IS<インフィニット・ストラトス> ‐Blessed Wings‐
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第二章 『過去と記憶』 ‐断片‐
第29話 『始動』
――物語の針がまた1つ進む 静かに、ただ静かに針を刻み続ける
――そして針は気まぐれに止まる。 気まぐれに止まり、少年達が何かを見つけると 微笑んでまだ針を刻む
『『運命』と『時計の針』 その2つが今動き出し、少年と少女は過去を求める そして、過去と現在の中から、真実を探す』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
怒涛の忙しさの5月が明けて6月初頭。
梅雨時期というだけあってか、多少ジメジメしており、気候の変化やそんなジメっとした気候もあってか、5月以上にぐってりしてる学生は多く居た。
さて、5月にあったあの一件、クラス対抗戦については既に完全に落ち着きを見せていた。
当初は一部の一般生徒や『何かあるのではないか』と首を突っ込もうとした一般生徒や来賓が居たらしいが、すぐに居なくなった。
理由としては簡単。まあ、織斑先生が全力で動いたからだ。
当事者であり、あの場に居た俺は真実を知っているが、学園内部と一般に対して告げられた事実は
『実験中のISが暴走して、そのISがあの時乱入してきた』
ということだった。
当初は色々騒がれたりしたが、すぐに落ち着きを見せて、すぐに『ああ、そんなこともあったね』くらいの話になっていた。
現在は6月、そして俺の行動自体もとある一件を境に変化を見せていた。
それは対抗戦の時の<Unknown>、ソラの言葉が原因だ。
『過去を追え、その中に真実がある』
そんな言葉を俺は受けて、覚悟と意思を以って真実を求めに行こうと決めた俺だったが、それは少し難航していた。
なぜかといえば、『過去を探る』と考えたとしても何も手がかりがないのだ。
手がかりが何も無くて、どう探したらいいのかがわからない。
まぁ……手がかりがない訳じゃないんだが、そこから何かを掴めるとは思えないものしかなかった。
まず、自分の相棒。
よくよく考えれば俺の相棒は不明点が多すぎる、身内を疑いたくはないがかなり不明な点が多すぎるのだ。
そもそも、『軍用IS』とエディさんは言っていたが俺はその詳細を一切知らない。
教えてくれと言っても殆ど教えてもらえないし、結局のところは不明な点ばかりだ。
まぁ、相棒が悪い奴じゃないっていうのは直感と言うか、なんというか、それで分かるんだが。
とにかく自分のISを手がかりに過去を探ろうにも、まず手がかり自体の情報が不足しすぎていてアウト。情報が少なすぎる、不確定要素が多すぎる。
次、過去と考えた場合どうしても気になったのが彼女、ソラだ。
ソラの顔を見たときに俺が思ったのは『似すぎている』という思いだった。
言葉遣いは別だが、自分の母親である『アリス・ルノー』に雰囲気も声も、あまりにも似すぎていていた。名前も、容姿も、声も、そしてソラが使っているISも、全てが重なりすぎて偶然だとは思えなかった。
俺が一番手がかりになるのは彼女の存在ではないかと考えた。
彼女を追うことで、過去に対する何かしらの手がかりになるんじゃないかと思ったが、それは断念された。
理由は簡単で、俺は彼女について持っている情報があまりにも少なすぎるのだ。
彼女自身も過去を追うと言っていた、そして追い続ければまた会えるとも。
ならば俺は、過去を追うために彼女について調べようと考えたわけだが、情報が少なすぎた。
そもそも彼女についての最低限の情報しか知らないし、そして彼女の言うマスターというのが誰かもわからない。
つまりそこから過去についてと彼女についてを調べるのは困難だと判断した。
よってこちらもアウト。
他にも色々考えられたが、どれもこれも熟考すればするほど何かしらの問題点と壁に当たるか、不確実性と言うものに直面してしまいダメになる。
どうしたものか、どう探っていこうか……
そう考えてはいたが、やはりそんな過去を追うというのは難航していた。
何かキッカケでもあればいいんだけどなあとか思う。
ちなみに、俺がソラと話した内容については――俺は誰にも話していない。
無論、彼女の素顔を見て自分の母親とかなり酷似していたということも言っていない。
身内だけにしても、言えばきっと騒ぎになると考えたから。
そして過去を追うと考えた場合、そこまで大事にしていいものだろうかと考えたからだ。
本当は、恐らく最も信頼できるアリアにだけでも話そうかとも考えた。
しかし、俺は話さなかった。理由としては、彼女には心配をかけたくなかった。
なんというかアリアはああ見えて結構心配性だ。過保護と言うか、気にするというか。
だから、隠し事をすることにはなるが彼女に対してこの件は黙っていたほうがいいと思った。
梓姫や楯無、対暗部の人間である2人に協力を頼もうとも考えた。
だけど、俺がソラの情報を二人に与えるという事は、その情報は対暗部全体に渡ると言う事だ。
そうすれば2人がどんな行動を取るかというのは大体予想できたし、恐らくソラを完全な敵とみなすのではないかと考えた。
