鋼殻のレギオス 三人目の赤ん坊になりま……ゑ?
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第二章 メルセニク編
滅び行く都市よ
出会いと戦いに戦い
前書き
すげー筆が乗ったゾ……ただし後半力尽きた模様
「……」
あの後、放浪バスから降りたシキはそのまま宿泊施設でシャワーと溜まっていた服のクリーニングを行った。
放浪バスにもシャワーはあった。だがエンジンの冷却水な上、お湯はそれをエンジンの熱を利用した代物だからお世辞にも良いとはいえなかった。
エルミほどの技術力ならもっと良いのがあるんじゃないかとシキも一度聞いたのだが。
『わたしの技術力ならできるけどね。過度の技術ってのは滅びを呼びこむもんさ……それにもう少し早く気付けば向こうだって』
と、途中から自重の言葉を言ってはぐらかされた。
まぁ、そんなこんなで五ヶ月服を洗えなかったのだった。
ちなみにシキは綺麗好きである。姉であるリーリンの影響もあるがいくらなんでも五ヶ月も洗えない服をローテンションしなければならないのは普通の人間でも耐えられないことだろう。
鬼気迫る顔でドミニオの服も奪い去り、すべて手洗いし今は宿泊施設に用意されていた洗濯機の中だ。
今、着ている服は宿泊施設で買ったものだ。質素なTシャツとジーパンだがとりあえずのしのぎにはなる。
「……」
寝たのは深夜だったが、長年の習慣とは消えないもので太陽が昇るか昇らないか曖昧な早朝に目が覚めた。
ドミニオとエルミを起こそうとしたが、さすがに起こすのも悪いと思い、一人食堂まで来た。
貨幣カードは受け取っていたし、機械の自動調理だ。ボタンを押せば直ぐにできる。
だが先程からシキが無言なのは寂しいからではない。食堂の隅から放たれる殺気のせいだ。
誰かに向けているものではない。行くあてのない殺意が広い食堂を充満していた。
早朝だからいいが、数少ない利用者が部屋に足を踏み入れた瞬間、顔を青くしながら出て行くのは見ていて気持ちいいものではない。
「困るわよねえ」
「へっ?」
突然聞こえた女性の声に、シキは気の抜けた声を出す。
「可愛らしいお嬢さん、おはよう」
「お、おはよ、うございます」
元気のいいはつらつとした声に、シキは戸惑いながら返事を返す。
シキは女性の顔を見る。活動的で美人の部類だろう、微笑を浮かべながらシキを見ている。
「君もしかして、隣りにいた放浪バスに乗ってた子?」
「へっ?」
「いやね、二週間乗っていた放浪バスに君みたいな子を見てなかったからね……あぁ、ごめん、戸惑うよね。あたしはジャニス、ジャニス・コートバックよろしく」
「え、えっと……シキ、シキ・マーフェス、です」
まだ寝ぼけている頭を必死に動かしながら、シキはルシャのことを思い出していた。ジャニスの雰囲気がよく似ているのだ。
ニコニコとした微笑を崩さす、ジャニスは手を伸ばしてきた。
一瞬キョトンとするシキだったが、握手だということを気付くとすぐに握り返し、驚いた。
硬いのだ。手のひらもそうだが、特に指先が硬い。
よくジャニスの体つきを見ると細いなりに鍛えているようでシキは内心感心した。武芸者の手ではないからだ。
「ん? 手のこと? 高いところで作業するのが好きなの。君も随分鍛えてるみたいね」
「まぁ……ジャニスさんもそれなりに鍛えてるみたいだね」
一般人でここまで鍛えてる人は稀だ、特に女性は。
「色々経験したからね。ねえ、あの都市庁をどう思う?」
握手した手を話すとそう問いかけるジャニスにシキはやや冷めた目で答える。
「正気を疑うね。あれじゃ汚染獣を呼び寄せるだけだ」
「現実的ね、若いのにそれじゃ駄目よ。ロマンとか感じない? ああして空の果てを目指すっていうの」
「……ロマン?」
不意にジャニスが言った言葉にシキは反応する。
「そうロマンよ。君に夢とか無いの?」
「夢……あることにはあるけど」
だがそれをジャニスに言うのは少し気が引ける、それがシキの結論だった。
