突入ポイントである洞穴が見える岩陰に待機していた。
洞穴をじっと見つめるゲオルグの隣に、ハインツが膝をつく。
「大丈夫ですか、分隊長」
「はい? 大丈夫ですけど・・・」
「そうですか。 分隊長の表情がいつもより硬く見えたので・・・」
「そうですか? そうですね、初任務ですし緊張しているのかもしれません」
「なるほど」
ハインツは得心がいったというように大きく頷くと、口に笑みを浮かべて
ゲオルグの頭の上にそのごつごつとした手を乗せる。
「大丈夫です。この1カ月、あなたのことを見てきましたが、頭もキレるし
魔導師としての能力もまずまずだ。ポテンシャルは十分です。
あと足りないのは経験です。それを補うために私やあいつらがいます」
ハインツがそう言うと、ゲオルグは鋭い目をハインツに向ける。
「この1カ月間、何度も言ってきたことですけど、子供扱いしないでください」
「そうでしたね、すいません。 おっ、作戦開始時刻ですね」
ハインツの言葉にゲオルグは時計に目をやる。
「確かに」
ゲオルグは傍らのハインツから他の分隊員の方に目を移す。
「作戦開始時刻です。 行きますよ」
ゲオルグの言葉に分隊員は頷いて、その場で立ち上がる。
その様子を見ていたゲオルグも立ち上がり突入ポイントの洞穴の方に向き直る。
その傍らで立ち上がったハインツはゲオルグを見下ろしていた。
「行きましょう、分隊長」
ゲオルグはハインツの顔を見上げて頷く。
「B分隊、突入開始!」
ゲオルグの命令と同時に分隊メンバーが岩陰から飛び出し、
洞穴に向かって駆けだす。
全員が洞穴に取りつくと、ゲオルグは洞窟の中の様子を窺う。
(敵の姿は・・・ないか。よしっ!)
ゲオルグは小さく頷くとハンドサインで分隊員に突入の指示を出す。
洞窟に突入すると、分隊の半分は左側、もう半分は右側の壁面に沿って
静かに奥へと進んでいく。
しばらく敵と出くわすこともなく、そのまま進んでいくB分隊一同であったが、
洞窟を200mほど進んだところで右側を行くハインツの手が挙がり、
分隊全員が立ち止まる。
ゲオルグがハインツの方に目を向けると、ハンドサインを送っていた。
ゲオルグは目を凝らしてハインツの手元を見る。
(なになに・・・右側に事前情報に無い横穴を発見・・・だって?)
想定していなかった情報にゲオルグは考え込む。
(横穴か・・・。 この横穴が行き止まりならいいけど、
もし中枢へとつながる通路だったら・・・。どうしよう・・・。
隊の一部を割いて横穴の調査をしようかな・・・)
だが、ゲオルグはその自分の考えを否定して首を振る。
(ダメだ。別働隊が帰ってくるまで分隊全部をここにとどめなきゃいけない。
なら、隊長に報告して判断を仰ごうか・・・。
いや、無線は使えないから報告はできない。と、すれば・・・)
「分隊長。どうします? 早く決断しないと予定に遅れます」
ゲオルグが考えている間にゲオルグの側に来ていたハインツが
小声で話しかける。
ゲオルグはそれに頷くと考えて出した結論を伝える。
「このまま予定通り進みます」
ゲオルグの答えに目を見開いたハインツがゲオルグの両肩をつかむ。
