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駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
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第0話 人の名前を決めるのは案外時間が掛かる

 過去の話をするのは何時だって気持ちの良い事である。過去の栄光の話。過去の自慢話。過去に起こったスケールの大きいお話。
 しかし、中にはあんまり良い思い出じゃないのも幾つかあったりする。
 これから話すのも正にそんな感じのお話だったりする。
 なので、耳をかっぽじって良く聞いて貰いたい。



 侍の時代が突如宇宙から襲来した天人と書いて【あまんと】と読む輩により強制的に終わらされてから色々と久しい昨今。此処華の江戸では幾多の天人達が我が物顔で歩き回り、代わりに今まで肩で風を切って歩いていた侍達は皆成りを潜める結果となってしまった。
 ま、今回のお話でそんな事はどうでも良いのであり、お話の主軸となるのはそんな江戸の町にある歌舞伎町。その町の一角で構えているスナック。
 そのスナックの二階に住み着いているある男から始まるのであった。

「参った……本当に参ったぜ」

 愚痴りながら外に出てきた者。銀色のボサボサの髪型、所謂天然パーマな髪型をしており黒のシャツの上に白い着物をだらしなく着こなした男。
 死んだ魚の様な目をしておりその顔や目からは一切の生気や覇気が感じられないやる気のなさそうな駄目っぽそうな男。
 この男こそ今から話すお話の主軸になるであろう男なのである。で、その男が何を呟いているのかと言うと、それは彼が持っている物からおのずと分かった。
 その男の手には彼が普段から使用しているであろう安っぽそうな財布が持たれていた。
 そして、その財布の中は彼のやる気を表しているかの如くスッカラカンであった。

「今回こそは出ると思ったんだがなぁ……見事に全額擦っちまったよ」

 空っぽの財布を手に持ちながらこの男は言う。要するにギャンブルの類をしたのだろう。一攫千金を手に入れてウハウハの生活を手に入れようと画策したのだろうが、結果は見ての通りであった。
 そして、一攫千金どころか一文無しへと繰り下がってしまったのである。これでは日々の生活費すら危うい。

「やべぇなぁ。これじゃ今日のおまんまがマジでやばいぞ。このままだと俺今日辺り餓死しちまうんじゃね? そうなっちゃうとマジでやばいなぁ……どれくらいやばいかと言うとマジでやばい」

 等と、一人で呟きながらこの男は階段をゆっくりと、のろくさく、覇気もなさげにだるそうに降りた。
 頭の中で【階段なんてかったりぃなぁ。エレベーターかエスカレーターでもつけっかなぁ。あ、でも金ねぇや】などと考えながら階段を降り切って晴れて江戸の土を踏む事になる。

「どっかで良い儲け話でも転がってねぇもんかねぇ~。なんつうかこう、ガバァッて儲かるような美味い話とかさぁ~。唸るくらいの泡銭とか一度で良いから欲しいもんだぜ」

 そんな事を呟きながら歩を進めるこの男。そんな上手い話が転がってる筈はないのだ。
 こんな事を呟くような駄目人間には決まって天罰が下ると言うものである。
 その天罰こそが、この男の未来を大きく変える事になってしまうのであった。

「あ~、だりぃ~。ったく、春だってのに太陽さんさんじゃねぇか。これじゃまるで夏だろうが! 熱すぎるんだよ。たまには有休とれや太陽の馬鹿野郎が。大体太陽があんな頑張りやさんだから俺の財布が逆にスッカラカンに……」

 等とぶつくさ呟きながら自分が住んでいた二階の下にあるスナックの前を通り過ぎようとしていた。無論時間的にまだお昼前辺りなのでスナックは開いていない。
 それ以上にこの男としてはそのスナックには入りたくないと言う気持ちがあった。
 何故ならこのスナックのオーナーは言ってしまえばこの男の大家でもある。
 因みに、結構家賃の支払いが遅れているらしく、しかも運の悪い事に今日はその支払い日なのであった。
 だが、肝心なその時にギャンブルで擦ってしまいすっからかんの状態である。
 とても払える状態ではない。
 が、今のこの男にはそんな事どうでも良いのであり、何時もと代わらずぶつくさ世間の事や今の政治のことなどに対し文句を言いながら通り過ぎようとしていた正にその時だった。