俺は――ソラが敵だとは思えなくなっていた。
だから、そんな過去に対しての有力な情報が得られる可能性があったとしても、2人に情報を漏らす事はしたくなかった。
結論として俺は自分に周囲全員を騙して、嘘ついて、それで自分の都合と意思で過去を探ろうとしている。
仲間に隠し事をしちゃいけないという訳ではないだろうし、人である以上秘密の1つや2つなんて当たり前だろう。
だけど――どこかで罪悪感が、俺の心を蝕んでいた。
とまあ……そんなきっと重要で、難しい話は一度置いておこう。
現在俺は一夏につれられて、とある家に来ていた。
休日と言うことでアリアと共に予定をどうするか、と話し合っていた所に一夏の訪問があった。
『悠、今日暇か? 暇ならちょい、付き合わないか』
『付き合うだと? 俺は男に対してそんな感情は無いぞ、帰れ一夏。それといい病院を紹介してやろう――きっと3秒で素直になれる』
『ちげぇよ! そんな女子達が喚起しそうな話じゃなくてだな――ちょっとさ、友達の家に行くんだけどお前も一緒にどうだって話』
と、こんな会話が今朝あって、今に至る。
アリアを放置することになるので彼女を気にしたが『あ、じゃあセシリアとちょっと遊びに行って来るから気にしないで? ユウ』と返された。
本当気を使ってもらって申し訳ない。今度何かで返そう――そういえば、前の一夏の訓練の際に約束した約束も消化していない。ちゃんとそれも含めて彼女には返さないとなと思う。
「ば、馬鹿な――また負けたぁ!?」
「ふっふっふ……修行が足りないなぁ弾君よぉ!」
そして現在居る家の、とある部屋の中で格闘ゲーム『起動戦士ガンタム VS IS EXVS』をプレイしている俺達男3人。
『起動戦士ガンタム VS IS EXVS』とは、今非常に人気の高いゲームであり、発売から結構経つ今でも、かなりの人気と知名度を誇るゲームだ。
要するにISの世界代表者と大人気のロボット作品ガンタムシリーズの格闘ゲームで、使用可能の機体はかなり多い。
現在俺が使用するキャラクターと機体『Ξガンタム』の表示アイコンの上には『15WINS』と表示されている。
つまり俺が大絶賛15連勝中。
俺が右手を空高く掲げて
『つよい(確信)』
『コノシュンカンヲマッテイタンダー トゥヘァー!』
『流れ変わったな』
『本当の強さを知っていそう』
等とテンション高めに叫ぶ隣では、一夏と、一夏に紹介された『五反田 弾』がうわ言を呟きながら打ちひしがれていた。
『五反田 弾』、一夏の昔からの友人らしく、赤のロン毛に中々いい体格の彼はなんというか頼れるお兄さんという印象を感じさせた。
実際、妹さんがいるらしいんだけど。
そして一夏は『馬鹿な……』と弾は『なんだこれ、トップランカーレベルじゃねぇか…!』とぶつぶつ言っている。
「ふっ一夏――確かに俺のΞ相手にフルグロスを持ってきたのは間違いではない。開幕で同時開放して俺がクラフト発動前にケリをつけるつもりだったんだろうが……甘いな! 俺がそれを考えていないとでも思ったか!」
「く、くそう……! まさか開放読まれてからのブラフでメカ粒子砲の直撃3発入れられるとかねぇわ……!」
「そして弾ッ! 俺に対してIS不敗が乗ったマスターガンタムを持ってきたのは間違いではない、何故ならΞの格闘性能はそこまで高くないからだ。機動力と格闘判定の速さでショートレンジで戦えば俺は苦しいと読んだのは正しい、だが――踏み込みが甘いわッ!」
「ぐ、ぐぬぬ……まさか俺の動きを予測して置きミサされるとは思ってなかった……!」
ふふ、俺をなめるなよ?
これでもフランスに居た頃には、友人のアレックスに地獄を見せられたんだ。
奴との激戦と猛特訓に比べたら……ぬるい、ぬる過ぎるぞ!
まあアレックスが規格外っていうのもあるんだけど。
いや、真面目にアイツはニュータイプか何かじゃないかと思う。
攻撃直感で避けるし、置きブァンネルとか偏差予測完璧だし。
というか、俺アイツに一回も勝ったこと無い。
「さあさあ、どんどん掛かってきたまえ――無論俺はΞだけどな!」
「鬼畜! 外道! テロリスト! 粛清者!」
「廃人! プロゲーマー! 女たらし!」
「おい一夏テメエ今なんつった――コントローラーを持て、修正してやる」
まったく失礼な。
俺は女たらしじゃねえっての……それはお前だろうが。
渋々アーケードコントローラーを手にげっそりとしながら画面に向かう一夏、そして試合開始して俺が勝利、そんな時だった。
「お兄ー、さっきからお昼ご飯出来たって言ってるじゃん! さっさと食べに降りて――」
「人の犯した過ちは、このツキシロ・ナビーユ・エリンが粛清するッ!――って、おや?」
「くっそぉぉぉおおお!! また負けたぁぁぁあ!! ――あれ、蘭?」
再び右手を掲げでガッツポーズする俺、そして再び打ちひしがれる一夏。
そんな状況、まさにカオスと言っても過言ではない空間に、一人の人物が現れたのだ。
「え、えーと……一夏さん? と――お友達、ですよね?」
なんというかこの状況を見て、態度がちょっとたどたどしくて、声がちょっとぎこちないというか震えている彼女。恐らく弾の妹さん――五反田 蘭さんだったかな?