返答に困っているシキを見かねたのか、ジャニスは手を振り話題を変える。
色々話した。ジャニスは旅を続けていて、色々な都市を巡っているのだとシキも同じようなことしてると言うと嬉しそうに頭を撫でる。
不思議と嫌な気持ちはしなかった。ジャニスの人柄なのかわからないがシキは撫でられるという行為に身を委ねた。
シノーラやカウンティアのように乱暴な撫で方ではなく、母親がするような穏やかな撫で方は初めてだったからだ。
次第にシキは意識を手放そうとするが……不意に鼻に臭った匂いに飛び起きる。
そしてシキは体を硬直させる。
「え、えっ」
「あ」
ジャニスは近づいてくる男に向かって手を振る。
男は一瞬体を反転しようとするが、諦めたのかシキとジャニスが座る席に近づき、そのまま片手に持った朝食の皿を乱雑に置き座る。
「まったく逃げなくていいじゃない。って、シキ? どうしたの?」
パクパクと金魚のように口を開閉させるシキをジャニスは心配そうに見る。
席に座った男は陰気な目をシキに向けると訝しげにこういった。
「何だ? 俺の顔に何か付いてるか、ガキ」
そこにいたのはリンテンスだった。
だがシキが知っているよりも若干若い、いや若すぎる。
シッキの記憶の中ではもう少し無精髭も合ったし、頬の肉も減っていた。リンテンスに弟がいたとは聞いたこともないし、まとっている雰囲気はリンテンスそのものだった。
「こら、リンテンス、いたいけな子供を睨みつけないの。あっ、コイツは腐れ縁のリンテンス。何故か目的地が一緒になるのよね」
「お前が言うか……いつまで見ている? まるで幽霊でも見ているような顔だな」
「幽霊の方がマシかも……」
混乱している頭を必死に落ち着かせながら、シキは深呼吸してもう一度リンテンスを見る。
確か、以前グレンダンに来る前は都市を巡っていたという話を聞いたことがあったことをシキは思い出した。だが、それはシキが生まれる以前の話だ。
つまり今、目の前にいるのは過去のリンテンスということになる……が、その考えをシキは即座に捨てた。疲れているだけだし、世界には同じような人間が三人以上いると聞いたことがある。
つまり目の前にいるリンテンスは同姓同名な上、実力も同じ別人ということでシキは納得した。
「――――ねえ、きいてる?」
「へっ?」
「やっぱり、ブツブツ何か言ってたから怖かったわよ?」
「あっ、ごめんなさい」
「まぁ、いいわ。ねっ、あの都庁を登ってみたくない?」
ジャニスは無邪気にそう言う。シキはこっそり目に剄を走らせ頂上付近を見る。
明らかに、というか建設途中で作業してる作業員たちの服装は都市外用のスーツだ。つまりあの都庁はエアフィルターを突き抜けている。
「止めたほうがいいよ。あれ、エアフィルター抜けてるから」
「ほう……」
ビクリとシキは目の前に座っているリンテンスの雰囲気が変わったのを感じた。
この感じはそう、サヴァリスに似ている。
……もしかしなくてもやらかしたのではないかとシキは思う。
「見えるのか?」
「い、いや、ぼんやりと見えただけ」
「誤魔化さなくていい。俺も気づかないうちに剄をこめ、一瞬で視認した……お前、強いな?」
シキはすぐにでもここから逃げ出したかった。グレンダンにいた頃のリンテンスと明らかに違う。基本的な雰囲気は同じだが、ただ一つ違う。
飢えだ、強者への、戦いへの飢え。今のリンテンスはそれを渇望していた。
しかし、ジャニスはそんなシキの心情を知ってか知らずか言葉を紡ぐ。
「いくら君たちが武芸者でも、エアフィルターの頂点より高い景色なんて、のんびり見たことないでしょう」
シキもリンテンスも口を開かなかった。
しかし、シキはそびえ立つ都庁を見ながら呟く。
「ロマン……か」
*
「……」
あの後、毒気を抜かれたのかそそくさとシキたちは朝食を食べ終え、解散した。
いつの間にか殺気もなくなっていた。
シキは部屋に戻る気もせず外縁部を歩く。
