魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
プロローグ
前書き
魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~ 始まります。
小学3年生に進級して間もないとある夜。学校の課題、夕食、入浴といった必要なことを終えた俺は、リビングのソファーに座ってテレビを見ている。内容はよくある刑事ドラマだ。
刑事に憧れているわけでもないし、ドラマを素直に面白いと思うような年齢でもない。にも関わらず、俺がドラマを見ている理由は、テレビとソファーの間にあるテーブルにいる15cmほどの少女が見ているからだ。
「……ファラ、面白いか?」
「うーん……正直あんまり面白くないかな」
「なのに見るのか?」
「他に見るものもないからね……マスターは何か見たい番組あるの?」
振り向きながら尋ねてきた少女の名前はファラ。正式にはファントムブラスターというのだが、長いのでファラと呼んでいる。
ファラは15cmほどの大きさから分かるとおり人間ではない。地球とは別世界に存在する魔法と呼ばれるものの使用をサポートしてくれるデバイスだ。高度な人工知能を備えているため、分類ではインテリジェント・デバイスになる。
一般的なデバイスは宝石やアクセサリー型をしているが、ファラは人型をしている。おそらく現在既存するデバイスの中で、人型のフレームをしたデバイスはファラだけだろう。
人型をしているのは、俺の父さんがデバイス関連の仕事をしており、デバイスを人型にすることでより人間らしい思考をするのではないか、という研究をしていたからだ。過去形なのは……すでに父さんも母さんも3年ほど前に亡くなっているだからだ。
ファラは最初に作られた試作型でまだ改良の余地が残されているわけだが、父さん以外に人型に力を入れている技術者はいないらしいので発展はない。
「別に。俺は眠気が来るまでの暇潰しで見てるだけだから」
「ならこのままでいいよね?」
「ああ」
俺が返事を返すと、ファラは視線をテレビの方に戻した。
ファラと一緒に生活して3年ほどになるが、ずいぶんと人間らしくなった。最初は他のデバイスと同じで機械的な受け答えが多く、マスターである俺を優先する考え方だったが、今では自分の意志をきちんと持っている。
俺としては、父さんの考えは間違っていなかったと思っている。
俺は父さんにはまだ遠く及ばないが、父さんが残してくれた資料や父さんと同じ仕事をしている叔母に時間があるときにデバイスのことを教えてもらっているので、ファラをより人間らしいデバイスにしたい。勉強を始めた頃は父さんの面影を追いかけ、繋がりを感じていたいだけだったが、今では俺の夢のひとつになっているからだ。
「……マスター、そういえばさ」
「何だ?」
「この頃、あんまり翠屋に行ってないよね。何かあったの?」
翠屋はこの街でも人気のある喫茶店だ。そこを経営している高町夫妻と俺の両親は面識があった。母さんがパティシエだったのが大きな理由だろう。
小学校に上がる前に一度両親と一緒に行ったことがある。母さんの手伝いをしていた舌がそれなりに味が分かるようになっていたからか、出されたお菓子を食べて感想を言うと桃子さんに褒められたことは今でも覚えている。
「あー……今年のクラスメイトには高町なのはって子がいる。桃子さんたちの娘さんと思うんだが……あんまり同情とかされたくないからな」
「子供ってずかずかと踏み込んでくる。マスターは叔母さんに育てられてるわけだから、それを知られると同情されるんじゃないか、みたいな解釈でいいのかな?」
「まあそんな感じだ」
ふたりが死んで悲しくないかと言われたら悲しい。だが俺にはファラもいるし、親代わりになってくれている叔母だっている。今は仕事の都合で地球から離れてミッドチルダという世界に滞在しており、いつ帰ってくるかは不明だ。
まあ仕事はできるが家事ができない人なので、昔から家事は俺が全てやっているに等しい。そのため、いなくてもこれといって支障がない。
「……ん?」
振動音が聞こえたので視線をテーブルに向けると、ケータイが振動していた。画面には叔母の名前が表示されていたため、迷うことなく電話に出る。
「何か用?」
『いや、これといって用はないよ。君の声が聞きたくなってね』
電話越しに聞こえる声は、どことなくぼんやりとしている。聞いた人間は眠たいのかと思うだろうが、俺の叔母はいつも目の下に隈を作っているほど仕事熱心なので普段どおりだと言える。
