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ソードアートオンライン 弾かれ者たちの円舞曲

作者:斬鮫
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第肆話 《壊すモノ》

 
前書き
第二層すっとばして第三層のお話です。
オリジナル要素を多分に含んでおりますので、それらが苦手な方はあまりお勧めできません。 

 
このソードアートオンラインというデスゲームが始まってから、既に一ヶ月と半月が経とうとしていた。
ゲームの開始時では一万人弱ものプレイヤー達がいたが、今ではその数を減らし、七千人強となっている。
そんな中、脅威的なスキルを持つプレイヤー達がいた。
数自体は()()少ない。
彼らは多数のプレイヤー達に、畏怖と拒絶を持ってこう呼ばれる。
バグプレイヤー、と。

      ○●◎

「で、そのバグプレイヤーさんが何でこんなトコにいるんですかねぇ……」
意識せず口から溜息がこぼれた。
黒い布製の動きやすそうな服に鋭い銀の光を放つダガーを後腰の鞘に入れた、青目黒髪の少年が巨木が立ち並ぶ密林の中に立っていた。
彼は第一層ボス、《イルファング・ザ・コボルドロード》との戦いで名前が広く知れ渡り、今では一部のプレイヤー以外にはかなり嫌われている。
そのプレイヤー名は、シキ。
多数のプレイヤーにバグスキルと名付けられたスキルの一つ、《直死の魔眼》を持ったプレイヤーである。
「ああ、くそ。どうしてこんなことに……?」
頭を思いっきり抱えて、シキは回想した。

      ○●◎

「なぁ、シキ」
「何だよ、シン」
「ギルド作らないか?」
「…………はい?」
シンは一から説明すると、前置きして、
「俺達って暫定的なパーティーなままじゃないか」
「そうだな」
「だけどギルドを作れば、利点があるよな。例えば簡単にメッセージを送れたり、ギルドメンバーのHPを数値も含めて詳しく把握できたりと」
「……で、俺に何でわざわざギルドリーダーになる奴が受けないといけないクエストを頼むんだ?」
「決まってるだろ」
そう言って肩を竦めるシン。
「いや、俺以外に適任いるだろ。お前とかアティとか」
「アティは『リーダーはシキ君にお任せした方がいいと思います』ってさ。俺もそう思う」
「……。……チルノは?」
「ガラじゃないから嫌だってさ」
「…………だけど、皆ギルドは作りたいと?」
その通り、とシキを指さす。
「というわけで宜しく」

      ○●◎

という経緯があった。
ギルド作成の為のクエストは、ギルドリーダーになる者がクエストを受け、そして達成しなければならない。
これだけ聞けば簡単に聞こえるだろう。だが、実際にはギルドリーダーになるもの『のみ』が受けなければならず、他のメンバーを連れて行くことはできない。
肝心のクエスト内容だが、これもある程度は何とかなりそうなもので、第三層の《迷い霧の森》という固有名を持った密林の中で、あるモンスターの素材を入手してこい。というものだ。
第三層が開放されてから既に四日が経過しているので、このイベントでのみ《迷い霧の森》に出てくる全長3メートル程のマムシに似たヘビ型モンスター《ブルーブラッド・サーペント》の攻略法はアルゴの攻略本にて明記されている。
攻撃方法は主に口から吐き出す青色の毒と牙での噛み付き、そして長い胴体を利用しての締め付け。ヘビの攻撃技としては鉄板も鉄板のラインナップだ。
特に気をつけるのは、勿論毒だ。これは喰らってしまうと、二十秒もの間継続ダメージを受けてしまう。麻痺は無く、継続ダメージ自体も微々たるものであっても、ダメージの不快な痛みで集中を途切れさせてしまうことは明白だろう。
そしてMobとの戦闘、付け加えて一人での戦闘で他のことに気を取られすぎれば――その結果は言うまでもないが――死が待っている。
「このクエストでは、何人か死んだって話しもあるしな……」
シキはそんな風にひとりごちて、木々の隙間から覗く空を見上げた。
巨木の間から見える空は重く暗い雲を抱え、今にも泣きそうだった。
がさり、と茂みから音を立て、一体のMobが現れた。
シキがそちらに目を向けると、その表情はあからさまに落胆を訴えていた。
そこには黒い毛皮を被り、赤い攻撃的な色の隻眼でシキを見つめるクマがいた。
そのMobの名前は《ウィキッド・ベア》。
「……ハァ」
本当に、本当に面倒くさそうに溜息を吐いて、後腰のダガーを抜いた。
ダガーを逆手で構えた直後、クマが助走とともに走り込んできていた。
シキが向かってきたクマ額の『点』を突いた、その直後クマの姿が一瞬静止した。その後、《ウィキッド・ベア》はまるで吸血鬼が日光を浴びたかのように消え失せた。
《ブルーブラッド・サーペント》は一箇所に留まることは三分ほど丸まっている状態以外では無い為、非常に見つけづらい。
「……茅場晶彦はどうしてこうもまた面倒なクエストを用意したのかね……」
肩を落とし、もう一度溜息を吐いた。
今日はどうにも、溜息が多くなってしまっている。
「まぁ、仕方ないよな」
そんな風にまた溜息を吐いた。

