戦国異伝
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第百二十八話 促しその一
第百二十八話 促し
信長は義昭へ送った掟書が無視されたことを岐阜城で聞いた、しかしこれといって驚くことなく森と池田に対して言った。
「それならそれでじゃ」
「構わぬと」
「そう仰るのですか」
「どうも今の公方様のことを聞いておるとな」
それではというのだ。
「お聞き入れ下さるとは思えなかったわ」
「どうも今の公方様は」
池田がいぶかしむ顔で言う。
「これまでよりも遥かに」
「うむ、意地を張られるな」
「前より誇り高くお言葉の多い方でしたが」
「今は特にじゃな」
「はい」
まさにだというのだ。
「これまでより遥かに、いえ」
「あそこまでいくと別人じゃな」
「何でありましょうか、お変わりになられました」
「ですな、やはりそれは」
「あの坊主共ですな」
森も言ってきた、相変わらずしっかりとした声だ。
「あの者達がおりますから」
「やはりあの二人は除くか」
信長は眉を顰めさせて言った。
「そうするか」
「では忍の者を送りますか」
池田の目がここで光った。
「そうされますか」
「久助か飛騨者達を都に送ってじゃな」
「久助殿なら間違いないと思いますが」
天海と崇伝を間違いなく暗殺してくれるというのだ。
「あの方は織田家随一の忍の方ですので」
「天下でもあそこまで忍に通じておる者はおらんな」
「はい」
だから池田も言ったのである。
「では」
「普通の者ならな」
信長はふと言った。
「久助なり飛騨者達なりでじゃ」
「間違いありませぬ」
「そう、普通の者ならばじゃ」
ここで陰を込めて言う信長だった。
「それで問題はない」
「殿、まさか」
「天海という者も崇伝という者も普通ではないな」
信長はその直感から察していることを言ったのである。
「忍の者といえどもじゃ」
「仕留めることは出来ませぬか」
「忍術は妖術ではない」
全く違うものだ、忍術には道理がある。忍者も忍者としてしかとした道理があって術を使えるのだ。だが妖術はそれがわからない。
信長も妖術の存在を否定出来なくなっている、それで言うのである。
「妖術には妖術じゃ」
「あの二人は妖僧でありますか」
「まともな僧が闇の僧衣に袈裟なぞ着けぬわ」
森にこのことを言うのである。
「黒ならともかくな」
「黒は黒でありますな」
これまで黙っていた平手がここでこう口を開いた。
「決して悪い色ではありませぬ」
「上杉の色でもあるな」
「五行の北、水、冬であります」
つまり黒はこの世の摂理の一つであるというのだ。
「それであります。ですが」
「闇はじゃな」
「陰陽ですが」
平手は今度はこれを出した、陰陽五行という言葉がある様にこの陰陽もまたこの世の重要な摂理であるのだ。
だがこの摂理がだというのだ。
「陰と闇はまた違いまする」
「闇は底にあるものじゃな」
「全てを覆いそこに飲み込むものであります」
そうだというのだ。
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