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八条学園怪異譚

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第三十一話 マウンドのピッチャーその二

「そうしていい?」
「うん、いいよ」
 聖花は愛実の言葉に快諾で返した。
「それじゃあ待ってるわね」
「自転車で行くから」
 時々通学にも使うそれでだというのだ。
「すぐに行けるから」
「ええ、ちょっとすぐに来て欲しいわ」
「先輩そんなにまずいの?」
「まずくはないけれど」
 昨日の飲んでいる時とは違うからだ、そうではないというのだ。
「けれど騒がしいから」
「別に営業妨害はしていないわよね」
「そういうことはしていないわ」
「じゃあ大丈夫なんじゃないの?」
「詳しいお話は来てからね」
 まずは来て見てくれということだった、聖花は愛実に携帯から話した、その携帯を受けてからだった。
 愛実は一緒にいた愛子にこう言った。
「あの、今からね」
「聖花ちゃんのお家に行くのね」
「行っていい?」
 問う顔で尋ねる。
「そうして」
「いいわよ。お店が忙しい時間も終わったしね」
「そうよね、それじゃあ」
「食堂が忙しいのはお昼だから」
 食堂は大抵昼食を食べる場所だ、それで昼が忙しいのが普通だ。
「行って来てね」
「夕方には戻るから」
 この時も忙しい、昼程ではないが。
「行って来るね」
「ええ、それじゃあね」
 姉の許可を得てから家の外に出て自転車に乗った。そのうえで聖花の家であるパン屋に行くと。
 聖花の言う通り茉莉也がいた、愛実は今の彼女を見て眉を顰めさせた。
「あの先輩、その格好は」
「あっ、あんたも来たのね」
「聖花ちゃんに呼ばれまして」
 だから来たと正直に答えはした、その茉莉也を見ながら。
「それでなんですけれど」
「ああ、あんたが呼んだのね」
「はい、先輩がいらしたと連絡しました」
 お店のカウンターには聖花がいた。赤いエプロンを着けてそこにいる。
「それでなんです」
「成程ね、そういうことね」
「さっきお店の奥に入った時に」
「だからさっきお店の奥に入ったの」
「そうです」
 こう茉莉也に話すのだった。
「それでなんですけれど」
「あの、先輩いいですか?」
 愛実は顔を思いきり顰めさせて茉莉也に問うた。
「その服は」
「似合うでしょ」
 茉莉也はその愛実に誇らしげな顔で返した。
「いつもこうした格好なのよ」
「いつもですか」
「そう、これね」
 見れば黒いシャツにマイクロミニのぴっしりとしたスカート、そして黒いストッキングにハイヒールといった格好だ。首や手首には銀のネックレスやブレスレットがある。
 頭には黒いサングラスがあり小さなバッグも手にしている、愛実はそれを見て言うのだ。
「いつもなんですか」
「そう、いつもよ」
「ううん、そのお姿でいつも。しかも夏も」
「黒好きなのよ」
 また言う。
「下着は白だけれどね」
「いや、下着はいいですから」
「黒いストッキングの下に白のショーツがいいんじゃない」
 茉莉也は楽しげな笑みでその愛実に行っていく。 
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