「久しぶり、邪魔してるよ」
「あーっと……お邪魔してます。一夏の友人の『月代 悠』って言います。どうぞお好きなように呼んで下さい」
「あ、ええとお久しぶりです一夏さん――それと月代さん? も初めまして、こちらこそよろしくお願いします」
うんうん、礼儀正しくていい子だなあと思う。
ただその格好はちょっとお兄さん、良くないと思うぞ。
薄着と言うかラフというか、ショートパンツにタンクトップはあまり感心しない。
まあ自宅だしいいんだろうと思ったんだろうけど。
「え、えっとお昼ごはんが――あれ、そのゲームって」
「ん? 何だ蘭、知ってるのか?」
一夏が蘭さん、でいいのだろうか。
彼女に対してそう質問すると、蘭さんは『ええ』と返答した。
「私の学校の友達がそのゲーム好きなんですよ、それでよくやっていて――」
「よし蘭、だったら悠と戦ってくれないか」
「おい蘭、お前悠と戦え」
「え、えぇぇぇ!?」
無茶振りだろう。
突如としてそんな発言をした一夏と弾に対して言葉にこそしなかったが、内心でそう突っ込む俺。
いや、まあ――確かに戦ってみたいというのはあるけど。
「あはは、まあ折角だし――よかったら相手してもらえませんか? お嬢さん」
「あ、あぅ……そ、それじゃ――」
「たらしめ」
「妹は渡さんぞ」
何を言いやがりますかこいつ等は。
それと弾、俺は蘭さんをどうこうしようとかそんな気持ちは断じて無いぞ。
とりあえず2人は後で修正、いや粛清確定だなと思いつつアケコンをを持った蘭さんを確認すると機体選択。
俺は迷わず愛機、Ξガンタムを選択。
対して蘭さんは――ほほう、ユニゴーンを選ぶか。
ユニゴーンは最高コストの機体で、火力が高くトリッキーな機体だ。
それ故にかなり癖があって、玄人でも使いこなすのには結構苦労する。
ちなみにこの機体が出てる原作、すげぇ大人気だったりする。
DVD買えなくて、開発部の人に借りたのを今でも覚えてる。
で、ユニゴーンの特徴的な武装としてはIS-Dという特殊時限強化と、そして射撃武器であるビームマクナム。
後、規格外性能と言っても過言ではないアシスト射撃だ。
使いこなされるとできれば相手にはしたくない機体だが……蘭さんはどう見てもお嬢様だ。
ならば、使いこなせるわけが無いと俺は思う。慈悲はないのかって? 手加減など俺の辞書には無い。
――まあ、後で俺はそれを後悔することになるんだけど。
機体選択が終了して戦闘開始――お互い射撃で牽制しあって暫くが経過する。
予想よりやる、強引に攻めるしかないのか。
そして踏み込む――お互い体力がレッドゾーンの状態で刺し違えて相打ち。
くっ……強いぞ。
そして試合も終盤―― 一気に畳み掛ける
「貰った!」
一気に俺は時限強化、『ミンナスキー・クラフト』を発動して蘭さんのユニゴーンに突っ込んでいく――これで決めてやる、そう思ったのだが。
「それはこちらの台詞です、貰いました」
「な、何ぃ!」
ブァンネルミサイルを置いた瞬間に蘭さんはIS-Dを発動。
そしてIS-Dの特殊能力として『ブァンネル系の兵装は無効化される』。
さっきから使わないと思っていたら、これが狙いだったのか……!
何とかしなければと思い、遠距離戦闘を仕掛けようとするが――
IS-D発動状態のユニゴーンには簡単に追いつかれてしまう。
「な、なんとぉー!!」
このままではフルコンボ確定だ。
そう思って俺は無理矢理ブーストゲージを使って逃げるが――
「この瞬間を待っていましたっ!」
「しまった――オ・ノーレ!」
ブーストが切れて、時限強化が解除された硬直に、蘭さんのユニゴーンのサブ兵器が直撃してスタン、そこにフルコンボが叩き込まれて――残りの体力がイエローだった俺の体力はゼロになる。
そして俺の所には『LOSE』と大きく表示され、俺はガクッとその場にうな垂れる。
「ま、負けたよ蘭さん――強いなあ」
「い、いえ、私もかなり危なかったでしたから――クラフトで時限強化からの粒子砲3連、そしてディレイ明けからの覚醒で一気に換装ゲージと残弾回復されて、連続換装強化で押し切られるかと思いましたから、危なかったです それにA覚醒でしたし警戒もしましたよ」
「いやいや、あれを凌がれたのは予想外。アシストキャンセルとIS-Dのタイミング、全部考えてたの? メイン射撃もあんまり積極的じゃなかったよね、ブースト調整?」
「はい、月代さんの動きはなんというかこっちの様子をみて反応してましたから迂闊に攻めるのは危険だと判断しました。だったら、大人しくユニゴーンの特性を生かしてセオリー通りの戦闘がいいのかなあって」
「いやあお見事! 完敗だよ完敗。楽しかった、またやろうか」
「ええ、ぜひとも――次は負けると思いますが」
「はは、そんなに謙遜しなくてもいいんだぞ?」
そんな俺と蘭さんの会話を見てただ唖然としている一夏と弾。
何だ? どうかしたのか? おかしいことでもあっただろうか。
「一夏さん? お兄? どうかしたの?」
