八条学園怪異譚
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第三十一話 マウンドのピッチャーその十
「見つかる、だから気長にいくことだ」
「そうですね、また違ったと思わずに」
「そうしていけば」
「そうだ、ではだ」
こうした話をしてだった、そのうえで。
二人は一塁ベンチにも入った、だが。
そこも何もなかった、ただのベンチだった。
二人はベンチから出て待っていた日下部に答えた。
「ここも違ったです」
「次は図書館に行きます」
「そうするといい」
二人も言う、そして。
グラウンドを観る、だがまだだった。
「選手の人達出て来ないですね」
「まだですか」
「そろそろだ、そしてだ」
「そして?」
「そしてっていいますと」
「三塁側のベンチを観るといい」
先程まで茉莉也が妖怪達と酒盛りをしていたその場所だ、そこを観ると。
もう茉莉也達はいなかった、今は空だった。
だがその空のベンチを観てもだった、二人はそれでも言うのだった。
「あの先輩がそう簡単に帰られる筈ないよね」
「間違いなくね」
もうこの辺りは確信出来ることだった。
「問題は何処におられるかだけれど」
「ええと、何処かしら」
二人は球場の中を見回す、そしてその三塁側の観客席にもなっている土手のところにだった。
茉莉也はいた、妖怪達と一緒に酒を楽しんでいたのだ。
「ああ、あそこね」
「あそこにおられるわね」
二人はその茉莉也を見て納得した。
「ううん、メロンパンで日本酒って」
「合うのかしら」
「私はそうは思わない」
日下部も首を捻りつつ二人に述べる。
「お嬢は特別だ」
「特別っていうか普通じゃないですよね」
「普段から普通じゃない人ですけれど」
「私もあの神社にはよく出入りするがな」
「あっ、日下部さんもなんですか」
「あの神社に出入りされているんですか」
「あの神社も妖怪や幽霊の集会場所になっている」
博士の研究室や校舎の屋上と同じくだというのだ、あの神社もまた妖怪や幽霊の集会場所の一つだというのだ。
「それで三年前に幽霊になってから来ているがな」
「そこでなんですか」
「先輩とお知り合いになられたんですね」
「あの頃はまだお嬢は酒は飲んでいなかった」
三年前の話だ、その頃の茉莉也は中学生だ。
「高校入学の時代に酒を知ってな」
「その時からなんですね、先輩がああなられたのは」
「大酒飲みになられたんですか」
「飲まない時は変わっていない」
「中学の時からですか」
「素は変化なしなんですね」
「騒がしかった、私服はパンクでな」
あの黒い派手な格好だったというのだ。
「決して悪い娘ではないがな」
「それは本当によくわかりますけれど」
「困った人ではありますね」
「それがお嬢だ、尚趣味の料理も作るものは濃い味付けにしている」
それは何故かというと。
「酒に合う様にな」
「というか先輩お料理出来たんですね」
「それもびっくりですけれど」
「あれでたおやめなところもあるのだ」
二人にとっては意外なことだった。
「あれでな、それでだが」
「はい、もうすぐ十二時ですから」
「今からですね」
「野球がはじまる、観客席に行こう」
「あんた達こっちに来なさいよ」
その茉莉也が三人にその三塁側の観客席から声をかけてきた。
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