魔法少女リリカルなのは〜神命の魔導師〜
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第二話、アリシア・テスタロッサ
前書き
おっそくなりましたぁぁぁぁぁぁあ!!ほんと、すみません!
浅い微睡みの中で、誰かの会話が聞こえてきた。聞いたこともない、三人くらいの女性の会話が。
俺はそれを、意識するでもなくただ聞いていた。理解することは、覚醒していない状態の頭では到底無理だったが、なんとか途切れ途切れの会話の中から『聖王』と『蘇生』そして『人形』という単語だけ聞き取ることができた。それと、誰かが泣いている声。悲しそうで、でも少し嬉しそうな、そんな感情が、俺に伝わってきた。
程なくして、泣いている人以外の二人はどこかへ行ったようだ。
段々と覚醒していく頭で、考える。ここはどこなのだろうか?話していたのは誰なのだろうか?なぜ俺の祖先を知ってるのだろうか?その上でなぜ、俺の力を欲するのか?そしてなによりーーー
「君は…どうして泣いているんだ?」
これが、この世界に生きる俺の、最初の、そして始まりの言葉だった。
「君は…どうして泣いているんだ?」
「え…?」
突然部屋に入ってきたお母さんから、私は、私自身の存在についての話を聞かされた。
それは、私にとってとても辛くて、悲しいことで。でも、お母さんはそんな私のことを愛していると言ってくれた。
「産み出したのは私。母親なんだから、娘を愛せないわけがないでしょう?」
そう言われて、私は本当に嬉しくなった。でもその後に顔を赤くしながら、「で、でも…アリシアのほうが愛してるのよ!?な、なによリニス…そのニヤニヤした目は…?」
て言ってたっけ。でもその後リニスに照れ隠しだって教えてもらった。確か、『つんでれ』って言うんだっけ?
そんなこんながあって、私は、嬉しい気持ちと悲しい気持ちが綯い交ぜになって、つい泣いてしまった。一度流れ出した涙は中々止まってくれなくて。
そして今、いつの間にか目覚めてた男の子の手が、私の頭の上に乗せられていた。
その手がとても温かくて、安心できて、私は思わず喋り出していた。
私が作られた存在だったということ。それでも私のお母さんはお母さんだということ。そして全部ひっくるめた上で、私はお母さんを助けたい、アリシアを救いたいと思ったこと。
私が今思って、感じたことを全部男の子に話した。
すると男の子は微笑んで、
「君は、強いな。それに、優しい……大丈夫だ。君にならできる……頑張れ」
そう言って、また、男の子は静かに寝息をたてはじめた。
私はただ、熱く火照った頬を鎮めるのに精一杯になるのだった。
「それは本当?」
久々に籠った研究室で、プレシアは情報を持ってきた自らの使い魔に聞き返した。
「はい、フェイトが言っていたので間違いないかと」
「そ、そう」
『フェイト』、と聞いて頬を赤らめるプレシア。恐らく、先程のツンデレが尾を引いているのだろう。
「じゃあ、早速行きましょうか」
座っていた椅子から立ち上がり軽く伸びをして、プレシアはリニスを伴って研究室を出た。プレシアが作業をしていた端末は開かれたままで、そこには、『ラウル・フェルナンデス』と題名づけられた情報が記されていた。
「ここに来る以前の記憶がない?」
「……ああ…」
少年が話したことを、プレシアは問い返していた。
少年の名前はラウル・フェルナンデス。プレシアが目をつけていた『聖王』の末裔には間違いない。年齢は8歳。プレシアが手にいれた情報と、ほぼマッチしていた。
「名前は分かる。年齢、生年月日も分かる。それに家族構成も覚えているというのに」
「……なぜ俺が、ここにいるのか。そしてそれ以前に何があったのか…それだけが、思い出せないんだ」
少し申し訳なさそうに言うラウルに、プレシアは眉根を寄せて考え始めた。
そんな中でリニスはベッドに座るラウルに目線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「ラウルさん。少し辛い話しをするけどいいですか?」
「辛い、話し?」
《ちょっと、リニス?》
《話すしかないでしょう?記憶が戻れば、いずれ気づいてしまうことです》
リニスがこれからラウルへ話そうとしていることは、彼にとってとても辛いこと。精神的ダメージを負ってしまうことも十分に考えられる。
それではプレシアの望みが叶えられない。だから彼女は止めようとしたのだが、いずれ気づいてしまうのは確かにそうだ。だからプレシアはおとなしく引き下がった。
「あなたの家族は全員、あなたを除いて死んでしまいました」
「…っ!」
リニスがそう言うと、ラウルは軽く驚きに目を見張った。
だが、それだけだった。
「あ、あれ?驚かないの?」
自分の予想していた光景とは違ったのか、フェイトは戸惑いを隠せなかった。
そんな彼女にラウルは苦笑いを浮かべて、
「俺だけがここにいたって分かったときから、それは覚悟してたことだからさ。大丈夫だ」
言葉とは裏腹に、とても悲しそうな表情でそう言った。
「無理、しなくてもいいんですよ?」
「あ、はは…本当に大丈夫だから」