「おい馬鹿一夏、弾もどうしたんだよ、そんなまるで死んだ魚のような目をしてるメッザーラのパイロットの目みたいな目をして」
「い、いやぁ……」
「規格外って、本当に居るんだよな――しかも身近に」
俺と蘭さんは何のことか分からずに、お互い顔を見合わせて頭の上に疑問符を浮かべるしかなかった。
「ああ、そうだ―― お兄、お昼ごはん出来たよ。 よかったら一夏さんと月代さんも食べていってください――月代さん、よろしければ機体の考察についてお話でも」
「おぉ、いいね蘭さん――是非とも話をしようじゃないか」
いやはや、こんな話はアレックスくらいにしかできなかったから、これほどの兵と出会えて俺は嬉しいぞ。
今後ともいい対戦仲間として蘭さんとは仲良くしたものだ。
そんな俺と蘭さんを見て、一夏と弾は引いていた。
何でだろうか。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
場所は移り、弾の家の――といってもも奴の家自体が食堂なので、店のテーブル席に通された俺と一夏。
そして俺が食堂に移動する際に蘭さんにこっそりと「着替えてきなって、一夏と弾は足止めしておくから」と言っておいたからか、蘭さんは先程までのラフな薄着ではなく、その――
見違えるというか、なんというか、ラフな格好でもお嬢様だなあと思っていたが、ちゃんとした洋服を着るとその感じがかなり強くなる。
外を歩いたら恐らく10人中7人くらいは振り向くんじゃないかと言うくらいで。ちなみに評価基準は俺。
まあそんな格好になった蘭さんが既に席に座っており、そこに俺と一夏、遅れてやってきた弾が座る。
他のお客用のテーブルから
『ややエロ』
『エイプキラー』
『天動型佐山宇宙』
『落ち着け、君はやはり一度病院に行ったほうがいいぞ ヒオ・サンダーソン』
等と聞こえたが、きっと気のせいだろう。
で、席に座ると弾と蘭さんの祖父である五反田 厳(ごたんだ げん)さんがお昼を持って来てくれた。
俺はその際に「すいません、ご馳走になります」と頭を下げたんだが……
『ほう、今時のガキにしちゃあ礼儀正しいじゃねえか、まるで軍人みたいな礼儀正しさだな――それに、お前さん中々いい目をしている。 気に入ったぞ、遠慮なく食え』
と言っていた。
いや、気に入ってもらえたなら嬉しいが……何でだろうか?
というか、言葉遣いだけで俺が元軍人だって事わかったのかね?
もしかしたらあの人、只者じゃないんじゃないだろうか……そう思いながら俺は昼食を食べた。
感想から言えば、かなり美味かった。アリアの手料理と互角かそれ以上くらいには。
特にこの野菜炒め、名前は『業火野菜炒め』だったか、これは最高だ。
野菜のシャキシャキ感と丁度いい調味料の味と風味でご飯が進む。
それを厳さんに伝えると、『おかわりいるか?』と聞かれた。無論頂いた。
今回はご馳走して頂けるという話らしいが、次回からはちゃんと客として来よう。
今度はアリアや梓姫を連れて来ようと俺は心に誓う。
さて、食後色々と会話していたのだが、俺が蘭さんと機体考察した後の話題で案の定一夏が地雷を踏んで、厳さんが出してくれたお茶をずずっと飲みながら俺は3人のやり取りを傍観していた。
いやあ、やっぱり蘭さんも一夏のことが好きなんだねえ。
そう思い、微笑ましい光景を眺めながらお茶をすする。
うむ、このお茶も中々だ。
最近世界的に有名な会社……IAIだったか、あの会社が出している『来客用まロ茶』に並ぶほどの味だ。
一体どんな葉を使っているのだろうか。
機会があれば聞いてみよう。
それと俺は決して爺臭くなんてない。
決して無い、まだピッチピチの18歳や。
さて、俺がお茶を飲んでいると、ちょーっと気になる会話が聞こえた。
「……決めました、私、来年IS学園を受験します」
「お、お前何言って――おわぁ!」
ヒュンッという音同時に超速度で弾の頭におたまが直撃する。
やはり厳さん……只者じゃないな、というより五反田一族って実化け物なんじゃないのかとと思う。
さて、ちょいと俺の会話に参加しますかね。
「ねぇ蘭さん。蘭さんの学校ってどこ?」
「あ、はい――聖マリアンヌ女学院ですけど……」
「うわぁ、俺フランス出身者だけどその学校って確か超有名なお嬢様学校だよね? 確か大学までストレートで出れて、就職とかも困らないような学校じゃなかったっけ」
「だよなあ、そんな名門だろ? それなのにわざわざIS学園に来る必要性ってあるのか?」
いや、一夏。お前だよお前。
まあ確かに、一人の男のために自分の進路捨ててIS学園目指すって言うのは、昼ドラとかじゃあるまいし俺もちょーっと納得できないってのはある。
だけど個人の意思だ、蘭さんにも考えがあるんだろうと考える。
「だけどIS学園って筆記面接以外に実技もあるぞ? ほら、なあ悠」
「いや俺転入だから知らんし。だけど、確かに一夏の言うとおり、筆記面接とは別に実技はあるって聞いたね」
「大丈夫ですっ私の成績なら余裕ですし――実技の問題は解決済みですっ」
ほうう、どういう事だろうか。
