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戦国異伝

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第百二十七話 五カ条の掟書その三

「妖術を使う者が出るな」
「明のあの書ですか」
「あれはすこぶる面白い書じゃが」
 だからこそ読み覚えているというのだ。信長はこうした書も好きなのだ。
「そこには悪しき妖術使いもおればよき妖術使いもおる」
「では気をつけるべきは」
「悪しき者じゃ」
 彼等だというのだ。
「つまり妖術も人によるのじゃ」
「ではこの場合は」
「あの二人が若し妖術を使うのなら」
 まだ使うとはっきりしていない、だからこう言ったのだ。
「まず悪じゃ」
「悪しき妖術ですか」
「それを使う」
 間違いなくそうした術になっているというのだ。
「だから気をつけよ、よいな」
「ではここは」
「思い止まるべきですな」
「わしも調べ上げはっきりすれば切り捨てたい」
 ある程度慎重だが信長もこうした考えだった。
「佞臣は放ってはおけぬ」
「ですがここは」
「気をつけてですか」
「切れるのなら例え公方様の御前でも切る」
 信長は鋭い声で言い切った。
「しかしそれが出来ぬならじゃ」
「動かぬことですな」
「その時は」
「武田信玄も言っておる、動かざること山の如しよ」
 あの風林火山の旗に書いてあることだ、動いてはならぬ時は山の様に不動であれというのだ。孫子にある言葉だ。
「今はそれじゃ」
「時が来るまでは」
「そうしますか」
「公方様にはこの掟書をお送りし」
 そしてだった。
「朝倉にも文を送るか」
「朝倉にはどうされますか」
「都に来る様に言う」
 そうするというのだ、朝倉に対しては。
「公方様とのやり取りのことも問い詰めたいしのう」
「しかし書かれていることはおわかりでは?」
「わかっていてもじゃ」
 これもまた政治だった、それで通具の問いに答えたのだ。
「あえて聞く」
「そうされますか」
「うむ、そうでなくとも公方様に忠誠を誓ってもらう」
 ここでは即ち信長だ、何しろ彼が文を送るのだから。 
 即ち朝倉家を徳川家か浅井家の様な盟友にするかそれとも長曾我部家や三好家の様に取り込むか。どうするかというのだ。
「伊勢の様に押さえることはせぬつもりじゃ」
「左様ですな、それでいいかと」
「そうじゃな、朝倉もそれで済めばよい」
「若し入らねばその時は」
「その時は仕方がない、戦じゃ」
 最後の手段としてそれになるというのだ。
「攻めてそうしてじゃ」
「越前を飲み込まれますか」
「十万の兵を用意せよ」
 信長は攻める際の兵の数も言った。
「わかったな」
「では朝倉が動かなかった場合は」
「その時には」
「近江から攻め入る、近江の西からな」
 東にいる浅井を気遣ってこちらの道からというのだ。
「猿夜叉には一部始終を見せるぞ」
「猿夜叉様は決して裏切ったりはしませぬ」
 このことに太鼓判を押したのは柴田だった、その太い声で言い切ってみせた。
「非常に律儀な方なので」
「それにわかっておるしな」
「義がどちらにあるかもですな」
「うむ、わかっておる」
 信長と義景、どちらに義があるかということをだ。 
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