当然の事ながら何もない。当たり前だ、ここは汚染獣との最終防衛ラインや大規模な訓練をする場所だ。放浪バスの停留所や必要最低限の施設しか無い。
ふと都庁を見る。
高くそびえ立つそれは太陽を浴びてギラギラと輝いている。
『そうロマンよ。君に夢とか無いの?』
夢、なんて言葉シキは考えたこともなかった。
ただ日々を生きるのに必死だったし、グレンダンでは考えるよりも行動したほうが速かった。
漠然的に、孤児院を出て武芸者として生活するということしか考えてなかった。
レイフォンは天剣授受者、リーリンは大学を出て先生にでもなればいい。しかしシキ自体は何も考えてない。
「外に出る?」
ふとデルクが昔、話してくれたことを思い出した。
兄弟子がグレンダンを出た、という話だ。そんな一言二言の他愛もない話をしきはなぜか鮮明に思い出していた。
そして今日会ったジャニスとメルセニクの都庁だ。
他の都市にもあぁいうのがあるのか、と思うと何故かワクワクするのだ。
ジャニスがここにいたのなら、シキに向かってこう言うだろう。
――――それがロマンよ。
しかし、シキはゆっくり歩いていた足を止める。
「……出てこいよ」
そのまま剣帯に手が伸びる。複数持っている錬金鋼のほとんどは部屋に置いてある。
持ち出しているのは刀と槍と鋼糸とだけだ。
不安はある、だが刀があるだけマシだと気持ちを切り替える。
食堂で感じた殺気だ。それが今、背後から感じた。ピリピリとした殺意がシキの肌を当ててくる。
「やっぱ気付くか」
若い男の声だった……どこかで聞いたことがあった気がするがシキは余計な思考を排除して声の方向に向き直る。
そこに立っていたのはやはり若い男だった。
既に錬金鋼は復元していた。金棒のような大きい鉄鞭だ。
強い、まだ剄も発していないがシキは目の前の男が一筋縄ではいかない相手だと直感した。鉄鞭なんて武器を使うのは二つに分かれる。
徹底的に防御に徹する者とその質量で相手をすり潰すことを考える者だ。
後者なんだろうな、とシキは思う。男の目は獲物を探す肉食獣のそれだ。
「よう、お嬢ちゃん」
「悪いが俺は男だ、こんな見た目だがな」
「はっ、見た目詐欺だな。もう少し可愛くすりゃ幾らでも稼げそうだぜ?」
軽口の押収、だが濃密な殺意がシキを貫く。
「一応聞くけど俺なんかした?」
「いいや、何も?」
次の瞬間、男の姿がかき消えた。
シキは体を逸らすと今まで立っていた場所に鉄鞭が振り下ろされる。
地面が砕けひび割れる。一瞬でも遅かったらシキは無残な死体となって大地を汚していただろう。
「レストレーション01」
鈍い光が光り、シキの手に馴染みの重さが復元される。
五ヶ月間、エルミによって調整に次ぐ調整を受けたシキだけの錬金鋼だ。淀みなく今のシキの剄を受け止めてくれる。
そのまま後ろに飛び、男との距離を離す。
今のでわかったがこの男は余計な小細工をしない。愚直に、真っ直ぐに、一直線に相手を潰すために向かってくる。馬鹿みたいに愚直な一撃……だがシキは笑った。
「あんた、嫌いじゃないよ」
「そりゃどーも」
男も釣られて笑う。殺し合いをしているには不釣り合いな笑い声が辺りに響く。
そして暫く笑うとシキは刀を構える。しかし、どっしりと地面に両足を踏みしめる。
「なんの真似だ?」
「受け止める、打ってこいよ」
男の殺意に怒気が含まれる。
予想通りだったがここまで引っかかるのは珍しい。
目の前の男は細かな技術なんて物は持っていない、技量はそこまでではないだろう。だが相手を壊す、その一点ではシキよりも上だ。
先ほどの一撃もただの振り下ろしに見えたが振り下ろすタイミング、強さ、角度、すべてが完璧だった。
「本気か?」
「あぁ、長引くと面倒くさいのが来る」
リンテンスのこともそうだったが、この都市の都市警もやって来るはずだ。
「いいだろう……テメエをここで食いちぎる」
男の体から剄が溢れる。まるで自身すら壊しかねないほどの剄を、身体に、錬金鋼に、シキにぶつける。
シキは静かに構える。
そして男が一陣の風となりシキに襲いかかる。
