とある碧空の暴風族(ストームライダー)
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虚空爆破
Trick12_てめぇはてめぇだろ! 他人と比べるな! 自分を見ろ!!
≪seventh mist≫から爆発が起こった。
風紀委員の誘導があったため、建物の周りには野次馬が多く出来ていた。
そんな中、一人のメガネを掛けた男が爆発直後の建物から出てきた。
爆発に注目が行き、周りの人間は気付いていない。
男はそのまま路地へと入り、笑いを堪えられずに口の端がつり上がった。
「ククク・・いいぞ、スバラシイぞ僕の力!」
この男こそがぬいぐるみに爆弾を仕込み、初春たちへと渡すように言った。
連続 虚空爆弾事件の犯人だ
「もうすぐだ、あと少し数をこなせば、無能な風紀委員もあの不良共も
みんなまとめてぶっ飛ばせる!! ひゃははあっはは!!」
男は高笑いをした。幸せそうにアドレナリンが頭の中を駆け巡り、最高に“ハイ”な
状態の、そして最悪な笑いだった。
だが
「グハッ!」
その笑い声は後ろからの回し蹴りにより止められた。
「い、いったい何が・・」
「は~い。要件は言わなくても・・わかるわよね
爆弾魔さん」
そこにいたのは無表情に近い、しかし目には怒りがこもっている御坂美琴がいた。
「な、何の事だか僕にはさっぱり・・」
「まあ確かに威力はたいしたもんよね。でも残念。死傷者どころか
誰一人カスリ傷一つ負っていないわよ」
「そんなバカなッ!! 僕の最大出力だぞ!!」
「ほう」
「え、いや、あんな爆発だし、中にいる人はとても助からないんじゃないかと・・」
言い訳をしながら、その手は持っている鞄の中に入れられる。そして
「思ってさ!!」
男は隠し持っていたアルミ製のスプーンを御坂に投げた。
いや、投げようと振りかぶった。しかしその前にスプーンは消滅した。
御坂の超電磁砲によって
「うぉ!? ぐああぁぁ!!!」
男は超電磁砲の余波の突風で数メートル飛ばされた。
無様に転び、無様に叫び、そして、
無様に逃げようとした。
「ヒィィ!」
「あ、ちょっと待ちなさいあんた!」
御坂が気付いて追いかけようとした直後
「時よ 止まれ」
「「!?」」
御坂の横を抜けて信乃が現れた。
そして男と追い抜くと同時に男は“停止”したように走るポーズまま
全く動かなくなる。
「琴ちゃん、ここは”俺”に譲ってくれ」
呼び方、口調、そして振り向いた顔は無表情で、どれもいつもの信乃ではなかった。
両手はハンカチのような布が巻かれていたが、両方とも血で赤く染まっている。
そして何より眼の色が変わっていた。
比喩ではなく、黒いはずの瞳が碧色をしていた。
御坂は言われた通りに立ち止まったが、信乃の状況に驚きで動けなかっただけだ。
「その“魂”は、爆発の前にあの女のこと一緒にいた奴に間違いないな・・
さて、確認するまでもなくてめえが犯人だよな。
ってしゃべれるどころか動けねぇな。じゃあ」
信乃は男の鳩尾を蹴く。
「ガハッ!」
「これで動けるようになっただろ?」
蹴り飛ばされて尻もちをつき、男は苦しそうにうめいている。
「なんだよ今の“火”は・・お前も能力者かよ・・いつもこうだ・・」
火など先程から現れていない。しかし男は確かに信乃に向かって“火”と言った。
「いつだってそうだ! 何をやっても僕は地面にねじふせられる!
殺してやる! 風紀委員だって! おまえだ「だまれ」」
「てめぇが言っている力ってのは能力のことだよな?」
信乃はあくまで無表情を続けた。
悪魔のような表情ならぬ、悪魔のような無表情だ。
「だったら、その自慢の能力で俺を倒してみろ。もちろん後ろのやつには
手を出させない1対1だ。俺に勝ったら見逃してやるよ」
「!?」
男は信じられないという顔をしたが、次には笑って近くに飛ばされていた
自分のカバンに手を伸ばした。
逃げられるチャンスがあること、そして自分の能力への自信からの笑い。
「俺は能力を使わない。使うのは鍛えれば誰でもできる体術だ。
安心しろ。俺は優しいから本気を出さない。偽善者だからな。
隅から隅まで手抜かりなく手ぇ抜いてやるよ」
信乃の表情が初めて変わった。微笑、しかしそこからは恐怖しか感じられない。
「! う、あ・・」
男は狼狽した。能力を使えば倒せると思っていた。
だが
「どうした、来いよ」
信乃の顔を見てそうは思えない。
しかし戦わないと自分は切り抜けられない。いや、生き残れないかもしれない。
そんな思いからカバンの中に手を入れ、スプーンをわし掴みにして一度に投げた。
10本近いスプーン。否、爆弾が信乃へと投げられた。
「この程度かよ」
信乃は一気に男との距離を詰め、爆発する前に全てを上空へと弾き飛ばした。
ただの拳で。道具も何も使わないただの体術で
ドドドドドドドドドドンッ!!!!!!!!!!