「隊長に報告するべきです。情報部からの事前情報に不足があった以上、
作戦計画を見直すことが必要でしょう」
「ええ。ですが、通信は使えません。報告するのであれば伝令を艦まで
戻さなくてはなりません。しかし、それでは時間がかかりすぎ、
A分隊の制圧行動が始まってしまいます。
であれば、このまま作戦計画通りに事を運び、敵をすべて捕縛するべきです」
「・・・わかりました」
ハインツは小さく頷くと元の配置へと戻って行く。
ゲオルグが手を上げると分隊は再び前進を始める。
やがて、洞窟の先にぼんやりと明かりが見えてくる。
中枢部の手前にある岩陰に身を隠すと、ゲオルグはそっと敵の様子を窺う。
(敵影は・・・見える範囲で15から20ってところかな。
デバイスを持ってるところを見ると全員が魔法を使えるのか。
厄介だけど想定の範囲内だし、今のところ奇襲は成功だから大丈夫だよね)
再び岩陰に身を隠すと、ゲオルグは時計に目をやる。
攻撃開始時刻が目前に迫っていた。
ゲオルグは攻撃を開始するべく分隊員に小声で指示を出す。
「時間です。攻撃を開始しますよ。
事前の計画通り、射撃系の魔法で攻撃して敵の混乱を誘います。
無駄な攻撃は避け、しっかり狙って確実に当てるようにしてください。
しばらくしたら、A分隊が反対側から突入します。
同士討ちにならないように注意してくださいね」
ゲオルグの指示に分隊の全員が頷く。
「では、攻撃開始!」
ゲオルグの命令と同時に全員が岩陰から身を乗り出して敵に向かって
攻撃を放ち始める。
(いいぞ。思いがけない攻撃を受けて敵は混乱してる。
この機に少しでも敵の数を減らしてA分隊を楽にしてあげなきゃ)
その時、奥から敵の増援が姿を現し、ゲオルグ達が隠れている岩陰に向かって
砲撃を加えてくる。
瞬く間に岩が砕け飛び、分隊員を守る壁は無くなる。
「もっとよく狙ってください。無駄弾を撃っている余裕はありませんよ!」
「ですけど分隊長! こう敵の攻撃が強くては・・・グワッ!」
ゲオルグの隣にいた1士が話している最中に敵に撃たれて吹き飛ばされる。
その間にも続々と敵は増えていく。
(これは・・・事前の情報よりも組織の規模が大きいのか。
このままじゃ・・・やられる!)
ゲオルグはキッと敵の方を睨みつけると、ハインツの方に目を向ける。
「曹長! これから敵の数を減らします。 近距離型の魔導師数名を連れて
僕に続いてください。いいですね?」
「ちょっ! 危険です、分隊長!」
ハインツは飛び出していくゲオルグを止めようと手を伸ばすが、
後少しのところで届かず、その指は空を切る。
「ちっ、焦りやがって! ミュンスターにクリーグ、俺に続け!
分隊長を助けるぞ!」
ハインツに声をかけられた2人の1士が慌てて頷く。
それを確認して、ハインツはデバイスを構えて飛び出していく。
(これだから子供ってヤツは・・・。 いくら頭がキレてもこれじゃあな)
心の中でゲオルグに対して悪態をつきながら、ハインツはゲオルグを追う。
一方、そのゲオルグは味方に向かって砲撃する敵の目前に迫っていた。
(いくぞぉ。これが僕のチカラだっ!)