こちらを気遣うリニスにラウルは薄く微笑んだ。その笑みは、先程フェイトに見せた儚げな、どこか達観したようなもので、まるで全てを見透かしたような不気味なものに、リニスの背筋に冷たいものが走った。
「家族のことは大丈夫だ。それよりも、俺は見ず知らずのガキである俺のことを助けてくれたアンタらに礼を言いたい……ありがとう」
辛くないわけがない話しを大丈夫と切って、ラウルは頭を下げた。
「それで…アンタらは、俺になにを望む?」
「聞いていたのかしら?」
ラウルとプレシア、両者の視線がぶつかり合った。
「着いてきなさい」
「プレシアっ、まだ彼は病み上がりっ」
踵を返して歩き始めたプレシアをリニスが諌めようとしたとき、彼女の前に小さな手が翳された。
「大丈夫だ」
そう言って、ラウルはプレシアの後についていった。
時の庭園の奥深く。主であるプレシアでさえあまり立ち入らないそこに、少女はいた。ラウルよりも少し幼い面立ちを見せる、フェイトによく似た少女。彼女は今、意識のないまま生体ポットの中を漂っていた。
その姿を始めて見るラウルとフェイトは、揃って険しい顔をした。
「…この子が私の娘、アリシア。フェイト、あなたの祖体よ」
「アリ、シア…姉さん…」
透明度の高い液体に入っている、姉であったはずの幼い少女。そんな彼女をフェイトは目を逸らさずに見つめた。
「……この子の蘇生が、私の望みよ」
告げられた望みに、ラウルはなんの返事も返さずにポットに近づいた。
ガラスに触れ合う距離まで歩いて、アリシアのフェイトと瓜二つの顔を見つめる。
「っ!?」
この場所の誰もが、彼がなにをしているか分からなかった。だが、この場の誰もが、彼が魔力を練り上げたのに感づいた。
かつて大魔導師と畏れられていたプレシアでさえも思わず構えてしまうほど高密度な魔力。ラウルがなにか変な動きをしたら力づくで止める、そんな緊張感が流れる中で、ラウルは、プレシア達が予想していたことはやらなかった。それだけでなく、なにか動くわけでもなく、変わらずアリシアの姿を見つめていた。
長い時間そうやって、不意にラウルの魔力反応が弱まり、完全に収束した。
「彼女に蘇生は必要ない」
「…どういう意味かしら?」
呟いた一言に、プレシアは低い声で答えた。すると、ラウルはアリシアから目を逸らし、プレシア達のほうへ向いた。
「アリシアの全身に魔力波を当てて体内の状況を調べた。心臓、脳含めて一応微弱な活動を捉えた。だから、蘇生は必要ないと言ったんだ」
「え?それじゃあ…生きてるっていうことなの!?」
「あっ、ああ…ぐっ、ぐわんぐわんしないでくれ……!」
襟を掴んで激しく揺すってくるプレシアにたまらずタップしながらラウルが肯定を示すと、プレシアはパッと掴んでいた襟を離して、へたりと床に座り込んでしまった。
「よかった…っ…!」
嗚咽を漏らすプレシアを見て、ラウルは一瞬、続きを言うのを躊躇った。だが、今言わなくてもすぐに気づかれてしまうこと。ラウルはふうっと息を吐いて覚悟を決めた。
「アリシアは生きている。だが、このままでは意識のない植物人間のままだ」
「っ!?」
涙に濡れたプレシアの瞳が、大きく見開かれた。
「彼女が目覚めないのは、超高密度の不純魔力を受けた魔力汚染が原因だ」
不純魔力。それは、様々な魔力が混ざり合ってできる有害な魔力だ。放射能と似ていて、不純魔力を浴びた人体は、自らの魔力と不純魔力が結びつき、汚染され、酷いときでは死に至る。
アリシアは死の一歩手前の状態で、なんとか留まっていた。だが、それがいつまでもつづくとは限らない。彼女を救うためには、一刻も早い魔力の除染が必要だ。
だがそのためには、特別な魔法とそれを行使するための魔道書が必要となる。
その魔法の名は『円環の浄化』。そして必要となる魔道書の名は『碧天の魔術書』だ。どちらも、聖王の一族、つまりラウルのフェルナンデス家が代々継承してきたものであるため、ラウルはこれら二つについての知識は十分にある。準備さえ整えば、今すぐ除染することも可能だ。
だが現在、フェルナンデス家は壊滅。すなわち、今のラウルの手元には、碧天の魔術書がない。円環の浄化は碧天の魔術書と聖王の血を引く虹色の魔力があって始めて成り立つもの。このままでは、アリシアの除染は不可能だろう。
「落ち着いて聞いてくれーーーー」
「じゃあ、どうすればいいのよ?」
俺の説明を聞き終えプレシアは、静かに問いかけてきた。
どうするか…碧天の魔道書がない限り、円環の浄化は使用不可能。探すにしても、フェルナンデス家は壊滅。たとえ、見つけられたとしても、契約は切れてしまっているだろう。
完全に手詰まりの状態か。なら、やる事をやるしかないな。
「アリシアの浄化は碧天の魔道書がない限りは無理だ。だから、なんとしてでも碧天の魔道書を見つけ出す。それしか方法はない」
「でも、どうやって見つけ出すのですか?」
そう言われると………
「………気合い、かな?」
その場の俺を除いた全員がずっこけた。
ーーto be continuedーー
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