神々の黄昏
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第二幕その十
第二幕その十
「だが女の立腹はすぐに収まる」
「果たしてそうなるか」
「そうなる」
それは間違いないというのである。
「だからだ。すぐに貴方のよき妻になるだろう」
「わかった」
グンターも一応頷きはした。
「それではだ」
「では諸君」
ジークフリートは家臣や女達に対して顔を向けて告げた。
「宴の場に」
「宴に」
「その場に」
「そう、楽しくやりましょう」
この場を取り繕う為の言葉であるのは言うまでもなかった。しかしそれでもあえてここでは言うのであった。彼にしても必死である。
「それでは」
「そうですね。何はともあれ」
「楽しく」
彼等もそれには納得するのだった。
「やりましょう」
「それでは」
「そういうことで」
こうして彼等もジークフリートに頷いてだった。そのうえで彼と共に宴の場に向かう。しかしグンター達はそこに残った。
ブリュンヒルテとハーゲンもいる。グートルーネはいない。三人では暗視をするのだった。
「どういうことなのか」
ブリュンヒルテが最初に言った。俯き暗い顔でだ。
「何故この様なことに。こうなってしまっては何もできない。私は彼に全ての知識を授けたというのに」
そのことも言った。
「彼はその力であの娘を手に入れ」
グートルーネのことである。
「そして恥辱に嘆く私を絆で縛り上げ獲物とみなして笑顔で人に与えるとは。この絆を断ち切る剣を誰が私に与えてくれるのか」
「ブリュンヒルテ」
ハーゲンがその彼女に近付いて言ってきた。
「私を信じるのだ」
「貴方を」
「そうだ。私が行おう」
こう彼女に言ってきたのである。
「貴方を裏切ったその男にだ」
「しかしそれは」
「それは?」
「誰にもできはしない」
首を横に振っての言葉であった。
「彼は誰よりも強いのだから」
「だが」
ハーゲンも怯まずに言う。
「彼の偽善を我が槍が許しはしない」
「そうだというのですか」
「誓いは無駄な気遣いでしかなくて」
しかしブリュンヒルテの返答は冷たい。
「彼を裁くには貴方の助太刀の槍よりもずっと強いものでなければならない」
「彼のことは私も知っている」
それを知らないハーゲンではなかった。
「ではどうしたら彼を裁けるのか」
「私は彼に力を与えました」
「力を」
「そう、その力で彼は決して傷を受けないようになった」
「魔力でか」
「そう、古の魔力で」
それはブリュンヒルテがワルキューレだからこそ知っていることであった。
「それによってです」
「ではどんな武器も傷つけられないというのか」
「そうです」
その通りだというのである。
「その通りです」
「ではそれは不可能なのか」
「いえ」
しかしであった。ここでまた言うブリュンヒルテだった。
「背中ならば」
「背中ならばか」
「彼は敵に決して背を見せはしない」
恐れを知らぬ彼だからである。
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