全てが上空へ爆発し、信乃は無傷で、何もなかったように近づいてくる。
今度はゆっくりと歩いて。
そして男の前に立った。
覗き込んでくる碧い眼。
空のように澄み渡ったスカイブルー。
そこにあるのは自分の中を、全てを見透かすような眼力。
男は恐怖のあまり、座り込むことすらできずにそのまま立っている。
「いつだってそうだ、僕は力に」
「その求めていた能力はレベル0でも手に入る力に負けてんだぞ?
何言ってんだ、てめぇ?」
信乃は何の起伏もない、何の感情も感じられない言葉を連ねる。
「力でねじ伏せられるとか言ったな。誰かにいじめられでもしたか?
ふざけるな。こんな馬鹿馬鹿しい茶番劇が成功するわけねえだろボケ。
いじめ程度の経験しか積んでない奴がめそめそ調子に乗るな。
頭かち割るぞ!」
無感情だった信乃の言葉に、ようやく感情が入っていった。
「面白くねえ!全然おもしろくねえよ俺は!何がしたいんだてめぇは!
本当にやるべきことから目を逸らして、何もかもを根こそぎ無駄遣いして、
言い訳して嘘吐いて誤魔化して、こそこそと卑屈に生きやがって!
怠けんな。簡単なことだろうが、サボってんじゃねえ!
なんでもっとしゃんとしないんだてめぇは!曲がってんじゃねえぞ!」
言葉に乗せられる感情。信乃の 怒りの 感情。
「胸を張れ、背筋を伸ばせ、自分を誇れ、敵に吠え俯くな!
諦めんな見限るなてめぇで勝手に終わらせんな!
てめぇはてめぇだろ! 他人と比べるな! 自分を見ろ!!」
そう言って信乃は男を通りすぎて御坂の方へと歩いてきた。
男は今度こそ力が抜けて座り込んだ。
信乃はそのまま御坂の前に立ち、御坂の頭を撫でた。
なぜ撫でたのかは御坂も、信乃本人も分からない。
ただ、そうしたかっただけだ。
御坂は信乃の言葉に固まっていたが、撫でられてようやく信乃の顔を見た。
あの眼は元に戻り、いつもの黒になっている。
信乃は口元だけが少し笑っていたがが、悲しそうな目をしていたので何も言えずに
御坂は頭を撫でられていた。
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
爆弾魔の男は信乃が通報した警備員に連行された。
御坂と信乃はデパートの前で待っていた佐天と初春の元へと歩く。
「御坂さん! 信乃さん! 大丈夫ですか!?」
初春がこちらに気付いて声をかけた。そして佐天と一緒に走ってくる。
信乃はいつもの笑顔を2人に向けた。しかし、御坂の方は俯いて元気がない。
信乃たちの元に来た2人。佐天が信乃の手に気付いた。
「信乃さん!? その手の怪我は!? 犯人にやられたんですか!?」
信乃の両手は血で滲んだ布が巻かれている。応急処置とも言えない簡単な
巻き方で、巻いたのは信乃本人。
佐天は、手は爆発によるものではなく犯人を捕まえた時に
できたものだと思って聞いたのだろう。
爆発では手の先だけが怪我をすることはありえない。普通なら。
「大丈夫です。少し無理しただけですから」
「でも・・」
「一応病院にも行きますから心配しないでください。みなさんも疲れたでしょうから
今日はもう帰ってください。事情聴取の方が私が引き受けます」
「こんな状態の信乃にーちゃんを置いていけるわけないでしょ・・」
御坂が消えるような声でしゃべった。
「大丈夫、と私は言いますけどそのまま放っておいたら御坂さんが怒りそうですね。
・・わかりました。事情聴取の協力をお願いします」
「私も行きます! 現場に白井さんが来ているのでそこで話しましょう!」
「はい。あ、佐天さん。事件に巻き込んですいませんでした。疲れているでしょうから
今日は帰ってゆっくりしてください」
「あ、はい・・」
佐天を残し、3人はデパートの中へと歩いて行った。
「・たしだけ・・また・私だけ・・」
佐天は3人の背中を見つめてつぶやいた。
つづく
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