      ○●◎

「キ、キキキ、キキキキキキキ――――ッ!」
「…………。ああ、いつものか」
「キ、キキキ………。……ん。すまんね。して、何用かな?」
劇役者風の男は自分に話しかけてきた男へと向く。
「本当にいいのか?」
「何がかね?」
男の問いの意味を理解しながらも、微笑むだけの劇役者風の男。
「…………」
「まぁ、いくら彼を刺激しても意味が無いことは理解しているよ。だが万に一つということもある。いや、むしろ放置しておくよりも、刺激を与えた際の方が完全覚醒する可能性の方が高いと思うがね?」
「…………ではな」
「また生きて会えることを楽しみにしているよ。君の健闘を祈ろう」
「無神論者が何を言うか」

      ○●◎

「…………? あれか?」
あれから二十分ほど探索を続け、シキはようやく巨大なヘビ《ブルーブラッド・サーペント》を発見した。
外見は鮮やかな緑と青の鱗で彩られたヘビだった。ズルズルと重い身体を引き摺って、それでも身体が大きな分スピードは早い。
茂みに隠れてその様子を観察しているシキと気づかず離れていく《ブルーブラッド・サーペント》の距離は、十メートルも無いだろう。シキならば余裕で不意打ちできる。
「やって、みるか……!」
ガササッ、と音を立てながら茂みから飛び出し、一直線に巨大ヘビへと走る。
サーペントが音に反応し、その爬虫類独特の彫りが入った頭をシキに向ける。
しかし時既に遅し。
次の瞬間には《ブルーブラッド・サーペント》の首は吹っ飛び、その身体は青い光を撒き散らしながら無数のポリゴン片と化した。
その中から一つの青と緑が混在する美しい鱗が残り、それを手に取って指先で触れるとウインドウに名前が表示された。
名前は《エメラルドブルーの蛇鱗》。確かにクエスト達成の為のアイテムだ。
「ふぅっ……」
僅かな虚脱感に身を任せ、その場にへたり込む。
疲労が溜まっているわけではなかったが、ただ何とも言えない達成感を噛み締めたくて座ってみた。
「……一応、言っとくけど、このクエストに限らず、クエストってのは早いもの勝ちだぜ? 俺の方が運が良かったってことで納得して……くれないか」
立ち上がって、先程自分が出てきた茂みを見やる。
しばらく凝視していると、そこからボロボロのマントを着た男が現れた。
マントの下の肢体は筋骨隆々で、顔は厳格な雰囲気を醸し出す無表情。頭髪はぼさぼさの濃い紺色で、服装はというとノースリーブの服と長めのズボン。そして肘近くまである指貫グローブと素足に脚絆を付けていた。
見たところ、武器は何も装備していない。
「…………」
男は無言でシキを見つめている。
「………?」
男はシキを見つめて、見つめて、見つめて、そして「ふん」と鼻を鳴らした。
「あの男が俺に似ていると言っていたが……こいつは俺とは違うな。まだ引き返すことができる。それに――呑まれているわけでもない」
ぶつぶつと言っていたのをいきなりぴたりと止め、男は構えもなくシキに滑るように地を蹴って飛び込んでくる。
「なっ、何するんだ。お前!?」
間一髪のところで拳をバックステップで避けた。と思った直後に、顎を掌底で打ち上げられる。
「ぐぅっ……!?」
舌を噛んだかと思ったが、反射的に舌を引っ込めていたようで自決まがいなことは回避できていた。このゲームでは舌を噛んだとしてもHPバーに変化は無いのだが。
掌底を受け、吹っ飛ばされたシキは男から2メートル程度離れたところに落下した。
「ふむ……。弱いな。俺よりも殺しに特化した能力を持つというのに、なぜ殺気を、殺意をひた隠す。よもや殺したくないから、などと言うまいな?」
男の口調は淡々としていて、まるで機械のようだった。
「どうした? 貴様は無限の可能性を秘めた人の子だろう。この程度で倒れるわけがあるまい」
男は大股で倒れているシキへと近づいてくる。
シキは倒れたまま、ダガーを強く握り締めた。
そして男がシキの間合いに入った直後、
「シィッ!」
素早く身を起き上がらせ、鋭い呼気を吐き出しながらダガーを下から上へと斬り上げた。
軌道は男の線が走っている右足から左肩へと抜ける。これで――!
「遅い」
シキの決死の斬撃にもたじろぐことなくいたって冷静にダガーを持つ右手の手首を掴んで、そしていとも簡単に、握り潰した。
「――――っ、ああっ……!!!」
ぐちゃり、という音と共に、自分の右手が歪な形に変化した。どうやっても拭えない不快感を感じ、身をよじって叫んだ。
拭えない不快感は痛みを凌駕し、そして――――。