「ん?」

 ふと……本当にふとだった。何か場違いな物が見えた気がしたその男は、本来なら見向きもしないようなスナックを見た。其処には相変わらず硬く閉ざされたスナックの扉がある。
 だが、問題はそのすぐ横にあった。建物の丁度すぐ横の辺りである。
 其処には綺麗な布で包まれた小さい何かが転がっていたのだ。

「何だ何だぁ? どっかのブルジョワが哀れな俺に対してお金を恵んでくれたとかですかぁ?」

 この期に及んでどうしてそんな都合の良い事を想像出来るのかわからないが、とにかくその包まれた中を覗いてみた。其処にあったのはその男の想像していたのとはかけ離れた物があった。
 其処にあったのは、正確に言えば其処に居たのはだ。
 小さな顔でぷっくらと膨らんだ赤めの頬に、大人の指一本をようやく掴める位の小さな手。
 此処まで言えば分かると思うが、其処に転がっていたのは、何と赤子だったのだ。

「・・・・・・え?」

 その赤子を見た途端、この男は一瞬時が止まった感覚を覚えた。何故、なんでこんな所に赤子が? しかも丁度自分の住んでいる場所の真下に居たんだ?
 疑問が尽きない今日この頃。はてさて、その赤子をどうするものかと考え出す。
 苦虫を噛み潰したような顔をして男は悩んだ。悩んだ末、男は結論を導き出した。誰にも迷惑が掛からず、尚且つ自分自身にも迷惑が掛からないナイスな方法をこの男は思いついたのだ。

「見なかった事にしよう。触らぬ神になんとかって奴だ」

 勝手に解決して去ろうとする男。要するに放っておくと言うのだ。
 どうせ何処かの馬鹿なカップルが出来ちゃった結婚しちまって出来たは良いけど育てられないからって事でその辺に捨てた不幸な赤子なのだろう。
 こんな時代には良くある事だ。
 一々構っていられない。今はそれよりもなすべき事がある。
 そう勝手に介錯しながら男はその赤子の前を通り過ぎようとした正にその時だった。

「ふぎゃあああああぁぁぁ! ふぎゃあああああぁぁぁ!」

 突如、天を突き破るかの如く盛大な音量で赤子が泣き喚いたのだ。
 それはもう付近を歩いていた誰もが耳を塞ぐ程だった。
 当然、その一番近くに居た男の鼓膜には大ダメージは確実なものでもあった。

「う、うるせぇぇぇ! なんつぅ大音量で泣くんだよこのガキはぁ!」

 耳を塞ぎながら男がその赤子に近づく。赤子を上から見下ろすと、不思議とその赤子は泣き止んだのであった。
 ホッとしながら赤子から去ろうとすると、またしても赤子が大音量で泣き出す始末。
 再び耳を押える男。すると回りの目線が自分の背中に向けて突き立てられてる感覚に気づく。
 振り返ると、自分と同じように耳を押えながら歩いていた人達が冷たい目線で男を睨んでいたのだ。

「な、何だよお前等! 言っとくけどこいつは俺のガキじゃねぇぞ! たまたま其処に転がってただけだ! 断じて俺のガキじゃねぇ! 第一俺はまだ誰とも(チョメチョメ)してねぇんだ! 俺のガキが生まれる確立なんて天文学的にありえねぇんだよ! そもそもこのガキの何処に俺の遺伝子が通ってるって証拠が……」

 必死に弁解の弁を叫んでいた男。当然その声は赤子の鳴き声並に匹敵するほどの五月蝿さでもある。従って、この男の丁度後ろの居に住んでいる住人の耳にも当然入っているかの如くであり。

「朝から何大音量で怒鳴り散らしてんだこの腐れ天パーがぁぁぁぁ!」

 突如、男の後ろにあった扉が勢い良く開き、中からはこげ茶色の着物を着た老婆が飛び出し、男の背中にダイビングキックを放った。
 当然背中を向けていた男はそれに気づく事など出来ずそれを諸に食らってしまった。
 「そげぶぅ!」などと叫びながらその男は無様に地面に顔面から叩きつけられる。
 そんな倒れた男を後ろからその老婆は腕を組みながら見下ろしていた。
 その額には大量のミミズが浮かんでおり明らかに不機嫌だと言うのが伺える。

