八条学園怪異譚
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第三十一話 マウンドのピッチャーその八
「二十年以上南海の監督をしておられて何度もチームを優勝に導いたのよ」
「ホークスって今の福岡の」
「あのチームが昔大阪にあったのは知ってるわよね」
「ええ、今難波パークスになってるところに球場があって」
「そう、大阪球場を本拠地にしてたのよ」
それがかつての南海ホークスだ、ダイエーに身売りされた時に九州に移ったのだ。
「その頃のホークスの監督さんだったのよ」
「ふうん、そうだったの」
「終戦後から昭和四十年代はじめ頃までね」
それまでの長きに渡って南海の監督だった、関西球界のドンとまで呼ばれた大監督だったのである。
「三原さん、水原さんと並ぶ大監督よ」
「三原さんと水原さんも」
愛実は二人の名前も知らなかった。
「阪神の人じゃないわよね」
「元々は巨人よ、二人共ね」
「その人達も戦前の人達だ」
日下部はこの二人の伝説の監督達のことも話した。
「大学野球から職業野球に入ったのだ」
「何か凄い昔みたいですね」
愛実は怪訝な顔で日下部に返した。
「それって」
「戦前だからな、もうな」
「そうですよね」
「それでだが」
日下部は二人にあらためて言う。
「その戦前の野球人達だが」
「ここにおられるんですか」
「そろそろ出て来る」
日下部は自分の左手の腕時計の時間を見て述べた。
「もうすぐ十二時だからな」
「あっ、その人達も十二時ですか」
「その時に出て来られるんですか」
「そうだ、ではだ」
日下部は二人に話していく。
「そろそろマウンドを降りよう」
「ひょっとして野球されるんですか?」
「十二時から」
「その通りだ、今からな」
実際にそうだというのだ。
「二つのチームに別れてだ」
「そういえばこのグラウンドの怪談それでしたね」
「十二時になれば、と聞いているな」
「はい、歓声やボールを打つ音が聞こえるって」
「その怪談の話だ」
まさにそれだというのだ。
「今からそれがはじまる」
「ですか、じゃあ今から」
「マウンドを降りて」
「試合を邪魔してはならない」
それは決してだというのだ。
「スポーツの邪魔はな。私は野球は観るだけだったがな」
「剣道とか柔道ですか?」
「どちらも嗜んでいた」
聖花に対して答える。
「柔道は六段、剣道は七段だった」
「強いですね」
「一度不埒な剣道部顧問を成敗したこともある」
こうしたこともしたことがあるというのだ。
「戦後の学校は異様だ、武道を教える際にもな」
「ああ、よく言われますねそれ」
「最近になって問題になっていますけれど」
「海軍でも体罰はあった、私もよく殴られた」
海軍では鉄拳制裁が常だった。兵学校ではそれが伝統であったし部隊においてもこれは鉄拳制裁ではないが精神注入棒があった。だがそれでもだというのだ。
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