      ○●◎

「よう。随分ピンチみたいだな? シキ」
お前は、影也、か?
「ああ。にしても派手にやられたなぁ。戦えるか? このままで」
…………。
「いや、マジで無理? いけるだろ、まだ」
……正直、無理かもしれない。
「おいおい。天下のシキくんがこんなとこで敗北宣言すんのか? ここで終わらちゃ俺が困るんだよ。…………あーもう。仕方ねぇ。ちょい目ェ閉じてろ」
どうする、つもりだ?
「悪いな。だがここで諦めたお前も悪いんだ。それでチャラにしてくれ」

      ○●◎

そして、シキは笑った。
「は、はは。はははははっ!」
「…………何が可笑しい」
眉をひそめて、男は問う。
「いや、いやな? 俺はずっと、ずぅっと閉じ込められてきたんだよ。だけど、だけどさ。たった今外に出られたんだ! これを喜ばず、何を喜べというんだ!? 俺は、たった今この世に生を受けたんだ!! 永い間閉じ込められて生きていて、これが初めて外に出れた。笑わずにいられるかよ!?」
はははっ、と口角を吊り上げて、ただただ笑っている。
そして、笑みを消した。
「……シキを傷めつけた礼。シキに代わって俺が返してやるよ」
「その腕でか?」
んなわけねぇだろ、と地面に突き刺さっているダガーを蹴り上げ、左手で持った。
そして、右腕を肩の部分ごと切り落とした。
「……ほう?」
「んで、よっ……とぉ!」
落とした右腕をぐちゃっ、と踏み潰す。
次の瞬間には、腕が元通りになっていた。
「…………」
目を見開き、男は絶句していた。
このゲームには回復魔法は勿論、スキルによる部位回復すらありはしない。
だが、この少年は一瞬で腕を元に戻してみせた。
「……何をした?」
男の無表情の言葉の中に疑問を感じとったシキの姿をしたモノは、なぁにと笑う。
「ちょっとばかしシステムに介入して、チート使っただけさ」
当然だろ? とでも言いたげな態度に、男はこいつを理解した。
「お前、どこまでアクセス権限を持っている?」
「持ってるわけないだろ」
軽い、今にも欠伸でもしそうな態度に、男は表情に出さぬものの驚いた。
「ハッキングだよ。んなの思いつけよ」
はぁ、と落胆の溜息をつく『シキ』。
「ま、こんな長々話しても面白くもなんともないし………殺し合おうぜ?」
ダガーを逆手に構えて、『シキ』は心底楽しげに笑った。
男も仏頂面にも似た厳格な顔つきのまま今度は拳を構えた。
空から垂れてきた涙が、地面を濡らし始める。
二人の丁度真ん中に雫が落ちてきて、二人は同時に地面を蹴った。