「よ、よぉ……ババァじゃねぇか。今日は良い天気だなぁ……布団でも干そうってのかぁ?」
「下らない挨拶は良いんだよ。それよりも銀時……あんた今月の支払いはどうしたんだい?」

 正しく嫌な内容だった。出来れば忘れて欲しかった内容だ。
 されど、ばれてしまったのではもう隠しようがない。こうなれば当たって砕けろだ。

「あぁ、今月の分ね。あれなら男の夢につぎ込んだからもう一銭も残ってn……」

 言い終わるよりも前にその男こと【坂田銀時】の顔面に老婆の鉄拳が叩き込まれた。銀時の顔は梅干の様にめり込みその中央には老婆の鉄拳がめり込むと言う大層摩訶不思議な状態になっていた。

「要するに、またギャンブルで擦ったってんだねぇ? あんたこれで何回目なんだい! もう半年も家賃払ってないだろうが! あんたあの時の言葉忘れたってんじゃないだろうねぇ?」
「るせぇ! ねぇもんはねぇんだよ! 一々金金騒ぐんじゃねぇ糞ババァ! 金の亡者かてめぇはよぉ!」
「一銭も払えない癖して偉そうな事言ってるんじゃないよ! 文句があんなら今すぐ家賃払ってみな!」
「出来りゃとっくの昔にそうしてらぁ! それが出来ねぇからこうして苦労してんじゃねぇか! 察しろよ糞ババァ!」

 そんな感じで老婆と銀時の激しい口論が勃発しだした。
 回りを歩く人達にとっては最早御馴染みの光景ならしく、チラリと見ただけでそのまま通り過ぎていく。関わりあいたくないからだ。
 だが、そうして空気を読んでいる輩も居るのだがそれをこの赤子に要求しようと言うのは無理な話であり。
 激しい口論をしている二人に遠慮もなくこれまた盛大な音量で泣き始めるのであった。
 すると、その泣き声を耳にした老婆がその赤子を見る。

「あら、何だってこんな所に赤ん坊が寝てるんだい?」
「どうせどっかの馬鹿なアベックが出来ちゃった的な感じで産んだんだろう? そんで育てられないからってんで捨てた類だろうが。放って置きゃ良いだろうがそんなガキ」

 あくまで面倒ごとには関わりたくない銀時はその赤子を放っておくように言うが、この老婆はそれを聞いて頷く事など出来る筈もなくそっと赤子を抱き上げる。

「おぉ、よしよし。どうやら腹空かしてるみたいだねぇ」
「って、人の話聞いてたかババァ?」
「お前も来るかぃ? どうせその顔じゃまだ朝飯も食ってないんだろうが。ついでで良いんなら食わしてやるよ」
「是非お供します!」

 飯を食わしてくれると言うのなら話は別だ。そう言うかの如く赤子を連れて老婆が店に入る後に続き銀時も店の中へと入って行ったのであった。
 え? 家賃の話はどうしたのかだって?
 それはこの二人にしか分からない話なのです。




     ***




 丼一杯に盛られた飯の上に甘い宇治金時を乗せた飯。これが銀時の大好きな食事であった。
 大の甘党である彼にとってはこれの方が好きなのだ。側から見ると吐き気を催す代物だろうが彼にとっては三食食っても飽きない正に最高級の食べ方なので止める気は一切ない。
 人はその丼を【ゲテモノ】と蔑むだろうが、この男、坂田銀時は【宇治銀時丼】と呼称している。
 そんな訳でその宇治銀時丼を頬張りながら目の前で慣れた手つきで赤子にミルクを飲ましている老婆を見る。
 老婆の腕の中で赤子はとても美味そうに哺乳瓶に入れられた白色の液体を飲んでいく。
 相当腹が減っていたのだろう。みるみる内に哺乳瓶が空になっていく。