そう思っていると、蘭さんはガサゴソとポケットの中からなにやら1枚の紙を取り出して、テーブルの上に置いた。
それを何だろうか、と思い覗き込む俺と一夏と弾、そこに記されていたのは――
「IS簡易適正試験……判定A!?」
「うわ、凄いじゃないか蘭!」
驚きの声を上げる一夏と弾。まあ、確かに判定Aっていうのはかなり凄い。
げ、しかもこの簡易試験政府からの依頼でやってんのIAIかよ。
じゃあこれかなり正確なデータなんだろうなあ。
「ふふん、問題は既に解決済みですっ」
そう胸を張って言う蘭さん。いや、確かに凄いと思うけど――
俺としては、ちょっと考えるものがあるというか、なんというか。
そんな思考をしている内に、蘭さんは一夏に対して言葉を続けていた。
「で、ですので――ぜひともその際は一夏さんに先輩としてご指導を――」
「ああ、いいぜ、受かったらな」
受けたら受かるだろうけど。
信頼性のある適性A判定に、それに蘭さんは成績もかなりいいらしいし、そして超名門からの進学だ。
IS学園への進学を望めば確実に受かるだろう。そして恐らくだけど、専用機を持っても何もおかしくは無い。
そう、俺があまりこの話を快く思わないのは――そこだ。
ひとまず最後まで話を聞いてみようと思い、俺は再び蘭さん達の会話に耳を傾ける。
見ていると、それに反対した弾が母親に対していいのかと聞くが、「いいんじゃないのかしら」と返答されて、それどころか一夏に対して母親が「蘭をお願いね」とまで言っている。
で、弾は厳さんにもそれについて聞いてみるが……
「いいのかよ、じーちゃん!?」
「自分で決めたんだ。どうこう言う筋合いねぇわな――何だ弾、文句でもあるのか?」
「ッ――ない、です」
……ま、そうなるわな。
厳さんの気迫に押されて何もいえなくなってしまう弾。
だけど俺は、弾の気持ちがなんとなく理解できていた。
恐らく妹の蘭さんを心配しての反対なのだろう。
そう考えれば弾は『ISの危険性』というものをちゃんと見れていると思う。
――よし、ちょいと動きますか
「――ねぇ、蘭さん」
「はい、何でしょう月代さん」
ニコニコしながら、機嫌のよさそうに返答してくる蘭さん。
申し訳ないんだけど、今から俺が話すことを聞いたら一気に機嫌が悪くなっちゃうかもしれないし、下手したら嫌われちゃうかもしれないんたけどなあ。
「蘭さんがIS学園に来るのは俺も歓迎だよ」
「お、おい悠ッ!?」
「まあまあ弾、ちょっと落ち着け?」
そう言って弾を宥めると、俺は言葉を続けた。
「歓迎だし、仲間が増えるのは嬉しい。ゲーム仲間が増えるのも嬉しいんだけど――ちょっと、『真面目な話』をしようか」
「ッ――!? 何、ですか?」
先に内心で弾と蘭さんの親御さんに謝ると共に、厳さんにも謝罪する。
俺は今までの口調とは違い、ちょっと真面目と言うか、キツめの口調になると言葉を続けた。
「先に言っとくね、ちょっとキツい事言うよ? そうだね――ねえ蘭さん、蘭さんはISについて、どう考えてるの?」
「そ、それは――えっと、スポーツで、宇宙で使用することを前提されたマルチフォーム・スーツで……」
「そんな一般論じゃなくて。蘭さんは、『ISをどんなものだと思ってるの?』今蘭さんが言ったけど、ISをスポーツだと思うなら……銃やミサイルを撃ったり、剣を相手に対して向けるのも、簡単に物を壊せてしまうのも、誰かを簡単に傷つける事ができてしまうのもスポーツ?」
「――それ、は」
「剣道とか弓道とか、確かにそんな競技も弓や剣って言う人を傷つけることが出来るものを使うから、その点ではISはスポーツかもしれない、だけど――物を簡単に壊せたり、恐怖の対象として見られるもの、それはスポーツかな?」
「じゃ、じゃあ――月代さんはISについてどう考えてるんですか? 私には簡単には答えを出せません、ですから月代さん、答えてくださいよ!」
わからない、素直にそういえる事は凄いと思う。
そして蘭さんは即答で『ISとは競技です、アクセサリーです』等とという、力の象徴としての発言をしなかった。
という事は、蘭さんも心のどこかではわかってはいるのかもしれない。
本当はそれだけでいいと思う――だけども、聞かれたら答えるしかない
「『無限の可能性』であり、『翼』だと考えてるよ、俺は。ISは力で、暴力で、兵器ににもなるけど、使い方次第でそれはどんな方向にも向く。宇宙を目指したり、例えばISの技術を医療に転用したりね。だから――無限の可能性、それこそがISだと思ってるよ」
その言葉に対して、一夏も、弾も蘭さんも、そして厳さん達も沈黙してしまった。
俺は、そんな中で言葉を続けた。
「といっても、これは俺の考え方。ISをどう思うかなんて人それぞれだよ、だから俺が蘭さんの考え方を否定する事はできない――だけどね蘭さん、ISっていう力を学ぶ事を目指すなら、持つと決めたなら、それなりの覚悟と意思が必要だと思う。だから、今は朧げでもいいから、もしIS学園に来るのなら――俺の言ったこと、少しでもいいから覚えておいて欲しい」