      ○●◎

先制攻撃を取ったのは『シキ』だった。
「ラアッ!」
繰り出したのは斬撃ではなく、蹴りだった。
地を蹴ると同時に姿勢を変え、下段から顎を狙って右足で蹴り上げる。
「むん!」
男は『シキ』の土踏まずの部分を掴み、投げようと足と腕に力を込める。
「はっ!」
嘲笑う声とともにしっかりと掴んでいたはずの拘束を抜け、左足で地面を軽く蹴る。そして空中で身体を反転させ、今度は顔面を狙って蹴る。
男は手の甲で足首を叩き、蹴りを無理矢理に逸らす。
「すげえなアンタ……。格闘術じゃ、シンでも俺には勝てないのに……」
驚愕の声を発していても、彼の余裕の表情は揺るがなかった。
「お前こそ、その身のこなしには舌を巻くばかりだ」
男は無表情のまま、称賛の響きなど皆無な声で言った。
『シキ』はにいっと笑いながら大きく跳び、今度は空中で巨木の枝を斬りつける。
ずるり…、と五本もの数の枝がズレ、男の頭上から降ってくる。
枝と言えどそれは普通の木の幹ほどもある遥かに巨大な枝であり、人ひとりを簡単に押し潰せる大きさがある。
「…むん!」
だが男は一番最初に落ちてきた枝を何と右手一本で掴み取り、それを盾にすることで枝を防ぎきった。
「何てこった……。ここまでだとは思わなかった。正真正銘、化物じゃねぇか。興奮してくんじゃねか!!」
別の枝から男を見下ろして、ダガーを持っていない左手で顔を覆い、心底愉快そうに笑う。
男は『シキ』を見上げ、少し膝を曲げて、そして彼のいる場所まで一息に跳躍した。
「はっ……!」
口元の笑みを絶やさぬまま、『シキ』は男の身体を半回転させ遠心力を乗せた右腕を受け止め、地面に向かって吹き飛ばされる。
「…………」
木の根本で背中を強打した『シキ』に追撃を加えようと男は枝を蹴って、猛スピードで『シキ』へと迫る。
そして、先程と同じように右腕を振りかぶった。
「はっ、かかったなアホが!」
嘲笑し、『シキ』はダガーを後ろへと突き刺す。
彼の背後には、巨木があった。そして、今彼が突き刺した巨木の根元部分には、『点』がある。
木の根の一部が消滅し、巨大な樹が男に向かって倒れてくる。
「この程度、無駄だ」
降下しながら言って、男は樹を右手で掴んだ。
そして、
「むぅん!」
樹そのものを、握り潰した。
描写するならば、男が空中で樹の側面を掴み、力を込めると同時に樹をまるで柔らかな林檎を潰すかのようにぐしゃりと破壊した。
男が樹を握り潰したその時、ズバッという音が男の耳に届いた。
潰された樹をバラバラに寸断し、その下から満面の笑顔で『シキ』が飛び出してきた。
「死ねっ!」
超がつく程の笑顔で言って、『シキ』は男の線を切ろうと一閃する。
男は無表情のまま『シキ』のダガーの側面を指で押さえ、顔面に蹴りを放った。
男の蹴りは『シキ』の顔面を捉えず、空振りした。
『シキ』は身体を空中で縦回転させ、お返しだとでも言わんばかりに踵を男の顔面に叩きつける。
男はうっとおしいハエを払うような動作で腕を振るい、『シキ』の踵落としを躱す。
二人は同時に着地し、そして再び『シキ』のダガーと男の拳が交錯した。
「ははっ…!」
「ふん……!」
二人の攻撃は互いの攻撃で阻まれ、シキは笑い、男は無表情のままだった。
続けて同時に放った二撃目も武器同士がぶつかり、攻撃が無に変わる。
どんどん攻撃の速度は上がり、遂には自分しか放った斬線と拳の軌跡は分からなくなっていた。
「は、はははっ……」
「…………!」
傷つきながらもまだ笑い続ける『シキ』と斬撃を浴びながらも無表情の男。
二人のその単純な殴り合いとも言える殺し合いは、二人が踊る不出来な舞踏にも似て、美しくはないものの見る者を圧倒する。
雨を弾きながら振るわれるダガーと雨に濡れながらも振るわれる拳も良い殺伐な雰囲気を醸しだしていた。
果たして、デュエルでもない、相手が死ぬ他に決着の無いこの戦いは、唐突に終わりを告げた。
「……六境開示(ろっきょうかいじ)!!」
地面を思いっきり踏みつけ、男が叫んだ。
「…………ッ!?」
本能的にバックステップで距離を取って、腰を落としていつでも飛び出せるような状況で男を見やる。
男はそれで、ふぅっと細い溜息を吐いて、足元に脱ぎ捨てたぼろのマントを被った。
「これにて(しま)いだ。小僧」
「何……?」
訝しげな目で男を凝視する『シキ』。
男は緊張させていた筋肉を戻し、相も変わらぬ無表情で『シキ』を見つめてくる。
「まだやるか? 俺はまだ出来るが、小僧。お前はもう限界だろう」
その淡々とした声は疲労を感じさせないが、『シキ』の口からは疲労の濃い吐息が漏れていた。
「ではな小僧。誠に遺憾だがお前とは少なくとももう一度、これを演じなければならないようだ――――その時まで、決着はお預けだ」
つまらなさそうに言って、男は背を向ける。
シキは男に一つだけ問うた。
お前の名前は? と。
男はぶっきらぼうに、簡潔に答えた。
「我が名はキシマ。それ以上の名など持たぬ」
そしてキシマは歩みを止めず、森の奥深くに消えていった。
「…………キシマ、か」
一人立ち尽くすシキは呟いて、そしてふーっと長い長い溜息を吐き出し、自分の手に目を落とした。

