戦国異伝
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第百二十六話 溝その八
「それでも生きておられるか」
「うむ、わしも信じられぬがな」
「何とまあ。仙人の様じゃな」
「では朝倉の家中のことはまだ宗滴殿が取り仕切っておられるのか」
細川忠興がこのことを尋ねた。
「そうなのでありましょうか」
「朝倉家に宗滴殿程の方はおられぬ」
忠興の問いに答えたのは前田玄以である。
「さすれば」
「もう八十を越えておられる筈だが」
七十で古稀だ、それどころではなかった。
「まだ政に戦を観ておられるとは」
「流石に今は然程戦の場には立たれぬとか」
「いや、八十で具足を着けるだけでも凄いぞ」
蜂須賀家政が玄以に驚いた顔で言う。
「まだ生きておられるだけでも」
「しかし朝倉としては仕方のないこと」
小寺孝高あらため黒田孝高が言った。
「何しろ当主であられる義景殿があれでは」
「仕方がないと」
「うむ、そうじゃ」
こう家政に話す黒田だった。
「八十を越えても戦の場に立ち政を見るしかないのじゃ」
「朝倉家も大変ですな」
その黒田の息子黒田長政の言葉だ。
「それでは」
「しかしじゃ、朝倉がそのつもりならじゃ」
暫くあえて言葉を出さなかった信長が再び口を開いた。
「織田としてもやるしかないわ」
「戦をですな」
「それを」
「うむ」
まさにそうだというのだ。
「その用意もしておくか」
「今の時点で」
大谷が言う。
「進めておきますか」
「何もなければそれでよい」
むしろよいという口調だった。
「実にな。しかしじゃ」
「若し朝倉が従わぬなら」
「その時は」
「越前まで兵を出す」
朝倉の領地であるそこにだというのだ。
「そして倒す必要がある」
「どれだけの数で攻め入りますか」
その数を問うたのは稲葉だった。相変わらず厳しい頑固さが伺える顔だ。
「その際は」
「十万じゃな」
信長はその数も言った。
「そこに竹千代にも出てもらいたい」
「徳川殿もですか」
「猿夜叉は休んでもらう」
長政、妹である市の婿である彼を気遣っての言葉だ。
「あの者はな」
「やはり浅井殿と朝倉殿の絆ですな」
「それがある、猿夜叉には事前に文を送るがな」
朝倉を攻める時になればというのだ。
「そうする。しかしな」
「もうそれは浅井殿もすぐにおわかりになられるかと」
生駒が確かな顔で言ってきた。
「その際は」
「我等のやり取りを見るからな」
「こちらは理を詰めていけばいいのです」
ただそれだけでいいというのだ、織田としては。
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