| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔笛

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二幕その八


第二幕その八

「それでその人は若いのかい?」
「若いって?」
「あんたと同じ位かい?」
「いや、十歳は年上だよ」
 パパゲーナは笑って言ってきた。ただしその顔はフードの奥で見えない。
「歳はね」
「ふうん、じゃあそれは誰なんだい?」
「あんただよ」
 笑ってこう言ってきた。
「あんたなんだよ、それは」
「おいらだって?」
「そう、パパゲーノだよ」
 こう彼に言うのである。
「あんたなんだよ」
「へっ!?」
 ここまで聞いてやっとわかったのだった。
「おいらがかい?」
「そうだよ。私のいとしい人」
「決まったよ」
 パパゲーノはここまで聞いてがくりと頭を垂れてだ。こう言った。
「試練を受けよう。もう喋らないぞ」
「ようこそ」
「試練を受けられているのですね」
 ここでパパゲーノとパパゲーナのところにあの三人の少年達が来た。
「それは何より」
「それでなのですが」
 少年達が話しているそこにタミーノも来た。少年達はここでタミーノとパパゲーノに対してあるものを差し出してきた。それは。
「この笛を」
「そして鐘を」
 その二つをそれぞれ差し出してきたのである。
「どうぞ」
「ザラストロ様からです」
「そしてこれを」
「これもどうぞ」
 今度はパンとワインであった。それを出してきたのだ。
「宜しく召し上がって下さい」
「そして今度御会いする時には」
「喜びが貴方達の勇気の酬いであるように」
 そしてタミーノには。
「貴方には勇気を」
「目標は間近です」
 タミーノはその言葉に静かに頷くだけだった。やはり喋らない。
「そしてパパゲーノ」
「貴方は黙るのです」
「いいですね」
 彼には小言だった。そうしてだ。
 パパゲーノは受け取ったそのパンを早速むしゃむしゃとやりだした。少年達はその間に何処かへと消えてしまっていた。
「さて、食べたら」
 何時の間にかパパゲーナも消えている。二人だけである。
 そして彼は食べながらだ。タミーノに声をかけるのだった。
「仰らないし。ああ、これは」
 そのワインを飲みながらの言葉だった。
「美味いや。かなりいいや」
「ここなのね」
 そしてここにパミーナが出て来たのだった。
「ここにおられたのね。神々のお導きね」
「・・・・・・・・・」
 タミーノは彼女を見ても何も言わない。
「あの」
「・・・・・・・・・」
 そのタミーノに声をかけるパミーナだった。
「どうして何も仰らないの?何かありましたの?」
「・・・・・・・・・」
 やはり喋らない。顔を背けさえしていた。
「何故。これは一体」
 その彼の沈黙の前に困惑し狼狽するばかりだった。
「どういうことなの?」
 そして悲しみも感じて言うのだった。
「愛の幸せが永遠に消えてしまったのね」
 こう感じ取ったのだ。
「あの愛の喜びの時間は私の中にはもう帰って来ない。貴方の為のこの涙を貴方がもう愛の渇きを感じないのなら死の中に感じるしかないのね」
 ここまで言って泣きながら玄室から駆け去った。しかしタミーノはやはり一言も話さないのであった。そうしてである。
 パパゲーノはである。ここで呟くのだった。
「いざとなれば黙っていられるんだ。料理人の旦那と酒倉番の旦那に乾杯だ」
 上機嫌で今パンとワインを食べ終えていた。
「あれっ、行かれるんですか」
 タミーノが今の玄室を後にするのを見ての言葉だ。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