      ○●◎

「やぁ、帰って……おや、どうしたのかね? その右目は」
「…………」
劇役者風の男の横をすり抜け、追求を逃れようとしたキシマだったが、劇役者風の男の腕がそれを阻んだ。
「私は『どうしたのかね?』と訊いたはずだが?」
「抉られただけだ」
端的にキシマは答える。
「どのタイミングで? 私はずっと見ていたが、そんな暇なかったはず……」
「あの小僧と拳と斬撃の押収をしていた際だ。情けない話だが、俺も奴との戦いに些かの興奮を覚えていたらしい。気付いたのは別れを告げた後だ」
キシマの右目は完全に空洞であり、そこには何も無かった。
「そうか……して、その傷。どうするかね?」
「このままで良い。この傷が丁度良い枷になりそうだ」
仏頂面に近い無表情で、キシマは「もういいか?」と訊く。
劇役者風の男も「充分だ」と頷いた。
そして思い出し、キシマに質問した。
「ああ、そうだった。君の目から見て、彼はどうだったかね?」
聞いて、キシマはふん、と鼻を鳴らした。
最悪(さいこう)だ」
そう一言だけ、言った。 
 

 
後書き
斬鮫「はい。何だか長いんだか短いんだか解らない長さでしたがどうだったでしょうか」
アティ「今回はシキ君が主体のお話でしたね」
斬鮫「そうですね。ただ終始戦闘シーンばっかりだったので、少し執筆が疲れましたね」
アティ「紹介は今回、私ですか?」
斬鮫「はい。ではどうぞ」

PLネーム…アティ(Aty)
(リアルネーム…アティレイシア・サンクティス)
身長…173cm 体重…50kg
年齢…26歳(医者志望)
ヘアカラー…赤
アイタイプ…青
性格…真面目で仲間思い。自信なさげな発言が多く、物事をポジティブに見る節がある
特有のバグスキル…《碧の賢帝(シャルトス)
備考…日本人と英国人のハーフ。

斬鮫「こんな感じですね。正直この人は簡単に決まりました」
アティ「そうなんですか?」
斬鮫「名前以外はですけど」
アティ「そういえば悩んでましたね。『名前はアティで決定してるけど外国人にするべきか否か……』って」
斬鮫「そうなんですよね。結果ハーフになりましたけど」
アティ「これが悩んだ結果ですか」
斬鮫「気にしない下さい。さて、彼女の《碧の賢帝》ですが、概要的に言えばアティさんの肉体を乗っ取ろうとする意思持つ剣です」
アティ「意思持つ剣と言っても、使ってる時はされるがままですけど……」
斬鮫「使ってる本人を操ることはできませんよ。精々声を聞かせる程度ですね」
アティ「えーと、デメリットって何が……」
斬鮫「言ってしまえば、精神に作用するものばかりですね」
アティ「つまり?」
斬鮫「貴女の殺意を《碧の賢帝(シャルトス)》が勝手に暴走させたり、貴女の不安を煽ったりと、やりたい放題します」
アティ「それはまた……」
斬鮫「まぁそれだけではなく、《碧の賢帝(シャルトス)》を呼び出してる最中はソードスキルも使えません。逆に言うとそれだけですが」
アティ「他に比べるとまだマシですか……?」
斬鮫「かもしれませんね(まあ、貴女には面白いものを用意しておきますよ)」
アティ「何か言いました?」
斬鮫「いいえ何も。……言い忘れてましたが、彼女のスリーサイズは上から、91・73・86です。チルノに聞かれたらどうなるんでしょうか、私」
アティ「は、破廉恥です!」
チルノ「死ねぇぇ!!」
斬鮫「へげぇ!」
アティ「……。今回も読んで下さった皆さん、有難う御座います。感想、誠に励みになっています。これからも彼なりに頑張るはずなので、応援してくれると嬉しいです。では、次回予告をどうぞ」
第六層、シキ達は森の中一人の女と出会った。
彼女は一つのクエストを持ち込んできた。
そこには、絶望がしっかりと口を広げ待っていることも知らずに……。
次回 《真っ黒》 
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