「……凄いですね、月代さんは。そこまで考えてるなんて」
「凄くないさ、俺は――ちょっと変わり者でお節介なただの男だよ」
「いいえ、凄いです。なんていうか、その――私はそれでも、IS学園を目指します。IS学園に入るまでに……私なりの考え方っていうのを、探してみます」
「そっか――まあ、学園に来るんなら歓迎するし、楽しみにしてるよ? というか来て欲しい。ゲーム仲間欲しい。一夏じゃ相手にならないからさ」
「あはは、じゃあ――もし学園に入ったらいつでもお相手しますよ? 勿論、また遊びにこられた時でもお相手します」
「おおう、そりゃあありがたい――蘭さんのほどの兵はあんまりいないからなあ」
それまでの真面目な話が嘘みたいに最後には俺と蘭さんはそんな会話をしていた。
で、その後俺は厳さんに怒られるかなあとか思ってたんだけど
『坊主、確かに坊主の言うとおりだ。そしてそんな危険なものがある所に行くのを簡単に認めて、通わせようとした俺達親もちょっと認識が甘かったのかもしれん――もし蘭がIS学園に入ったら、一夏の坊主共々、蘭を頼む』
と言われてしまった。
そして『またいつでも来い、美味い飯食わせてやる』とも。
俺は心の中で思う。
きっと、蘭さんは自分なりの覚悟を見つける。
そして、その意思を持ち続ける。だから――きっといいIS乗りになるだろう。
そんなことを心の中で思いながら、もしIS学園に来たらちゃんと色々教えてやらないとなあと思う。
俺は篠ノ之さんの恋路を応援してやりたいから、支援はしてあげられないけど一夏争奪戦を頑張って欲しいとも思う。
そして昼食を食べた俺と一夏、そして弾と蘭さんで午後からはゲーセンヘ。
そこで、アーケード版の『起動戦士ガンタム VS IS EXVS』で対戦。
現実とは無慈悲で、そして容赦が無い。
チームは俺と蘭さん対一夏と弾だった。
後に聞いた話だが、その時の様子は地元のゲーセンでは伝説になったらしい。
『化け物クラスの男女の2人組みがゲーセンで一方的に無双している。 何度も多くの人間がその2人に挑んだが、誰も勝てなかった そしてその2人のタッグは滅多に現れないまるで伝説の存在』
等と、そんな噂が流れて、それが伝説に昇華したとかなんとか。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
とうとうこの日が来てしまった。楽しみにしていて、だけど恐れていたこの日が。
俺とアリアは恐らく頭の中ではダイナミックなダース・ベイダーのテーマが大音量で流れているだろう。
全員参加必須の学年個人別トーナメントだとか、何か最近出回っている一夏と学年個人別トーナメントにまつわる変な噂話だとか。
後、今女子達が話しているISスーツについての話だとか、そんな事がどうでもよくなるほど、俺とアリアは今の現実に頭を抱えていた。
「ねぇユウ」
「……言うなよ、とうとう来てしまったんだ」
もう頭の中ではダース・ベイダー卿がコホーコホー言いながらテーマ曲に合わせてコーラを振りながら踊っている、そんな情景が浮かび上がる。
時期は6月初頭の終わり、そして今日は――『シャルロット』が転入してくる日だ。
事前に連絡はあった、というか弾の家での出来事があったその日の夜にアリアと部屋で本読んでたら連絡があった。
ビデオ通話で、相手はシャルロットから。
で、ビデオ通話に出て俺達は言葉を失った。
電話の先で起こっているそのカオスともいえる状況を見てしまったからだ。
キャンプファイアーらしいものを囲んで、その中にどんどん何かを投入してその周りを踊っている開発部の『へんたいたち』。
何故か地面に倒れて、白目を向いているデュノアさん。完全に疲れきって、テーブルに座りながら置かれているオードブルを食べているレオンさんとエディさん。
『やはりコジマだろう』『いや、コジマは……まずい』等と会話をしている研究員。
そして前と変わらない太陽みたいな笑顔をこちらに向けて、電話に出ているシャルロット。
それを見て俺とアリアは間違いなく同じ事を思っただろう。
『手遅れだ、これ』
いや、だってビデオ通話で後ろの会話が丸聞こえで
『お嬢様の専用機にサテライトキャノンを積もう』
『いや、それなら日本の倉橋重工を見習って巨大パイルバンカーも捨てがたい、ドリルもいいな』
『なぁ、私考えたんだけど主任砲とかどうよ? 私主任で、私が作るから主任砲。シャルロット嬢の専用機に積もうぜ、急ピッチで作るから というかもう作ってある』
『ならISビットもいりますよね? 今すぐ拡張領域に搭載する用のISビットを作りましょう!』
『月光蝶は? ねえ月光蝶はだめなの? ああ、レーザーブレードの月光はいい? それならもう特別仕様のが完成してますからお嬢の専用機に搭載しときます』
『おーい、IAI社の茶が入ったぞー今日は葉っぱ増し増しにしといたー』
そんな会話が聞こえた。
何だよ、なんか今までにないくらいえげつない発言が色々と聞こえたぞ!?