シキの感覚が一気に遅くなる。目の前には凄まじい形相をした男と今にもシキを砕こうとする愚者の一撃。
ゆっくりとシキの頭に近づく鉄鞭が、その用途通りシキを砕く、その瞬間男は鉄鞭ごと吹き飛ばされた。
「なっ――――!?」
活剄衝剄混合変化、金剛剄。
確実に当たると思っていたのだろう、驚愕の表情のまま男は無残に大地に転がるが、なんとか体勢をたて直すが遅かった。
「ッ!?」
「恨むなよ」
サイハーデン刀争術、水鏡渡り。
一個の砲弾のように突っ込んだシキは男の目の前にいた。
男は鉄鞭を構えて防御しようとするが間に合うはずがない。
サイハーデン刀争術、焔切り。
紅蓮に燃え上がった刀身が男の横腹から捉え、そのまま肩口まで切り上げる……はずだった。
「ッ!!」
「うおぉっ!?」
ほとんど勘だった。シキは焔切りを途中で止めて、男を蹴り飛ばす。
幾つかの骨が砕ける音と男の声にならない叫びが響くが、シキは焔切りをするために刀身に溜めた衝剄を辺りに撒き散らす。
サイハーデン刀争術、焔重ね・紅布。
炎の瀑布が向かってきたソレをすべて迎撃し、爆発した。その衝撃でシキは交代しながら走り続ける。
あんなのその場しのぎであることはシキはわかっている。距離を取るのは下策中の下策だが肋骨を抑えて、地面に転がっているあの男を巻き込むわけにはいかないだろう。決して助けたわけじゃない、目の前で人間がサイコロステーキになるのを見たくなかっただけだ。
「くそっ!!」
縦横無尽に向かってくるソレを常人の目、いや武芸者ですら捉えるのは難しいだろう。
糸だ。それもただの糸ではない、錬金鋼で復元された鋼鉄の糸、鋼糸だ。
既にシキは糸に絡め取られた獲物だ。多少あがけても結局は糸に絡み取られて喰われるその時を待つ獲物でしか無い。
既によけきれなかった鋼糸のせいで体中に切り傷が出来ている。だがシキは止まらない、止まったら死ぬからだ。刀を振り、被弾を最小限にする。
「――――見込み以上、と言うべきか?」
不意にシキの耳にそんな言葉と煙草の匂いが香ってくる。
シキは悪寒がし、刀を構えるが弾き飛ばされる。空を舞う刀を見ることもなくシキは向かってくる剄技を避けるために剄を込める。
繰弦曲・魔弾。
三百六十度、全方位からの刺突攻撃がシキに襲いかかる。
しかしシキも剄を篭め終わり、剄技を発動していた。
「おぉおおおおおおっ!!」
外力系衝剄の変化、咆剄殺。
ルッケンスの奥義、震動波が一瞬だけ鋼糸の動きと止める。すかさずシキはほんの一瞬の穴に向かって復元途中の槍で剄技を放つ。
外力系衝剄の化錬変化、 餓蛇炎駆。
化錬変化させた剄弾を打ち込み、そのままその拡散した剄弾とともに大回転し周囲一体を焼き払う技だ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
シキは伝う汗を拭わずに出来た安全地帯に着地すると荒く息を吐く。
死ぬ気でやってこれだ。さらに言えば敵が手心を加えてくれなかったら焔切りしている途中で死んでいた。
「ここまで切り抜けた奴はお前が初めてだ」
「鋼糸との訓練は積んでるんで」
だがここまで容赦のない攻撃は初めてだ、という前書きは付くが。
いつも通り、薄汚れたコートのポケットに片手を突っ込み、煙草を吸う師匠の姿がそこにあった。
「まだいけるか?」
リンテンスの声は平坦だ。平常時でも、戦闘時でもそれが一番怖いとシキは思う。
全神経をリンテンスの指と剄の動き、周囲に回す。一秒でも気を抜けば切り裂かれる。リンテンスとはそういう男だ。
しかしまともにやりあっても勝てるわけがないのも事実だ。リンテンスとシキの技量の差は天と地ほどの差がある。剄量で勝っているなど気休めでしか無い。今の若いリンテンスなら少しは満身があるなどと甘いことを考えたことを、シキは自分自身を殴りたかった。
武芸者としてもうリンテンスはこの時点で完成されている。
シキはいつの間にか震え始めた手を必死で安定させる。
恐怖?
「怖いか?」
死にたくない?