ゲオルグは地面を蹴って飛び上がると、先頭にいた敵の魔導師に
魔力の刃を振りおろす。
着地したゲオルグは、返す刃で先ほど斬った敵の隣に居た魔導師を
横殴りに斬りつけると、前へと進みながら次々に敵を斬り捨てていく。
(す、すげぇ。あれで陸戦Bランクかよ・・・)
ゲオルグを追ってきたハインツは、自分と同じBランクのはずの
ゲオルグの戦いぶりに目を見開く。
「ハインツ曹長。あれじゃ俺らの出番はないんじゃないっすか?」
「かもしれん。だがなミュンスター1士、あんな子供に最前線で戦わせといて
俺達大の大人が後ろでぬくぬくとしているわけにはいかんだろ。
せめて背後の守りくらいはやってやらんとな!」
ハインツはそう言うと、ゲオルグの背後に迫る敵に向かって飛びかかった。
「やらせるかよっ!」
ハインツは槍型のデバイスの切っ先を敵の魔導師に向けて突き出すと
ゲオルグに向かって声をかける。
「分隊長、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。 助かりました」
ゲオルグは首だけで振りかえり、横目でハインツを見ながら小さくそう言うと、
次の敵に向かって斬りかかって行く。
(ったく、13歳で3尉になったってのは伊達じゃねえってことか・・・)
ハインツはゲオルグを追いながらゲオルグが撃ち洩らした敵を屠っていく。
2人は敵の最前線を突き破りつつあったが、あとからあとから湧いてくる
敵の増援に徐々に押し込まれて行く。
「くっ・・・、こう数が多くてはかないませんね。A分隊の攻撃は
まだ始まらないんでしょうか?」
「後少しです・・・が、A分隊の戦力があってもこの敵を制圧するのは
難しいんじゃないですか? 事前情報の軽く4倍は居ますよ」
「同感です。 これは作戦中止も考えねばなりませんね。
A分隊と至急・・・ぐあっ!!!」
ゲオルグが突然上げた悲鳴にハインツは振り返る。
ハインツの目に映ったゲオルグは右肩を撃ち抜かれて出血していた。
「分隊長っ!」
ハインツはゲオルグを抱きとめ、味方の居る位置まで急いで後退すると、
地面にゲオルグを横たえてその顔をピシャリと叩く。
その衝撃で意識を取り戻したのか、ゲオルグは薄眼を開ける。
「ハインツ曹長・・・、撤退を・・・」
ゲオルグはそれだけ言うと意識を失う。
「B分隊の指揮は俺が引き継ぐ! 砲撃系魔導師は敵にけん制攻撃を。
その間に負傷を優先して撤退を開始。 待機地点まで引く!」
ハインツはそう言うとゲオルグを背負って洞窟の出口に向かって走り始める。
しばらく走ったところで、背中にいるゲオルグが小さく声を上げる。
「曹長・・・、A分隊と連絡を・・・」
「そんなこと言ってる場合ですか!? いいから洞窟を出ますよ!」
「そんなこと!? 何を言っているんですか。 早くA分隊に連絡しないと、
彼らは制圧作戦を・・・ぐっ!」
慌てて声を上げるゲオルグであったが、傷が痛むのか途中で声を失う。
「いいから分隊長は黙っててください!」
ハインツは全力で走りながら、自分の背中に向かってそう叫ぶ。
同じように後退する分隊員が敵の攻撃によって次々と被弾していく。
ハインツはそのさまを横目で見ては、ギリっと己の歯を軋ませつつ走る。
やがて、洞窟の出口にたどり着くとその脇に背負っていたゲオルグを横たえる。
「分隊長。俺はこれから取り残された分隊の連中を助けに行ってきます。
頼みますから、ここでおとなしく待っててくださいよ」
ハインツはゲオルグに向かってそう言うのだが、ゲオルグには意識がないのか
ハインツの言葉に何らの反応を示さない。
ハインツはすっくと立ち上がると、洞窟の中へと入って行った。
「うっ・・・」
「あら、目を覚ましたのね。シュミット3尉」
ゲオルグが次に目を覚ましたのは、艦内の医務室であった。
照明のまぶしさに目を細めながら、ベッドの上で身を起そうとするものの
