戦国異伝
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第百二十七話 五カ条の掟書その七
そういった家が織田と朝倉の戦が長引けばどう動くかというのだ。明智が今言うのはこのことなのである。
「そうなればです」
「天下はまた乱れますか」
「そうなるやも知れませぬ」
「ではやはり右大臣殿にとっては」
「朝倉との戦はすぐに終わらせねばなりません」
それは絶対にだというのだ。
「例え一旦しくじろうとも」
「それでもですな」
「はい、そうです」
つまりまた攻めなければならないというのだ、敗れても。
「まだ天下は万全に収まってはおりませぬし」
「ですな。それと」
ここでまた言う細川だった、怪訝な顔になってだ。
「やはり公方様ですな」
「はい、織田家と朝倉家の戦が長引けば」
「その際にですな」
「もっと言えばあの御仁達が」
誰と誰なのかはもう言うまでもない。
「どう動くかわかりませぬから」
「どうしてもすぐに終わらせねばなりませんな」
「そう思います」
「天下泰平の為にも」
明智達はその為にも信長に目を向けていた、彼等は禄だけでなくそれ以外のことでも信長の家臣となってきていた。
義昭は信長の掟書を無視し織田家と朝倉家の仲は険悪なものになろうとしていた、このことは両家の間にある浅井家でも見られていた、それでだった。
浅井家の紺色の服の者達が主である長政に対して言ったのだった。
「殿、織田殿と朝倉殿のことですが」
「どうも我等の見たところですが」
「やはり」
「うむ、わしもな」
長政は怪訝な顔で己に言う彼等に答えた。
「今回のことは」
「朝倉殿に非があるかと」
「織田殿が正しいです」
「義兄上は無体を言っておられぬ」
それは決してだというのだ。
「正しいな」
「はい、信長様はあくまで天下泰平を考えておられます」
「朝倉殿もそれに加われと仰っています」
「越前一国も保障されると約束されていますし」
「それではです」
「従うべきですが」
「つまらぬ意地を張っても仕方なかろう」
長政は難しい顔で言った。
「どちらが上だのな」
「朝倉殿としては」
「確かに朝倉家は斯波家の直臣だった」
当然このことは長政も知っている、それもよくだ。
「織田家は神主の出でじゃ」
「そうですね、だからどうしても」
「朝倉家には頭を下げられぬものがありますな」
「うむ、それにじゃ」
さらにだった。
「義景殿はその朝倉家の中でもとりわけ誇り高い方だからな」
「格下の織田家には従えぬと仰っていますな」
「その様に」
「武田家や今川家ならともかくな」
大大守護の名門の家ならというのだ。
「織田家ではとな」
「それは大きな間違いですが」
「おわかりになられていませぬな」
「そのことが」
「それが厄介じゃ」
長政は難しい顔で言う。
「義兄上のお誘いに乗られなければ」
「戦でsな、その時は」
「両家の」
「うむ、そうなる」
長政も読んでいた、そうなるとだ。
「その際朝倉家が勝てるとも思えぬ」
「ですな、しかし我等はです」
「朝倉家とは古くからの盟友でもありますから」
両家の盟約は古い、長政の祖父であり浅井家の初代である亮政からのことだ。
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