「逃げるか?」
違う。
「十秒待つ。すべてをかけてこい」
「……やっぱ、師匠ってすげえや」
――――あぁ、愉しい。
そう思う、今のシキの顔はサヴァリスそっくりだった。
「十」
槍で突撃するが、まとわせた衝剄すら中和させられて槍に鋼糸巻き付かれる。
「九」
そのまま巻き付いた鋼糸を伝って衝剄を流されるが、単純な衝剄ならシキのほうが強い。同じく衝剄を放ち相殺するが、隙をつかれ槍がシキの手元から吹き飛ばされ、空中の鋼糸に渦に巻き付かれる。
「八」
武器がなくなったシキは手に剄を回し、向かってくる鋼糸に拳を向ける。
シキの剄脈が唸る。全身に纏った剄が半ば物質化しながら鋼糸を迎撃する。
これにはリンテンスも目を見開き、七から四までのカウントを忘れる。
「らぁっ!!」
そのままシキは向かってきた鋼糸を両手で掴む。剄脈の鼓動が止まらない、剄が噴き出し、周囲を破壊し始める。
掴んだ鋼糸が手のひらの中で暴れ、ずたずたに引き裂くが構わずシキは鋼糸を引っ張る。
予想以上の力だったのだろう。リンテンスが宙に浮き、シキに向かって引っ張られた。
一瞬だけ驚愕の表情をするが、いつもの無愛想な表情に戻る。
「三」
左太ももと横腹を鋼糸が貫こうとするが、物質化した剄がアーマーのように硬質化し、鋼糸を弾き飛ばす。
外力系衝剄の変化、刃鎧。
防御力だけならオリジナルを凌駕するそれは。弾き飛ばした鋼糸に反応すると切り刻む。
「ニ」
シキは左手で掴んでいた鋼糸を離す。リンテンスの距離は一メル程度。
シキが選択したのはただの剄を纏った拳、パンチだ。しかしその拳に篭められた剄力をまともに受け切れないと判断したリンテンスはカウントを止め、仕込みを発動させる。
瞬時に周りに展開されていた鋼糸がシキを繭状に包み込み、鼻先まで迫ったシキの拳を遮る。しかしリンテンスの指に今まで感じたことがない衝撃が走り、指の間から血が吹き出す。
何時ぶりだろうかと、リンテンスは思う。ここまで自分が追い込まれたのは。そんな一瞬の思案の後、リンテンスは剄技を発動させる。
「那由多の彼方へ送ってやろう。」
繰弦曲・崩落。
真っ白な光が周囲を包み込む。
繭の中へ向かって衝剄打ち出し、大衝撃が内部で起こる。今まで汚染獣にすら使わなかった大技だ。
五秒、今のリンテンスがこの技を使える限界時間だ。本来なら十秒持つが錬金鋼が持たないのだ。鋼糸が目に見えるほど赤く染まっている。
リンテンスが鋼糸を破棄すると同時に激しい爆発を起こす。
爆風が一瞬だけリンテンスの視界を遮った。それが勝負の分け目だった。
「ほう」
「うぉおおおおおおおお!!」
爆風を引き裂いて、シキがリンテンス目掛けて突撃してきたのだ。
全身血まみれ、左腕に至っては千切れてるがそれでもシキの目には闘志が失われていなかった。
「殺す気かぁああああああああああ!!」
次の瞬間、シキの右ストレートがリンテンスの左頬を捉え吹き飛ばした。
後書き
正直、今回リンテンスに勝てたのは武器の差です。
本来なら鋼糸掴んだ時点で細切されてもおかしくないですが、通常錬金鋼だから勝てたのです。というかリンテンスほんとやべえ、書いてて思ったけどコイツ一人でなんとかなるべ。レヴ以外は。
前にも書いたかもしれませんが素手のほうがシキは強いです。その上、今回はリミッター振り切っていました。ちなみに都市警はデルボネさんの一族が「なんだ、アイツラやべえよやべえよ」と警告したから近づいてすらいません。巻き込まれたらミンチになるからね……。
ちなみに今のシキは剄量なら天剣授受者以上ですが技量は天剣授受者以下です。ぶっちゃけ武器も天剣以下なのでまともにやりやったら武器の差でも、経験の差でも負けます。
あっ、ディックはしゃーなしです。この時点だとただ愚者の一撃撃つだけの若造な上、対人戦経験皆無ですからね。断っておきますが作者はレギオスキャラで嫌いなのはいません、むしろみんな大好きすぎて原作でももっと活躍して欲しかったキャラが多すぎるくらいです。
いつか好きなキャラ表でも作りましょ。
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