もう嫌だ、現実逃避をしたくなった俺とアリアに対してシャルロットから告げられたのは
『ユウ兄? アリア姉さん? えっとね――やっと僕の専用機が完成したんだ。それでね、6月の初頭終わりにそっちに行くから、これからよろしくね! 僕楽しみにしてるから!』
満面の、本当に楽しそうで嬉しそうな笑顔でそんな事を言われて俺もアリアも嬉しかったのだが――なんというか、色んな意味で嫌な予感しかしなかった。
絶対あいつ等自重してない。
というかあの時の会話がマジならかなり不味いぞ。
この際もう国際問題だとか国際IS委員会だとか、そんな小さな問題はいい。
いいんだよ、そんなことより完全に毒されたシャルロットが今の学園に入るという事は……
間違いなく学園が今までにないくらいの、恐らく最悪の状況、つまりは更なるカオス化する事になるぞ!?
そんな俺とアリアの心の心情むなしく、朝のHRで女子達に暫く山田先生が弄られた後に織斑先生が入ってきた。
ああ、とうとうか――
「諸君、おはよう」
「おはようございますッ! 織斑先生(お姉様!)」
おい、今確実に変なのが何人か混じってたぞ。
というか先生も朝から頭痛そうにしてるぞ、本当に心労お察しします。
「以前に話したように、本日からは本格的な実戦訓練を開始する。詳細についてや必須事項については以前朝のHRで話したとおりだ――さて、実はお前達に連絡がある。 実は転校生が居る、我がクラスには2名、そして4組には1名だ」
ざわざわとざわめきを見せる教室内部。
一部の女子は『ざわ…ざわ…』とか言っているが無視だ無視しなければならない。
そうだ、無視を、スルーを強いられているんだ。 ああ、俺も色々不味いかも。
「……ユウ」
「大丈夫、大丈夫だよ――サンキュ、アリア」
「ん――」
本当に常識人であるアリアが居てくれてよかった。
今確実にアリアが居なかったら俺も手遅れになっていた、アリアには心から感謝だ。
今の俺の荒みかけた心の清涼剤的存在、それがアリアだ。ありがとう、マジで天使に見えた。
あ、そういえば以前の約束の話――いい加減消化しないといけないだろうし、アリアも楽しみにしてたと思うし、近いうちに話そうかと心の決める。
「さて、それでは――2人とも、入って来い」
教室の入り口の自動ドアが開かれて、2人の女子生徒が入ってくる。
そして――俺は色々な意味で驚くことになる、そう、俺は……『2人とも知っている』からだ。
教室に入り、自己紹介を促された2人は自己紹介を始める。先に始めたのは、シャルロットだった。
「初めまして、シャルロット・デュノアです。フランスから来ました。『仏蘭西国企業連』所属で、フランスの代表候補生をしています。趣味と好きなものは、えっと……射撃と料理、後お菓子作りとかも好きです。 あ、それと――IAI社の『極上まロ茶』が大好きです。日本はまだ色々と不慣れですが、色々教えてくれると嬉しいです。よろしくお願いします」
満面の笑顔、太陽みたいな笑顔で言うシャルロット。
うん、自己紹介は完璧だ。文句の付け所は何ひとつありはしない。
そう、文句はないんだけど――
手遅れだった! やっぱり手遅れだったああああ!!
極上まロ茶ってあれじゃないか!
宣伝文句は『葉っぱしか入れていない』
キャッチフレーズは『おかしく、ありがたい 略しておかしたいアナタヘ』
で有名なIAI社が出してる最上級まロ茶じゃないか! いや、俺も大好きだけど!?
……落ち着けよ、俺。
一人目の転校生は、シャルロット。
デュノア社の一人娘であり、俺とアリアの妹みたいな存在で、心の優しい太陽みたいな女の子。
恐らく手遅れかもしれない、そしてきっと彼女の専用機はゲテモノだと思う。
いや、ちゃんとシャルロットが約束した通りIS学園にきてくれたのは――俺もアリアも心から嬉しいんだけども。
そしてもう一人の転校生は――俺が、知っている人物だった。
「――ラウラ?」
以前、空軍時代に一度だけエディさんと共に会って、そして色々なことがあった少女。
少なくとも、俺にとっては決して他人じゃなくて、なんというか――戦友、そう、戦友に近い少女。
そんな彼女、ラウラ・ボーデヴィッヒが、IS学園の制服を着て、黒板の前に立っていた。
そして――今、そんな俺とは色々あった少女がそれまでは黙っていたのだが、織斑先生に言われて自己紹介を始めた。
俺は昔ラウラと話をした時に織斑先生の話をしていたのを思い出して思った。
軍人だから、ええと……上官の許可がないと話してはいけないとか、そう思ってるんだろうか。
一応『あの時』色々あってそれなにりに柔らかくなったと思ったんだけどなあ。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ、ドイツ軍所属だ。それからドイツで代表候補生をしている。――時間も押しているだろうから、何か聞きたいことがあれば直接聞け、必要なら返答する」
なんだ、確かに事務的であれだけど昔ほどじゃないじゃないか。
ちゃんと自己紹介できるんじゃないか。良かった良かった。
それにしても変わったなあ、あの時はまるで氷みたいに冷たくて、ナイフみたいな鋭い感じしかしなかったのに。
――後は、俺に対するあの呼び方だよなあ。恐らくは彼女の部下……クラリッサがラウラに仕込んだんだろうけど、治ってるんだろうか。
シャルロットの事と、何故か今こうして転校してきたラウラの事を考えていると――ラウラがこちらに歩いてきた。
まあ、俺もアリアも前の方の席だから、黒板の前からだとすぐなんだけど。
ちらり、と俺のほうを一度ラウラは見ると、一夏のほうを見て――
「お前が、織斑一夏か?」
「……? そうだけど?」
「そうか――先に言っておく、私の身勝手だ。許してくれとは言わないが、一応謝っておく――すまない」
一夏が え? と言った瞬間だった。
パァンッ!という凄くいい音と共に、一夏に対して平手打ちが炸裂する。
俺も何でラウラがこんな事をしたのかは理解できない、だけどラウラは――『私の身勝手だ』と言った。
つまり、何かしら理由や事情があるんだろうか?