「案外様になってるじゃねぇか。あれですか? 女ってなぁ年を取るとそう言う類のことが上手くなるのかぁ?」
「放っとけ! 女はこれ位の年になると色々と他人にゃ言えない過去の一つや二つ位出来んだよ。しかし薄情な親も居たもんだねぇ。こんな可愛い赤子を捨てるなんざぁ。世も末だよ」

 哀れそうに見ながら赤子を見る老婆。その光景は正しく孫と祖母の光景と言えよう。
 何故、其処で母と娘と言わないかと言うと、この老婆の顔がしわくちゃだからだ。

「んで、この子どうすんだい?」
「何がだよ?」

 食事を続けながら銀時は聞いた。既に丼の中身の半分以上は彼の胃袋の中に消えていっている。
 この男も相当腹を空かせていたようだ。

「親が居ない以上誰かが育てなけりゃならないだろうが」
「まぁそうだろうなぁ。って、ババァ! まさかその役俺に押し付ける気か?」

 嫌な予感がした。
 赤子の世話など御免被る。面倒すぎるからだ。
 この男の風体から分かる通り、銀時は独身だ。当然子育ての経験などある筈がない。
 そんな銀時がいきなり赤子の世話などと言うハードルの高い事を出来る筈がない。

「ババァがやれよ! 俺よりも慣れてるじゃねぇか! 大体そう言うのは女の仕事だろうが! 男の出る幕じゃねぇよ」
「本来ならそうしたいんだけどねぇ。あたしもこの仕事柄子供の側に付きっ切りって訳にゃいかないんだよ。第一スナックのママが子供背負いながら仕事してたんじゃ客が逃げちまうよ」

 スナックのママ目当てで来る客は大概変な妄想を抱えて来る客が多い。そんな客の前でママが子供を背負いながら仕事をしてよう物なら一気に客の熱が冷めてしまう。そうなると営業に影響してしまい下手すると経営に支障が出かねない。
 それに比べて此処に居る坂田銀時は今の所大した稼ぎもなく日がな一日中ダラダラ過ごしている。時間なら腐る程あるこいつになら多少不安だが任せる事が出来るだろう。
 第一、こいつなら目の届く範囲に居る。心配ならたまに覗きに来れば良い。

「冗談じゃねぇよ! そんな面倒毎御免だぜ! 他当たってくれ」
「あぁ、そうかい。折角半年分の家賃の支払いとその飯代をこの子の育児でチャラにしてやろうと思ってたんだけど、残念だねぇ。ま、あんたも忙しいって身なんだし、無理強いはしないけど……」

 ふと、銀時の耳がひくついた。
 【家賃と飯代がチャラ】その甘い言葉を耳にしてこの男が黙ってる筈がない。今の所銀時の手持ちはゼロ円であり、半年分の家賃を払う宛てなどない。そして、其処へ更にこの飯代まで嵩んでしまっては最悪腹を切らないといけない事になる。
 正に今のこの老婆の言葉は天の助け舟に匹敵する言葉だった。

「しゃ、しゃぁねぇなぁ。其処まで言うんだったら引き受けてやろうじゃねぇか。丁度俺も暇だったしぃ。ガキの子守なんて朝飯前だしぃ。俺主人公フラグ立ちまくりだからそれくらい軽くこなせるだろうしぃ」

 後半訳分からない事を言っていたが、要するに引き受けると言うらしく、ホッとする。そんな訳で赤子の世話をする事が決定したのだが、其処で問題が浮上した。

「そう言えば、この子名前はなんてんだい?」
「知らねぇよ。あれで良いんじゃねぇのか? 【ブチ】とか【タマ】とか」
「犬猫じゃねぇんだよ。もっと真面目に考えな!」

 このままこの男に名前を考えさせたら禄でもない名前になりそうで怖い。かと言ってそう簡単に名前など考えられる物でもない。
 人の名前とはそれこそ一生共に背負っていく代物だ。おいそれと適当に名付ける事など出来ない。
 これは新しい命が生まれる度に課せられる大きな課題とも言えた。
 ふと、老婆が悩んでいた際に赤子を包んでいた布から一枚の紙切れが零れ落ちた。それは丁度銀時のまん前に落下し、その場に止まった。

