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コシ=ファン=トゥッテ

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第一幕その十八


第一幕その十八

「そしてここで飲み」
「では飲んで間も無くですね」
「そして原因は恋です」
 このことも話すのだった。
「そして飲み方は一気でした」
「先生、やっぱりこの人達は」
「駄目ですか?」
「お静かに」
 デスピーナはまた姉妹に対して告げたのだった。
「心配したもうな騒ぎたもうな」
「は、はい」
「わかりました」
「それではです」
 そして持っている黒くて大きい革の鞄からあるものを出してきた。それは。
「あれっ、それは」
「何ですか?」
「磁石です」
 相変わらず勿体ぶった声である。
「メスメルの石という神聖ローマ帝国で発明され」
「神聖ローマで」
「皇帝陛下の」
 ナポリを治めるハプスブルク家はその神聖ローマ帝国の皇帝なのである。
「それではかなり」
「素晴らしいものなのですね」
「そしてフランスで有名になりました」
「フランスですか」
「それはあまり」
 姉妹はフランスと聞くと顔を曇らせた。フランスの王家はブルボン家でありこの時やっと手を結んだがそれでもハプスブルク家とはそれこそヴァロア家の頃から激しく対立してきていた。両家は欧州における最大の対立軸なのであった。それは英仏の関係に匹敵するものだった。
「まあそれは置いておきまして」
「はい」
「治療ですね」
「左様。まずはこうして」 
 その磁石を両手に持ってそのうえで二人の頭上で振り回すのだった。すると二人はそれを見て頭を磁石の動きに合わせて揺れ動かした。
「動いてる」
「揺れてるわ」
 姉妹はそれを見て言った。
「向きを変えて」
「頭で地面を打ってるわ」
「さて、次はです」
 ここでデスピーナは姉妹に顔を向けて告げた。
「頭を持ち上げて」
「こうですか?」
「これで宜しいですか?」
「そうです。それでいいのです」
 デスピーナはフィオルディリージがフェランドの、ドラベッラがグリエルモの頭を持ち上げたのを見て満足したような声を出してみせるのだった。
「これでよいのです」
「ではこれで御二人は」
「助かるのですね」
「そうです。これでです」
 デスピーナは満足した声で語ってみせた。
「御二人は助かりました」
「うむ、御見事です」
 また頷いてみせるアルフォンソであった。
「流石はこのナポリで一番の名医です」
「それ程の方がここに来られて」
「それでこの方々をですか」
「そうなのです。この方も私の友人でして」
 友人関係の設定をかなりいじってきていた。
「天才医師とまで言われています」
「いやいや、そこまでは」
 わざと勿体ぶるデスピーナだった。
「私はただ人を救いたいだけですから」
「何と素晴らしいお方」
「まさに神の御使いですね」
「ううむ」
「僕達は死んだのか?」
 ここでわざとらしく起き上がる二人だった。
 
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