真剣で武神の姉に恋しなさい!
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湘南 極楽院にて
前書き
今回はまったくのオリジナルです。
原作からは何一つ流用していません。
ではどうぞ
川神から跳び立った千李は午前11時ちょっと前に湘南に到着した。
場所は海に面した国道の歩道だ。
だが千李は……
「う~ん。どこだっけ極楽院」
只今絶賛迷子状態である。
先ほどから冷静に状況を見ているように見えるが内心かなり焦っていた。
……ヤバイ。三大ばあちゃんには11時半には行くって言っちゃったし。
「遅れるわけにはいかないわよねぇ……」
ため息混じりに言ったところで千李の耳にけたたましいまでのバイクの音が聞こえた。
千李が振り返るとそこにいたのは古風な感じをしたヤンキー達だった。中には女の子も混じっている。
簡単に言えば暴走族だろう。
そんな連中が真昼間からバイクでけたたましい音を立てながら大声で何か叫んでいる。
周りを歩いている歩行者も目を合わせないように顔を伏せているが千李だけは違った。
千李は暴走する不良たちをじっと見つめていた。
それに気づいたのだろう不良たちが千李の元へとやってきた。
「おい。おねーちゃん何さっきからこっちにガン飛ばしてんだよ!」
下っ端らしき男が千李に詰め寄った。
そんな男の行動に対し千李は物怖じした様子もなくため息をついた。
「おいおい。ずいぶんと余裕かましてんじゃねぇかよ。テメェどこのモンだ?」
「どこのモンとか私は不良じゃないからね。所属とかはないんだけど?」
男の質問に千李はこれまた軽く返す。
すると男は痺れを切らしたのか怒号を飛ばした。
「テメェ!本気でナメてっとマジ殺すぞ!!あぁ!?」
「いいよ別に殺せるもんなら殺してみな」
千李は煽る。
その煽りにとうとう男はキレたのか千李に殴りかかってきた。
が、その拳は千李の直前で止まった。
いや止まらざるをえなかった。
「どうした?殴らないの?」
千李は言うが男のほうはそれどころではなかった。
……な、何だコイツ!?この嫌な感じまるで「皆殺し」に睨まれた時みてぇだ!?
男は言い知れぬ恐怖を感じていた。
固まってしまっている男に再度千李は言葉を紡いだ。
「少しは周囲への気を配れ。みんな迷惑しているからなもしそれを破るんであれば……ぶち殺すぞクソガキ……」
そういった千李の目は先ほどまでの瞳とは打って変りまさに鬼の目をしていた。
尋常ではない殺気と睨みのせいで千李の目の前にいた男だけではなく周りにいたはずの仲間たちまであっという間に逃げ去っていった。
逃げる後姿を見ながら千李は「まったく……」と嘆息した。
「なんでここは私がガキの頃から変わらないのかしらねぇ?……まぁでも親不孝通りも似たようなもんか」
そう言った千李がふと時計を見るとすでに11時10分だった。
「やば!ええいもういいやその辺の人に聞こう」
千李は言うとあたりを見回した。
すると一人の少年が目に入った。
背丈からして年はおそらく大和達ぐらいだろう。
……若い子だから知らないかもしれないけどそんなこと言ってられない!
「おーい!そこの男の子ちょっと聞いてー!」
千李が駆けながら呼び止めると少年は振り返った。
呼び止めたときは後姿だけだったので顔は見えなかったがとても真面目そうで誠実そうな少年だった。
「あの、俺に何か御用ですか?」
少年は急に呼び止められたのにもかかわらず素直に応答した。
「うん。君にちょっとね、えっとさ君……極楽院三醍寺って知ってる?」
「はい知ってますよ。なんなら案内しましょうか?家近いんで」
千李が聞いたことに少年は快く了承してくれた。しかも案内までしてくれるというおまけつきだ。
「ほんとに!?いや~助かるわー。じゃあお願いできる?」
千李が言うと少年は「はい」と返事をし二人は並んで歩き始めた。
「本当にごめんね。買い物帰りだったところを呼び止めちゃって」
「いえ。気にしないでください。あ、すいません。生ものとかもあるんで行く途中で家によっても良いですか?」
少年の問いに千李は「もちろん」とうなずいた。
……案内して貰ってるんだからあたりまえよね。……でもこの子どっかで見たよう気がするのよね。
千李は過去の記憶を手繰っていた。
考え込んでいると少年の家の前に到着したのか少年が立ち止まった。
「すいません。じゃあこれだけ置いてきちゃうんでここで待っててください」
「ええ。そんな急がなくても良いからね。時間には余裕があるし」
千李が先ほど時計を確認したらまだ多少の余裕が残されていた。
少年はうなずくと家の中に入っていった。
姿が消えるのを見送ると千李は手をあごに当てて考え込んだ。
……やっぱりどこかで見た気がするのよね。どこだろう?
