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コシ=ファン=トゥッテ

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第二幕その十


第二幕その十

「行ってしまう。いえ」
「それでは私は」
「行かないで。いえ」
 迷いながら言うのだった。
「行ってしまった方がいいわ。私の弱さを見せなくて済むから」
 呟きを続ける。
「こんな試練を私に与えて。けれどそれは私の罪に相応しい報いよ」
 キリスト教の原罪意識であった。
「こんな時にどうして殿方の溜息なんか聞かなくてはならないの?」
「これで」
 フェランドは一礼して去る。フィオルディリージは何とか踏み止まった。
「人の嘆きを弄ばなくてはならないの?恋は正しくこの心に罰を与えるのね」
 こう思い込む。
「私の心は燃えてこの熱は清らかな愛でなくなってしまう」
 さらに呟きを続ける。
「この恋は狂った、苦しく。悔惜に満ちた軽はずみなものなのだから」
 そして言うのだった。
「グリエルモ、許して。この恋する過ちを。この木立と木陰に何時までも隠してしまいたい」
 一人になりさらに想いを強くさせていた。
「私の情熱と操はこの邪な望みを断ち切って私に恥と恐怖を与える記憶を追い払ってくれるわ」
 そしてこうも言った。
「この空虚な薄情な心は一体誰を裏切ったの?貴方の純潔にはよりよい報いがあるべきなのに」
 ここまで言いそのうえで野原を後にするのだった。その時フェランドは庭で一人になっていたグリエルモと話をしていた。その服の上着の前をはだけさせていた。
「やあ、グリエルモ」
 フェランドはにこやかに友人に挨拶をした。
「やったって?」
「僕達の勝利だよ」
「あれっ、そうなのか」
「ああ、フィオルディリージは貞淑そのものだよ」
 こう彼に話すのだった。
「完全にね」
「減点は?」
「一切ないよ」
 胸を張って言う。
「もうね。満点だよ」
「ほう、それは」
「話を聞きたいかい?」
 そして自分から言ってきた。
「よかったら話すけれど」
「是非共」
 グリエルモもそれにすぐに乗った。
「聞かせてくれるかな」
「うん、それじゃあ」
 グリエルモの言葉を聞いたうえで話をはじめる。その話は。
「庭で散歩しようということになって腕を貸して歩きはじめ」
「怪しくないかい?」
「それでまあ世間話をしたうえで話題が恋の話になって」
「それで?」
「わざと唇を震わせて涙を流し足元で死ぬと言ってやったのさ」
 口元に笑みを浮かべての言葉だ。
「そうしたらね」
「うん、それで?」
「最初はふざけてからかってきて」
 それでまた言う。
「話が変わってきて」
「それから?」
「こっちに同情する様子を見せてきて」
「おい、それはまずいんじゃないのかい?」
「それで砲撃を加えたんだよ」
 この辺りの言葉が実に軍人であった。
「あの人は愛しいグリエルモには鳩の様に貞淑だったよ」
「ははは、そうに決まってるさ」 
 グリエルモはそれを聞いて満面の笑みになった。
「フィオルディリージはそうなんだよ」
「僕に肘鉄を食わせて追っ払って逃げ出したんだ」
「よしよし」
「僕が証人になるけれど」
 こうまで言う。
「彼女は完全だよ。難攻不落だ」
「いいニュースだ、最高の気分だよ」
 グリエルモはここまで聞いて最高級のワインに酔いしれたような顔になっていた。
 
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