右肩の痛みに耐えかねて呻き声を上げる。
「痛っ・・・。 って、ここは?」
「シャングリラの医務室よ。 あなたは昨日の作戦で負傷して
ここに運ばれたのよ」
ゲオルグの問いに対して、白衣を羽織った妙齢の女性が答える。
「昨日の作戦・・・。ということは、僕は1日眠っていたということですか」
「そうなるわね」
「そうですか・・・。ひとつ質問してもかいませんか?」
「ええ、どうぞ」
「昨日の作戦は結局どうなったのですか?」
「それは・・・」
女性は、ゲオルグの質問に対する回答を言い淀む。
その時、プシュっという小さな音とともに医務室のドアが開かれる。
女性はドアの方を見ると、わずかに表情を緩める。
「彼に聞いた方がいいわね」
ゲオルグが女性の指差した方に目を向けると、制服のポケットに
手を突っ込んで立っているゲオルグの上司、ミュンツァーが立っていた。
「よう、シュミット。調子はどうだ?」
「良くはありません。 まだ頭もぼうっとしてますし、傷も痛みます」
「そうか。 歩けそうか?」
「少し待ってください」
ゲオルグはそう言うと、ベッドから床に足を下ろして立ち上がり、
2・3度軽く跳んで自分の身体状態を確認する。
「大丈夫なようです」
「そうか。では俺についてこい。昨日の作戦について話がある」
ミュンツァーの言葉に、ゲオルグは身を固くして小さく頷くと、
ミュンツァーの後に続いて医務室を出た。
ゲオルグはミュンツァーの大きな背を見上げながら艦内の通路を歩く。
時折すれ違う乗組員がじろじろと自分を見る目線にゲオルグは気付いた。
(作戦で何かやったのかな? 僕・・・)
ミュンツァーの部屋に入ると、ゲオルグは勧められるままに椅子に腰を下ろす。
「さて、昨日の作戦について何か覚えているか、シュミット?」
ゲオルグの正面に置かれた椅子に腰かけたミュンツァーに問われ、
ゲオルグは目を瞬かせてから、昨日の出来事を思い返す。
「そうですね。途中までは予定通りに作戦を運んだのですが、
攻撃を開始してみると事前に聞いていたよりも敵が多く、予定していた
遠距離からのけん制攻撃だけでなく、敵陣に突っ込んでの近距離攻撃も
追加することにしました。
しかし、あまりにも敵が多いために撤退を決意したのですが・・・。
すいません、覚えているのはここまでです」
「なるほどな。 そこまでのところは概ね俺が把握しているのと相違ないな。
では、それから何があったか教えてやろう」
ミュンツァーはそう言うと、デスクの上の端末で一つファイルを開き
その中身を見ながら徐に口を開く。
「お前がハインツ曹長を伴って敵に突っ込んでいった後、お前は敵の攻撃で
右肩に負傷を負った。どうもその直前には作戦中断と撤退を決意していた
ようだがな。で、意識を失いかけたお前を連れてハインツは撤退したんだが、
お前を洞窟入り口に寝かせると奴は再度洞窟に突入して、分隊の撤退を
援護したんだな」
「ハインツ曹長が・・・。それで、作戦はどうなったんですか?」
「作戦は中止した。B分隊からの敵戦力過大の連絡を受けてな。
だが・・・」
ミュンスターはそこから先を言い淀む。
「何なのですか?」
「A分隊8名、B分隊2名が殉職。ほかに5名が負傷した」
「なっ・・・!!」
「B分隊はハインツ曹長とミュンスター1士の2名が殉職。
A分隊は伝令のために先行して撤退した2名を除いて全員死亡した」
淡々とした口調で言うミュンツァーとは逆に、ゲオルグは狼狽を隠せない。
「な、なんで・・・そんなことに・・・」
「B分隊は撤退の過程でほぼ全員が負傷してな、ハインツとミュンスターは
そいつらの撤退を援護するための戦闘で死亡した。
A分隊はもっとひどい。A分隊の側でも敵戦力が大きすぎて撤退を
開始したんだが、敵の挟撃にあって伝令のために先行した2名以外は全滅。
結果、10名が死亡した」
「挟撃・・・なんで・・・」
ゲオルグは茫然としたまま、小さくそうつぶやいた。