千李が悩んでいるとこの家の表札が目に留まった。
表札には「長谷」とあった。
「ながたに?いや、はせの方が正しいのかしらね。ん?長谷?」
……これもどこかで聞いた覚えがあるんだけど。ああもう考えすぎかしらねぜんぜんまとまらない。
頭を抱えていると少年が荷物を置き終え家から出てきた。
「すいません。お待たせしました」
「いえ大丈夫よ。じゃあ案内お願いします」
「はい」
そして二人はまた歩き始めた。
千李は歩いていてわかったことがあった。
それはこの少年が周囲からとても信頼されているということだ。
先ほどから見ていても道行く老人たちは皆少年を見て声をかけている。それだけこの少年は周囲から愛されていることもわかった。
少年自身もそれにまめに答えている。おそらくこういうことを毎日のように続けているのだろう。
……大和にも見習って欲しいわね。
もちろん大和がだめというわけではないが大和のやり方は人を把握するという方が濃厚だ。
しかしこの少年は自然に何のたくらみのなくやっている。
千李は少年のそういうところを気に入った。
……まぁでもこのコミュニケーション能力は京やモロに見習ってほしいけど。
などと考えていると少年が立ち止まった。
「着きましたよ」
少年が立ち止まったところで顔を上げるとそこには古めかしい、だが頑丈そうな門が建っていた。
「おおー。ここ、ここありがとうね少年」
「いえ」
千李は門のほうを向くと門を数度たたき声をかけた。
「三大ばあちゃん!!川神院の千李だ!ここ開けてくれ」
千李が呼ぶと中から鉄心と同じくらいだろうかそれぐらいのおばあさんが出てきた。
しかしその存在感は鉄心と同等だ。
「おやまぁずいぶんと懐かしい組み合わせだこと」
三大が言うと二人は怪訝そうな顔をした。
少年のほうが先に口を開いた。
「それどういうことばあちゃん?」
その問いに今度は三大の方が怪訝そうな顔をした。
「あらあんたたち覚えてないのかい?まぁヒロ坊は昔のことあまり覚えてないからのぅ。センちゃんも忘れとるんかい?」
三大は千李に目を向けた。
すると千李は何かを思い出したようにはっとした。
「待って?長谷……ヒロ坊……?まさかお前、大?」
「え?はいそうです。俺は長谷大ですけど」
千李の疑問をはらんだ言葉に大と呼ばれた少年は不思議そうな顔をした。
「やっぱり!!ほら私よ6歳くらいからここにいた川神千李よ覚えてない?」
千李は自分を指差しながら言った。
すると大のほうも思い出したのか大の目が大きく見開かれた。
「千李ってまさか千姉ちゃん?あの!?」
「そうよその千姉ちゃん!いや~久しぶりね。名字が変わってたからわかんなかったわ。だけど思い出した完全に!」
そういうと千李は大をその豊満な胸に抱き寄せ、大の頭に鼻を押し付けながら言った。
「この抱き心地と匂いは大のものね」
千李はそのまま頬ずりを始めた。
「ちょ!?千姉ちゃんくすぐったいって」
大は千李の拘束から抜け出そうとするが、千李がそれを許さなかった。
「久しぶりの抱き心地を話すものか~」
一向に離す様子を見せない千李をみて大もあきらめたのかされるがままになっている。
それを見ていた三大は「ホッホッホ」と小気味よい笑いを漏らした。
「ホレホレ二人ともいい加減中に入りなさい」
「ええ。じゃあ大行きましょうか。積もる話もあるし」
「うん。それよりもこれおろして欲しいんだけど?」
いつの間にか大はお姫様抱っこされていた。
まぁ確かに男からすればあまり良いものではないだろう、大和も百代にされていて嫌がっていた。
「おっとごめんごめん。あまりのうれしさで自分でもわからない行動に走ってたわ」
言うと千李は大をおろし二人は極楽院の中に入っていっった。
中に入り千李と大は茶の間で出されたお茶をすすりながら思い出話をしていた。
といっても大はほとんど昔の記憶がないので、おおよそが千李の話だったが。
それでも大と千李は楽しそうに談笑していた。
とそこへ三大がやってきたその横には一人の女の子が立っていた。
女の子の特徴を挙げるとすれば一番目に付くのはその澄み切ったような瑠璃色の髪だ。
そして幼いながらも端整な顔立ちをしているしかし、その右目には無骨な眼帯がかけられていた。
千李たちがその子を見ていると三大が口を開いた。
「ヒロ坊。すこしこの子と遊んでやっとくれ」
「え?いいけど……」
大は若干迷った様子だったがすぐに了承し女の子と庭に出て行った。
女の子も大に物怖じせずに手をつなぎずんずんと大を外に連れ出していった。
二人の姿が見えなくなると三大が口を開いた。
「あの子はね私があずかっとる最後の子なんだよ」
「最後の?」
最後という言葉に千李は引っかかったのか「最後って?」と聞き返すと三大は苦笑混じりに行った。
「私もそろそろ引退だからねぇ。あの子を預かることはできてもこれ以上育ててやることは無理かもしれないんよ」
