妖精の十字架
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~It works together⑧~
俺が目にしたのは鎖に繋がれた黒バルカンと、両手両足をつながれ、魔力を抽出される魔道士の姿だった。魔道士にとって魔力は命に値する。その魔力を抽出されて、黒バルカンに注いでいる。黒バルカンもかなりの苦痛を伴っているだろう
「・・・おい!」
声に気付いた研究員が一斉に振りかえる
「何者だ!?」
「侵入者!?」
みなが少しずつ後退していく。そんななか俺は一歩、また一歩と魔力を怒りにまかせて放出させている
「貴様ら、何をしている?」
鋭い目つきで威嚇
「あ、いや、・・・」
当然非戦闘員の研究者たちは腰を抜かしてその場に倒れこむ。中には気を失う者も
「答えろ――・・・」
「私が答えよう」
当然奥の扉が開き、メガネを掛けた白衣の男性が現れた
「・・・誰だ?」
「質問の多い奴め。私はメイコム。ここのギルドのマスターだ」
見るからに非戦闘員だが、かすかに感じる魔力はとてつもない
「そうか、俺はクルス。妖精の尻尾だ」
「ほう、正規ギルドか。ならばここを襲いに来た理由は何だ?」
「船から盗んだ財宝、かえしてもらおうか」
するとメイコムは首をかしげた
「なんのことだ?私たちは財宝など盗んでいないぞ?」
「とぼけるな。ボロとかいう奴がこのギルドにいるだろう?」
メイコムは本気で知らないようだ
一向に首を縦に振らない
「・・・まぁいい。とりあえずおとなしくしてもらおうか」
「血気盛んだな。しかしおとなしくつかまるわけにもいかないね」
メガネと白衣を脱ぎ棄てる
「さぁあ。かかってきなさい」
地を蹴って駆けだす。出来るだけ上体を前に倒して突進した
「覇竜の突撃!」
頭突きがメイコムの腹に減り込む。しかしメイコムは落ち着いて俺を吹き飛ばした
宙に浮いたまま両手から魔力を打ち出す
「覇竜弾!」
「甘い」
鏡のようなものが見えて俺の覇竜弾は弾かれた
着地すると同時に咆哮を放つ
「甘いと言っている」
その声は背後から聞こえてきた
「・・・ッ!?」
強い衝撃が俺を襲う。辛うじて衝撃を喰らうが、少しだけダメージがある
いったん距離をとり相手を見やる
「・・・鏡、いや反射の魔法か」
「ほう、この短時間で見破るとはさすがだな」
そう言って俺は再び駆けだす。そして目の前に躍り出て拳を放つ
反射の基本として、人体にはその魔法は効かない
案の定俺の拳はメイコムに決まった。盛大に吹き飛ぶメイコムに追撃の咆哮
「無駄だと言っている!!」
あっさりと反射されて攻撃が逸れるがそれは目暗まし。大きく跳躍した俺は頭上から踵を振り下ろす
「何ィ!?」
気配を消しての移動方に気付くはずもなく、メイコムは地に堕ちる
「・・・まだ立つか?」
その言葉に対する返事はまたも背後から
「当たり前だ」
振り向きざまに回し蹴りを見舞うがその攻撃は空を切った
「どこだ・・・?」
おそらく光を反射させて錯乱させる気だろう
目を閉じて聴覚に全てをゆだねる
「・・・」
かすかな風の動きに細心の注意を払う
その時、風が動いた
「そこだ!!」
右手に集めた魔力を右に打ち出す
その時
「がはッ!?・・・何故・・・ッ?」
「姿と気配は別もんだ。お前は姿にとらわれすぎて気配の消し方が荒い」
そう言い終わる前にメイコムは意識を失っていた
ちょうどその時、階段からミラが駆け降りてきた
「クルス~終わった?」
「あぁ。後はそこに居る黒バルカンと魔道士を解放すれば終わりだ・・・!?」
黒バルカンの姿が、ない
「ッ!!」
背中に一筋の冷や汗が垂れるのを感じるよりも早くミラを抱えてその場から飛び退く。そのとたん、さっきまでいた場所には土煙が立ち込めていた
紅い、目―――それを確認した時にはその紅い二つの目が俺の目と鼻の先にあり、振りあげられた手が俺を狙っていた
「悪い!」
ミラを軽く投げて、俺は両手をクロスさせて防御する
「クルス!??」
投げられたミラが見たのは、両手を突き出した黒バルカンと、壁に減り込み、頭から血を垂らすクルスの姿だった
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