「んだぁこれ? 置手紙の類だったら破り捨ててやる!」
「住所と電話番号が書いてあったら破るんじゃないよ。そいつんとこ行ってとっちめてやるからさ」
「へいへい……とぉ」

 生返事をしながらその紙切れを広げる。其処には二人が考えていた内容は一切書いておらず、代わりに紙一面にズラッと名前が書き連なれていたのだ。

「んだぁこれ? 名前ばっかじゃねぇか」
「あら、丁度良いじゃないのさ。その中から名前を考えれば簡単じゃないかい」
「ちげぇねぇや」

 満場一致の元、銀時は広げた紙をざっと見る。この中から候補を挙げるとは言ったが、かなりの量が書かれている。正直、この中から探すだけでも結構骨である。
 が、何もない中で探すよりは確かに楽だ。そう思いながら銀時は一つ一つ読み上げていく事にした。

「そんじゃ行くぞぉ。まずはぁ……【たけし】」

 適当にその中にあった名前を言う。すると老婆の腕の中で赤子が突如愚図りだした。どうやら気に入らないようだ。

「駄目だね。次!」
「あいよ」

 駄目だった名前を消し、次の名前を言う。しかし、どの名前を呼んでもその赤子は愚図るだけ。仕舞いには大声で泣き出す始末であった。
 どれも気に入らないのだろう。ほとほと参ってしまった。

「銀時、後どれ位あるんだい?」
「もう次が最後だよ」

 銀時の目の前にはビッシリと書かれていた筈の名前が全て消されており後一つだけとなっていた。これが気に入らなかった場合この赤子の名前をどうするか一から考えねばならない。

「おい、良いかコラァ! これで気に入らなかったらてめぇは強制的に【タマ】にするからな!」
「ったく、早く読んでおくれよ」
「へいへい……んじゃ行くぞぉ」

 溜息混じりで銀時が最後に書かれていた名前を読み上げる。何故その名前を最後に呼んだかはこの時の彼は全く覚えていない。恐らく適当に読み上げて行った結果そうなったと言うのだろう。

【なのは】

 銀時が口に出してそう呼んだ。その途端、赤子の泣き声がピタリと止んだ。
 その光景に二人揃って驚きの顔をする。

「銀時、もう一辺名前呼んでみな!」
「お、おう! なのは」

 再び名前を呼ぶ。するとどうだろうか!
 先ほどまであんなに愚図りまくっていた赤子が突如満面の笑みで笑い出したではないか。
 小さな両手をバタバタと震わせて体全体で喜びを表現している。何とも可愛らしい光景であった。

「どうやらこの名前が気に入ったみたいだな。うし、今日からお前はなのはだな。しかしなのはねぇ……偉く変わった名前だな」
「まぁ良いじゃないのさ。それより、しっかり育てるんだよ! もしこの子をほっぽりだした日にゃぁ、今までの分のツケ纏めて払って貰うからねぇ。腎臓なり金玉なり売っぱらって貰うからそのつもりでしっかり面倒みな!」
「わ、わぁったよ!」

 老婆の言葉に半ばビビリながら銀時はその赤子を受け取る。ズッシリと銀時の両手に赤子の重さが染み渡ってきた。見た感じは小さいのにそれなりに重い。
 単に重いと言うのではなく、命の重さがそう感じさせたのだろう。

「やれやれ、結婚もしてないのに父親かぁ。何か俺、人生かなり損してる気がするなぁ」
「普段から不摂生な生活してるからそうなるんだよ。しっかり育ててやんな。20年もしたら別嬪になるだろうしさ」
「へ? 別嬪!?」
「何だい、お前分かってなかったのかい? その子【女の子】だよ」
「ま、マジですかあああああああああああああああああ!」

 衝撃の発言に驚きだす銀時。まさか未婚の自分が赤子の、しかも女の子を育てる羽目になるとは。
 先が思いやられる話である。




 こうして、一人の駄目な男と一人の赤子の出会いはこうして始まった。
 この壮大『?』な物語はこの二人の出会いを起として動き出していく事になる。
 え? 間の話も見たいですって? その内ね。




     つづく 
 

 
後書き
次回【働かざる者食うべからず】お楽しみに 
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