「マキはここを継がないの?」
千李が言うと三大は「あの子がこんなところ継ぐと思うかい?」と聞き返され、それに対し千李は何も言えずただ微笑を浮かべるだけだった。
「そこでねセンちゃんにお願いがあるのよ」
三大の声のトーンが多少低くなったことを感じ取った千李は真剣な面持ちで三大を見つめた。
すると三大も体全体を引き締め千李をまっすぐと見つめた。
「センちゃんにはね……」
その言葉の後に千李は信じられない言葉を耳にした。
「……あの子の親になってもらいたくてのぅ」
三大のその言葉に千李は後ろに倒れた。
だがすぐに起き上がると千李は声を荒げた。
「何を言ってんだ三大ばあちゃん!?私が!?あの子のお、お、親になるなんて!?」
いつもは冷静なはずの千李が取り乱しながら反論している。
誰であれいきなり知らない子の親になれなどといわれれば取り乱すのは当たり前といえば当たり前だが。
混乱する千李とは裏腹に三大は冷静に言った。
「今すぐに決断しろとは言わない。ただせめて明日までには決断してくれると助かるんだけどねぇ」
「そんなこといったって……。って待った明日までって言った今?」
千李の疑問に三大は静かにうなずいた。
「ちょっと待って私泊まっていくつもりなんてないんだけど?つーか親になること事態ジジイが許すわけ」
「鉄心ちゃんにはわしから言っといたからの。その辺は心配することないぞ」
……あのクソジジイ!帰ったら締めるか。
千李が拳を握っていると三大が千李をどうどうと制する。
落ち着きを取り戻した千李が三大に聞いた。
「んん、……あの子の両親は?」
「亡くなっておる。母親のほうはあの子が生まれたときにそして父親のほうはあの子が3歳の時に交通事故でね」
「……」
それを聞いた千李は言葉が見つからなかった。
自分にはまだ両親も健在だ。
だがあの子はあんなに小さいのにもう親がいない。
そのことがかわいそうでならないのだろう。
「あの子今何歳?」
「6歳、来年小学生じゃ」
三大の言葉に千李は「そう」とだけ答えると外で遊んでいるあの子に目を向けた。
……6歳っていえばまだまだ親に甘えたいときでしょうに。
思いながら見つめる先の女の子はとても楽しそうに大と遊んでいる。時折こちらに手をってくる。
千李はそれに答えながら笑みを向けるとあの子もニコッと笑った。
「……あの子名前は?」
「伊達瑠奈」
三大の言葉に千李ははっとした。
「伊達って言うと伊達家の……?」
「うん。あの子にはもう親戚もいないし頼れるものは誰もいなくてのぅ。もう頼れるのはセンちゃんだけでの頼まれてくれんか?」
千李は三大の頼みを聞いてもいいと思った。
だが千李は三大にこう答えた。
「……もう少し考えさせて。今日の夜いや明日には答えを出すわ」
静かに千李は告げた。その言葉に三大も無言でうなずいた。
「じゃあ、その髪紐貸しなさい。もう一度封印式を埋め込んでくるから」
三大に言われると千李は縛っていた髪紐を解いた。
髪紐によって縛られていた髪がサラサラと流れた。
三大に髪紐を渡しながら千李は聞いた。
「最後にもうひとつだけ。瑠奈の眼帯はどういうものなの?」
「あれもセンちゃんの髪紐とおんなじでの。力自体はセンちゃんや妹のモモちゃんにはぜんぜん及ばないのだけれど、瑠奈の小さな体にはまだ力は強すぎてね。それを制限させるためにつけてるんじゃ」
そういうと三大は千李に「ホレ」といって髪紐をほおった。
千李はそれをキャッチするとまた髪をまとめ始めた。
「どれくらいで終わる?」
「夕方までには終わるじゃろうて。まぁそれでもセンちゃんは今日泊まって行くんじゃろ?」
「だれがそうしたんだっけ?」
千李は三大にジト目を向けるが三大はそれを無視し奥の部屋に戻っていった。
「まったく。ばあちゃんも変わらないわね」
苦笑を浮かべていると千李に瑠奈が近づいてきた。
「どうしたの瑠奈ちゃん?」
「おねえちゃんもいっしょにあそぼ!!」
千李の問いに瑠奈は元気よく言った。
その姿が千李にはとても無理をしているように見えて千李は一瞬悲しげな目をしたがすぐに。
「ええ。そうね一緒に遊びましょう瑠奈ちゃん」
「うん!!」
うなずくと瑠奈は千李の手を引っ張って外に連れ出した。
……ちゃんと決断しないとね。
笑みを浮かべながらも千李の目は真剣な光を持っていた。
後書き
はい今回は以上でございます。
新キャラ登場です。
読者の皆様いかがでしょうか?
突然の千李に娘できるかもしれない展開に「何やってんだコイツ」状態ですかね…。
でもスイマセン。瑠奈はこれを書く前から決めていたことなのです。
それでも呼んでいただけると私自身とてもうれしいです。
感想、ダメだし、アドバイスなどあればどんどんお願いします。
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