「いきなり何しやがる!?」
「先に言った。『私の身勝手だ すまない』と――理由を言っても貴様には分かるまい、私の個人的な理由だからな」
「理由ぐらい聞かせろ――っておい!」
そのままラウラは一夏を無視すると、俺の方を向くとそれまで軍人の、軍属である表情をやめると、不器用に笑って
「お久しぶりです――兄様。お元気そうで何よりです」
「――おう、俺は元気だよ。 ラウラも、元気そうで何より」
俺は、そんな不器用な笑顔を俺に向けるラウラに対して笑いかけるとそう言った。
で、その言葉を放った後既にお約束と言うかなんというか、周りの女子達が周囲のクラスメイトとアイコンタクトをする。
既にアリア、梓姫、オルコットさん、篠ノ之さんは防御準備全開らしく、シャルロットも何か察したのか耳を塞いでいる。
俺はラウラに『耳栓』と小さく言うと『わかりました、兄様』と返される。よし、大丈夫だな?
恐らく被害を受けるのは、未だに呆然としている一夏だけだろう。許せ一夏、貴様の犠牲は無駄にはしない。 多分。
そして俺もラウラも防御準備は完璧、という状態になった瞬間、お約束の――
『な、何だってぇぇぇええええええ!?』
『色々突っ込みたい事はあるし、デュノアさんについても色々言いたいけど――』
『あ、あにさまぁ!? ボーデヴィッヒさんがお兄さ――月代君のことをあにさまって言った!?』
『ふ、ふぇぇ……私も月代君をあにさまぁって呼びたいよぉ……』
『ふ、2人はどんな関係!? 義兄弟? それともそれ以上の熱い何か!?』
『月代君総攻めのボーデヴイッヒさんが総受け――アリね、学園祭で販売する本のネタになるわね!?』
『薄い本が厚く……ふふ、これで3日は食べなくていいわね!』
そんなお約束ともいえる叫び声が教室に響いた。
というか織斑先生、そうやって自分の手帳確認するフリして現実逃避しないで下さい。
後、最後の方お前ら色々問題あるぞ、というかなんだよ薄い本って。
関わらない方が幸せなんだろうけど、阻止しないと色々不味い気がするんだが。
そんな混沌とした教室を粛清する為に、織斑先生がため息をついて手帳を閉じると動いた。
「あー……お前ら静かにしろ。じゃないと『粛清』だ。 えー、では以上でHRを終わる、転校生2人と仲良くしてやるように、いいな?」
『はいッ!』
織斑先生の一声で、騒いでいた女子生徒は再び1つになるとそう大きな声で返答した。
シャルロットが来るのは覚悟していたけど、まさかラウラも……か。
シャルロットについては話は聞いていたし、シャルロットがIS学園で目指すものや目的と言うのは、俺もアリアも知っている。
だけど一体ラウラはどうしてIS学園に転校してきたんだろうか?
その理由が正直気になる。
後……4組の転校生、か。
先程梓姫をちらりと見たけど、いつものボーイッシュさや不敵な笑みはそこにはなくて、俺達同様頭を抱えていた。
関係者なのだろうか。
そういえばアイツの所属は『倉橋重工』か。
もしそうだとしたら、心中を察する。
俺達も『へんたいたち』には頭を痛めることが多いから、気持ちはわかる。
なんにせよ、ソラの『過去を追え』という言葉といい、このラウラの転校といい、やはり――何か色々と起こって、動き出しそうだ。
だけどそんな中で、俺は『それでも』って言い続けて未来を追い続けるさ。
そう自分に言うと、再び現実を見る。
ひとまず、今は目の前のことからなんとかしよう。
後ラウラからも色々と話を聞こう。
そう思うと、俺は先生の『以上、それではHRを終了する』という声と共に行動を開始した。
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――太陽の少女と銀月の少女が、学園に舞い降りる。 その2人は、運命に 未来に どう関わっていくのだろうか。
――そして今、新たなる鍵を持つ少女達が現れた事により、再び物語の針は動き出した。
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