「突入中に横穴を見つけただろ。 あれがA分隊側の洞窟につながってたんだ。
それで、B分隊が先に撤退した後、その横穴を通ってA分隊の後背に
敵が回り込んだってわけだ」
「そんな・・・じゃあ・・・」
「そうだな。横穴を発見した時点で報告があれば作戦変更もできた。
なぜ、報告しなかったのか教えてくれるか?」
「あの・・・、横穴の調査や伝令を艦に戻すには時間が足りないですし、
通信の使用は慎むべきだと考えていましたので、作戦計画通りの
行動を継続するべきと判断しました」
ゲオルグの言葉を目を閉じて聞いていたミュンツァーは、目を開いて
ゲオルグの目を真っ直ぐに見る。
「その判断は間違っているとは言えんな。 では次だ。
なぜお前自身が敵陣に斬り込む必要があったのかを説明しろ」
「作戦計画通りの攻撃を継続するにせよ、撤退するにせよ、
敵の数を減らす必要があると判断したからです。
射撃・砲撃では効果が小さいため、近距離攻撃で敵の先鋒を叩くことが
必要だと考えました」
「なるほどな。だが、それが必要だったとして、なぜお前自身が
前に出る必要があったんだ」
「僕自身が分隊で最も強力な魔導師だからです」
ゲオルグが短くそう答えると、ミュンツァーはふんと鼻を鳴らした。
「それはそうだな。だが、お前の役目はなんだ?」
「僕の・・・役目?」
「そうだ。お前の役目は分隊長として分隊の指揮をとり、作戦を成功に
導くこと。 そして、分隊員全員を無事に帰還させることのはずだ。
功を焦って自ら敵中に飛び込むことじゃない」
「ですが・・・」
「結果として、お前が負傷し気絶したことによってB分隊の指揮系統は
寸断された。その上、A分隊への連絡もなく撤退を開始したことにより
A分隊は全滅に近い被害を受けた。この責任はシュミット、お前に
帰するところが大きい」
「・・・はい」
「判ったら今後は分隊長として軽挙は慎め。いいな」
「はい」
ゲオルグは肩を落として小さく答えた。
その肩にミュンツァーが手を置く。
「とはいえだ。情報部の偵察が甘かったこともあるし、俺の指示にも
不十分だったところはある」
「え・・・?」
ゲオルグは驚きに目を見開いてミュンツァーの顔をまじまじと見る。
その目にはミュンツァーの優しげな笑顔が映った。
「初めての実戦でこれだけ厳しい状況になったにもかかわらずよくやった。
ゆっくり休め」
ミュンツァーの言葉にゲオルグの目から涙がこぼれる。
「えぐっ・・・、次は絶対に失敗しません。絶対!」
「ああ、期待してるよ」
制服の袖であふれ出る涙をぬぐうゲオルグの頭をミュンツァーは
優しくポンポンと叩いた。
翌日。
作戦で殉職した魔導師たちの葬儀が艦内で行われることとなった。
乗組員全員が正装に身を包み式場にずらっと並んでいる。
艦長のグライフ提督以下、階級順に献花が行われていく。
ゲオルグは、魔導師隊の分隊長としてミュンツァーの次に献花に立つこと
となった。
祭壇の前まで歩いて行くと正面には殉職した全員の遺影が飾られている。
ゲオルグはその中の1枚、自分よりもかなり年長にもかかわらず自分を
支えてくれたハインツの写真に目を向ける。
(曹長・・・僕はあなたのおかげで命を長らえることができました。
なのに、僕の失敗のために曹長を死なせてしまって・・・。
僕は二度と同じ間違いはしません!絶対に!!)
目を閉じて心の中でハインツに話しかけた後、キッと前を向き手に持った花を
献花台に置くと、きびきびとした動きでまわれ右をして自分の席へと向かう。
途中、ゲオルグの方をじろじろと見ながら、ひそひそと話しをする声が
聞こえてきたが、そんなものには目もくれず、ゲオルグはただ前だけを見て
歩き続けるのだった。
後書き
登場人物がすべてオリキャラ・・・
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