「そっちに行ってから毎日それだな」
『冷たいことを言わないでくれ。君と一緒に生活するようになってから、ひとりでいるのを寂しいと思うようになってしまったんだ。声くらい聞きたいと思うのは普通じゃないか』
「俺は別に寂しいとは思ってないけど。これといって問題もないし」
『……環境上仕方がないと思うが、もう少し君には子供らしくなってもらいたいものだな』
「年齢上はあと10年くらいは子供だよ」
『そういうことを言うのが子供らしくないと言っているんだよ』
他愛もない会話を10分ほど続けていると、ほんのわずかにだが眠気が来た。のんびりとした口調で話す叔母が原因かもしれない。
叔母は仕事の合間を縫って電話をしているため、これ以上の長電話になるとあちらの人たちにも迷惑をかける恐れがある。
「そろそろ眠くなってきたから寝るよ」
『そうか……学校に遅刻されても困るし、今日はこのへんにしておくとしよう』
「そっちに起こされた記憶は今のところないんだけどな」
『私の個人的願望としては起こしたいのだがね。君はしっかりし過ぎているから、ことごとく私の願望を打ち砕いているよ』
「一般的には良いことじゃないか」
『だから私のと付けただろう……君と話すとつい長くなってしまうね。今度こそ終わりにしよう』
「ああ、おやすみ」
『私はまだまだ眠れないが、おやすみ……最後にひとつ』
終わりにすると言っておきながら、ここでさらに続けるあたり、俺が思っている以上に叔母は寂しいと思っているのかもしれない。
『地球には魔法文化はないから大丈夫だと思うが、何かあっても首を突っ込まないでほしい』
「……何かあるのか?」
『いや、これといってないのだが……君に何かあると兄さんや義姉さんに合わせる顔がなくなってしまうからね』
「……俺は子供らしくないんだろ? 自分から危険に突っ込むような真似はしないし、そっちよりも先に死ぬつもりもないさ」
『そうだね。……こういうときの君は本当に子供らしくないよ。私と君が同年代だったら今とは違う好意を抱いてかもしれない』
「子供相手に何言ってんだが……おやすみ」
『ああ、おやすみ』
電話を切ると、それと同時にテレビの電源が落ちた。視線をテーブルに向けると、ファラがリモコンの上に乗っていた。先ほど俺が寝ると言ったのを聞いていたのだろう。
「別にまだ見てもいいんだが?」
「いいよ。面白いわけでもないし、マスターにはよく食べて寝てもらってすくすく成長してほしいから」
「成長期は早くてもあと2年後くらいと思うんだけどな」
ファラを手の平の上に乗せながら立ち上がり、部屋の電気を消して寝室へと向かう。彼女とは一緒のベットに寝ているわけではないが、一緒の部屋では寝ている。
魔法文化のない世界のため、突然襲われる可能性はないに等しいだろうが、万が一ということはある。叔母が人型フレームの資料を狙って襲われるかもしれないと心配し、ファラには様々なシミュレーションが内臓してある。一時期は管理局員に訓練をしてもらおうという話にさえなった。
叔母は管理局に勤める技術者であるが、戦闘が行えるほど魔力は所持していない。それが過剰な心配の原因だろう。
戦闘が生じた場合、俺は自分の身は自分で守らなければならない。だから日替わりで色んなシミュレーションを行うのは日課になっている。その成果が発揮される日が来ないのを祈っているが……。
「マスター、外なんか見てどうしたの?」
「……ふとこの日常が続けばいい、と思ってさ」
「……? ……大丈夫、何が起きてもマスターは私が守るから」
「お前、俺が魔力使わなかったら何もできないだろ?」
「もう、良いこと言ってるんだからそういうこと言わない!」
「夜なんだから騒ぐなよ……何があっても、お前は俺が守るさ」
「……マスターってさ、こっちが準備してないときに限ってそういうこと言うよね。女の子からすると、そういうのは反則だよ」
「誰にでも言うつもりはないさ」
両親を失ってから俺は他人と深く関わることを避けている。ダメだと思う一方で、また失うかもしれないと思うと踏み込むことができないのが現状だ。だから学校で友達と呼べそうなのは……良くてもひとりだろう。
布団の中でごちゃごちゃ考えていると、ちょうど良い眠気が襲ってきたため、抗うようなことはせずに眠りに落ちていった。
後書き
代わり映えのない日々。
少年はそれがいつまでも続いてほしいと思い、明日を迎えるために眠りについた。この日に見た夢が、少年の日常に変化に与える。
次回、第1話「変化の訪れた日」
ページ上へ戻る